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2012年3・1ビキニデー国際交流フォーラム
ジョゼフ・ガーソン「核兵器廃絶へ向かって」

2012年2月28日
2012年ビキニデー国際交流会議

ジョゼフ・ガーソン
アメリカフレンズ奉仕委員会 ニューイングランド事務所責任者

世界は新しい思考を必要としている。それは、単に利益の普遍性と世界の相互依存性の認識に基づいているだけではなく、一定の道徳的な土台をもった思考でなければならない…道徳的な中核をなくしたときに、政治はどちらの側にも不利な汚いゼロサム・ゲームになってしまう。おそらくこのことこそが過去20年から学ぶべき主要な教訓であろう―ミハイル・ゴルバチョフ

友人のみなさん、

 今年のビキニデー行事に再び参加することができ、とても身が引き締まる思いです。昨年、大石又七さん、アルソン・ケレンさん、見崎吉男さんの証言によって、私たちは1954年のブラボー水爆実験のもたらした衝撃や死の灰、苦しみと改めて向き合いました。沢田昭二さんと木戸季市さんは、被爆者の勇気と人間は核兵器と共存できないという切実な叫びによって私たちを感動させ、励ましてくれました。そして、私たちは核兵器全面禁止のためのアピール署名をスタートさせ、核兵器廃絶を達成するために必要な人々の力の構築にむかって大きな一歩を踏み出したのです。
 その10日後、東日本大地震と津波そして福島原発のメルトダウンがもたらした破壊と苦しみに日本と世界は圧倒されました。
原水協の活動家の皆さんは悲しみをこらえ、被災者を支援し、子供たちを守り、食料を配り、原発の安全神話を告発しながら、見事にがんばりぬきました。あの大災害の中でも皆さんは核兵器のない世界をつくるために活動するという目的から目をそらさなかったのです。署名運動は速度が落ちましたが、止まることはありませんでした。
昨年10月、ニューヨークで国連軍縮問題担当上級代表セルジオ・ドゥアルテ氏らに百万筆の署名を提出したことを誇りに思ってください。皆さんや皆さんの家族や友人たちは、大変な苦難を経験したにもかかわらず、粘り強く謙虚に核戦争の危険から世界を守るための活動を続けたのです。
 私たちアメリカ人は、一度に一つ以上の目標をめざすことを、「歩きながらガムを噛む」という言い方をします。私たち人間はそれをやっています。心臓が鼓動していると同時に、呼吸をしています。全ての核兵器国が自国の核軍備を「近代化」し、核兵器が安全保障を提供するという抑止力論の危険な幻想にとらわれ、アトミック・サイエンティスト誌の世界終末時計が真夜中にまた1分近づいた今、私たちは核兵器の惨禍をなくすという神聖な任務から注意をそらすことはできません。
 日本原水協の土田さんは、招待状に「2006年と比べて核兵器廃絶の条件や可能性はたくさんある」と書いています。2006年はブッシュ政権がNPT再検討会議とNPT条約そのものを台無しにしてしまった年の翌年です。
 私たちはそれぞれ、過去6年間で世界がどれだけ危険になり、それと同時にどれだけ希望も生まれたか、危険と希望のリストをもっています。私は、私たちの最近の成功のさらなる発展につながる3つの主要な変化を指摘したいと思います。

