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資料保管庫軍縮と核政策

核兵器廃絶と核拡散問題

米印核協定、イラン、そしてインドの将来

ハーシュ・V・パント

 2005年7月、インドのマンモハン・シン首相の訪米中、両国は二国間関係を一新することを決めた。ブッシュ政権は、インドとの間で完全に民生用原子力協力を結ぶという野望を宣言した。この目的のために、ブッシュ政権は「アメリカの国内法と政策を手直しするようアメリカ議会の合意をめざし」、「友好国や同盟国と協力し、保障措置下にあるタラプールの原子炉への燃料供給を迅速に検討することを含みかつこれにとどまらず、インドとの間での全面的な民生用原子力協力および貿易を可能にするために、国際的な体制の調整をめざす」ことになる。

インド側は、「他の先端核技術をもつ先進国と同じ責任と慣行を担い、同じ恩恵と利益を得る」と約束した。米印核協定は、インドをグローバルな核秩序に統合されるべき核保有国として認めることによって、グローバルな核体制のルールを事実上書き換えた。アメリカは、存在するすべての核施設の国際監視を受け入れないどの国に対しても核援助を禁止しているが、この核合意はそれに重大な例外をつくるものである。シン首相訪米の成果は、米印関係が新たな段階に入ったことを示した。

当初からブッシュ政権は、インドを核不拡散というプリズムを通して見ることを拒否し、当然の戦略的パートナーとみなしていた。ブッシュ政権は、インドが21世紀における世界の大国になるよう援助したいと公然と宣言した。1999年のビル・クリントン米大統領のインド訪問、ジャスワント・シンとストローブ・タルボットの戦略対話、アタル・ビハリ・バジパイ前インド首相の2001年のアメリカ訪問中に発表された「戦略的パートナーシップの次の段階」などすべてが、米印関係の劇的な強化への基盤をつくったのだ。(http://www.pinr.com/report.php?ac=view_report&report_id=341「米印戦略的パートナーシップの意味するもの」を参照。)

最近の合意はただちに、アメリカとインド双方の国内に激しい議論を引き起こした。2006年初頭に予定されているブッシュのインド訪問が迫っていることで、両国とも訪問中の合意実施をめざして合意にとりくまざるを得ない状況になっている。インドはアメリカに、民生用と軍事用の核施設の分離計画を示しており、現在アメリカの対応を待っているところである。この計画は、民生用と軍事用の施設の段階的分離と国際原子力機関(IAEA)への民生用施設の申告を義務付けた米印核合意のもとでインドが負っている義務の一部である。

アメリカ国内の議論

アメリカでは、多くの人がこの協定を否定的に見ている。最大の論点は、協定が核兵器保有を考えているかもしれない他の国々にたいして及ぼすであろう影響である。この協定はそうした国々にたいし、核兵器の入手は、それによりなんの制裁も課されることなく主要な国際プレーヤーとして認知されるための足がかりになるかもしれないというシグナルを送ることになるのではないかという議論がなされた。特に、インドに与えられた地位をパキスタンも要求するのではないかという点でパキスタンの問題が提起され、この議論のひとつとして、パキスタン政府にそのような地位の付与を拒否することは、ワシントンの対テロ戦争の成功にとって重大な国で反米感情が高まることになりかねないと指摘された。

インドはまた、自らの核兵器と運搬システムの開発の縮小を拒否していることと、軍事および民生用の施設の包括的な保障措置を受け入れていないことでも批判された。これら反対の声を上げている人々は、インドを将来の主要な世界的アクターとみなしている一方、米中関係あるいはイランの核兵器計画などの重大な問題について、インドは信頼できるかどうか懸念している。

また、アメリカ議会からも、多くの否定的反応があった。議員たちは、えこひいきをするために不拡散体制のルールを破り、核兵器の重要な国際条約を侵害する危険をおかすわけにはいかないと主張した。ブッシュ政権にとって、核協定への議会の支持を得るのは相当きびしい課題であることは、はじめから明らかであった。多くのアメリカの議員が、インドの増大する戦略的重要性や核不拡散における実績について認識していたが、アメリカ国内法のとりきめと、インドが核不拡散(NPT)条約に加盟していないことにより、彼らがインドに民生用原子炉を提供するというブッシュ政権の決定を支持することは困難であった。

