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NGO軍縮委員会パネル討論会

2000年NPT再検討会議の後追い:
核兵器システムの運用上の地位をさらに引下げる具体的措置と
核兵器廃絶実現に向けた「明確な約束」に焦点をあてる

2000年10月 

 (2000年国連軍縮週間にあたり、10月18日、国連本部において、NGO軍縮委員会が国連軍縮局、広報局と共催したパネル討論会の記録)

パネリスト:
 ジョナサン・シェル:"Gift of Time"(邦題:『核のボタンに手をかけた男たち』)著者・ジャーナリスト
 ロバート・グレイ:アメリカ軍縮大使
 ブルース・ブレア:国防情報センター(ワシントン)所長
 登誠一郎:日本軍縮大使
 ヘンリク・サランダー:スウェーデン軍縮大使
 イアン・スーター:イギリス軍縮大使
 ユベール・ド・ラ・フォルテル:フランス軍縮大使
司会:
 ダグラス・ローチ:カナダ上院議員

ダグラス・ローチ(カナダ上院議員)

 NGO軍縮委員会が軍縮週間におこなう一連の記念行事の一環として開催したこの重要なパネル討論会への参加に感謝します。私はカナダの上院議員ダグ・ローチで、以前カナダの軍縮大使を務め、現在は中堅国イニシアチブ(MPI)の議長をしています。この討論会の議長を務めることを光栄に思います。この討論会のテーマは、2000年NPT再検討会議の後追いです。再検討会議は、NPTに加盟する187カ国すべてが全会一致で核兵器廃絶に取り組むことを明確に宣言し、さらに、それに向けて、13の段階からなる行動計画を打ち出すという重要な前進をつくった会議でした。今朝、私たちは、これらについてより詳しく議論します。
 はじめに私からパネリストを紹介し、パネリストからそれぞれの意見を述べていただくことで、討論を始めたいと思います。その後、会場の参加者を含めた全体討論に移ることとします。時間を節約するため、パネリストを手短かに紹介します。いずれも著名な方々であるため、それにふさわしい十分な紹介をするには時間がかかります。ですからお許しを頂きまして、紹介は短縮し、発言される順番でさせていただきます。
 まずジョナサン・シェルさんです。シェルさんの、『地球の運命(The Fate of the Earth)』や『核のボタンに手をかけた男たち(The Gift of Time)』といった核兵器に関する著作は多大な貢献をしています。また、この討論会には、「ネーション」誌の平和研究員の肩書きでも参加しています。次は、アメリカのロバート・グレイ軍縮大使で、1997年にクリントン大統領から、軍縮会議のアメリカ代表に任命されました。グレイ大使は、アメリカ国務省の国連改革チームを率いてこられ、1994年から1995年まで、外交委員会の上級委員を務められました。次は、国防情報センター所長のブルース・ブレアさんで、現職に就かれる前は、ブルッキングス研究所で外交政策研究プログラムを担当する上級研究員でした。また、かつて米軍のミサイル管理担当官で、現在ではマッカサー・フェローです。
 ブレアさんに続いて発言されるのは、ジュネーブの軍縮会議の日本代表である登誠一郎軍縮大使、そしてスウェーデンのヘンリク・サランダー軍縮大使です。サランダー大使は、ジュネーブ軍縮会議の常駐代表で、スウェーデン国連代表部の代表を5年間務められたこともあります。その他にも、予定されている発言者がいますが、到着され次第適宜ご紹介します。それではジョナサン・シェルさん、お願いします。

ジョナサン・シェル(ジャーナリスト)

