〔4月27日、第9回NPT(核不拡散条約)開会にあたって、暫定議長(第3回準備委員会議長)の報告に続き、ヤン・エリアソン事務次長が読み上げたもの。国連ウェブサイト、事務総長の声明のなかに所収〕
声明
核不拡散条約の開会総会への事務総長のメッセージ
(ヤン・エリアソン事務次長が紹介)
ニューヨーク、2015年4月27日
潘基文事務総長に代わり、この重要なNPT会議出席のすべての代表のみなさんを国連にお迎えできることを名誉とし、事務総長に代わり以下のメッセージをお届けする。
その前にもうひとつ、事務総長に代わり、国の大きな部分を襲った巨大地震に続く悲しみと人道的苦しみの中にあるネパールの国民と政府のみなさんに、心からの哀悼と弔意を表明する。
核兵器の廃絶は国連にとって最優先事項である。この世にあれほど残忍な惨害をもたらしうる兵器は他にない。不拡散条約は不拡散体制の土台であり、核兵器のない世界を実現するための不可欠の土台である。
タウス・フェルーキ大使の会議議長への指名に祝意をおくる。それは困難で骨の折れる役割である。だが私は、フェルーキ大使が加盟各国の協力のもとに成功裏に結果を出すことができると確信している。私たちのだれもが、核兵器のない世界がすべての国に利益をもたらす重要な地球的公共財であることを想起しなければならない。
この再検討会議は、核不拡散条約がひき続きわれわれの集団的安全保障のなかで中心的役割を持つことを保証するためのものである。NPTの枠組みが、発効50年にあたる2020年には何のためのものになるのか、明確な道筋を示すべきものだ。
私は加盟各国が条約を強化する結果を生み出すためにこれからの数週間、骨身を削り、建設的に活動するようよびかける。私たちが必要とする結果とは、条約の普遍性を促進し、すべての締約国によるすべての条項の順守を保証し、核兵器拡散の阻止と廃絶の達成というNPTの原則目標を強化するものだ。みなさんが共通の土台をつくり、包摂的な態度をとり、柔軟さを発揮するよう求めたい。
私はすべての締約国に市民社会グループとの関わりを深めるよう促したい。彼らはNPTの規範を強め、軍縮を促進するうえで重要な役割を果たしている。現在の再検討会議の準備過程でも、2015年NPT再検討会議議長と国連とは、市民社会グループから、この会議の成功と核兵器の廃絶をよびかけるいくつかの要請署名を受理した。
これらの要請署名は、世界の関心ある市民から何百万もの署名を集めている。これは、われわれが服務する人々の希望と期待とを力強く想起させるものだ。われわれは、何年ものあいだ軍縮を擁護し、かくも多くのことをおこなってきた多くの人々と団体とに感謝する。この事業への彼らの原則的な努力に、私は全面的な支持を誓いたい。
2010年には、64項目の行動計画での合意と15年の無活動の後におこなわれた1995年中東決議での進展とが再検討会議の成功という結果をもたらした。行動計画は国際的コンセンサスの頂点をなすもので、条約の目標を達成するロードマップを与えるものであった。
今回の会議では、いかにしていつこの行動計画が履行されるのか、あるいは実際的妥当性を失っていく危険に陥るのか、いまや示さなければならない。そのような進展は、一つひとつの締約国がNPTの相互に強めあう柱の一つひとつのもとにある義務を順守するよう要求している。
本質的に、NPTとは、一方で核軍備撤廃、もう一方で不拡散という共生的関係によって支えられる大取引なのである。一方の進展なくしてもう一方の進展はあり得ない。両方での進展は誰にとっても利益なのである。
前回の再検討会議以来、核兵器による危険はなお存在している。拡散の挑戦も、朝鮮民主主義人民共和国に関するものを含め、続いている。
だが、E3プラス3あるいはP5プラス1とイランとの間で到達した重要な理解は、その種の挑戦を外交で処理することが可能であることを証明した。最終文書は、国際原子力機関によって検証され、不拡散問題での進展を別にしても、深刻な地域の安全保障問題を緩和するうえで役に立つだろう。
中東非核・非大量破壊地帯は、その種の合意から生じる軍縮と不拡散での前進に加えて、本質的な利益をもたらしうる。
準備担当者のラーヤバ大使の確固とした努力、そして国際社会の結果への期待にもかかわらずほとんど何の進展も得られなかったことは残念だ。再検討会議は同地域の各国がこの問題に関し、共通のビジョンと共通の目的をもって前進できるような手段の追求に焦点をあてなければならない。
1990年から2010年までの間、国際社会は核兵器のない世界に向かって大胆な前進を遂げた。配備された軍備で大規模な削減がおこなわれた。いくつかの国では兵器工場を閉鎖し、より透明な核ドクトリンへと印象的な前進をなした。
私は、この5年、このプロセスが停滞してきたように見えることを深く憂慮している。とくに核兵器ゼロへの流れが逆転していることを示す最近の情勢はとりわけ不安にさせられる。新たな軍備削減合意へと前進するのでなく、現存の合意を危うくするような侵害があるとの申し立てがある。
包括的核実験禁止条約の発効や核兵器用の分裂物質生産禁止条約ではなく、核兵器を今後何十年にもわたって固定化する巨額の近代化プログラムを目の当たりにしている。私の提唱した5項目提案を含め、核軍備撤廃を加速する提案を追求するのでなく、冷戦心理への危険な回帰が起こっている。
この逆転はわれわれの世界にとって後退である。私は、各国の指導者に、近視眼的政治姿勢を捨て、人類の必要に応えた大胆でグローバルなビジョンを掲げるよう呼びかけたい。真の国家安全保障は、核脅迫の影の外で、そこから離れたところでのみ達成しうる。この影は現在と未来の世代のために取り除かれるべきである。
これは、70年前の8月、核攻撃を生き延びた被爆者のメッセージだ。核軍備撤廃の緊急性を疑う者に対して、私は、彼らの体験を聴くよう挑戦したい。これらの勇気ある、不屈の人々の目を直視するよう反論し、核兵器が何をもたらすのかもっとよく知るべきだと言いたい。彼らは、核兵器の恐るべき人道的影響と、核兵器廃絶の緊急の必要性を思い起こさせる生きた証拠としていまこちらに来ている。私はこれらの証言者が参加されていることに感謝し、現在の会議が彼らの警告に耳を傾け、結果を出すよう求める。
この努力で私は、人道的な検討を軍縮審議の中心に据える有望な流れの広がりに励まされている。この人道的運動は凍りついた討論に道徳的な至上命令を注入した。この至上命令は、再検討会議でも真剣な検討の対象とされるべきである。
これからの数週間は、核兵器がもたらす危険を除去するために共有する意欲の前進を追求する上で、意欲を掻き立てるときである。これはわれわれの時代の歴史的な至上命令である。みなさんが緊急の意識を持って行動し、すべてにとってより安全な未来を求める世界の人びとがみなさん方に課した責任を果たすよう呼びかける。