国際会議宣⾔
原⽔爆禁⽌2024 年世界⼤会-国際会議
国際会議宣⾔
79年前、米軍によって広島と長崎に投下された原子爆弾は、人類が体験したことのない、この世の地獄をもたらした。子どもを含め民間人が無差別に殺戮され、その年の暮れまでに21万人の命が奪われた。来年は被爆80年である。かろうじて生き延び、苦難の人生を歩んできた被爆者たちは、現在の緊迫した情勢の中で、「生きているうちに核兵器廃絶を」と渾身の力をふりしぼって立ち上がっている。被爆地に集った私たちは、「核兵器のない平和で公正な世界」へと流れを転換していくために、ともに行動することをよびかける。
私たちは今、核破局の「瀬戸際」ともいえる状況にある。ウクライナを侵略するロシアは、核兵器による威嚇をくりかえしている。アメリカなどの核兵器国も先制核使用の政策を維持し、北大西洋条約機構(NATO)諸国からは公然と核兵器の配備や「核抑止力」の拡大・強化を求める声があがっている。核兵器関連の軍事支出も増大している。ガザ攻撃をつづけるイスラエルは核をちらつかせ、東アジアでも核保有国がからんだ緊張と対立が続いている。アントニオ・グテレス国連事務総長は「今こそ、狂気を止めるときだ」と強い危機感をこめて、核軍縮を訴えた。戦後、核兵器を独占し、「管理」してきた核大国のやり方が、今日の危機的状況をもたらしたことは明らかである。いまこそ、この危機をのりこえる展望を示し、行動をおこすときである。
「希望の光」は核兵器禁止条約である。これは人類生存のための大義を体現したものであり、核大国などの妨害にもかかわらず、署名国は93、批准国は70へと広がっている。発効した条約は大きな力を発揮している。核兵器使用が取りざたされる危険な状況にあっても、禁止条約とそれを支える世論と運動が規範力をもち、その使用を許さぬ壁となっている。いくつもの金融機関が核兵器関連産業からの投資引き上げを決定しているように、人道の立場から核兵器を違法化したことがもつ倫理的な力も現れている。核使用と核実験の被害者への支援、それらによって汚染された地域の環境修復など、条約の6条と7条に基づく具体的な活動もはじまっている。禁止条約の第三回締約国会議(2025年3月)はこれらの活動を前進させる機会となる。ジェンダー視点を盛り込んだはじめての核兵器に関する条約として、国連の平和軍縮活動全体に影響を与えている。この禁止条約を力に、世論と運動をさらに発展させ、核兵器に固執する勢力を追いつめていくことで、核兵器廃絶への展望をきりひらくことが出来る。
核保有国は「核抑止」を唱え、核戦力の維持・増強をすすめている。「核抑止」とは、いざとなればヒロシマ・ナガサキを再現する、との脅しであり、人道に反する行為である。それは、武力による威嚇又は武力の行使を禁じた、国連憲章への重大な違反である。「核抑止」は核対核の悪循環を加速させ、誤解や誤算も含む核衝突の危険を高めており、そのすみやかな放棄が強く求められる。禁止条約の第三回締約国会議では、「核抑止」論の克服が重要議題の一つとなる。市民社会としてこれに積極的に貢献していかなければならない。
米ロ中英仏の核五大国が参加する核不拡散条約(NPT)の再検討会議は、核固執勢力に核兵器廃絶を迫る重要な機会である。2026年会議の準備が始まっている。
核保有国は、NPTと矛盾すると主張して、禁止条約に反対している。しかし、禁止条約は核軍備撤廃誠実交渉義務を定めた第6条の具体化であり、NPTを補完するものである。第6条をはじめとする条約の義務、核兵器廃絶の「明確な約束」をはじめとする再検討会議の累次の合意を誠実に履行することを強く求める。さらに核兵器禁止条約を支持し、これに参加するよう訴える。戦略核兵器削減条約の履行と米ロ両国間でのさらなる削減、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、非核国への核兵器の不使用(消極的安全保障)、核兵器の先制不使用も重要である。
3年目に入ったロシアのウクライナ侵略戦争は、両国市民に大きな犠牲をもたらし、世界の人々の暮らしと経済、気候危機など、深刻な影響を与えている。国連総会は加盟国の7割の賛成で、国連憲章を侵犯するロシアを非難し、武力行使の停止と即時・無条件の完全撤退、ウクライナの主権回復と領土保全を求める決議を採択してきた。核五大国も参加する20 カ国首脳会議(2022 年・インドネシア、2023 年・インド)は、国連総会決議を「再確認」し、「武力による威嚇又は武力の行使は慎まなければならない」とするとともに、「核兵器の使用と威嚇は許されない」と宣言した。国連憲章に基づく国際秩序の再建・強化が、「核兵器のない平和で公正な世界」の実現にとって急務となっている。
