反核平和大会・セッション1
アメリカの平和・反核運動
アン・ミラー
ニューハンプシャー・ピースアクション(アメリカ)
今日ここにお招きいただき、ありがとうございます。国際的な平和活動家たちが集まり、私たちの平和活動にとってもっとも重要な問題である核軍縮について討論する機会を設けてくださったことにたいし、戦争と核拡散反対東アジア平和大会の主催者の方々に感謝します。また、私の多くにとって仲間であるアメリカフレンズ奉仕委員会のジョゼフ・ガーソンさんからのごあいさつをお伝えします。残念ながらガーソンさんは先約があったため、この会議に参加することができませんでした。
アメリカの平和活動と政治について、私は、核兵器問題と核兵器廃絶を二つの文脈からお話ししたいと思います。まず、平和活動家と文化という文脈から、そして二番目に現在の政治的状況からです。それから、2008年アメリカ大統領選挙に向けてどういうチャンスがあり、困難があるかについてお話しします。
アメリカでは、平和運動はイラク戦争を終結させることと、イランとの軍事的―もしくは核兵器による―衝突を阻止することに力を集中しています。それに関連して、アメリカが支援した拷問、ブッシュ大統領弾劾、移民の権利、イスラエルの西岸とガザ占領、市民的自由などの問題にとりくんでいる人たちもいます。大学のキャンパスでは多くの学生たちがダルフールでのジェノサイドを止めさせようと活動しています。そしてピースアクション、アメリカフレンズ奉仕委員会、議会立法に関するフレンズ委員会を含む多くの組織が、核兵器問題でも活動しています。
草の根からの政治的圧力を高めることと、教育活動を続けることが、イラク戦争停止のために私たちがおこなっている二つの戦略です。現在、アメリカ国民とイラク国民の大多数が、イラクからの米軍撤退の期限を示すよう求めています。私たちは、世論調査結果や戦争に反対する軍人やその家族の声を広めることで、世論を変えようと引き続き努力しています。アメリカの国土で再びテロ攻撃が起こることがなければ、世論は私たちの側に傾き続けると思います。アメリカは戦争のために一日あたり7億5千万ドルを使っており、アメリカ人とイラク人の死傷者は増え続けています。多くの人々にとり、戦争は人間的・財政的に負担できないものとなっています。
核兵器廃絶のたたかいは、アメリカでは正当な扱いを受けていません。それにはいくつかの理由があると思います。長崎と広島について知っている人でさえ、原爆投下がアメリカ人の命を救い、戦争を終結させたという支配的な神話を信じています。広島・長崎の非戦闘員に対して原爆を投下するという「決定」の背後にあった真実はもっと複雑です。アメリカは戦後世界において比類なき支配権を確立しようとしており、原爆投下は日本だけでなくロシアをも目的においたものでした。1945年夏、日本は降伏に合意しました。日本が出した条件はいったん連合軍側に拒絶されましたが、1945年8月15日に受け入れられました。日本は8月6日午前8時15分よりも前に、降伏に合意していたのです。
投下直後の数日で約25万人の市民を殺した原爆はまた、多くの朝鮮人も殺しました。広島で2万人、長崎で2千人の朝鮮人が死亡したと推定されています。朝鮮人被爆者は苦しみ、そして多くの不正義でその後ずっと苦しんできました。その多くは強制労働者として日本で働いていた人たちで、原爆で負傷した多くの人々はそのことを認められず、治療も受けられませんでした。
アメリカはこれらの人道に反する犯罪の道徳的・精神的側面について取り組んできたことはなく、ましてやその責任をとることもありませんでした。
冷戦は、今も朝鮮半島では続いていますが、ほとんどのアメリカ国民の頭からは消えてしまいました。それはもう一世代前に終わったことなのです。アメリカがいまだに1万発の核兵器を持っていることは一般国民の意識にはなく、多くのアメリカ人は、核不拡散条約や、アメリカがその第6条をすみやかに実行する責任を負っていることなど、聞いたこともないのです。
核攻撃について考えるとき私たちは、その被害者になるかも、とは考えても、自分たちが加害者となるとは考えません。実際はその逆なのに。イランのことと、イランが核エネルギー計画のためにウランを濃縮しようとしているという報道や、イランがイラクの状況に影響を与えようとしているということが、今さかんにニュースで流れています。アメリカのプロパガンダ機構はこのイスラム共和国イランに反対する世論を巧妙に構築するために動いており、ライス国務長官は数週間前、「イランに関してはあらゆる選択肢が検討されている」と繰り返しました。核兵器使用のオプションもまだ検討されているのです。
大多数のアメリカ国民は、核兵器が実際に何をするのかについて、深刻なほどわかっていません。その理由はひとつには、核兵器が通常兵器の軍事計画の中に組み込まれていることによって「ふつうのもの」になっているからであり、もうひとつは、私たちが事実を教えられていないためでもあります。2006年4月、アメリカの国防総省がイランに対する核攻撃計画を策定していたという報道がありました。イランへの核攻撃がその地域でのアメリカの利益に深刻な影響を与えることになるというのに、この情報が主流の新聞で報道されたとき、一般の人々からの反応はほとんどありませんでした。
北朝鮮問題は、アメリカの主流新聞は断続的にしか取り上げられません。そのため、大多数のアメリカ市民の意識にそれが反映しています。ほとんどの人々は、朝鮮半島と東アジア全体の歴史、政治、文化を知りませんし、アメリカをはじめとする世界の超大国が前世紀にこの地域で果たしてきた帝国主義的役割を知りません。今日、金正日は、明確な動機も目標も持たない、分別のない独裁者として描かれています(北朝鮮に対する外交政策に関しては、ブッシュ大統領と顧問たちにも同じことが言えるかもしれません)。さらに、韓国系アメリカ人社会の小さな団体しかなく、北朝鮮の問題についてのアメリカの平和活動はほとんどありません。良かれ悪しかれ、私たちの目と行動は、イラクとイランに集中して注がれているのです。私の知る限り、アメリカ議会にかけられている北朝鮮に関する「平和」の法案は、ひとつもありません。
アメリカ国民、特に白人で中流のアメリカ国民は全体として、私たちの周りで、あるいは国内で起こっている現実から隔離され、何も知らずにいます。主流メディアに対抗する情報ネットワークが存在していますが、アメリカの報道源はかつてないほど統合されています。すべてのテレビ、ラジオ、新聞が少数のエリートたちに握られているのです。アメリカは実利主義の、恐ろしい軍事帝国です。いかに見当違いや無知であるにせよ、多くのアメリカ国民は、海外へのアメリカの経済的・軍事的影響力は、アメリカだけでなく世界にとってよいものだと信じています。
概して、私たちは、世界中で起こっている米軍基地やアメリカ帝国主義に反対するデモのニュースについて、聞くことがありません。最近イタリアのビチェンツァで数十万人が集まった米軍基地拡張に抗議する集会のことも、沖縄で、嘉手納空軍基地を15000人の平和活動家が人間の鎖を行なったことも、知らされていません。
現在、世界の核不拡散や核兵器廃絶に関して進展がないことの責任は、ひとえにアメリカにあります。60年間にわたって、アメリカは核兵器を拡散させ、他の国々の経済的政治的主権を破壊してきました。その政策は、引き続き世界全体の未来の安全を脅かしています。.
