読書感想
『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』
絵ベン・シャーン 構成・文アーサー・ビナード
集英社 ¥1680
日本語で詩を作っているアメリカ人のアーサー・ビナードは、第五福竜丸の無線長・久保山愛吉さんたちを「英雄」だといいます。
久保山さんたちは、自分たちがアメリカの軍事機密に遭遇してしまったことを察知します。そして、もし無線で被害を受けたことを母港の焼津に知らせたら、内容をアメリカ軍に傍受され、撃沈されるだろうと判断しました。だから、外部になんの連絡もせず、想像に絶する2週間、被ばくした状態に耐えて焼津港に帰り着きました。
このように、みずからの知恵と勇気で危機を脱して生還して、生き証人となった。それで世界が変わった。人類の滅亡につながりかねない「軍事機密」が、世界の市民に知れ渡ったんです。
久保山さんたちは、単なる犠牲者ではなく、英雄なんです。こう考えたビナードは、第五福竜丸事件を忘却させまいと、絵本を出版しました(以上は、07年1月4日付け・しんぶん赤旗の山田洋次映画監督との新春対談の要約)。
ビナードの見解は、詩人としての鋭い感受性に裏づけられていると思いました。それで「ここが家だ」を書店で立ち読みしました。何せ絵本ですから、15分ぐらいで全部の文章を読み終えました。
そこで、買うべきか否かを思案しました。というのは、年金生活の私にとって1680円は結構高価な買い物になるあらです。
ベン・シャーンの絵をよくよく眺めました。ゴツゴツした感じのその絵を見ているうちに、もしここで買わないと、5年ぐらい後になってから後悔することになるだろう、という結論に達しました。絵画については素人ですが、その絵から力強い何かが私に迫ってくるように感じたのです。
ベン・シャーンが絵のなかで「第五福竜丸」をTHE LUCKY DRAGON(運のよい竜)と書いてあるのを読んで、なるほどと感じたのも、買うことに心が傾いた原因の一つでした。
「ここが家だ」を買ってから1ヶ月がたちました。その間、4,5回「ここが家だ」を開いています。ベン・シャーンの絵を見ていたら、学生時代に美学専攻の友人が話していた「良い絵というのは、見るたびに新しい何かが発見できるもの」という言葉を思い出しました。
また、「『久保山さんのことを わすれない』と ひとびとは いった。 けれど わすれるのを じっと まっている ひとたちもいる」(40ページ)という文章の「わすれるのをじっとまっているひとたち」は、具体的には誰を指しているのだろう、などと考えています。
とにかく、「ここが家だ」は、おとなのための絵本です。書店で実際に手にとってみて、買うかどうかをご自分で判断していただければ、と思います。
栃木県原水協事務局長・福田 台