国連憲章を守る世界的な結束が求められているときに、米政権は「民主主義対専制主義」という価値観による分断をもたらし、米日、米韓、米豪などアジアでの同盟関係の強化や、アジアとNATOとの連携など、軍事同盟のグローバルな危険を高めている。
しかし、世界の各地域では、非核と包摂を特徴とする流れが発展している。東アジアには、朝鮮半島、南シナ海、台湾など、緊張の火種がある。これらはすべて外交と対話によって解決されなければならない。非核地帯条約を結ぶ東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心に、米ロ中も参加する東アジア首脳会議(EAS)を活用した、ASEANインド太平洋構想(AOIP)という、地域の平和と安定をめざす取り組みがすすんでいる。非核地帯条約を結ぶラテン・アメリカ、アフリカにも包括的な地域の共同体がある。南太平洋非核地帯とあわせて、南半球には非核と包摂のたしかな流れがある。市民社会と諸国政府、政府間地域組織との共同で、これらを東アジアはじめ全世界で発展させていくことが求められる。
朝鮮半島の非核化と平和を一体的、段階的に追求するあらゆるとりくみを支持する。中東における「非大量破壊兵器地帯」の創設は、NPT再検討会議(1995年)の決定であり、そのすみやかな実行を要求する。これはNPT体制の信頼性と中東の平和と安全にとって重要な意義を持つ。
唯一の戦争被爆国である日本が、すみやかに核兵器禁止条約に参加することを求める。アメリカの戦略爆撃機と自衛隊機との共同訓練や、「拡大核抑止」に関する日米閣僚会議に見られるように、アメリカの核戦略に加担していることは重大である。アメリカの「核の傘」への依存をあらためるべきである。
沖縄を含む南西諸島と九州では、アメリカの対中戦略の最前線基地として軍事化がすすめられている。さらに日本は、アジアとNATO を結びつける中心的役割を果たしつつある。これらの根本には、日米軍事同盟がある。
岸田政権はアメリカの求めに応じて大軍拡をすすめたうえに、日米共同声明(2024年4月)で、自衛隊を米軍の指揮下に置くことをはじめ、日米軍事同盟の歴史的な大変質を行った。我々は、戦争放棄の憲法を持つ国にふさわしい行動をとることを、政府に求める日本の運動に連帯する。アジアの反核平和運動の連帯と共同をいっそう強化する。
2025年の被爆80年にむけて、核兵器廃絶を求める壮大な運動を展開しよう。
―核兵器の使用と威嚇を絶対に許してはならない。ヒロシマ・ナガサキの被爆の実相、核実験による被害を広く知らせ、核兵器廃絶の世論を大きく発展させよう。日本と韓国の被爆者や世界の核実験被害者を支援し、禁止条約を具体化する活動に協力・貢献しよう。
―核兵器廃絶を求める運動、とりわけ核兵器禁止条約への参加を求める運動を強化しよう。核保有国や「核抑止力」に依存する国々で、条約への参加を求める運動を強めよう。
―第79回国連総会、核兵器禁止条約締約国会議、NPT再検討会議などを節目に、各国の運動を発展させ、国際共同行動、諸国政府と市民社会の共同を推進しよう。
―軍拡反対、外国軍事基地の撤去、軍事同盟の解消、枯葉剤など戦争被害者への補償・支援と被害の根絶、平和教育の推進、国連憲章の原則に基づくウクライナにおける戦争の外交的解決と終結、イスラエルによるジェノサイド攻撃とガザ封鎖の停止、ハマスによるテロ攻撃反対、即時停戦など、さまざまな平和運動との共同を発展させよう。
―世界の対立と分断、軍備拡大の流れを転換して包摂的な平和を構築し、人類が直面する諸問題の解決へと資源を振り向けよう。持続可能な開発目標や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の勧告、平和の文化に関する国連諸決議の確実な履行を求めよう。くらしと命、人権を守り、原発ゼロ、気候危機の打開、ジェンダー平等、自由と民主主義を求める運動など、多様な運動との連帯を発展させよう。
戦争と核破局か、平和・安全と非核か―世界の進路を決するのは、主権者である私たちである。被爆者とともに、そして若い世代とともに、声と行動を広げよう。
2024年8月4日
原水爆禁止2024年世界大会-国際会議