家父長制度に抵抗する女性を描く作品がグランプリ受賞
2021年10月31日から11月8日まで、第34回東京国際映画祭が開催されました。113の国と地域から1533本の応募があり、15作品が正式出品された今年のコンペティション部門の最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞は、カルトリナ・クラスニチ監督によるコソボ・北マケドニア・アルバニア合作映画『ヴェラは海の夢を見る』が受賞しました。
本作は、夫の突然の自殺の後、家がギャンブルの借金の抵当になっていたことを知らされたヴェラが、男性優位の環境に抵抗する姿を力強く描いています。耳が不自由だった母親の「遺産」を持って都会に出てきた彼女が、家父長制の下で受けてきたさまざまな制約に真っ向から立ち向かっていく芯の強さに心を打たれました。終始重苦しい空気が支配しているのですが、ヴェラが頻繁に見る海の夢が、家族の幸せな思い出に繋がるようなラストシーンには、心救われる思いがしました。
コンペ部門の審査委員長を務めたフランス人俳優のイザベル・ユペールさんは「この映画は、夫を亡くした女性を繊細に描くとともに、男性が作った根深いルールに従わない者を絡めとる“家父長制度”に迫っています」と説明。「監督は、国の歴史の重荷を抱えるヴェラの物語を巧みに舵取りしています。その歴史の重荷は、静かに、狡猾にも、社会を変えようとする者に“暴力”の脅威を与えます。演出、力強い演技、撮影が、自信に満ちた深い形によって、集合的な衝突を生み出していました。この映画は、勇気あるコソボの新世代女性監督によって、素晴らしい作品群の1本に加わりました」と称賛しました。
ジェンダーギャップ指数120位の日本へのメッセージ
母国コソボとアメリカで映画について学び、ドキュメンタリーを手掛けてきたクラスニチ監督は、自国で受賞の一報を受けて送られてきたビデオメッセージの中で「初長編となった『ヴェラは海の夢を見る』が東京国際映画祭のコンペ部門に出品されると連絡を受けた時、大変光栄に感じました」と話します。そして、「この映画祭に初めて参加するコソボ映画だったということも大変光栄です。グランプリを受賞したことを知り、喜びのあまりに泣いてしまいました」と語りながら、審査員、作品を支えたキャストやスタッフに謝意を示しました。
世界経済フォーラムが2021年3月、「The Global Gender Gap Report 2021」を公表し、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数を発表しました。この指数は、「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示しています。2021年の日本の総合スコアは0.656、順位は156か国中120位(前回は153か国中121位)でした。前回と比べて、スコア、順位ともに、ほぼ横ばいとなっており、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となりました。こうした現状において、家父長制に対決を挑む女性を主役にした女性監督の作品が最も評価されたことは重要なメッセージになりうると思います。今後、本作が国内で上映されるかどうかは未定ですが、ぜひ見てほしい作品です。