問題は、インドを例外扱いすることは、前例をつくり、アメリカ自身が加盟している不拡散体制を守っていないという非難を招くことになるという点である。大部分の共和党議員は慎重な態度をとっているが、多くの民主党議員は、合意はきわめて問題が多いという立場を鮮明にしており、親インド派の議員でさえも見解を控えざるを得なかった。

さらに、核協定をめぐる高揚感はまもなく、国際政治の現実にかき消されてしまった。インドは、イランの核開発計画問題についてアメリカ政府を支持しアメリカへの忠誠を証明することをもとめられた。アメリカの議員たちはインド外相のイラン訪問に怒り、米印核協定に関する公聴会でインドを非難した。トム・ラントス下院議員は、インドは「イランに対するアメリカの懸念を完全に無視したことへの高い代償を払うことになる」とさえ言った。

ブッシュ政権は、もしインドがイランに関するアメリカの動議に反対票を投じれば、議会はおそらく米印核合意を承認しないだろうという立場をはっきり示した。ラントス議員は後に、IAEAでのインドの賛成投票を賞賛し、それが新しい米印核合意を議会が前向きに検討することを促すだろうと述べた。インド側は、投票はアメリカとの核合意とはまったく無関係であると主張し続けている。(http://www.pinr.com/report.php?ac=view_report&report_id=389「イラン問題でインドの利害が衝突」参照。)

米印核協定に関する議会での公聴会はまた、その批准にかかわる困難も明るみに出している。大部分の議員は引き続き、合意のアメリカの不拡散政策への最終的な影響がプラスになるのかマイナスになるのかという問題と格闘している。下院外交委員会で質問された専門家の大多数は、協定が国際的不拡散体制を弱体化させると主張した。「明確に法的強制力のある恩恵と義務を規定している永続的な二国間合意によってインド政府をグローバルな不拡散体制に組み入れることは、さらなる拡散を阻止するアメリカの努力を強化するだけでなく、アメリカの国家安全保障をも高める」と主張したのは、カーネギー国際平和財団のアシュレー・テリスなどほんの数人であった。

アメリカの上院外交委員会での公聴会は、ブッシュ政権が核協定の見返りとしてインドに期待しているものも、はっきりと浮き彫りにした。ブッシュ政権の高官がインドのイランに対する態度を重要なものとして言及しただけでなく、アメリカ政府はインドがアメリカの利益にそって行動することを期待していることも、明らかになった。世界中に民主主義体制を確立する上でのインドの支援が、米印間のパートナーシップに不可欠であるとみなされたのである。インドが多国間拡散安全保障イニシアチブを支持することも非常に望ましいことと言及された。

上院にたいし明らかになったことは、ブッシュ政権が議会での法整備に着手するには、インド政府が信頼でき透明性あるやり方で民生用と軍事用の核施設を分離するという、もっとも重要な誓約の実行を始めているという証拠が前提になるだろうということである。

アメリカ上院外交委員会の委員長をつとめるリチャード・ルーガー上院議員は、冒頭発言で、インドの国際社会における核に関する実績は満足できるものではないこと、インドが「アメリカ政府にたいしておこなった、アメリカから供給された核物質を兵器目的に使用しないという二国間の約束を破っている」と述べることを忘れなかった。彼は、米印核協定の実施には議会の承認が必要であり、「米印共同声明が大量破壊兵器の拡散を止めるためのアメリカの努力にどのような影響を与えるか」を判断するのは、彼の委員会と議会であるということを強調し、念押しした。

ルーガー議員は、議会が協定を承認するか否かを決定する4つの指標を、非常に明確に打ち出した。すなわち、民生核協力がどのように米印間のパートナーシップを強化し、なせそれが重要なのか?協定は、インドの核開発計画と政策に関するアメリカの懸念にどう対処するのか?協定は、イランや北朝鮮など他の拡散の問題と、ロシアや中国の輸出政策にどのような影響を及ぼすか?核合意は、NPTと世界的核不拡散体制の有効性と将来にどのような影響を及ぼすか?の4点である。