 一介の市民として、というより最近、私たちが自負して使うようになった言い方をすれば、市民社会の一員としてこの会議に参加し、みなさんの前で各国政府の大使の方々と話し合え大変光栄です。ほんの5年前、あるいは10年前までは、このような会議が開かれることすらありませんでしたので、このように政府代表と市民社会が交われる機会がもてることは、大きな希望を与えてくれます。参加でき本当に嬉しく、NGO軍縮委員会と国連軍縮局に感謝しております。
 最近開かれたNPT会議で合意された声明にテーマを絞って、この点についての考えをお話します。この合意が重要なのは、ローチ大使がふれられたように、核兵器保有5カ国が明確に核兵器廃絶にたいする約束をしたことにあります。まず、これは今までなかったことでだと思います。また、その語調も強くなっています。これは非常に積極的な出来事であり、これに加えて同じような性格の出来事も起こっています。アメリカのマデレーン・オルブライト国務長官も、「新しい千年紀を迎えるにあたり、われわれは核兵器のない世界を実現することを、新たに誓約すべきである。アメリカ合衆国はこの目標をこれまで同様に維持しており、その究極的な達成に向けて不断の努力を続けるだろう」と述べています。
 私の考えでは、この種の声明には良い点が二つあります。ひとつは、これが、核保有国の官僚の一部に、核兵器廃絶を検討しようとする、あるいは核兵器廃絶を求める声に耳を傾けようとする、本物の意志が多少あることの表われであるかもしれないということです。そればかりか、こんご数年のあいだにも、これら一部の官僚の声が、ひとつあるいは複数の核保有国において、多数派となることさえありえます。もうひとつは、私たちのような、政府の外側にいて核廃絶を支持しているものたちにとって、この宣言は、核保有国に核廃絶の目標を守らせるために使える、ある種の標準あるいは基準として、はかりしれない価値をもっているということです。私は、単に美辞麗句を並ベただけの政府の声明であっても、それを無駄なものとして無視することはしません。たとえば、1970年代のヘルシンキ合意で扱われた人権擁護に関する諸合意を、ソ連が順守すると約束したことがあります。合意後の歴史がむしろ意外な形で証明したように、この約束は、その後、人権活動家が利用できる強力な道具となりました。簡単に言えば、この「明確な約束」は、政府の外にいる私たちがいかにこの約束を重要なものとするかで、価値を高めていくかもしれないのです。
 しかし同時に、私自身、この宣言が、いずれの核保有国の現実の政策を反映しているなどと一瞬たりとも信じたことはないと認めなければなりません。しかも、実際上の状況においてなされた他の声明は、どれもこの約束と大きく矛盾しています。一例として、ローチ大使の優れた論文を引用させていただきます。「ウイリアム・コーエン米国防長官は、大統領および議会に提出した2000年度報告で次のように述べた。『核戦力はアメリカの安全保障の不可欠な要素であり、不透明な将来にたいする防衛策として、また同盟国にたいするアメリカの誓約の保証として役立っている。したがって、アメリカは、十分な規模と種類の戦略核戦力を存続させ、ならびにNATOへの戦域核兵器配備、および核兵器を入手できる潜在的な敵対国の指導者を抑止または思いとどまらせるため、潜水艦への巡航ミサイル配備能力を維持しなければならない』」。
 この主張は、ジョン・ヘームリ前国防副長官がオファット空軍基地でおこなった演説でもう少し簡潔に現れています。ヘームリ氏は、「核兵器は超大国の基礎であり、それは決して変わることはない」と述べています。
 これらの声明は、戦略核兵器削減交渉(START)においてロシアが戦略核兵器を1,500発まで削減する用意があったにもかかわらず、アメリカが2,500発以下にはしたがらなかったことにより、実際上の力を持つようになりました。最近開かれた上院での公聴会で、統合参謀本部が、2,500発以下への削減に不快感あるいは不安感を再度表明し、これが、ゼロへと向かうことにたいするアメリカの意志にある種の歯止めをかけました。しかし、この委員会の上院議員たち、なかでもカール・レヴィン上院議員は、統合参謀本部を追求するなかで、現行の文民指針(シビリアン・ガイダンス)を満たすために、2,500発以下という数字は達成する必要があるものであるという発言を引きだそうとしました。もし新たな文民指針が出されたなら、さらにこの下まで削減し、もしかしたらゼロまで行くという可能性に結論は出されませんでした。実際には、アメリカ国内でも統合参謀本部の退役した同僚たち、また世界でも、多くの退役軍人、将軍、提督が、核兵器廃絶を支持しており、ここにもまた希望の光を見ることができます。
 アメリカにおける現実の話なので、二人の主要な大統領候補者についてもふれておかなければなりません。アル・ゴアは、私の知る限り、クリントンの政策とたいして変わらない政策をかかげており、特にここで問題にしている2,500という数字に関してはまったく同じです。一方、ブッシュはもう少し興味ある政策をかかげています。ブッシュは、いくつか非常に偏見のないコメントをしています。彼は、「東西双方の大量の核兵器保有につながった冷戦理論は、いまや時代遅れだ。われわれの相互安全保障は、もはや恐怖の均衡に依拠する必要はない」と言い、可能な限り低い数まで削減することを主張しています。しかし、その可能な限り低い数がゼロであるとは言いませんでした。それと同時に、核兵器の抑制や削減とは逆行する、非常に大がかりなミサイル防衛を主張しています。ここでも、私は希望のある可能性を除外するつもりはありません。また、二人の候補のいずれかが、「明確な約束」において表明された考えを受入れるかもしれません。ただ、私たちには、まだその兆候がまだ見えていないだけです。
