昨日(2月27日)、ロンドンでは核兵器に抗議して数万の人々が街頭で行動しました。「ストップ・トライデント」を掲げたその全国的なデモは、CNDが組織したこの30年で最大のものでした。反戦・反緊縮政策の活動家、労働組合、宗教者、環境活動家、女性運動、学生なども加わりました。様々な政党の政治家やマスコミの著名人、そしてもちろん野党労働党のジェレミー・コービン党首も演説しました。
英国議会は、イギリスの核弾頭を積んだトライデント潜水艦の更新について投票を準備しています。現在の潜水艦は老朽化しており、政府は交代の潜水艦の建造を始めたがっています。新しい潜水艦の導入により、イギリスは2060年まであるいはそれ以降も核兵器国であり続けることになります。その費用は運用コストを含め巨大な額となり、政府自身の数字でも、総額は1670億ポンド〔約25兆4千億円〕にのぼります。
それも、緊縮政策が人々の生活をますます強く締め付けているこの時にです。世界第5位の経済力を持つ国で、100万人近い人々が食料の無料支給に頼り、平均30人の学級で食事を十分にとれていない子が9人もいることを一体誰が想像できるでしょう! 手ごろな住宅が絶望的なほど不足し、路上で寝ている人々がいます。大切な国の健康保険制度が私的利益に奪われようとしているのです。
しかし、9月、ジェレミー・コービンが最大野党の党首に選出されて以来、イギリスの政治展望が変わりました。ジェレミーは10代の時からCNDのメンバーであり、私たちの仲間です。2003年のイラクへの無法な侵攻に反対し、反戦平和運動に参加している中心的な議会政治家です。中東に関しても、ガザの紛争に反対してキャンペーンを張るなど立場を明確にし、またウクライナをめぐるロシアの振る舞いを容認することなく、NATOとアメリカの好戦的な東方拡大に反対する論陣を張っています。彼は新しいタイプの政治、国際協力にもとづく新しい世界政治を追求しているのです。
彼は、圧倒的な支持を得て党首に選出されたのですが、当時、CNDの副議長であり、ストップ戦争連合の議長でもありました。労働党の党首となった今も彼は両方の組織の活動に引き続き参加すると言っています。ラジオインタビューで「核のボタンを押せますか?」と質問されたとき、彼は、正気の人間なら誰でもそうするように、「ノー」と答えました。
ジェレミー選出の背景には、トニー・ブレアがイラク戦争を開始した後に労働党を離れていた何千人もの人々の支持と、自分たちを、両親と比べ恵まれた生活を将来期待できない最初の世代であると長い間考えている、新しい若者世代の支持が集まったことにあります。
労働党指導部の候補者たちが全国を遊説した昨年夏の雰囲気は、説明する言葉が見つからないほどです。私が出席したある会合では、何百人もの聴衆が、質疑に多くの時間を割きたいので拍手を控えるように言われました。最初の質疑が一巡した後、聴衆はおとなしくしていました。次のトライデントについての質問の時、ジェレミーが立ち上がり、自分は核兵器に反対だと言ったとたん、会場いっぱいに共感の拍手が爆発したのです。会合の後ジェレミーは、数マイル離れたマンチェスターのパブに行きました。そこもいっぱいでした!ロックスターに群がるように若者たちが彼と一緒に写真を撮っていました。
ジェレミーの勝利は、スコットランドでの、とりわけ人々を大きく激励したファスレーン核兵器基地反対の政治的高揚に続くものでした。イギリス国民は今、1980年代以来、わが国の核兵器を廃絶する最大のチャンスを迎えています。「ストップ・トライデント」のデモは、私たちのキャンペーンに新たな局面を開いています。しかし、私たちにはまだ、勝たなければならない論争として、まず議会での論戦があります。一部の議員はトライデントの更新にますます懐疑的になっており、もしそれが十分な数に達すれば、決定を棚上げすることは可能でしょう。
同時に、労働党は党の国防政策の見直しを9月に行うことを約束しています。私たちの前には大きな問題があります。私たち自身をどう見るかということです。世界の中でイギリスがどんな国であって欲しいのか?私たちの優先課題は何なのか?多くの人が、イギリスの核兵器国としての地位は国連安保理事会の五つの常任理事国のひとつとしての地位と同様、地球的な役割を果たすうえで不可欠であると考えています。しかしイギリスはまた、「国際的な法の支配を守る」ことを誇りとしています。ならばNPT第6条の核軍備撤廃の義務をどうして無視することができるでしょうか?
私たちに直面する最も差し迫った脅威は、テロと気候変動です。政府でさえもそれを認めています。ならば、核兵器は地球上で何の役に立つというのでしょう?軍隊、装備、軍事基地など、世界中に軍事力を投入し影響力を及ぼす軍事的能力など本当に必要なのでしょうか?資源を人道的支援や平和維持などの課題に向け直すべきではないでしょうか?