まるでタイミングを計ったかのように、18人のアメリカの元政府高官と不拡散の専門家が連名で、議会が協定の実施に必要な国内法の改正を検討する前に、米印間の核のパートナーシップについて追加の義務を課すことをもとめる手紙を書いた。これに関連して、上院外交委員会の有力メンバーである民主党のジョン・ケリー上院議員が、最近インドを訪問した際に米印核協定を「原則として」支持すると表明し、協定がいまのまま承認されれば、インドは核保有国の資格を与えられることになると主張したことを指摘しておくのは有益であろう。

 アメリカ国内でこの議論が進んでいるうちにも、ブッシュ政権は米印民生核協力関係をさらに強化するために、いくつか重要な措置をとっている。政権は、エネルギー源として核融合を利用できる原子炉の建設をめざす国際企業体である国際熱核融合実験炉(ITER)コンソーシアムへのインドの参加を強力に支援し、米国商務省(軍事転用懸念)リストからインドの保障措置原子炉を外した。

 ブッシュ政権はまた、インドとの完全な平和目的の民生核協力・貿易を可能にするために、原子力供給国グループ(NSG)の会合でインドを強力に売り込んだ。ブッシュ政権はインドとの核協定に本気でとりくんでいるという強力なシグナルを送りながら、アメリカ国務省は上院外交委員会にたいし、インドのサイラスという40メガワット原子炉が、アメリカの重水は平和目的にのみ利用できるとした1956年の米印間の取り決めに違反したかどうか判断できないと述べた。ブッシュ政権は、サイラス重水炉で生産されるプルトニウムがアメリカの重水炉で生産されたものかどうかについての最終的な答えを得ることは不可能だと、主張している。

同時に、ワシントンでは猛烈な勢いでロビー活動も始まった。インドで操業している主要なアメリカ企業のグループである米印ビジネス協議会は、インドとの全面的な民生核協力の実現に必要な法の制定を確実にするのを援助するために、ワシントンでもっとも高額のロビー企業のひとつ、パットン・ボッグズを雇っている。インド政府は独自に、ロバート・ブラックウィル元在インドアメリカ大使が率いるロビー企業、バーバー・グリフィス・アンド・ロジャーズと、ベナブル法律事務所とともに活動している。

インドでの議論

インドでも、米印核協定に関するさまざまな意見が噴出している。インド人民党(BJP)はまっさきに協定を批判した。皮肉なことに、いまあらたな米印戦略的パートナーシップの基礎をつくったのは、ほかならぬ人民党だった。このパートナーシップの立案者であるバジパイは、インド政府は脅威に対する独自の認識にもとづき将来どのような種類の核抑止をもてばよいかを決定する権利を放棄してしまったと、主張した。新しい合意は核研究計画を制限するだけでなく、インドは軍事用と民生用の核施設を分離するのに莫大な費用を負担することになると、バジパイは言う。

インドの連立政権の一翼を担う左翼連合も、政府がアメリカ政府との核協定を結ぶ前に連立諸党に相談しなかったと、インド政府を批判した。彼らはまた、インドが長年掲げてきた核軍縮政策を放棄したと、厳しく非難した。

インドの他の協定批判者は、アメリカがインドを「先端核技術をもつ責任国家」であり「他のそのような国々と同じ恩恵を得る」べきと認めることは、インドを核クラブの一員に迎えることまでには至らないと主張した。協定によってインドはあまりにも多くのものを放棄する一方、得るものはあまりにも少ないという議論であった。協定の一環として、インドは国内の民生核施設を段階的に分離し、民生核施設を自主的にIAEA の保障措置の下におき、民生核施設に関する追加議定書に署名・遵守し、核実験の一方的モラトリアムを継続し、核分裂性物質カットオフ条約の締結のためにアメリカに協力し、厳格な不拡散輸出管理を継続し、ミサイル技術管理レジームおよびNSGのガイドラインに協調しこれらを遵守することを約束した。

こうした条件の大部分は、長い間米印戦略会談に含まれていた内容であるにもかかわらず、インドの一部の批評家たちは、インドがこれらの条件を、アメリカから見返りに受け取るものがあまりないまま合意したとみなしている。こうした批評家のなかには、インドの高速増殖炉計画を含む平和目的の独立した研究活動が、阻害あるいは遅らせられるかもしれないというおそれを表明しているものもいる。