 これから主要な論点に入ります。一方では、ここ国連や他の場所で、廃絶こそ本当の目標であることに言質が与えられています。つまり、核廃絶支持者に向けて、やきもきするな、われわれはすでに君たちの目標に向かって進んでいるのだというメッセージが送られているのです。
 しかし他方では、これら運用面でなされる声明からは、われわれは核兵器に依拠していて、それは決して変わらないというメッセージが伝わってきます。つまり、戦略は変わらないのだから、われわれを困らすな、君たちは不可能なことを要求しているのだ、というメッセージです。このように、一方では核兵器廃絶が進んでいて、他方ではそれは不可能なのです。この対話、そして官僚内部自身の対話で欠けていることこそは私たちが本当に必要としているものです。それは、廃絶の真の利点、その代償、障害、核兵器をどのようになくしていくのかについて、政府の内外で、十分で、開かれた話し合いをするということです。これらは巨大で中身の濃い問題であり、答えはそう簡単ではありません。ここで私が何を言わんとしているか、二つの例をあげて説明します。ここでは、核兵器廃絶を弁護しようとはせずに、必ず生じてくる問題、まだ議論されていない問題が何かを明らかにしたいと思います。核兵器への固執を支持する議論に、私なりの反論を試みようと思います。
 まず、アメリカだけでなく他の核保有国でも、核兵器の有効性や利点についての確信は大きくなってきています。これは、もちろん、現代を支配している戦略ドクトリンである核抑止論の教義です。抑止論者は、冷戦時代、核による第三次世界大戦からわれわれを救ったのは核兵器であったと心から信じています。また、彼らの多くは、核兵器を持ち続ければ、将来も、世界は戦争から救われるだろうと信じています。彼らは、核兵器をなくせば、再び戦争が起こると信じています。一言で言えば、核抑止こそが平和を維持しており、核廃絶は平和を破壊するということです。
 これにたいする私の答えは、そのような理論は、核のジレンマの根本的性質を読み違えているというものです。核の危険または核の抑止、これは実際には表裏一体のものですが、これらのいずれかが、つまるところ核弾頭から生じていると考えることが間違っていると思います。そうではないのです。繰り返しますが、ここでは、あくまである理論の概要を述べています。核の危険は、20世紀に発展し、核弾頭の製造を可能にした、物理学の基本的知識そのものに根ざしています。核弾頭をなくしても、その設計図は残ります。要するに、核兵器廃絶は、20世紀前半に起きたような世界大戦の再来の可能性を絶つことはできないのです。なぜなら、核兵器のノウハウは今後もつねに残り、誰でもそれを知ることができるからです。核兵器の発明は実に、戦争の性格を大きく変えました。核兵器の廃絶は、この決定的な事実を覆すことはできないし、実際に覆さないでしょう。しかし、核兵器が廃絶されれば、世界大戦の性格が根本的に変化した状況のなか、私たちは、核による皆殺しの脅威に日常的にさらされることなく生きることができるのです。
 もうひとつの論点は、合意が守られているか否かの検証は不可能だと言われているということです。これは二つに分けられます。一方で、核兵器を製造している施設を査察しなければなりません。これは比較的容易であると考えられています。なぜなら核製造施設は大規模であり、その存在を示す証拠を多数入手できるので、真に踏み込んだ査察方法があれば発見できる信頼性が高いからです。他方、どこかの洞窟に隠されている核兵器貯蔵庫などは、発見はそう簡単ではありません。こうした施設ではなく、核爆弾だけを貯蔵する場所の発見は、はるかに難しいと言われており、私もそう思います。そのような隠匿場所の発見は不可能とさえも言われています。これが、多くの観測者から、廃絶のアキレス腱と考えられている問題です。  
 また、あくまでたとえですが、核兵器が砂漠に埋蔵されていたら、事は簡単だったでしょう。しかし、実際はそうではありません。なぜなら、兵器は隠匿されていたとしても維持管理が必要だからです。何よりも、政治的な監視体制、戦略、政治指導者との軍部とのあいだに明確で間違いが生じない連絡系統が必要です。こうした体制は数百名の要員を必要とします。さらに、人間は仕事を変えたり、退職したり、死亡するので、新しい要員を採用しなければなりませんし、何よりも、政権が代ることもあり、それによって、核兵器を管理していた要員全体を入れ替えなければならなくなります。つまり、隠匿された兵器には、その一発一発につきその内情に通じた多種多様の人間が増え、しかも彼らが密告者になる可能性につきまとわれることになるということです。
 これが単に理論上の話だと思われる方は、近くの本屋をのぞいて見てください。サダム・フセインの原爆製造責任者であるキディール・ハムザの本が置いてあると思います。この本には、一般の読者向けに、原爆製造計画が詳しく書かれています。言い換えれば、核兵器がなくなった世界は、極秘に保管された核兵器を閉じ込めた圧力鍋のようなもので、隠匿された核兵器は遅かれ早かれ、圧力鍋から出る蒸気のように放出されてしまうのです。一言で言えば、核兵器のなくなった世界では、時間が査察や透明性に味方するのです。
 以上は、核兵器廃絶の提起、明確な約束から生じるであろう、非常に実践的で困難な、技術的、道徳的、軍事的な数多くの問題のうちの二つにすぎません。私はこれらを、まだ議論されていない問題の例としてあげました。こうした問題は、私の知る限り、アメリカでは議論されていませんし、他の核保有国でも議論されていないと思います。この非常に難しい議論にすぐに決着がつくとは期待していませんが、この議論がはじまった時こそ、核保有国が彼らの言う核兵器廃絶に向けた明確な約束に真剣になりはじめた時だということがわかるでしょう。

