3月22日に出された原爆症認定集団訴訟東京地裁判決の留意点は以下の通りです。
*起因性の立証責任
「通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちえるものであることを必要とすると解すべきである」(松谷最高裁判決を踏襲)
*被曝線量について
「客観的な資料に基づく合理的な判断として、放射線による急性症状等が生じていると認められる事例が存在するのであれば、その事実を直視すべきであって、それがDS86による線量評価の結果と矛盾するからといって、DS86の評価こそが正しいと断定することはできない」(急性症状などの発症事実を重視すべき=国は急性症状を赤痢や感染症、栄養不良のせいと主張)
*残留放射能、放射性降下物、誘導放射能について
「広島、長崎とも、原爆投下直後から残留放射能についての調査がなされたものの、誘導放射能及び放射性降下物について、十分な実測値が得られていない」
*内部被曝について
「ガンマ線及び中性子線以外にアルファ線及びベータ線が影響すること、外部被曝と比べ至近距離からの被曝となり人体への影響が大きいことを理論的に否定し去ることはできない」(国は、原告の多くは被曝をほとんどしていないと主張)
*遠距離・入市被曝の急性症状
「遠距離被爆者、入市被爆者の中にも、相当程度の放射線被曝をしたものが存在すること念頭に置く必要がある」
*原因確率について
「放射性起因性を判断するための参考要素になり得るものではあるものの、原因確率に基づく判断にも一定の限定があることは否定できない・・・これを機械的に当てはめて放射性関与を否定してしまうことは相当ではなく、個々の被爆者の個別的事情を踏まえた判断をする必要があ」るものである。…これを疑義の余地のないものとして取り扱うことにも、問題がある。
*起因性の判断手法について
「科学的根拠の存在を余りに厳密に求めることは、被爆者の救済を目的とする法の趣旨に沿わないものであって、最終的には合理的な通常人が、当該疾病の原因は放射線であると判定するに足りる根拠が存在するかどうかという観点から判断するほかはない」「DS86 及び原因確率の機械的な適用は、放射線のリスクの過小評価をもたらすおそれがある」「当該被爆者の被爆状況、被爆後の行動、急性症状の有無・態様・程度等を慎重に検討した上で、・・・さらに当該被爆者のその後の生活状況、病歴、放射性起因性の有無が問題とされている疾病の具体的な状況やその発生に至る経緯などから、放射線の関与がなければ通常は考えられないような症状の推移がないのかどうかを判断し、これらを総合的に考慮したうえで、合理的な通常人の立場において、当該疾病は、放射線に起因するものであると判断し得る程度の心証に達した場合には、放射性起因性を肯定すべきである。