去る5月12日、大阪地裁において、原告9人全員に原爆症の認定をすべきだという判決が下されました。これは全国13の地裁で170人の被爆者がおこなっている第1次集団訴訟の最初の判決として、きわめて重要な意味を持っています。
被爆実態からかけはなれた原爆症認定基準
これまで最高裁、高裁を含む7つの原爆症認定裁判において、被爆者が相次いで勝利判決を勝ち取り、判決は厚労省の認定規準が被爆実態とかけ離れていると批判してきました。ところが厚労省は「原因確率」という新たな規準を導入し、「原因確率」が10%以下では申請疾病に対する原爆放射線の影響は否定されると認定申請を機械的に却下しています。
このいっそう厳しい規準のために、原爆症と認定された人は、被爆者手帳を持っている26万人の0.8%に抑えられてきました。そのため、原爆放射線による障害で苦しんでいる被爆者でも認定申請をあきらめている現状です。
認定行政の抜本的転換を迫る
こうした被爆者に冷たい認定行政を抜本的に改めさせようと、日本被団協の呼びかけで原爆症認定集団訴訟が3年前から始まりました。厚労省は、これまでの7つの判決はあくまで個人に対するものだと言い逃れをし、認定行政の転換を怠ってきました。しかし、今回9人の原告全員の勝訴は、認定行政の全面的転換を迫るものです。
高齢になった被爆者の集団訴訟は、まさに命をかけた取組みで、すでに26人の原告が亡くなっています。大阪地裁の判決は、支援する人びとに支えられ、裁判に勝利することが核兵器廃絶につながると頑張ってきた被爆者に大きな勇気を与えました。
遠距離被爆者・入市被爆者も認定
今回の原告には3.3キロメートルで被爆した遠距離被爆者、原爆が爆発した後に救援活動のため広島市内に入った入市被爆者2人が含まれています。みんな厚労省の「原因確率」ほとんど0%の人たちです。また今回の判決では、放射線の影響は不明だとして「原因確率」の計算表にない貧血や、これ以下の被曝(ばく)線量では発症しないという「しきい値」が設けられた白内障に対しても「しきい値」はないとの判断が下されました。
「DS86」の適用限界
認定申請を審議する被爆者医療分科会が「原因確率」を求める場合、被爆者が浴びた原爆放射線の線量は「DS86」と呼ばれる原爆放射線線量評価システムを用います。しかし「DS86」は「あくまでシミュレーションであり、限界がある」とし、遠距離では過小評価になっているので、遠距離被爆者に対し「DS86」の「機械的適用は、慎重になすべきである」と判示しました。
残留放射能による内部被曝
遠距離被爆者に対する残留放射能は「キノコ雲」から降下してきた放射性降下物が問題になります。また原爆爆発後に爆心地近くに入った人は、誘導放射化物質による残留放射能の影響を受けました。残留放射能では、とくに放射性微粒子を体内に取り込んで、身体の中から放射線をあびる内部被ばくが深刻な影響を与えます。
判決は、被爆実態をしっかりと踏まえて、こうした内部被曝の影響を認めて、遠距離被爆者と入市被爆者の原爆症認定をしました。
大阪地裁判決と今後の展望
高齢化し病気を抱えている原告のことを考えると、控訴によっていたずらに原爆症認定を引き延ばすことは許されません。厚労省がかたくなに判決の受け入れを拒むならば被爆者はいのちを削ってさらに第2次集団訴訟に取組むことになります。
内部被曝を考慮すると、すべての被爆者が放射線影響を受けており、健康管理を必要とします。そのため、健康管理手当を被爆者全員に支給し、実際に障害が発生した場合には医療費と特別手当を加算するよう法改正をしなくてはなりません。
日本原水協代表理事・沢田昭二