拡散と廃絶
 
 最初の変化はオバマ大統領をはじめアメリカの主要なエリートたちが、核兵器拡散の危険に対処する唯一の意味のある方法が、核兵器廃絶にむけて活動する(しかし必ずしも廃絶を達成するわけではないが)ことであると認めたことです。
 拡散の速度は早まりました。北朝鮮は2006年に最初の原爆実験を行い、近隣諸国を震えあがらせ、北朝鮮政府がA・Q・カーン博士にならって、核兵器や核のノウハウを売り渡して、喉から手が出るほど欲しいドルを手に入れようとするかもしれないという恐怖が生まれました。中東ではイランがあります。イランは核兵器開発をしているか、さもなければ日本にならって数週間か数カ月で原爆を組み立てる能力をもった核保有国に近い国になろうとしています。イランの核兵器計画については、サウジアラビアなどのアラブ諸国が、自分たちも核兵器開発を行うことでこれに対抗するかもしれないという警告があちこちから出されています。私たちがこうして議論している間にも、アメリカかイランが計算ちがいを犯すか、イスラエルによる先制攻撃が行われ、地球全体に影響を及ぼす恐ろしい地域戦争がおこる危険にさらされているのです。
 しかしまさにこの拡散の危険の増大が、アメリカの元国務長官のシュルツやキッシンジャー、ナン上院議員、元国防長官ウィリアム・ペリーおよび彼らの同僚たちの多くを目覚めさせ、拡散を阻止するためには、アメリカが核兵器廃絶を誓約し、そのための有意義な措置を講じるしかないとの結論に至らしめたのです。クリントン政権で軍備管理を担当し、ナン上院議員に核廃絶を支持するよう説得した、「四騎士の宣言」(キッシンジャーなど4人がウォールストリート・ジャーナル紙に投稿した署名入り記事)の主要な筆者スチーブン・アンドリーセンはこう書いています。「21世紀の核の脅威、すなわち意図的な核兵器使用や核脅迫、核拡散、核テロ、偶発的、誤りによる、あるいは独断的な核使用などに断固として立ち向かう唯一の方法は、世界から核兵器を廃絶することである」。
まだ上院議員であったオバマに核戦争の危険に再び注目させたのもやはり拡散の危険でした。その結果オバマは、アメリカは「他の全ての脅威を凌駕する脅威に対処するため、安全保障および大量破壊兵器をなくし、拡散阻止をめざす地球的な努力を先導しなければならない」と結論するに至りました。その後、大統領選で、平和活動家の有権者らにNPT条約第6条の履行を公約するよう迫られた際、オバマが頼りにしたのはシュルツらの分析と信頼性でした。そして彼は大統領になったあかつきには「アメリカは核兵器のない世界を追求する」と宣言すると約束したのです。
 追求することは実行することとはちがいます。そして交渉中のベトナムとの原子力協定を除けば、オバマは廃絶よりも拡散阻止をより重視してきました。プラハ演説に始まって、彼は「これらの(核)兵器が存在する限り、アメリカはいかなる敵も抑止する安全で確実で効果的な軍備を維持し、同様の防衛を同盟国にも保障するだろう」という誓約を何度も繰り返しています。しかし安全な核軍備などあるのでしょうか。
 国防総省に執拗に迫られたオバマ政権は、核態勢見直しで、アメリカが先制核戦争遂行ドクトリンを維持することを再確認しました。シミュレーションによる、あるいは未臨界の核実験およびミサイル実験も続けられています。また、共和党の要求に追従して、オバマは核兵器とその運搬に必要なミサイルのための支出を1850億ドル増額することを約束しました。これは新START条約(戦略兵器削減条約)批准に必要な票を獲得するための代価です。
 それでもオバマはアメリカの軍備削減作業を開始するという約束は守っています。新START条約では、わずかですが削減が合意されました。しかし、それより重要なのはオバマ政権が、ロシアとの将来の交渉のベースラインを確立するために、現状維持か、配備済みの戦略核兵器を(私なら皆殺し兵器とつけ加えるでしょう)700から800基まで削減、あるいは300から400基まで削減の3つの選択肢を極秘で検討しているということです。
 オバマはどれだけ本気なのでしょう。米上院で最も影響力のある核戦争支持者ジョン・カイルは「大統領がこのような計画をすすめるなら、米議会は確実にバトルロイヤル(乱闘)状態になるだろう」と言明しています。私の最善の予想では、オバマは政治的賭けに出ることを嫌って、配備済み戦略核兵器700から800基をベースラインとして選択すると思います。
同様に注目すべきなのが、オバマ政権の核態勢見直しと米国防総省の最近の戦略ガイダンスがいずれもアメリカの軍事ドクトリンにおける核兵器の役割の低減を定めていることです。ただしアメリカは依然として、宇宙を含めた「全方位の軍事的圧勝」態勢の構築を目標とし、「抑止力」に必要とされる空軍の最低数である水爆弾頭311発だけでも、核の冬を作りだすのに十分な数であることを思い起こす必要があります。この状況が、私たちの目標にはほど遠いことは明らかですが、これは私たちにとって多くの新たな突破口となるような変化が起きていることを反映しています。