インドの科学界は、賛否両論の評決をくだした。一部は今後の核エネルギーの必要性を認め、協定がインドのエネルギー資源を増強するとして賛成している。多くが、アメリカとの協定は、カナダ、フランス、イギリス、ロシアなどNSGの他の国々によるインドへ民生用核技術の提供に道を開くものでもあると見ている。他方、あまり乗り気でない科学者たちは、民生用と軍事用の施設の分離は厄介な仕事であり、兵器システムの研究開発と核抑止に必要な生産施設に深刻な影響を及ぼすかもしれないと主張している。アメリカでさえ、民生用と軍事用の核施設の分離はインドにとってきわめて困難な課題であると認めている。

一部の批評家は、原子炉の輸入によりエネルギー需要に対応するというのは、エネルギー不安定と莫大な費用をもたらすだけであり、米印核協定の前提そのものに欠陥があると非難している。また、アメリカとこの協定を結ぶというこれほど重要な決定がなされている間、科学界は完全に蚊帳の外に置かれたという不満もある。インドの原子力省は、インドの民生用と軍事用核施設の分離に関する確かな計画の発表をしぶる態度を続けており、いまだに協定をよしとしていないように見える。インドの外相とアメリカの国防次官との最近の一連の会談は、失敗に終わっているが、これはひとえにインドの原子力省が国内の高速増殖炉を民生用リストにのせるのを躊躇したためであった。

インドでこうした議論が続いているもとで、インド政府がIAEAでアメリカのイランを批判する動議に賛成票を投じたことは、左翼政党を激怒させた。彼らは、同じ非同盟運動の一員である国を支持せず、彼らがアメリカの覇権主義的野望と威圧戦術としてみなしているものに反対しなかったと、インド政府を強く批判した。米印協定への反対は、インドの政治勢力の左右両派から表明されているが、協定の破棄を主張するものはほとんどいない。

インドの戦略界とメディアにかかわっている人々の大部分にとって、米印核協定はインドとアメリカのパートナーシップを確認するものだった。協定は、インドの核の孤立状態の終わりをしるし、世界秩序において高まりつつあるインドの立場への賛辞ともみなされ、ある種の高揚感を生み出している。インドの科学界は、アメリカの科学界との交流を始めており、高エネルギー原子物理学、原子力プラントの設計、建設、運転、安全性、延命と規制監督などの分野での米印協力を具体化している。

また、インドの核開発に精通している観察者たちにとっては、もしインドが国際協力を得ようとしなければ、インドの核開発計画は20〜30年のうちに徐々に行き詰る危険があるということも、明らかである。インドのウラン鉱は1万メガワット分しかなく、インドの核兵器開発計画は、その範囲内に制限されてしまうだろう。したがって、インドがグローバルな核の枠組みの一員となり、そこから利益を引き出すためには、米印協定にまさる希望はない。
インドにとって大変残念なことに、アメリカとの核協定を完成させるためのインドの努力において、問題を複雑化する要因として、イランの核問題が再び浮上している。イランは P-1型遠心分離機によるウラン濃縮計画の中止を検証する目的でIAEAが適用した封印を解除することを決定した。イランはP-1型遠心分離機の建設、研究、開発および試験をするためのすべての活動を進める計画である。ウラン濃縮活動は、発電と核兵器製造の両方の目的に利用可能なプロセスの一部である。これに対し、EU3カ国(イギリス、フランス、ドイツ)はアメリカとともに、2月2日にIAEAの緊急理事会を開催しイラン問題を国連安保理に付託するかどうかを議論するよう求めている。
またしても、インドは圧力をかけられている。IAEA理事会の決定の内容は、自らのアメリカとの核交渉に影響を及ぼす可能性があるからである。実際に、ディビッド・マルフォード駐印アメリカ大使は、インドがイラン問題の安保理付託に賛成票を投じなければ「破壊的な」影響を及ぼすことになる、アメリカ議会は「問題の検討をさっさと停止し」、このイニシアチブは「消滅」するだろうと、公然と警告した。インド政府がIAEAでのこれまでの投票パターンに準じるかのか、あるいは連立相手からかけられている国内圧力に屈するのかは、まだわからない。しかし、アメリカからのあからさまな警告は、インド政府にとって事態をいっそう混乱させる結果になっているかもしれない。

