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反核ゼミ

1.ミクロの世界への誘い(1)
2.ミクロの世界への誘い(2)
3.ミクロの世界への誘い(3)
4.ミクロの世界への誘い(4)
5.アインシュタインの手紙 
6.英国生まれの原爆原理 
7.原爆1発分の濃縮ウラン 
8.プルトニウム原爆の可能性
9.危険なプルトニウムの製造
10.爆縮式プルトニウム原爆
11.米国の戦略に未来はない
12.原爆を手にした警察官
13.核帝国主義のルーツ
14.原爆と科学者
15.最初の原爆の投下目標

16.核政策のルーツを探る(1)
17.核政策のルーツを探る(2)
18.核政策のルーツを探る(3)
19.核政策のルーツを探る(4)
20.
原爆投下(その1)
21.
原爆投下(その2)
22. 原爆投下(その3)
23.
原爆投下(その4)
24.
原爆投下(その5)
25.原爆投下(その6)
26.原爆被害の隠ぺい(1)
27.原爆被害の隠ぺい(2)
28.原爆被害の隠ぺい(3)

 

核兵器をなくす
『反核ゼミ』11
アメリカの世界戦略に未来はない

ブッシュの核先制使用は広島・長崎が出発点

 ブッシュ大統領は昨年「戦争の年になる」と演説し、イラクに対する戦争の準備をすすめてきました。現在、大軍でイラクを包囲した状態が続いています。

 イラク戦争を国家としての戦略に位置づけるため、アメリカは昨年9月と12月に国家安全保障戦略を発表しました。この国家安全保障戦略は、これまで表向き「核抑止戦略」をとってきた政策を放棄し、テロや大量破壊兵器を口実に、核兵器も含む「先制攻撃」と「防衛的介入」を中心に据えることを公然と述べたものです。その核兵器使用計画を裏づけているのが国防総省の議会への秘密報告「核態勢見直し」です。

核先制使用政策続けるアメリカ

 ふり返ってみると、広島、長崎の原爆投下は、半世紀以上も続くアメリカの先制核使用を含む世界戦略の出発点でした。核独占時代は明白な先制核使用戦略でした。ソ連が核兵器を保有したのを受けて「核抑止」を表に掲げながら、実際には核兵器先制使用政策を一貫してとり続けていました。

 アメリカは、先制核攻撃戦略を合理化するために「原爆が投下されなかったら、戦争が継続してアメリカの100万人以上の若者の犠牲が生じただろう」という「神話」を作りました。今なお多くのアメリカ人はこの「神話」を信じ込まされています。

 日本に対する原爆投下が、日本を早く降伏させるためではなく、ソ連との「冷たい戦争」の始まりであったことを最初(1948年)に指摘したのは、イギリスの物理学者ブラッケットでした(彼はこの同じ年に、原子核物理学と宇宙線の研究でノーベル物理学賞を受賞しました)。日本では歴史学者の西島有厚さんの『原爆はなぜ投下されたか』や荒井信一さんの『原爆投下への道』が、原爆投下の「神話」の誤りを歴史的に解明しています。

日本への原爆投下は「対ソ戦略」

 原爆の開発に関わった科学者たちは1945年6月「日本に対して原子爆弾をいち早く投下することには、われわれは反対である。もし合衆国が人類に対するこの無差別破壊兵器の最初の使用者となるならば、合衆国は世界中の世論の支持を失い、軍備拡張競争を激化し、かかる兵器の管理に関する国際協定を達成する可能性を阻害するだろう」(フランク委員会の米陸軍長官宛の報告)と勧告していました。しかし、トルーマン大統領はこうした意見があったにもかかわらず、これを無視して、戦後の対ソ戦略の一環として原爆の投下を決定したのでした。

 アメリカの歴史学者マーチン・シャーウイン、バートン・バーンシュタイン、ガー・アロペロビッツらは、国際法に違反するアメリカの国家戦略がいつから始まったのかを、具体的な資料を集めて明らかにし、「神話」によってアメリカ国民が危険な道に迷い込むのを防ごうとしてきました。被爆50周年の1995年、あいついで広島を訪れた彼らは、歴史家の間で原爆投下が「対ソ戦略」であったことは決着済みであると話してくれました。

人類社会の諸困難解決の障害に

 アメリカは、広島、長崎の原爆投下以来、敵対するものには核兵器で屈服させようとしてきました。そして、人類社会が世界中で力を合わせて解決しなければならない諸々の問題を放置し、原爆開発で肥大化した軍産学複合体と石油産業など多国籍企業の権益を最優先にして追求する道を突き進んできました。唯一の超大国になったアメリカのブッシュ政権の国家戦略は、上田耕一郎さんの「核・軍事帝国主義」という特徴付けがピッタリ当てはまります。今日、最も豊かな国の誤った帝国主義的政策と行動が、人類社会の諸困難を解決する上での最大の障害になっています。

   その一方で、20世紀の後半には、「軍事力で紛争の根本的解決はできない、核兵器保有は不道徳である、アメリカの世界戦略に未来はない」という世界の潮流は大きく発展しています。昨年はイラク問題でも、北朝鮮の「核開発」問題でも、「問題を平和的に解決すべきだ」という世界世論が高まって、アメリカが「戦争の年」にするのをおしとどめてきました。1月18日、日本からヨーロッパ、そしてアメリカへと「平和の波」が地球をまわり、全米各地で反戦集会が開かれました。ワシントンでは、ベトナム反戦集会を上まわる20万人が「石油のために戦争をするな」と、ブッシュ政権の戦争政策に反対しました。

 世界世論によってイラク戦争を阻止することに成功すれば、ブッシュ政権の世界戦略に打撃を与え、人類社会は、核兵器のない、戦争のない発展方向に向かって大きく前進するでしょう。


【参考文献】
「アメリカの国家安全保障戦略」、「大量破壊兵器とたたかう国家戦略」(『国際情報資料17』日本原水協2002年)。
米国防総省「アメリカ核態勢見直し(NPR)抜粋」(『国際情報資料16』日本原水協2002年)。
西島有厚『原爆はなぜ投下されたか』(青木文庫1971年)。
荒井信一『原爆投下への道』(東京大学出版会1985年)。
M・シャーウイン著・加藤幹雄訳『破滅への道程? 原爆投下と第二次世界大戦』(TBSブリタニカ1978年)。
B・バーンシュタイン「原爆投下再考」(訳『国際情報資料5』日本原水協1996年)。
ガー・アルペロビッツ著・鈴木・岩本・米山訳『原爆投下決断の内幕』(ほるぷ出版1995年)。
上田耕一郎『ブッシュ新帝国主義』(新日本出版社2002年)
 

「原水協通信」2003年2月号(第707号)掲載



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