ロバート・グレイ(アメリカ軍縮大使)

 NPT再検討会議で採択された最終文書は、歴史的な文書でした。なぜなら、NPT再検討会議が、文字どおり全会一致で、包括的で実のある文書を生み出したのは、今回がはじめてだからです。この最終文書は、実質的に、将来の現実的道筋を描いていますが、どの妥協の産物でもそうであるように、部分によって、その文章の意味するところは、政府によって解釈が違っています。実のところ、NPT加盟国は、非常に多くの場合、異なる見解をまとめるため、微妙で、時にはあいまいな言い回しを考え出さねばなりませんでした。しかし、それでも、最終文書は、NPTに関わるすべての主要な本質的問題について、加盟国が前進すべき方向性を明確に示しています。今後、加盟国は、実際にこの方向へ前進するための政策を実施しなければなりません。
 すべての国がNPTを順守すべきだという主張はまだ強くあります。加盟国は、5カ国だけを核保有国として認めた条約の規定について、譲歩しないことをはっきりと表明しました。NPTのもと、インドもパキスタンも核保有国の地位を得ることはないでしょうし、NPT加盟国の側も、核実験をやったからといって、インドやパキスタンになんらかの特別な国際的地位を与えるべきだとは考えていません。NPT会議は、両国の核実験を批判し、両国にたいし、1998年6月の安全保障理事会の第1172号決議の措置をとるよう強く求めました。NPTの順守が、今回の会議の主要なテーマでした。NPT加盟国は、この主要原則を、国際原子力機関(IAEA)の実効力ある安全保障措置や、原則の順守を拒否する国に対処する現行の努力を支持するなど、いくつかの方法で追求することができます。
 NPT条約第6条は、今日の主要テーマですが、これに関してすべての国が、全会一致の文書をつくるため大幅な妥協をしました。この達成された合意は、いくつかの点から注目すべきものです。この合意は、ほどよくバランスがとれており、これまでの到達点に留意したうえで、さらなる前進が必要であることを明らかにしました。核保有国は、軍縮にあたっては、最終目標ではなく、そこに至るまでの段階的措置の積み重ねに焦点を絞るべきだと長年主張していました。新アジェンダ連合がNPT再検討会議で提出した諸提案は、最終文書の第6条についての部分を起草するための交渉の中心的なたたき台でしたが、この諸提案は、何よりも実践的な措置に焦点を絞ることで、核保有国のこの主張を認めました。
 再検討会議が打ち出した将来の計画は、交渉された措置に大きな重点を置いています。たとえば、核爆発にたいするモラトリアム(一時停止)を続け、できるだけ速やかに包括的核実験禁止条約(CTBT)を発効させることに強い支持が寄せられました。START過程のもとさらに核兵器を削減すること、また弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約を存続させ、効力を保つことで維持・強化することが承認されました。また、核軍縮に関する最大のテーマのなかでも、特に核分裂物質カットオフ条約締結に向けて、ジュネーブの軍縮会議で交渉を開始する重要性が強調されました。しかし、今回だされた将来の計画には、1995年の原則と目標に関する決定に明記されているものよりはるか遠くを展望し、核兵器削減の不可逆性、透明性、核兵器の役割の削減、非戦略核兵器のさらなる削減などの措置までも含まれています。さらに、再検討会議が、検証に関するイギリスのイニシアチブを歓迎したことも重要です。これによって、NPT加盟国は、非核の世界を実現するためには、検証能力の開発が必要であることを初めて認めました。
 それでは、今日の議題にのぼっている二つのテーマについて手短かに話します。みなさんのほとんどがご存知でしょうが、「核兵器システムの運用上の地位をさらに引下げるための、具体的な合意された措置」という部分は、妥協の結果作られた表現です。私の記憶では、どの核保有国も、ピアーソン大使の提出した初期の作業文書案にあった、警戒態勢の全面解除と核弾頭を運搬手段から外すという表現を受入れることはできませんでした。したがって、最終的な表現は、一連の代替提案や交渉をつうじて出てきたものです。アメリカは、警戒態勢解除に関するものを含め、出された提案をすべて、それが戦略的安定にどの程度貢献するかに基づいて評価しました。私たちは、全面的警戒態勢解除のような提案でも、それが戦略的安定を損なうのではなく、前進させるようなやり方で実行できるなら、反対するものではありません。実際、私たちは大型爆撃機の警戒態勢を解除しましたし、洋上の艦船や多目的潜水艦から核兵器を撤去しました。非戦略核兵器の大半は、アメリカ国内に撤収され、解体されつつあります。START Iにしたがって廃棄されることになっているアメリカの大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)は、予定より前に不活性化されています。アメリカとロシアは、START IIが発効すれば、この条約によって廃棄されるべきシステムを、早期に不活性化することに努めると合意しました。NATOの核戦力もまた、警戒態勢を解除し、解体されています。
 しかし、NPT再検討会議でアメリカの上級専門家が説明したように、私たちは、大量の弾頭を運搬手段から取り外すことを含め、その他の提案を検討しましたが、その結果、これらの提案は戦略的安定を損なうとの結論に至りました。検討した主要な措置案の中に検証措置があり、これは、ある措置が核兵器の急な発射という試みの危険性を実際に削減できるかどうか、まは、ある措置が危機的状況の安定化にどのような影響をおよぼすかなどを検討しました。私たちは、ロシアと協力し、解体提案の主要目的である、事故または誤ったミサイル警報による誤算から起こりかねない核戦争を防止する方法を検討しています。
 この6月、米ロ両国の大統領は、早期警報システムの確立に向け、データ交換を目的とする共同データ交換センターをモスクワに設置する覚書に調印しました。両国は、センターを2001年半ばに発足させるよう努めることになっています。
 「明確な約束」という表現はもともと、新アジェンダ連合の提案から生まれたものです。新アジェンダ連合は、核保有国にたいし、第6条の核軍縮に関する部分が、すべての核兵器の廃絶を目標としているということを再度確認するよう求めたのです。あるいは、新アジェンダ連合を代表して、明確な約束について発言したメキシコのデ・イカサ大使が述べたように、「この文書は、NPT第6条に関して、つねに暗示されてきたことを、明示したもの」です。アメリカは、核軍縮と全面完全軍縮に向けて取り組むという第6条の義務をつねに受入れてきました。それは、実効的な核軍備管理は、アメリカと世界の安全保障を強化するという確信に基づくものです。もちろん、この第6条の義務は、核保有国だけでなく、すべてのNPT加盟国が実行しなければならないものです。
 再検討会議が5月6日に閉会してから、すでに第6条に関連する行動がいくつかはじまっています。さきに述べた米ロ共同データ交換センター設置に加え、クリントン大統領とプーチン大統領は、この間、3回の会談をおこない、両国間の信頼を強化し、戦略的安定を強化する合意措置をさらに進めるために、戦略的安定に向けた協力構想に合意しました。この取り組みは、既存の措置の拡大と新しい措置の両方を含むことになるかもしれません。米ロ両国大統領は、核兵器をさらに削減することの重要性を強調し、ABM条約が攻撃戦力の削減に不可欠であること、また戦略的安定のかなめ石としてABM条約を維持・強化していくことに合意しました。また、両国はCTBTを早期に発効させ、効果的に実施することを保証するよう努力することになっています。さらに、透明性を強化するため、両国はCTBT発効後、その実施を促進する技術交流を進める努力をすることになっています。
この6月、両国大統領は、それぞれの核兵器から取り出され、防衛目的には過剰であるとされた兵器級プルトニウムの管理と処分についての二国間合意が完了したことを発表しました。この合意は、ゴア副大統領とカシヤノフ首相により調印され、9月1日に発効しています。この合意は、各国それぞれ34トン、合計68トンのプルトニウムを、核兵器に再利用できない方法で処分することを定めたもので、核兵器削減の不可逆性を保証することに役立つでしょう。
 今後、アメリカが最終文書で打ち出された核軍縮計画を進める努力をすることに疑いはありませんが、注意することがひとつあります。冷戦が終ってから、アメリカは第6条に関して、非常に意欲的な措置を追求してきました。しかし、アメリカだけではどうしようもないものを含め、いくつかの要因によって、期待されたほどの速やかな前進は見られていません。核兵器削減は、一方的なものであれ、交渉によるものであれ、自然には進みません。軍備管理の分野の外にある、国内要因や国際的な情勢が前進を妨げることもあります。これが現実です。
 核兵器廃絶の達成は、簡単でもなければ、速やかに進むものでもありません。核軍縮という目標を考えると、気長に構えるのは難しいことですが、辛抱強く取り組むことが必要です。より早い進展を求める人の最善の策は、高い期待を持ち続け、意味のある結果を追求することであり、不完全な世界で完璧性を求めることではありません。

