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第1回 ミクロの世界への誘い(1)

 1954年3月1日、ビキニ事件が起った時、私は物理学科の学生でした。「自分の専門にしようと学んでいる物理学が、水爆をつくり出し、人類を絶滅する可能性を現実のものにしてしまった」と大きなショックを受けました。そして、物理学を学んでいる学生として核兵器の恐ろしさを人々に知らせなくてはと学生仲間で「原水爆展」をつくりました。これが私の原水爆禁止運動の原点です。

 去る1月20日、愛知県半田市で知多地域原水協が主催して非核自治体シンポジウムが開かれました。テーマは「非核・平和の知多半島をめざして」でした。話の後で「署名運動をしているとよく未臨界核実験とはなんですかと尋ねられます。わからないので教えてください」と参加者から質問があり、コーディネーターから「やさしく説明してください」と指名されました。

 このように、原水爆禁止運動の中で、しばしば核の問題について説明を求められます。未臨界核実験だけでなく、核兵器や放射線の科学的、技術的背景を理解するためにはある程度ミクロの世界のことを知らなくてはなりません。

 日常体験とはかは離れたミクロの世界を理解するのは難しいことですが、核兵器をなくし、被爆者援護連帯の運動をすすめるために、いっしょにミクロの世界に入っていきましょう。ご批判・ご意見・ご注文をお寄せくださるようよろしくお願いします。
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ミクロの世界の階層構造は哲学者エンゲルスの予言

 19世紀の終わり頃、大部分の物理学者は、物質の一番大もとは原子であり、原子は宇宙のはじめから永遠の未来まで不滅であると思っていました。ところが、エンゲルスは唯物弁証法の立場から、原子は物質構造の一つの節目に過ぎないと「自然の弁証法」という本に書いていました(註1)。実際、20世紀になって、エンゲルスの予言通り、原子に構造があり、さらにミクロの物質には図に示したような階層的な構造があることが次々とわかってきました。

 原子の中心にプラスの電荷を持った重い原子核があり、その周りを原子核の電荷を打ち消すだけのマイナス電荷の電子が運動しています。原子核はプラスの電荷を持った陽子と電荷を持たない中性子が強く結びついてつくられます。原子核の電荷は陽子の数で決まり、この数が原子番号です。陽子と中性子の重さはほぼ同じですから、原子核の重さは陽子と中性子の数を加えた数でほぼ決まります。この数を質量数と言います。図の酸素の原子の場合、原子番号は8番、質量数は16です。そして酸素の元素記号Oの左肩に質量数、左下に原子番号をつけて表します(図中の表記を参照)。

 陽子と中性子は原子核をつくっているので核子とよばれます。核子は、3個のクォークからつくられます。クォークに構造があるかどうかはまだわかっていません。原子核の周りをまわっている電子はクォークと同じレベルと考えられクォークとともに基本粒子とよばれています。

 原子力とか原子爆弾は、原子という名がついているために原子のレベルと誤解されやすいのですが、これらは、図の中の原子核のレベルの問題です。次回はその原子核のレベルの問題を考えましょう。 

(註1)フリードリヒ・エンゲルス[新メガ版]『自然の弁証法』(秋間実・渋谷一夫訳、新日本出版)、不破哲三著『自然の弁証法?エンゲルスの足跡をたどる』(新日本出版)

「原水協通信」2002年4月号(第698号)掲載