被爆者支援ネットワーク・しずおかは16日、舛添要一厚生労働大臣に対し、4月12日(土)、13日(日)におこなった被爆者110番の結果の概要を受けた要求書を送付したと発表しました。
要求書(全文)
2008年4月16日
厚生労働大臣・舛 添 要 一 殿
被爆者支援ネットワーク・しずおか
代表世話人・田 代 博 之(原爆症認定静岡訴訟弁護団長)
聞 間 元 (医師・静岡県保険医協会理事長)
川 本 司 郎(静岡県原水爆被害者の会会長)
杉 山 秀 夫( 同 前会長)
中 野 邦 彦(原水爆禁止静岡県協議会理事長)
事務局長 ・松 木 豊 年(静岡民医連・前事務局長)
連 絡 先 ・054-253-1854(静岡県原水協)
原爆症認定新基準に関する要求(被爆者110番を実施して)
被爆者支援ネットワーク・しずおかは、被爆者の要求や現状を把握するため被爆者110番を過日、実施した。その結果の概要と被爆者の要求を申述するので、大臣におかれては、2ページの5項以下の(1)~(4)についてすみやかに善処されるよう強く要求するものである。
記
1.日 時:4月12日(土)、13日(日)、両日とも午前10時~午後4時
2.会 場:静岡田町診療所に臨時電話を設置
3.主 催:被爆者支援ネットワーク・しずおか
4.結果の概要
相談の電話をかけて来た多くの人が「テレビで見たので」「新聞で見たから」と語った。
ほとんどのマスコミが、重大な問題として報道してくれたことによってこのとりくみを成功させることができたと言える。
電話相談は以下のスタッフで行った。
・静岡県原水爆被害者の会・川本司郎会長(12,13日)
・被爆者健診指定医療機関看護師・川又幸代(静岡県原水協被爆者援護連帯部)(12,13日)
・三島共立病院・佐藤永(はるか)ケースワーカー(13日)
・静岡民医連・志田剛現事務局長(12日)、同・松木豊年前事務局長(12,13日)
・静岡県原水協・鈴木勝之事務局長(12日)、同・中野邦彦理事長(12,13日)
(1)電話相談数
12日:24件、13日20件、14日朝2件。合計46件。
男性:34人(その内3人は遺族から)、女性:12人。計46人。
(2)年齢層 大正12年~大正15年 (85歳~82歳)10人
昭和2年~昭和9年 (81歳~74歳)17人
昭和10年~昭和20年 (73歳~63歳) 8人 不明11人
(3)被爆の区分
広島被爆:23人、長崎被爆:18人、聞き漏らした方、または記入漏れ:5人。
・1号被爆者(被爆距離1.2㎞~4.5㎞~):23人
・2号および3号被爆(入市被爆とその後の救護に携わって重複する人が多い):16人
・遠距離または不明(10㎞以上)7人
(4)相談内容
・被爆者健康手帳を取得していないので取りたい : 14人(うち2人は遺族から)
・認定申請したいがどうしたら良いか : 20人
・自分の病歴や現在の病気について : ほぼ全員
・すでに認定申請したが未だに何の連絡もない : 2人
・健康管理手当てを知らなかった、貰っていない : 1人(手帳所持者)
・被爆者の夫が死亡したが補償は受けられないか : 1人(遺族から)
・一度原爆症に認定されたが更新したい… : 1人
・医師から原爆とは関係ないと言われた… : 1人
・医師が不親切。歯科医ですぐ歯を抜かれる… : 1人
(5)相談者の病気、症状など
・すべての相談者がさまざまな病気に冒され、あの原爆によってこんな状態になったと考えていることが分かる。相談者が上げた病気を列挙すると、
・各種・各部位のガン(胃、腸、食道、肺、肝臓、すい臓、前立腺、足、)・腫瘍、白血病、肝臓疾患、心臓疾患・心筋梗塞、変形性脊椎症、各種関節炎、肺炎、網膜色素変性症、高血圧、貧血、慢性気管支炎、脳梗塞、不整脈、前立腺肥大、白内障、胆のう炎、変形性腰痛、脳動脈瘤、両足変形性関節炎、大腸カタル、骨粗しょう症、高脂血症、再生不良性貧血、腹部動脈瘤、両膝痛、高コレステロール、などなど。
5.原爆症認定新基準の問題点と被爆者の要求
(1)厚労省の新基準はこれらの被爆者が冒されている病気を原爆症と認定するのかどうか?
相談の電話を掛けてきた被爆者の少なくない人が新基準による積極的認定の枠からはずれ、個別審査・総合判断に回され、切り捨てられる可能性がある。原爆症認定新規準の新たな線引き・切り捨てによって泣く被爆者が出ることを私たちは決して容認しない。
(2)被爆者援護法第3章第3節の医療・第10条(医療の給付)には、その後段に「ただし、当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは、その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る」と規定されている。法律の中にわざわざこのような条文が設けられているのは、被爆者の自然治癒能力が放射能の影響を受けていることを認めているからである。
また、被爆者援護法の前文には、「国の責任において、(中略)放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、あわせて、国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため、この法律を制定する」とある。
厚労省は、被爆者健康手帳を交付して被爆者と認めながら、またしても被爆の距離、入市の時間及び疾病によって線引きし、切り捨てる新基準を強行しつつあるが、援護法の被爆者救済主旨とは相容れないものと言わなければならない。
(3)今回、被爆者がさまざまな差別を経験してきたことも浮きぼりになった。自分が被爆者であることを誰にも知られたくないという思いから、被爆者健康手帳さえ取得しようとしなかった人が少なくない。外国にいたため、手帳交付の制度そのものを知らずに過ごしてきた人もいる。今となっては、証人もほとんどなく、手帳を取得することはかなりの困難が予想される。大臣におかれては、この人たちが被爆者健康手帳を取得できるよう最大の配慮をされるよう要求する。
(4)被爆者110番のとりくみを通じて、私たちは被爆者に対する新たな線引き・切り捨てがきわめて重大な問題であることを再認識させられた。厚労省は今こそ、被爆者が嘗めてきた数々の辛酸に思いを致し、真に被爆者救済の理念に立つべきである。
大臣におかれては、現在、15地裁、6高裁で争われている原爆症認定集団訴訟を即時全面解決するとともに、今後の原爆症認定にあたっては、被爆者に対する新たな線引き・切り捨てを行わないよう強く要求するものである。
以上