広島平和記念資料館リニューアルオープンレポート 日本原水協担当常任理事・大平喜信

広島市中区にある広島平和記念資料館(原爆資料館)の本館が4月25日、展示を一新してリニューアルオープンしました。時期が大型連休とも重なり、10連休中の入館者数は前年同日比62%増の10万5181人、ピーク時には最長2時間待ちの行列までできるなど高い注目と関心が寄せられています。日本原水協担当常任理事の大平喜信さんのレポートです。


展示内容は2年前に改装を終えた東館とあわせて全館ひとつながりのものとなりました。まず東館の導入展示「被爆前の広島」「失われた人々の暮らし」から始まり本館へと続きます。本館のテーマは「被爆の実相」。「【1】8月6日の惨状」「【2】放射線による被害」「【3】魂の叫び」「【4】生きる」という4つのコーナーで構成されています。その後は再び東館へと戻り「核兵器の危険性」「広島の歩み」で終了です。

今回リニューアルされた「被爆の実相」を伝える本館では「一人ひとりの被爆者や遺族の苦しみ、悲しみをより多く伝え、心に響く展示にしたい」(滝川卓男館長)と、遺品などの実物資料を家族の思いや短いエピソードなどを添えて展示することをより重視したそうです。一つひとつの説明は最小限に抑え、来館者自らに原爆の悲惨さを考えてもらう、とも。

オープン翌日の朝刊では各紙がいっせいに報道しました。「苦しみ恐ろしさ胸に」(中国新聞)、「被爆の惨状知る 広く深く」(朝日新聞)と入館者の好意的な感想を紹介しています。私も、顔が判別できないほど人間が真っ黒焦げになった生々しい写真や、ガレキの下敷きになった母あるいは子を残しその場を立ち去った家族の思いなどにふれ胸がしめつけられました。一つひとつの展示からあのきのこ雲の下で起きた惨劇にあらためて思いをはせ、この非人道性を前に21世紀の人類社会がそれを上回る核兵器をもつ理由などあるはずがないではないかと強く感じました。

同時に、では今度の展示が本当に「被爆者や遺族の苦しみ、悲しみ」を描けているかについてはいくつか疑問点も。被爆者でもある元館長の原田浩さんが「中国新聞」のインタビューで「惨状が『この程度』と思われないよう、被爆者の声を取り入れ、展示を必要に応じて見直してほしい」と語っておられるように、被爆者が目の当たりにした〝地獄絵図〟はこんなものだったのかとの思いがもう一方でよぎりました。さらには生き残った被爆者の苦しみ――「自分が生き残ってしまってよかったのだろうか」との後悔の思い、就職や結婚をはじめあらゆる場面で受けてきた差別、放射線被害が本人の病気や体調不良とともにその子や孫までの健康をおびやかすことへの世代を超えた終わりのない不安、など――があまり読み取れませんでした。殲滅的破壊力とともにこの点にも通常兵器とは違う重大な核兵器の非人道性があるではないかと少し残念な印象も受けました。

また、今回の改装ではありませんが、東館についても一言。核兵器の開発から投下に至る歴史、核兵器そのもののしくみ、その後の核兵器をめぐる情勢や広島の復興の歴史などの概要説明が続きますが、私の一番の違和感は、核兵器の削減・廃絶をめぐる取り組みや歴史の中に、被爆者自身のたたかいをはじめとする「市民社会」の姿がまったく描かれていないことです。いまや国連の場でもその奮闘に繰り返し敬意をもって注目され光が当てられているのに、その認識の遅れを感じざるをえませんでした。

いずれ被爆者から直接話を聞くことができなくなったときに、この資料館がその代弁をする中心的施設となることは間違いありません。何より被爆者の声に真摯に向き合いながら、不断の見直しを求めたいと思います。皆さんも新しくなった原爆資料館にぜひおいでください。

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