読書感想
『憲法9条を世界遺産に』
著者 大田 光・中沢新一
集英社新書¥693
テレビにもよく顔を出すお笑いタレントの大田光らが昨年8月に出版した『憲法9条を世界遺産に』は、ベストセラーになったそうです。そこで、発売後半年たった現在、読むに値する書籍なのか否かをあらためて確認したくなりました。
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大田の主張は、すなおで好感が持てます。
「その奇跡の憲法を、自分の国の憲法は自分で作りましょうという程度の理由で、変えたくない。少なくとも僕は、この憲法を変えてしまう時代の一員でありたくない」(P.60)
「憲法9条は、たった一つ日本に残された夢であり理想であり、拠り所なんですよね。どんなに非難されようと、一貫して他国と戦わない。二度と戦争を起こさないという姿勢を貫き通してきたことに、日本人の誇りはあると思うんです。他国からは、弱気、弱腰とか批判されるけれど、その嘲笑される部分にこそ、誇りを感じていいと思います」(P.78)
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対談の相手で大学教授の中沢のはなしは、多弁なのですが、説得力があまりありません。なかには、とんでもない珍説もまじっています。
「商人が仲立ちして、人々が所有権の切れた品物をお金で交換するようになり、だんだん物の移動が楽になっていくわけです。ここから資本主義が発達してきます」(P.39)
≪反論。「所有権の切れた品物」は絶対に「お金で交換」できません。所有権が切れるとは、持ち主がいなくなることでしょう。すると、品物の代金を受け取る者が不在なので、売買は成立しません。人々は、だまって無償でそれをひろってくればいいことになります≫
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そもそも本書の主旨は、憲法9条は、「世界の珍品」で「突然変異で出現した」ものであるから、世界遺産として保存しなければならない、というところにあります。
このことについて、私は「憲法9条は世界に先駆けて日本で誕生したが、どこの国にでも受け入れられる普遍性を持っており、人類の歴史が進んでいけば、その内容が多くの国の憲法にうたわれていくだろう」と考えています。
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本書は、憲法9条を守ろうとする立場に立っています。そして私は、いろいろな立場からの「憲法9条を守る」主張がなされることを歓迎したいと考えています。そういう意味からも、大田光らの勇気ある発言に敬意を表します。
ただ、発売後半年たった現在、「693円を払って購読するほどの内容があるか」と問われたならば、「購読するにはおよばないでしょう」と答えざるをえません。
栃木県原水協事務局長・福田台