ブルース・ブレア(国防情報センター)

 私はグレイ大使のご意見をそれなりに尊重するものですが、私たちがいま、この世界に必要としているのは辛抱強さではなく、リーダーシップであると思います。ワシントンをはじめ世界各国の指導者たちの、廃絶に向けた真剣な明確な約束の第一歩は、核兵器を世界的に警戒態勢から解除すること、すべての核兵器の高レベルでの実戦配備態勢を解除し、数千発が直ちに発射される状態をなくすことであり、それは可能であると思います。ミサイルから弾頭を取り外し、貯蔵庫に収納するといった警戒態勢解除措置は、現在、数分しかかからない発射準備に要する時間を、大幅に引き延ばし、数日、数週間、数カ月、あるいは数年まででも延長することになります。これは、正しい方向への大きな一歩となり、核不拡散条約第6条で私たちに課されている義務を果たすことに役立つ、核兵器の地位の引下げとなるものです。
また、これは核戦力が冷戦時代と同様に運用されている現状から、大きく前進することになるでしょう。みなさん全員がご存知のように、特にロシアとアメリカは、冷戦が終っていないかのように、あたかも周到、冷血に準備された大規模な核攻撃がいつ起こるかしれないかのように核兵器を操作しています。米ロ両国は、大規模な核戦争を遂行する計画を依然として進めています。
 これは疑問の余地がありません。アメリカ国内にある基地のいくつかを見回せば十分わかります。私は最近、ネブラスカ州オマハへ行き、ロシアの北部国境の偵察飛行から帰還したばかりの偵察機の乗組員の一人と話しをしました。彼らは、大規模な核戦争が起きた際、アメリカの爆撃機がロシア上空に侵入し、核兵器を投下できるような、ロシアの対空防衛レーダー網の抜け穴を探すために情報収集に行ってきたのです。
 アメリカの戦略爆撃機は、グレイ大使も指摘されたように、もはや警戒態勢にあるわけではありません。警戒態勢は解除されました。しかし、年に4回、彼らは核戦争を想定した演習をしています。米軍は、ロシアのレーダーに発見されないぎりぎりの地点まで飛行機を飛ばしています。この地点はピック・タップと呼ばれるレーダー検知限界点で、航空機の管制を待機する地点です。危機が発生した際、爆撃機はこの地点まで飛び、旋回しながら、基地へ帰還するか、それともロシアに爆弾を投下するかの合図を待つのです。
アメリカの潜水艦も、ロシアの潜水艦の追跡を続けています。最近では、ロシアが潜水艦を海洋に出動させることは非常に少なくなっており、海洋に出た潜水艦も、この数カ月間に見られたように、あまりうまく機能していません。しかし、これが冷戦時代の演習の永続化であることには違いありません。ここで、冷戦時代の考え方を劇的に表す例を紹介しましょう。
 たったいま、アメリカ国防総省にある作戦室、あるいはロシアのこれに対応する機関である、モスクワ南部にあるチェコフと呼ばれる参謀本部戦争局から、発射命令が出されたとします。この命令は第一線にいる発射要員によって受信され、約数秒で処理されます。これによって、最悪の場合、数千発の核兵器が発射され、地球を半周して飛ぶことになりますが、核兵器のこの飛行には30分、あるいはその半分しかかからないのです。第一線の発射要員は、なんと2分でミサイルの照準を合わせることができます。これは1994年にクリントンとエリツィン両大統領の間で結ばれた、有名な、あるいは悪名高い、ミサイルの照準解除合意を破るものです。合意を破るのに数秒、アメリカ合衆国の中部および中西部の平野地帯に配備されたアメリカの戦略ミサイルに装填された2,000発の強力な核兵器の照準を合わせ、発射するのに2分しかかかりません。
 ロシアでも同じ位の数の核兵器が、臨戦態勢で配備され、同じように短時間で発射することができるのです。その約10分後に発射されるかもしれない潜水艦配備の数千発の核兵器を加えると、アメリカとロシア合わせて約5,000発の戦略核兵器が、数分間で発射できることになります。爆発力に換算すると広島原爆約10万発分の核兵器が高度の警戒態勢にあり、一瞬の合図によって発射できる状態におかれているのです。
 ロシアとアメリカが核兵器の高度警戒態勢の解除計画について、真剣に話し合い、実行に移すことは、数多くの重要な恩恵をもたらすことになると思います。特に、それによって、ミスによる発射や許可されない発射につながる核兵器管理・制御の欠陥にたいする安全・防止の余地が広がります。この欠陥は、こんにち、特にロシアで深刻な問題です。私たちは、従来どおりの意味での戦略的安定性の問題を扱っているのではありません。アメリカにもロシアにも、両国が意図的に核兵器を相手に向けて発射するかもしれないと、たとえわずかな可能性だとしても、信じている将軍や提督はいません。政府の賢明な官僚たちの頭にある、起こりうる核兵器使用の唯一のシナリオは、ロシアやアメリカ以外の国にたいして一発あるいは数発の核兵器を使うというものです。あるいは、制御装置の故障によって発生する、偶発的あるいは不注意による核兵器使用です。
 戦略的安定と安定した抑止は、現在の核体制を見れば、誰もが考えるよりはるかに簡単に実現できます。私が話す人はほとんど誰もが、抑止や安定は、今よりはるかに少ない数で、より警戒態勢レベルの低い兵器で実現できると考えています。私たちが歩調を合わせて、核兵器の運用を停止させようとするのであれば、世界にたいし、私たちは、真剣に国の計画における核兵器の役割と重要性を引下げているという強力なメッセージを送らなければなりません。そうすることこそ、第6条の義務を果たす明確な約束ではないでしょうか。
 また、この措置を実行することで、こんにち欠けている国際的安全基準の創出をはじめることになります。つまり、世界のどの国も、どの核保有国も、NPTに加盟しているかどうかに関わりなく、つまりイスラエル、インド、パキスタンも含まれますが、核兵器を直ちに発射できる態勢にしておくことを禁止するタブーを創り出すのです。こんにち世界で起こり得る最も危険なケースは、インドとパキスタンが、欠陥のある指揮・管理体制のもとで、第一線に臨戦配備しているミサイルに核兵器を装着することです。これがこんにち、地球上で、おそらく最も重大な核戦争の危険であることを疑う人はいないと思います。リーダーシップを発揮し、ロシアやアメリカに続いて、核兵器の数を増やし、警戒態勢を高めてきた両国の歴史を繰り返そうとしている国にたいするタブーを創り出す先頭に立つことは、私たちの急務なのです。
 核兵器の警戒態勢を解除することの大きな利点は、米ロ両国の指導者たちが、指導者にふさわしく行動すれば、迅速かつ一方的にこの措置を講ずることができるという点です。相手との、入念な、時間ばかりかかる交渉をしなくてもいいし、それぞれの議会に解除の計画や日程を提出し批准を求め、それで行き詰まってしまうこともありません。1991年にジョージ・ブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ大統領のリーダーシップのもとでおこなわれたように、米軍の最高司令官は、自らの権限においてこれらの措置を実施できるのです。グレイ大使が指摘されたように、アメリカが爆撃機の警戒態勢を解除しただけでなく、ロシアとアメリカは、高度な警戒態勢にあった潜水艦ミサイルおよび地上ミサイルの数千発の戦略核弾頭を警戒態勢から解除し、世界中に配備していた数千の短距離あるいは戦術核兵器を国内に撤収しました。これは、1990年代におこなわれた最も重要な軍備管理措置と言えるものです。それは速やかに実行されました。確かに、軍縮にあたって辛抱強さは大いに役立つかもしれません。しかし、その一方、リーダーシップを発揮し、核不拡散とNPT条約について、しかも世界の利益のために私たちが努力していることを明確に証明する迅速な行動をとる余地はすぐそこにあるのです。

登誠一郎(日本軍縮大使)

