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反核ゼミ

1.ミクロの世界への誘い(1)
2.ミクロの世界への誘い(2)
3.ミクロの世界への誘い(3)
4.ミクロの世界への誘い(4)
5.アインシュタインの手紙 
6.英国生まれの原爆原理 
7.原爆1発分の濃縮ウラン 
8.プルトニウム原爆の可能性
9.危険なプルトニウムの製造
10.爆縮式プルトニウム原爆
11.米国の戦略に未来はない
12.原爆を手にした警察官
13.核帝国主義のルーツ
14.原爆と科学者
15.最初の原爆の投下目標

16.核政策のルーツを探る(1)
17.核政策のルーツを探る(2)
18.核政策のルーツを探る(3)
19.核政策のルーツを探る(4)
20.
原爆投下(その1)
21.
原爆投下(その2)
22. 原爆投下(その3)
23.
原爆投下(その4)
24.
原爆投下(その5)
25.原爆投下(その6)
26.原爆被害の隠ぺい(1)
27.原爆被害の隠ぺい(2)
28.原爆被害の隠ぺい(3)

 

 

『反核ゼミ』22
原爆投下(その3)
広島原爆の初期放射線

原爆から放出された放射線

 前に述べましたように、広島原爆のウラン235の連鎖反応でつくられた中性子とガンマ線の大部分は、原爆容器や火薬の原子核に吸収されました。吸収されずに原爆容器の外に放出された中性子の個数は約1兆5千億の1兆倍と計算されています。これを1.5×1024個あるいは 1.5E+24個と書きます。1024というのは10を24回掛けるという意味です。
 すべての電磁波は波長に反比例する決まったエネルギーを持った光子と呼ばれる波の塊(量子)です。波長が一番短いガンマ線は一番大きなエネルギーを持っています。広島原爆から大気中に放出されたガンマ線の光子の個数は4.5×1022個と計算されています。
中性子の大気中の伝播
 原爆から放出された中性子が、どのように大気中を伝播するかを考えます。
 中性子は、大気中の空気や水蒸気の原子核に衝突すると、エネルギーを失い、エネルギーが小さいほど原子核に吸収されやすくなります。大気中に水蒸気が多く含まれているほど中性子は早くエネルギーを失い、その数は急速に減少します。それは、水に含まれている水素の原子核つまり陽子に中性子が衝突した場合、陽子が中性子とほとんど同じ重さなので、衝突で中性子はほとんどのエネルギーを陽子に与え、急速にエネルギーを失い、原子核に吸収されてしまうためです。衝突の相手が重い酸素や窒素の原子核の場合は、中性子ははじき返されますがエネルギーはあまり失いません。
 広島の爆心地から1�`�bの距離で遮蔽物なしで被爆した人は、およそ100兆個の中性子をあびたことになります。これはほとんど全身の細胞に中性子が当たる数に相当します。

原爆裁判で被曝線量の論争

 広島の爆心地から1800�bで被爆した小西建男さんの京都原爆訴訟では、被曝した放射線線量をめぐって、被告の厚生省との間で論争が起こりました。厚生省は、アメリカのコンピューターで計算したDS86(1986年線量評価体系)は、最先端の科学の成果を用いて計算したものなので、DS86を原爆症の認定基準に使うのを否定するのは非科学的だと主張しました。ところがDS86の計算値は、とくに遠距離で測定値と大きくずれているのです。

DS86と実験との不一致

 コバルト59の原子核が、原爆から放出された中性子を吸収すると放射性の原子核のコバルト60になります。これを誘導放射化といいます。原爆の中性子で誘導放射化されたコバルト60からは、微量なガンマ線を放出し続けています。これを測定するとコバルト59がどれだけ誘導放射化されたかがわかり、その地点に到達した中性子の量がわかります。図の黒丸はDS86に基づくコバルト60の計算値を測定値でわり算したもので、DS86が正しければ、原爆の爆発した爆心からの距離のどこでも計算値÷測定値は1になるはずです。一番左の沢山重なった黒丸が爆心直下600�bのデータです。爆心からの距離が900�bあたりまでは、1より上に黒丸が多く、900�bを越えると、黒丸はすべて下側になります。計算値÷測定値の全体の傾向を統計的にもっともよく表す曲線を求めると図の曲線になります。ただし、1400�b辺りの黒丸は横川橋のデータで、爆心から横川橋まで、ほとんど太田川の上空の水蒸気の多い空気中を中性子が伝播してきたため、全体の傾向から外れたと考えられるのでこれを除外しました。
 図から、DS86は測定値に較べて近距離ではやや過大評価、1�`�bを越えると過小評価になることがわかります。小西さんが被爆した1800�bでは計算値÷測定値は約0・015ですから、実際の中性子線量はDS86の約67倍にもなります。
 DS86の遠距離の過小評価はコバルトの測定だけでなく、ユーロピウム152(白い菱形)も塩素36(田印)も同じですし、長崎原爆の中性子線でも同じ傾向が見られます。(図の縦軸は一舛下がると10分の1になる対数目盛です)

ガンマ線もDS86は実験値と不一致

 初期放射線のガンマ線の線量評価についてもDS86は、実測値に比べて近距離では過大評価、爆心地から1�`�bを越えると過小評価になることがわかりました。遠距離のガンマ線は、中性子を吸収して誘導放射化した原子核から放出されたものも含まれるので、ガンマ線の過小評価にDS86の中性子線の過小評価がつながったと説明できます。
 こうしたDS86の問題点を原爆裁判で明らかにしたために、「このように問題のあるDS86を、原爆症認定基準に機械的に適用することは躊躇せざるを得ない」という判決が下されました。それにもかかわらず、厚生労働省はDS86の機械的適用を止めようとしません。いま全国的に取り組まれている被爆者集団訴訟は、このような硬直した被爆者行政を改めさせようとするものです。
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 広島県の橋本和正さんから前回の原爆の熱線の影響について「黒こげになり、内臓も蒸発して、子どもたちは、小さな黒い炭のような塊になりました」の記述は「正確ではない」とのご意見をいただきました。このご指摘については、長崎原爆の熱線の影響のところで、触れたいと思います。

 

                  

 

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