内と外の戦略

 2006年以降におきた2番目の大きな変化は、私たちのような核兵器廃絶を求める市民社会と同様の考えを持つ各国政府との間に、核兵器廃絶をめざすための相互に強化されるダイナミックな協力関係を私たちが作り上げたことです。これが端的に現れているのが、国連軍縮問題担当のセルジオ・ドゥアルテ上級代表やハイレベルの外交官が原水爆禁止世界大会に参加していること、そして彼らが国連の総会場で、数百万筆の核廃絶署名をすすんで受け取ってくれたことです。この協力関係は、NPT再検討会議の前日に私たちが開催したNGO会議に潘基文国連事務総長が参加し、その後彼が広島を訪問したことにも表れています。
 これらの協力関係の成果は、世界の核保有国にNPT条約第6条の履行を求める決議を国連総会が何度も、圧倒的多数で採択していることにも見ることができます。また2010年のNPT再検討会議最終文書でもこの成果が反映されています。
 この間、私たちは核兵器廃絶を勝ち取るためには「内と外」からの行動が必要なことを学んできました。私たちは世論を構築し、動員することで外から圧力をかけると同時に、体制内部にいて、私たちと同じくらい核兵器廃絶を重視している人々を行動させ、彼らから学び、彼らと共同で行動し支えていく方法を今後も見つけていく必要があります。
 これは私たちが権力の座にいるエリートたちからの指示を待つということではなく、逆に、私たちがお互いに強化しあうようになることを意味します。この協力の形としては、情報や分析の共有、2010年NPT再検討会議の際にセルジオ・ドゥアルテと会議議長への数百万筆の署名の提出、日本被団協の作った被爆ポスターを展示して、今年のNPT再検討会議準備会議で廃絶機運を盛り上げるための準備、および、欧州諸国政府に、より積極的に廃絶外交を行わせるためのノルウェー政府と核兵器廃絶国際キャンペーンICANの共同の取組みなどがあります。
 このような力強い協力関係がどれほどの結果を生むか、私自身、それを2010年NPT再検討会議の際に個人的に経験しました。国際企画委員会の代表として、私は潘基文国連事務総長に再検討会議直前に開催される私たちのNGO会議に出席して、挨拶してくださいと要請しました。正直言って、私はそのような招待を彼が受けるチャンスは殆どないと思っていました。しかし、私は間違っていました。彼はマーチン・ルーサー・キングJr.が後に大きな反響をよんだ演説「ベトナムをこえて:沈黙を破る時」を行ったのと同じ舞台から、私たちに話しかけたのでした。
 事務総長の言葉に私たちはどれだけ励まされ、元気をもらったかしれません。彼はこう言いました。「大胆になってください。大きく考えてください。なぜなら大きく考えれば大きな結果が生まれるからです。…私たちには皆さんのような人たちが必要です…地平線の向こうには、核兵器のない世界が見えています。私の眼の前にいるのは、それを実現する人々です。どうかこれからもがんばってください。警報を鳴らし、圧力をかけ続けてください…わたしたちは世界から核兵器をなくします。そして 私が核兵器をなくせれば、それは皆さんのおかげなのです」。
 演説と同じくらい素晴らしかったのは、人々が長いスタンディング・オベーションで応えたことでした。事務総長も彼の付き添いらもこれは予想していませんでした。私たちは後になって聞いたのですが、彼らはこれに深く感動して、再検討会議の課題に臨むなかで、決意がさらに強まったのだそうです。これは大胆に大きく物事を考え、組織することがいかに大切かを物語る力強い教訓です。また、これは私たちに、民衆が先導すれば、指導者はそれに従うということを教えています。