こうしたぞっとするような現実ですが、私はそこにも本当の希望があると思っています。先のアメリカの中間選挙は、主としてほぼイラク戦争に関する国民投票でしたが、民主党が下院を制し、上院でも辛うじて過半数を確保しました。この数ヶ月間、大統領と議会はイラク戦争への財政支出の継続をめぐり激しく衝突してきました。残念ながら、民主党の法案は、戦闘活動への資金提供の中止、2007年末までの戦闘および非戦闘部隊の完全な撤退、すべての米軍基地の撤去、再建への全面的財政支援など、平和運動の要求から見ると、まだまだ不十分ですが、民主党はより良い方向に進んでいます。彼らもまたある程度、平和運動からの圧力に弱いのです。
この積極的な流れは、ひどく漸進的ではありますが、新しい核兵器の問題にも同じことがいえます。昨年ブッシュ政権とエネルギー省は、アメリカの核兵器総合施設の見直しと、「信頼できる代替核弾頭」と呼ばれる新世代の核兵器を製造するふたつの計画を提案しました。現在議会が二つの計画への財源について審議していますが、2008年度には予算がつかない可能性があります。今後数週間、私たちは新型核兵器への資金をすべてなくすよう、議会へのはたらきかけを続けていきます。平和活動家にとっても、核軍縮と不拡散の問題で新たに大きな機会が生まれています。私が住んでいるニューハンプシャーは、全国でもっとも早く大統領の予備選挙が行なわれます。これは、ニューハンプシャーで、全国に先駆けて大統領を選ぶ投票が行なわれるということです。2008年11月は1年半先のことですが、大統領選の候補者たちはすでに、私の州や早くに予備選が行われる州で、有権者や報道機関との対話に多くの時間を費やしています。
アイオワ、ネバダ、カリフォルニア含め各州で、すでに活動家たちは核兵器に関する各候補者の立場に影響を与えようと、国民の目に見えるやり方で忙しく活動にとりくんでいます。私たちは、全国紙の記者も参加する公開討論会で候補者に質問をしています。質問の目的は、公開議論のテーマに核兵器問題を載せ、候補者が、世界から大量殺戮の核兵器をなくすという私たちの願いを反映した立場をとるように働きかけることです。候補者への活動家の質問を、いくつか紹介しましょう。
―ブッシュ政権とエネルギー省が、危険な新世代の核兵器と新たな核インフラストラクチャーを提案していますが、これには1500億ドルの税金が使われると言われています。あなたは「コンプレックス2030」および「信頼できる代替核弾頭」と呼ばれる、アメリカの核兵器複合施設を再構築し新型核兵器を開発するという、ふたつの重要な政府案に反対しますか?
-大統領として、あなたは、アメリカを含め核保有国にたいし、時機を逸することなく核軍縮にとりくむことをもとめている核不拡散条約第6条の義務を遂行するために、どのように努力しますか?
-最近、ヘンリー・キッシンジャーなど元政府高官数人が、「核兵器のない世界のビジョンの再主張」を呼びかけています。アメリカの外交政策における核兵器の役割について、あなたはどう考えますか。
私たちはすでに、たくさんの成果をおさめています。バラク・オバマ上院議員は新型核兵器に反対を表明し、アメリカが保有する核兵器の大幅削減を支持すると言っています。クリントン上院議員は、今年上院で新型核兵器への予算を否決するために努力すると言っています。ほかにもビデン上院議員、ドッド上院議員、リチャードソン知事など期待できる民主党員が、公の場で新型核兵器反対の立場を表明しています。2月に、私はクリントン上院議員に直接、イランに対する「すべての選択肢を検討中」という彼女の言葉に異議を唱えましたが、このやりとりが新聞で大きくとりあげられました。
次期アメリカ大統領は、アメリカの核政策の今後の方向に大きな影響力をもつでしょう。私たちが核軍縮に献身的にとりくんできた民主党の候補者を勝たせることができれば、良い方向で世界を変える可能性が生まれると思います。私自身は、みなさんとともに、東アジアが直面している平和の問題についてアメリカ国民を啓蒙し、お互いに連帯して活動する新たな機会をつくっていくことを期待します。
平和を。ありがとうございました。