 2000年NPT再検討会議の後追いとして、NGO軍縮委員会がこのセミナーを開催されたことは、まことに時宜を得ています。と申しますのも、この5カ月間、NPT再検討期間中に達成された大きな成功の喜びにひたったり、幸福感に酔いしれて、そこでの非常に重要な合意を具体的な行動に移そうとする前にしばらく様子を見ようとする傾向を見てきたからです。確かに、あの会議は大成功でしたが、それは主要な担い手全員による妥協がなければ実現しなかったでしょう。したがって、私たちは、最終文書は大変重要ではあるものの、その内容は完全ではないことを認めなければなりません。最終文書に含められるべきであったのに、文書が全会一致で採択されねばならなかったため、含まれなかったことが多くありました。
 私たちはこれから、この重要な合意を行動に移していかなければなりません。私は、その第一歩として、国連総会の第一委員会が重要な場であると思います。ご承知のように、日本は国連総会の第一委員会を含め、軍縮のあらゆる側面で、比較的強いリーダーシップをとってきました。日本の森首相と河野外務大臣が、1カ月前のミレニアム・サミットに参加した際、NPT再検討会議で達成された合意に従うという日本の強い信念と意図を強調しました。日本において、この核軍縮や核拡散防止の問題についての関心や真剣さは、何にも優るものだと思います。それは今日この会場におられる参加者を見てもおわかりいただけるでしょう。実際、このNGOセミナーに参加するために、日本からはるばる来られた方が多く見受けられます。このことは、日本国民と日本政府の真剣さを物語っています。
 NPT合意の後追いと言う時、私個人の解釈では、この合意を実行するには、3つの重要な道があります、ひとつは、ロシアとアメリカのSTARTプロセスです。第二は、ジュネーブの軍縮会議、そして第三は国連の第一委員会です。
 STARTに関する米ロ交渉については、両国はSTRAT IIのプロセスをほぼ完了していますが、同時に、できるだけ早くSTART III交渉を開始しなければなりません。現在、ロシア政府の官僚は、この両国間の重要な交渉を正式に開始させるため、非常に真剣に準備作業を進めています。両国がこれから解決しなければならない問題は、ABM条約の扱い方と、現在アメリカが計画している米全土ミサイル防衛(NMD)です。日本は、次期米大統領の任期中のいずれかの時まで、ミサイル配備を延期するとしたクリントン大統領の決定を歓迎しました。私たちは、二週間後の大統領選の勝者が誰であれ、次期大統領が、NMDが世界におよぼす影響や、軍縮問題に関係する多国間および二国間交渉の雰囲気におよぼす影響などを含むすべて重要な要素を考慮して、真剣に検討されることを期待しています。
 第二の道であるジュネーブの軍縮会議ですが、NPT会議で私たちが合意した点の多くは、軍縮会議で議論されるべき問題です。しかし、現実はまったくちがっています。これはマスコミで報道されていないので、会場のみなさんの多くはジュネーブの軍縮会議で何が起きているかご存知ないかもしれません。実際、残念なことに、あまり大したことは起こっていません。これは、軍縮会議での核分裂物質製造カットオフ条約の交渉が、軍縮会議の作業日程と連動しているためです。つまり、すべての国が作業日程に合意しない限り、この交渉機関では意味ある作業に着手できないのです。この会議に参加している国の圧倒的多数は、カットオフ条約交渉を直ちに開始することの重要性を認めていますが、ひとつあるいは二つの国が、この交渉を阻止しています。これらの国は、核軍縮ための補助機関、宇宙空間での軍拡競争防止(PAROS)のための補助機関の設置などといった別の問題も同じ扱いをするよう求めています。これらも重要な問題ですが、多国間の会議においてほかの核軍縮問題について、あるいは宇宙空間での軍拡競争防止の問題について交渉を開始するのは時期尚早です。この問題を解決するには、もっと合理的、現実的かつ常識的な方法があるはずです。私たちは、各国に、より柔軟な態度をとるよう求めています。
 第三の道は国連です。ジュネーブの軍縮会議がすべての問題を取り上げることはできません。国連の第一委員会は、NPT会議で達成された合意を実現するために、その方向性を示すという重要な役割を担っています。核軍縮については、第一委員会の役割は、NPT会議での合意を歓迎するとか、あるいは合意文書を一字一句繰り返すだけにとどまるべきではありません。私たちは、この重要な合意に反することをすべきではありませんが、逆にそれを前進させる方法はいくつもあります。私たちは、この合意を、一歩一歩実現に近づけていくイニシアチブをためらうべきではありません。日本は、「核兵器全面廃絶への道程」と題する決議案を提出しました。ある意味で、これはアメリカ人のいうところの道路地図です。これは核兵器のない世界を実現するためには何をすべきか、どのような行動を取るべきかを非常に明確に示しています。
 この決議の要素を二つ強調しておきたいと思います。当面の課題として、私たちは、期限目標を持つべきです。これは最終期限という意味ではありません。最初の期限目標として、CTBTの2003年発効を目指します。カットオフ条約については、2005年までに交渉完了を目指すことを提案しています。2005年は次のNPT再検討会議が開催される年でもあります。
 二つ目の要素は、どのようにして核兵器の全廃を達成するかについて話し合うべきだという提案です。再検討会議で合意した文書より、もう少し詳しく述べるべきです。私たちは、合意した文書を全面的に尊重し、順守するものですが、そのほかに二つ付け加えたいと思います。START III後の交渉過程について述べること、そして核保有5カ国が、一方的あるいは交渉を通じて、さらに核兵器を削減する必要性について話し合うことです。なぜなら、これは核兵器のない世界を実現するにあたって不可欠だからです。第一委員会の役割を過小評価するべきではありません。そこで強力な決議をあげられれば、核兵器廃絶に大きく貢献するでしょう。

ヘンリク・サランダー(スウェーデン軍縮大使)

 私もグレイ大使や登大使と同じような話をする予定でしたので、そこは省略します。私は、グレイ大使が言われた、再検討会議の最終文書は歴史的な文書であり、今後の方向を示しているという評価にまったく賛成で、また、登大使が言われたように、栄光にひたっていたいのですが、私たちにはそんな時間的余裕はないという意見にも賛成です。妥協がなされました。最終文書は妥協ばかりです。また、完璧な文書でもありませんが、かなり良い文書ではあります。私たちの多くが、この4月、5月の再検討会議の後、ややめんくらっていると思います。なぜなら、会議の結果の評価について意見が分かれていると感じているからでしょう。検討会議は成功でした。しかしまだ疑問が残っています。あれから状況は良くなるはずでしたが、本当にそうなっているでしょうか。
 思い出していただきたいのは、13の段階的措置は、新アジェンダ連合が、その取り組みをはじめた時期の情勢から導き出されたものです。当時の情勢では、なかなか事態は進みませんでした。私の意味するのは、もちろん、CTBT発効の遅れ、登大使が述べられたように、軍縮会議が行き詰り、核分裂物質カットオフ条約交渉、安全保障についての約束、軍縮などについてまったく進展は見られていませんでした。これらのすべての点について、当時は展望がありませんでしたが、しかし、今でもそれほど展望が出てきたわけでもありません。ですから、今の方が状況は良くなっただろうかという問いにたいする答えは、イエス・アンド・ノーではないでしょうか。何も起こらないまま二年、三年と経ってしまったという意味では、状況は悪くなっています。しかし、同時に良くなってもいます。再検討会議の最終文書があり、その定める措置を実行するという真剣に交渉された約束がなされたからです。また、この措置の進歩状況を監視するために、再検討過程も強化されました。これは私たちが望んでいたものです。実際、これは私たちが望める以上のものです。
新アジェンダ連合、あるいは私が好んで使う名称である新アジェンダグループ(NAG)は、再検討会議に臨むにあたり、この会議では結果を出すことを目指した対話を希望していました。そして、私たちの側から実際的な提案をおこなうことで、その対話の環境作りをしました。この提案は、おもに1998年と1999年の新アジェンダ決議からとったものです。私たちの考えでは、これらの決議は実際的なものでしたが、私たちは提案をより実際的なものにしたのです。私たちは、確固とした、現実的で柔軟な提案、そしてかなり包括的な提案をしたと考えています。見るところ、ほかの方々も同様に思われたようなので、その甲斐がありました。いま重要なのは、再検討会議でした誓約からどの国も後退させないことです。これらの誓約の多くは、NPTの基礎であり、NPT体制の維持に必要だからです。
 そして、まさにその理由から、新アジェンダグループは、今年の決議案で明白に打ち出したような戦略をとりました。私たちは、唯一の万国の機関である国連で、力強くそれを提起したいのです。NPTは世界のほとんどの国が加盟していますが、まだすべてではありません。私たちは、みなNPT加盟国がおこなった誓約に貢献しました。13の段階的措置は、一種の予定表のようなものです。私たち、新アジェンダグループは、その所有権を主張するものではありません。いまやこの13の措置は、NPT加盟国すべてのものになりました。そして私たちすべてが、それを実行する責任を負っています。これらの措置は、それぞれ大きく違う性格のものです。その多くは過程であり、非常に長期的な過程でさえあると言えるでしょう。また、いくつかは短期の過程です。しかし、それぞれの措置は、ほかの措置を強化するものであり、並行して行動に移されるべきものです。ここで何度か言及されている措置は、進行中のもの、あるいはひとつの過程ととらえるべきでなく、すでに実行されたものと見なされなければなりません。この措置とは、もちろん、核保有国による核兵器廃絶にたいする明確な約束です。この約束がすでになされたことは重要です。
 シェル氏が、この約束について多少疑問を提起されました。こうした疑問をもちろん私は理解できます。現段階では、核保有国がこの約束をもってしたことを本当に信じ、かりに長い時間がかかるとしてもその実現を願いたいと思います。
 ほかの12の措置は、早く実行されなければなりません。特にSTARTと軍縮会議での交渉開始がそうです。これらは直ちにはじめられなければなりません。核兵器の運用上の地位についても取り上げられました。私は、グレイ大使の、最終文書の大部分は妥協の結果であるとする意見に賛成です。最終文書では、警戒態勢解除や核兵器と運搬手段との切離しを直接扱うことはできませんでした。また、警戒態勢解除や切離しは危険であり、危機的状況においては不安定化を引き起こすという論文や本が多くあることも知っています。しかし、それにもかかわらず、最終文書はこの問題を取り上げているし、13の措置のなかでも重要な措置であり、実行できる措置となっています。これは最終文書のなかの、国際的安定とすべてのための低下しない安全保障という項目にあり、私は、多くの誠意をもって取り組めば、実行できると思います。進むべき方向は非常に明らかです。