 

協定に対する世界の反応

 多くの人が驚いたことに、インドとアメリカの核合意は、一定の重要な国際的支持を得ている。IAEAのモハメド・エルバラダイ事務局長は、国内の民生用核施設を特定しIAEA保障措置の下に置くというインドの意思を歓迎し、協定は「IAEA保障措置の世界的適用に向けた具体的で実際的な措置」であると述べた。彼はまた、先端民生核技術をすべての国に入手可能にすることは、核の安全性と安全保障を高めることに貢献するだろうという考えも表明した。

協定に関して、パキスタンからはいかなる公式の反応もないが、アメリカのコンドリーザ・ライス国務長官は協定調印後まもなく、あえてパキスタンのペルベス・ムシャラフ大統領と話をし、彼の反応を「建設的」と評した。中国の最初の反応は、協定を無視することだった。しかし、アメリカが2005年10月のNSGの会合でインドへの核技術売却の解禁をもとめたとき、中国は米印核協定を間接的にではあったが、攻撃することを決めた。攻撃の先頭に立ったのは、中国の政府系メディアであった。中国の有力紙、人民日報は、世界的不拡散体制に大きな打撃を与えることになると主張し、協定を攻撃した。人民日報は、他の核供給国がアメリカをまねて、自分たちの同盟国に核技術を提供し支援するかもしれないと主張した。また、インドの核技術入手を阻止するという数十年来の政策を逆転させた、アメリカ政府の決定の裏にある動機に疑問を呈した。

それからまもなく、中国がパキスタンに6〜8基の原子炉を100億アメリカドルで売却することを決定したと、報道された。それは、アメリカ政府がえこひいきをするのであれば、中国も同じ権利を保有するという、アメリカに対するかなりあからさまなメッセージであった。中国の行動はインドに対しても、インドがアメリカとの戦略的パートナーシップを構築することで南アジアの大国という束縛から抜け出そうともがいても、中国が近隣の対抗国を強化し全力でインドを封じ込めるだろうということを伝えるものだった。

イランも、自国の核開発計画に対する国際的な圧力に対抗するために、米印核協定を攻撃した。イランの核交渉責任者、アリ・ラリジャニは、アメリカはインドの核兵器開発計画をよそに、核の分野でインドとの関係拡大を楽しんでいると述べながら、協定に言及した。彼はさらに、そのような「二重基準」は、世界の安全保障にとって有害であるとまで言った。

しかしインドはこうした議論にすばやく反論し、インドは常に国際条約や協定のもとでの自らの義務を遵守してきたと主張した。イランとは違い、インドはNPTに加盟していない。しかしイランは条約に署名しているのだから、透明性のあるやり方で自らの国際的責任を果たさければならないのだと。(http://www.pinr.com/report.php?ac=view_report&report_id=385「情報概要:イラン」参照。)

一方、他の重要な核プレイヤーが米印核協定の舞台に現れつつあるようである。イギリス、カナダ、フランス、ロシアはインドにおける今後の民生用原子力プロジェクトで大きな役割を果たしたがっている。インドがNSGとの問題の解決を続けているなか、こうした国々はインドの核エネルギー平和的利用計画に参加し貢献することを、望んでいる。こうした国々はみな、インドが米印核合意の実行に向けて努力することを期待している。

事実、つい2004年まで、インド・ロシア間のすばらしい二国間関係にもかかわらず、ロシア政府はNSGのルールを引き合いに出して、タラプール原発用の濃縮ウランの提供をインドに一切認めなかった。また、クーダンクラム原発プロジェクトのために1000メガワット原子炉2基を追加してほしいとのインドの要請も、拒否した。しかし新しい米印核協定を受けて、ロシアは、インドの最新の原子力発電技術習得を支援するために、準備万端整えている。ロシアはまた、他のNSG加盟国を刺激するのを嫌ってやめていた、アクラ級原子力潜水艦2隻の貸与にふみきることを決定した。