拡大しすぎた帝国

 3番目の変化と突破口は、アメリカの相対的な衰退と、それに必然的に伴う経済政策の転換です。確かに、貧しい国でも核保有国になることができますが、アメリカやイギリスのような国も、工業生産や基本的な社会福祉の恒常的な後退に苦しめられ、銃かバターか、すなわち軍事に投資するのか、それとも社会の再活性化に投資するのかというゼロサム的決定を迫られることが多くなっています。
 オバマは、核兵器と運搬用ミサイルのための予算の1850億ドル増額を約束することによって、新START条約批准に必要な共和党票を買うという、魂を悪魔に売るような取引をしました。しかし、ペンタゴンにではなく、人間の緊急のニーズにお金を使えと要求する自分の支持基盤「お金を動かせ(Move the Money)」からの圧力を受け、今ではこの方針を見直しつつあるようです。彼が議会に提出した予算案では、ロスアラモス国立研究所に新たにプルトニウムピットをつくる予算がなくなっています(一方で他の核兵器計画の大半は進められることになっていますが)。エド・マーキー共和党議員も核兵器関連支出を900億ドル削減する法案を提出しました。ペンタゴンがアメリカの核軍備規模の大幅縮小を自らすすんで検討しようとする理由の一つは、国防総省がもっと高価な非核のハイテク兵器を欲しがっているからなのかもしれません。
 私たちにとって、これだけではまだ不十分です。しかし、イギリスの核軍縮キャンペーン(CND)がすすめているトライデント更新をやめ教育や雇用創出に資金を投入する運動のように、アメリカの軍事費をめぐる議論の高まりは、国内の活動家や全国的運動のリーダーたちに、核兵器廃絶を勝ち取るために必要な政治的圧力を構築する手掛かりを与えてくれています。

核兵器をゼロに

 最後にいくつか強調したい点があります。まず、シュルツ、ナン、ペリー、キッシンジャーの取組みを示唆した男で、軍備管理交渉を担当していたマックス・カンプルマンの言葉から始めましょう。カンプルマンは4人の2回目の声明に不満で、次のようにやり返しました。「長年にわたって、あらゆる種類の詳細な提案がされてきたが、どれも結局はゴミの山に捨てられただけだった。それは政治的リーダーシップと民衆の関心が足りなかったからなのだ…。そのような支持を得ることこそ我々の最初の優先事項でなければならない…核兵器をゼロにするどんな選択肢でも、それが実現するチャンスが本格化するには、民衆の心理が変わらなければならない」。友人の皆さん、これこそ私たちがすべき仕事です。
 第二に、私は残念ながらアメリカの平和運動は道義的、歴史的責任を十分に果たせていないと思います。世界で最も危険な核大国の市民として、私たちは特別の責任を負っています。そう前置きした上で、みなさんにご紹介したい取り組みが3つあります。まず核兵器のない世界をめざすキャンペーンが始めた核ガイダンス見直しの結果に影響を与えるための署名運動があります。私たちは、この4月までに5万筆を確実に集めたいと考えています。これでも私たちにとっては大変な数字です。また、国防費削減をもとめるより広範なキャンペーンに、核軍縮を位置づけるために啓蒙と組織化の活動を進めています。さらに今年5月にシカゴで開催されるNATO/G8サミットにむけて組織される対抗サミットでも、核廃絶は重要なテーマになるでしょう。
 第三に、戦時に核兵器の標的となった唯一の国として、日本の平和運動が果たす特別の歴史的役割は尊重されなければなりません。被爆者の証言、署名運動、核の傘や核抑止論の批判や告発、デモ、さまざまな共同の取組み、代表団派遣、次世代の廃絶活動家の育成などをつうじて皆さんは世界の灯台として日本と世界の「民衆の心理」を変化させ、変革してきました。これからもその活動を続けてください。
 最後に皆さんがウィーンでのNPT準備会合に企画されている取組みは素晴らしいものです。またもっと長期的には2015年NPT再検討会議のための集団的な啓蒙と組織化の活動にも期待しています。署名や運動とともに、あらゆる機会を使って、私たちは自国の政府にたいし、NPTで約束した誠実な交渉を開始するよう迫らなければなりません。NPT再検討会議は、核大国に第6条の誓約の履行および拡散阻止の責任を問うために私たちの使える最善の手段です。
 最後に、発言の冒頭に述べた久保山愛吉さんの道義的で先を見通した言葉で、私の発言を締めくくりたいと思います。彼の「自分を核兵器の最後の被害者にしてほしい」という願いを思い起こしましょう。ジョゼフ・ロートブラットの勇気をもって、自分の人生を生きましょう。ロートブラットはマンハッタン計画に加わった科学者でしたが、原爆開発の仕事を辞して、核兵器廃絶に残りの人生を捧げた、道徳的な考えをもった人でした。皆さんのなかにも、彼の広島での発言を聞かれた人がいるでしょう。彼は、旧約聖書の預言者のように、人類は、世界から核兵器をなくすか、あるいは必然的に起こりうる核戦争で全滅するのかという厳しい選択を迫られていると警告しました。