ダグラス・ローチ

  それではここで、これから発言されるパネリストをご紹介します。最初はイアン・スーター大使で、イギリスの軍縮会議大使です。以前は、軍備管理・軍縮局次長とウェリントンの高等弁務次官を務められ、欧州共同体、サイゴン、ワシントンDCのイギリス代表部にも勤務されました。最後に発言するパネリストは、ユベール・ド・ラ・フォルテル大使で、1999年からフランスの軍縮会議大使をされています。またド・ラ・フォルテル大使は、サウジアラビア、韓国の常駐大使、国際原子力機関などの要職を歴任され、東京、アフリカ、ボンなどにも外交官として赴任されたことがあります。

イアン・スーター(イギリス軍縮大使)

  まず、お詫びしなければなりません。いままで欧州連合の会議に出ていて、なかなか抜け出すことができませんでした。ニューヨークで、このような会議で発言させていただくのは、おそらく4度目だと思います。第一委員会に出席するのも4度目ですが、人々が実際に期待感を持っていると感じたのは、今回の第一委員会がはじめてです。これまで、この委員会の雰囲気は重苦しいほど自由がなく、私が出席した会合は非難の応酬になってしまうことがよくありました。NPT会議で、パネリストの方々もふれられた具体的な措置が打ち出されたこは、この雰囲気を改善することに大きく貢献したと思います。また、パネリストの方々は、このNPT会議の結果はようやく勝ち取った妥協であると言われましたが、私も賛成です。
 私は、議長として会議の議論をあの結果に導いたアルジェリアのバーリ大使に敬意を表するべきだと思います。また、この機会に、この場におられる二人の方々が果たされた役割にも敬意を表します。カナダの大使は、地域問題についての特にやっかいな交渉のいくつかをまとめられました。あの結論がなかったら、再検討会議の最終文書はなかったでしょう。さらに、私の同僚であるヘンリク・サランダーさんにも敬意を表します。彼は、私たちが成果をあげるうえで大きな役割を果たしましたが、いかにも彼らしい謙虚さでそれを語られました。私たちが最終的になした成果の基礎を築いたのは、何よりも新アジェンダグループが、核保有国と話し合おうとする意志と態度で臨んだことだったと私は思います。
再検討会議以降、その結果から遠ざかろうとする傾向が一部に見られました。一部の参加者には、いくつかの措置を軽視し、ほかの措置をもちあげるという傾向があります。そればかりか最終文書の結論を、解釈し直したり、書き直そうとする傾向さえあります。イギリス政府としての見地から明らかにしておきたいのは、私たちは、この5月におこなった誓約を全面的に履行する意思を変らずもっているということです。私たちは、これらの誓約を、自分に都合のいいものだけ選んで実行するつもりはありません。そうは言っても、いくつかの措置はそれぞれ異なる場で、また異なる担い手によって実行されることになるでしょう。これについては、グレイ大使や登大使が、アメリカ合衆国とロシア連邦の二国間交渉の中心的な重要性をすでに指摘されたと思います。私たちとしては、三週間後におこなわれる大統領選挙でどの候補が政権に就いたとしても、彼は、というのも候補者に女性がいないので彼としか言えないのですが、緊急課題として、この米ロ交渉に注目することを強く期待しています。
 多国間交渉については、すでに言われたように、核分裂物質カットオフ条約の交渉、締結、早期発効は、非常に重要で実践的な一歩です。イギリスは、これを核兵器のない世界実現には不可欠な一歩であると、長い間考えてきました。したがって、私は、たったひとつの国、しかもNPTの最終文書をすすんで支持した国が、軍縮会議においてこの大変重要な問題の進展を阻んでいることに遺憾の意を表さずにはいられません。
 最終文書には一方的措置も含まれていますが、イギリス政府は、再検討会議以前に、核兵器廃絶の目標にそったいくつかの一方的措置をすでに実行しています。私たちは、作戦上使用可能な弾頭の数を削減しました。また、潜水艦1艇の作戦上の地位を巡視レベルまで下げました。ほかの核保有国と同様、イギリスの兵器はすべて照準解除されています。
 ほかにもいくつかの措置があります。特に透明性を保証する措置については、一方的に実行できますが、私としては、ほかの核保有国と協調して実施するのが望ましいと考えています。再検討会議で、核保有国を代表してド・ラ・フォルテル大使が読み上げた核保有国共同声明に述べられているように、これらの問題については、核保有国間で緊密な協議を続けています。ジュネーブと、ここニューヨークで、核保有国が定期的に協議を続けていることをお話ししても、大きな秘密を曝露することにはならないでしょう。私としては、残念ながらみなさんにこの間の協議で生まれた新しい動きをお知らせすることはできませんが、この機会に、再検討会議で交渉した誓約のすべてをイギリスが真剣に受け止めていることを再度お伝えするとともに、NGOのみなさんが代表されている国際社会が、必ず再検討会議の最終文書を、私たち核保有国の誠意を測る基準として活用されるであろうことを確信しています。