アメリカの支援により、EU、ロシア、韓国、中国、日本を含むITERプロジェクトのメンバー国は、インドを加盟させる決定にいたった。

結び

米印核協定が、2006年3月初めに予定されているアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領のインド訪問までに実を結ぶことはほとんど望み薄だが、それまでに大部分の問題が整理されているだろうと見込まれている。インドでは、さまざまな異論はあっても、アメリカとの核協定にたいする広範な支持がある。これ自体が事態の進展なのである。過去の言動とは異なって、不履行によって反米の立場をとりたくないというエリート層の気持ちを反映しているからだ。

アメリカ国内での拡散に反対するロビー活動が、引き続き米印核協定の批准への最大の障害だが、ブッシュ政権は議会の協定承認を確実にするためにあらゆる手を尽くしているようだ。核保有国は常に、自分たちの核拡散に関する責務より、戦略的利益を優先させてきた。ブッシュ政権は、インドが主要な世界大国として台頭することがアメリカの戦略的利益にかなっていると信じており、インドのその目標達成を助けるために、最善を尽くすという立場を表明しているのである。

*ハーシュ・V・パント博士は、ロンドンのキングス・カレッジ防衛研究学部の講師。ノートルダム大学で博士号、インドのジャワハルラル・ネルー大学で修士号を取得。研究の関心分野は大量破壊兵器の拡散、アメリカの外交政策、アジア太平洋の安全保障問題など。この記事は、2006年1月27日のパワー・アンド・インタレスト・ニューズ・レポート(PINR)に掲載された。

(Znet電子版 2006年1月31日付けより)

 

編集者注:その後、南アジアを歴訪したブッシュ大統領は、2006年3月2日、インドのシン首相との間で、民生用原子力エネルギー開発への協力に関する最終合意を表明。2005年7月の基本合意の内容についての諸条件を確定した。インドは、●22カ所の核関連施設のうち民生用の14カ所でIAEAの査察を受け入れる(現在査察を受け入れているのは4カ所)、●インドが建設する民生用核施設はすべて査察対象とする、●インドとIAEAは恒久的な査察体制の協議に入る、●米国はインドに原子力技術や核燃料を供与する、●協定発効には米議会のほか日本を含む原子力供給国グループ(NSG)の合意が必要、という内容(4月7日付日経新聞)。現在、米国議会で、この協定の承認をめぐる審議が行われている。

核兵器廃絶と核拡散問題:

核兵器の管理

ジア・ミアン

いまアメリカ合衆国は、イランが核兵器製造能力を獲得するのを阻止しようとしている。これは、どの国が核兵器を入手できるかを自ら管理しようとするアメリカが60年来続けてきた果てしない闘争の直近の事例にすぎない。今回の問題で、アメリカは、核武装した超大国として、解決に関わろうとしている問題の原因が、実は自分にもあることを理解していない。古代ローマの哲学者で政治家でもあったセネカは、およそ2000年前にこう説いた。「生と死を支配する力におごるなかれ。彼らが汝について恐れているものがなんであるにせよ、汝もまたそれに脅かされることになるだろう」。

アメリカは原子爆弾を作った最初の国である。また、それを戦争で使用した唯一の国でもある。核の巨大な威力を知ったアメリカは、原子爆弾を作る前からすでに、どのようにして核を独占するかを検討したほどである。原爆プロジェクトの責任者だったレスリー・グローブスは、1943年にこう提唱している。「合衆国は、存在が判明している世界中のウラン全てを完全に管理し、核兵器を作る基礎的な物質を他国が入手できないようにすべきである。」

原爆を製造し、使用したアメリカは、「勝利を決する武器」とよばれた核兵器を保持するために独占と排除の政策をとった。当初、アメリカは、大戦中に最も緊密な同盟国であったイギリスにたいして、核兵器を取得するための協力を拒否した。それでもイギリスはあきらめることなく、自分で核兵器を作り出した。

 最初の「拡散」の恐れは、これまた戦争でアメリカの同盟国であったソ連だった。1947年、アメリカ国内ではソ連の台頭を阻止し、核兵器を取得させないために、同国へ核使用を含む先制攻撃を加えるかどうかの論争があった。アメリカの戦争立案者らは「他国が核兵器を製造する、あるいはたんに核分裂物質を調達しただけでも、攻撃を加える根拠となりうる」という方針をとるべきだと主張した。アメリカは、フランスの核兵器開発計画にも手を貸さなかったが、1950年初頭に同国が核武装に踏み出すことを阻止することもしなかった。しかし、その10年後、中国が核開発に乗り出したときには、全く違う態度をとった。