私の考えでは、国際情勢はこの20年ほどのいわゆる「人道的介入」から、大国間の競争の激化という新たな段階に入り、核保有国間の衝突の危険も拡大しています。偶発的であれ別の要因であれ、軍と軍との衝突は全面的な国際対立へと急速にエスカレートする可能性があります。
この新しい局面は、2014年のアメリカの「4年に一度の国防見直し」とそれに続くウェールズのカーディフで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議とともに始まったように思います。イギリスの保守党政府は核保有国の地位に固執しているだけでなく、ヨーロッパ最強のNATO軍事大国であり続けようと決意しています。政府自身の国防政策は軍事優先主義の宣言ともいうべきものです。要するにイギリスは、ロシア国境に沿ったNATOの軍事力増強をリードし、中東のバーレーンに新たな海軍基地を作ろうとしており、その軍の装備のために1780億ボンドという途方もない金額を費やそうというのです。これは、わが国の衰退しつつある製造部門の中で軍事産業に巨額を投入することです。国防部門のすべての企業の半数が今後1年で少なくとも10%は成長することが予測されています。言い換えれば、この宣言は、わが国の経済の弱さを克服するために、軍事優先主義に賭けるということです。しかし国民は、それよりも気候変動防止の仕事で100万の雇用創出を、とキャンペーンを行っています。
もちろんイギリスの地球的役割は東アジアにも及んでいます。実際、誰が太平洋を所有しているかご存知ですか?主には米国ですが、フランスとイギリスも広大な部分を持っています。イギリスが2つの軍事同盟に加わっていること、つまりNATOだけではなく、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、シンガポールと5カ国同盟を結んでいることは、ほとんど知られていません。政府は、イギリスの新しい航空母艦も動員した合同軍事演習によって、後者とさらに緊密に協力したがっています。イギリスはブルネイに基地を置き、シンガポールに海軍武官を駐在させることによって東南アジアに恒常的な軍事プレゼンスを維持しています。韓国、マレーシア、インドネシアともパートナーシップを強めようとしています。もちろん、武器を売って東アジアの富を呼び込もうというのが狙いです。
イギリスは日本をアジアで最も親しい安全保障パートナーとみており、2カ国間の防衛協力を強め、防衛産業の協力の機会を広げようと考えています。イギリスはまた、国連安全保障理事会を拡大し、常任理事国入りを果たそうとする日本の試みを強力に支持するつもりです。
将来的にはイギリスと日本が南シナ海で合同軍事演習を行う可能性があるかもしれません。実際、つい最近、10月に英日合同爆撃演習が行われるという発表があったばかりです。
南シナ海の問題で、最近、なぜ五つの核兵器国のうち少なくとも三つが東南アジア非核兵器地帯のバンコク条約を批准しようとしないのか、その理由が、自由航行に及ぼす影響を懸念しているからだと知りました。
イギリスと日本には多くの共通点があります。どちらも西と東のアメリカの主要同盟国です。どちらの平和運動も、核時代を支えてきた新しい軍事優先主義の流れを逆転させるという同じ課題を持っています。私は、CNDのデモへのみなさんからの連帯メッセージへのお礼とともに、私たちの運動からの今週末行われる原水協のビキニデー行動への連帯メッセージを携えてやってきました。CNDは今日、まさに並行してヨーロッパの仲間の活動家とともに「NATO反対ネットワーク」で合同討論会を開いています。
70年前、ビキニ環礁での核実験の開始は冷戦の前兆となりました。実験は太平洋に身の毛もよだつような傷跡を残し、核軍備競争に火をつけました。30年後、1980年代、国際的な平和運動は、核超大国に軍縮の話し合いを受け入れさせました。さらに2003年には、イラク介入に対して世界中に圧倒的な反対が沸き起こりました。それはいまも軍事冒険主義に対して一定の抑制として働いています。
しかし今日、私たちはなお核兵器の影のもとにいます。ですが、核の衝突の危険にもかかわらず、平和への希望の光を見ることができます。核保有5カ国は、イランとの核合意、気候変動に関するパリ合意、シリアに関する第二のジュネーブ合意のように、協力することもできるのです。
私たちイギリス人にとっては、向こう30年のうちに、わが国が単なる「中堅国」の一つになることを国民に受け入れてもらうことは、たいへんな仕事です。もし労働党が、トライデント更新の政策と世界的な軍事優先主義の流れから身を引くことができるなら、それは勝利であり、世界への偉大なメッセージとなるでしょう。
国連では、核兵器全面廃絶条約の起草が始まっています。私たちはその成功を確かなものにしなければなりません。国際的な平和運動を、この多極化した世界で国家間の競争が新たな冷戦と核対立の局面に変わることを防ぐ主柱とし、土台としなければなりません。この国際協力は、私たちが草の根の力を動員し、下から押し上げることができた場合にのみ成功します。核の脅しに終止符を打ち、大量殺りくの核兵器の完全廃絶を実現し、最終的に世界の平和を達成するために、ともに行動しましょう。
ありがとうございました。