ユベール・ド・ラ・フォルテル(フランス軍縮大使)

  みなさんの前でお話できることを嬉しく思っています。私たちのような軍縮の専門家は、ほかの人には理解できない、ある種の業界用語でいつも話し合っています。しかし、私たちが、市民社会、NGOなどほかの世界の人たちに語りかけることは重要ですので、その機会をつくっていただいたことに感謝します。業界用語をさけ、平明な言葉で話すようにするつもりです。
 私のもうひとつの問題は、最後の発言者であることです。立派なパネリストの方々に、言いたいことを全部言われてしまいました。私は、これまで言われたことの多くに賛成です。もちろん百パーセントではありませんが、それに非常に近いでしょう。NPT再検討会議後の進展状況ですが、最初に申し上げたいのは、フランスは、ほかの国、特にほかの核保有国と同様、NPT会議の結果と最終文書については、これを真摯に受入れています。フランスは、約束、そしてもちろん明確な約束を尊重していますので、私もあいまいでいるわけにいきません。スーター大使がいみじくも言われたように、これらの約束は一品料理ではなく、定食のようなものです。これがグルメの定食かどうかはわかりませんが、実際、内容のある定食であると思います。同時に、昨年の、非常に長く、複雑で難航した交渉には、ここにおられるパネリストの多くも日夜参加され、その結果、複雑でバランスのとれた合意が結ばれました。これは良い合意です。ただ、言わせていただければ、この複雑で長文の合意文書、特に最終文書の中核になった第15条の一部だけを選んで引用することは、この種の外交文書のつねですが、事を誤った方向に導きかねないとうことです。
 第15条の導入部、私たちは業界用語でこれを「シャポー(帽子)」と呼んでいます。これはもともとフランス語で、いまでは英語でもそのまま使われています。この部分は、グレイ大使も言われたと思いますが、NPT条約第6条をそのまま継続したものです。第6条は、25年以上も前、単に核兵器を削減するのではなく、核兵器廃絶を目指すことをうたった条項ですが、それだけではなく全面軍縮をも目指したものです。その後、1995年の決定があり、2000年の最終文書へとつながっているのです。このあいだに断絶はありません。ずっと継続されてきたのです。この流れを全体としてとらえることが重要です。これがとりわけ重要なのは、ご存知のように、1995年の第4決定、これはいまでも全体のなかで非常に重要な役割を果たしていますが、それと、調印されたものの未だに発効していないCTBT、核分裂物質カットオフ条約、核兵器削減などが、すべて合わさってこの全体を形成しているからです。これらの優先課題は依然として達成されないままです。私は、特に、カットオフ条約が、多国間交渉と核軍縮の進展にとって、最も緊急で効果的な道であると考えています。
 第15.9段落を見てみると、兵器削減、戦術核兵器削減、核兵器の作戦上の地位引下げと安全保障における役割の縮小など6つの文がリストになっています。そして、すべての核保有国の早期の適切な取り組みというくだりもあります。強調したいのですが、これは核兵器廃絶に向かう過程において重要です。これは、大変に意欲的な誓約のリストです。しかし、忘れてならないのは、この15.9段落の導入部分が、次のように述べていることです。「(核兵器保有国は)国際的安定と、低下されないすべてのための安全保障の原則を促進するような方法で(早期に適切に)取り組む」。これは何を意味しているのでしょうか。つまり、私が要約した6つの取り組みは、期限付きの計画に拘束されないということです。国際的安定と低下されない安全保障が意味しているのは、フランス政府も、ほかの国の政府も、国際情勢は国の安全保障が損なわれない核の削減を可能にしているか、そして、いつ削減に踏み切るかを判断しなければならないということです。つまり、核軍縮の曲線は、下がる時もあり、平坦になる時もあり、また再び下がることもあるのです。うまくいけば二度と上がることはないでしょう。究極的な目標は、核兵器廃絶です。
 過去10年間、国際的緊張緩和によって、フランスは核抑止力の規模を大幅に削減しています。6カ月前には、その詳細をパンフレットで発表し、NPT会議で配布しました。フランス代表部にはまだこのパンフがたくさん残っています。私たちはすべての戦術核兵器を廃棄しました。地対地戦略核兵器もすべて廃棄しました。ミサイル発射潜水艦は5隻から4隻に減らしました。これで通常、海洋に出ているのは1〜2隻となり、かなりの削減です。警戒態勢レベルも、核戦力についてはかなり引下げました。核兵器発射装置の約半分が廃棄され、国防予算の核兵器関連支出は約50%減りました。
 再検討会議と最終文書の次に来るのは何でしょうか。正直、私にもわかりません。それは多くの要因に左右されるし、その多くは私たちにはどうすることもできなからです。私たちフランス国民は、私たちが、最低抑止と呼ぶものを堅持していきます。これもまた多くの要因に左右されるし、その多くは私たちの思うままにはなりません。思い出していただきたいのは、二つの「大きな」核保有国が、世界の核兵器総数の97%を保有していることです。それ以外の3カ国、イギリス、フランス、中国は3%です。これが、核保有5カ国間の交渉は、START交渉のある種の後追いになるだろうと私たちが言っている理由です。しかも、それもこの格差が大幅に縮小されてからのことです。特に、戦術核兵器をこの比較に加えれば、現状はまだそれに程遠いものです。この多国間交渉に参加しようとする国がどれだけあるでしょうか。5か4、あるいは6か8でしょうか。まだ多くの不確定要素が残っています。核保有5カ国のなかでも、1カ国については、その時期がきても、この多国間交渉に参加するのには問題があるでしょう。それに、イスラエル、インド、パキスタンについても考えなければなりません。これら「事実上の核保有国」は多くの疑問の種です。これらの国も、なんらかの方法で、核軍縮の動きに加えなければなりません。
 最後に申し上げたいのは、この問題は複雑で、先ほど言ったように、私たちにはどうすることもできない多くの要因に左右されるということです。核兵器廃絶という目標は変わりません。1978年に締結された時から、NPT条約の目的は廃絶でした。それに変わりはありません。2000年に核保有国すべてがあらためてそれを確認したことによって、さらに強固なものになりました。しかし、とりあえずCTBT、カットオフ条約、緊張緩和からはじめようではありませんか。締めくくりとして私の結論を言わせていただければ、私たちは、一歩一歩進む、実際的な方法をとらなければならないのです。そしてこれは、おそらく唯一実現可能な道、私たち全員の共通の最終目標へ向かう前進を可能にする道でしょう。

(質疑応答:省略)

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