 アメリカは、中国が核兵器獲得の寸前にあると思われていた時期、同国を攻撃することを検討した。1963年4月、米軍統合参謀本部は、通常兵器による空爆から戦術核攻撃までを視野に入れた中国の核施設への攻撃計画を立てた。また、米国務省は1964年にも同様の研究をおこなっている。そこで提唱された選択肢には、制裁、潜入、破壊活動、妨害活動、侵略も含まれていた。

 

不拡散の理論

これらの政策の背景にある考え方は、核兵器の国際政治への影響に関するアメリカの初期の研究に記述されている。1956年に発表されたこの研究は、問題は、「同レベルにある通常の対抗国」がこれらの「絶対的な武器」を取得することだけではなく、「力関係では低いところに位置する国までもが原子爆弾を入手して、大国と小国の全体的な関係を変えてしまう可能性」であると主張している。アメリカが拡散防止へと考えを転換したのは、そのような可能性を排除するためであった。

 核兵器不拡散条約(NPT)の歴史研究者であるピーター・クラウセンは、米国にとって、この構想を実行するタイミングは、同国の干渉政策と地球規模の利益の追求と関連していたと指摘している。彼は著書の中でこう述べている。「NPT交渉開始の時期が、アメリカの戦後の地球規模での行動が最も活発であった時期と一致していたのは偶然ではない。アメリカの死活的利益がかかっている地域に核兵器が拡散することは、封じ込め政策にたいするリスクを増大させるばかりか、その地域にアメリカが立ち入る権利を脅かすかもしれなかった」。

 ソ連もまた、核不拡散には独自の関心を持っていた。それは、アメリカがNATOの同盟、とりわけ西ドイツと核兵器を共有するのではないかという懸念、核保有国としての中国の台頭、および(アメリカにとってと同様)今後、介入する可能性のある地域で起こりうる脅威を制限する必要性などから生じたものであった。これらの懸念には、十分な根拠があった。アメリカがすでに1960年代後半に、数千発の核弾頭とその部品をカナダ、キューバ、グリーンランド、アイスランド、日本、モロッコ、フィリピン、プエルトリコ、韓国、スペイン、台湾、ベルギー、ギリシャ、イタリア、オランダ、トルコ、英国、および西ドイツに配備していたからである。

 他国が核兵器を絶対に作らないと約束した見返りに、当時の核保有国は誠意をもって核軍縮について交渉を続けると約束した。しかし、それは皮肉な約束としか言いようがなかった。あるアメリカ側の交渉者は、交渉を続けることは軍縮合意の達成を意味しない、なぜなら「このような交渉の正確な性質と結果を予測することは明らかに不可能」だからであると述べている。軍備管理・軍縮分野における経験豊富な国連の役人であるビル・エプスタインは、当時、アメリカ側交渉者の一人が、「NPTは現代における最大の信用詐欺の一つだ」と内輪で打明けたと語っている。

 それから35年後のいま、核軍縮の見通しは暗い。実際、アメリカは、保有する全核兵器およびそれら兵器を作るためのインフラの近代化に乗り出している。他の核保有国が米国の後に続くであろうことは言うまでもない。しかし核保有国はこぞって、他国にはNPTに従えと言う。インドとパキスタンは、NPT体制の外にとどまりながら、いまや他の核保有国と同じ核の理論を唱えるようになった。「われわれは核兵器を持っているし、持ち続ける。お前はダメだ」という理論である。

 イラク、北朝鮮そして現在のイランによる不道徳でおろかな核への野望をめぐる危機は、たんにNPT条約の欠陥だけでなく、条約を運営するメカニズムの欠陥をも露呈させている。NPTは、非核保有国に核ネルギー開発を奨励している。事実、これらの国々に、この高価で危険な技術を利用する「不可譲の権利」を与えている。同時に、条約はこの技術が核兵器開発計画に不可欠であることも認めて、そのような目的に使われることを防止しようとしているのだ。これほど完全な矛盾はないであろう。

 NPTは、国際原子力機関(IAEA)とその理事会に、非核保有国における核プログラムの取り締まりを担当する査察官としての特別な役割を与えている。IAEAを運営するのは理事会であり、そのメンバーは、核保有国が常任メンバーとなるようなやり方で決定されている。これが、最近、イラン問題を国連安全保障理事会に付託することを票決した機関の実体である。

IAEAの弱点

 IAEAの歴史は、IAEAがアメリカの断固とした権力の行使にたいしては脆いことを明らかに物語っている。その最も端的な例は、1981年、イラクのオシラク原子炉へのイスラエルによる攻撃に続く一連の出来事だろう。IAEA事務局長と理事会は、イスラエルによるこの攻撃を激しく非難し、IAEA総会にイスラエルの権利と特権の行使の停止を検討するように要請した。しかし総会は、イスラエルに提供していたすべての技術支援を停止しただけで、それ以上の措置を講じようとしなかった。

 翌年、IAEA総会は、イスラエルの会議参加を拒否する決議を審議した。いざイスラエルに不利な票決結果が出ると、米国はやり直しを要求した。この要求も否決されると、IAEAに残る記録によると、「イギリスとアメリカの代表団は、会議場から出て行った。そのすぐ後に他のほとんどの西側諸国の代表団が続いた。総会からの退場に先立って、アメリカ代表は、「アメリカ政府は、IAEAとその活動への支援および参加に関する政策を見直すだろうと通告した」とある。要するに、米国はIAEAを脱退するか、少なくともIAEAの機能を著しく損なうおうとしたのだ。

 IAEAの歴史からさらに見えてくるのは、米国がこれまでIAEAの予算と技術支援プログラムへの最大の出資国であり、今でもそうであるということである。したがって、それから数ヶ月後に、IAEA事務局長と理事会が、イスラエルはIAEAの完全な加盟国であることに変わりはないと宣言し、米国がIAEAとの関係を再開したからといって、誰も驚くことはなかった。

 イスラエルは、五大核保有国以外では最大で最もうまくいった核兵器計画を持つ国である。イスラエルは、未だNPTに調印していない。そして、少なくとも百、いや、おそらくは数百の核兵器備蓄を保持していると言われている。さらには、射程4,000キロメートルの弾道ミサイル(ジェリコ2)、核兵器搭載可能な航空機、および潜水艦発射の核巡航ミサイルも保有しているとも言われている。アメリカは軍事、経済、政治において持続的にイスラエルを支援しているが、それとは対照的に、イラクにたいしては、軍備管理に関する諸合意と国連決議に従うよう圧力をかけるため、制裁と武力行使をためらわなかった。それが高じたのが2003年のイラク侵攻とその後の占領である。

 2005年初め、ワシントン・ポスト紙は、米国は、1年近くも「核兵器計画の証拠探しとイラクの防空態勢の弱点を発見するために」イラク上空に無人偵察機を飛ばしていたことを報じ、こう書いている。「空中スパイ行為は、空爆前の軍事的準備においては標準的な行動であり、また威嚇の道具としても利用されるものである」。アシュトン・カーター元米国防次官補は、2005年12月に、イランの核計画をやめさせる秘密作戦がすでに進行中でないとすれば「驚くし、失望するだろう」と述べている。

 このような方法では、核拡散は、せいぜいその速度を遅らせることができるだけである。武力行使は、自分たちも核兵器を持つほうが安全だと、他国に思わせるだろう。これは、破滅に向かう道である。

 これに代わる協力と合意による核兵器不拡散も、アメリカが核兵器を保有し、改良することに固執し、同盟国に核兵器保有を認めている限りは成功することはない。どんな主張をもってすれば、他の国々に核兵器の保有を諦めるよう、もしくは獲得しないように説得することができるというのか?唯一の希望は、全ての核兵器はもともと等しく悪であり、そのような大量破壊兵器は世界のどこにも存在する余地はないと相互に認識することにある。

*ジア・ミアンはパキスタン人の物理学者で、プリンストン大学公共国際関係学部(ウッドローウィルソンスクール)で科学的地球規模安全保障について講義し、Foreign Policy In Focus (www.fpif.org)にしばしば寄稿している。本報告はEconomic and Political Weekly の2006年2月11日号掲載論文を若干手直したものである。

(Foreign Policy In Focus−FPIF 解説 2006年4月4日付けより)

 

 

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