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放射線被ばくに関するQ&A
福島第一原発からの放射性物質流出による被ばくの心配が広がり、マスコミなど各方面でQ&Aなどが出されています。
日本原水協は原爆症認定訴訟などを通じて内部被ばくの問題点などを指摘してきた代表理事の沢田昭二・名古屋大学名誉教授(素粒子物理学)に聞きました。
Q1:マスコミの報道などでは、身体を洗って表面に付着した放射性物質を洗い流せば良いと言わんばかりの説明です。なかには花粉症と同様の措置でいいとまで言っているものもあります。内部被ばくを考えていません。どのように考えればよいでしょうか。
沢田: おっしゃる通り内部被ばくの軽視の発表と報道に憂慮しています。身体の表面に付着しておれば呼吸をしていますから当然内部被ばくをしています。激しい運動をすればそれだけ沢山取込みますから、湿ったマスクをするなどの工夫をして早く風上に立ち去ることが必要です。
飲食を通じて下痢が起こることが考えられます。広島原爆の場合はその日の夕刻から下痢が始まりました。
しかし、放射線防護の専門家の大部分は、放射線による下痢は大量被ばくでなければ起こらないと外部被ばくによる発想から抜け出していません。JCO事故に関わった放射線防護の鈴木元氏や明石氏は原爆症認定裁判や長崎の訴訟でその主張を続けています。
現在症状が現れていなくても内部被ばくの場合は遅れて発症するので長期間観察する必要があります。いまは症状がないとそれで終わりという姿勢は危険だと思います。
放射線の影響は急性症状の場合も個人差がきわめて大きく、広島の原爆被爆者を調べた結果、外部被ばくの場合には下痢発症率は期待値(半発症線量)が約4000�_シーベルト以上、標準偏差約900�_シーベルト以上の正規分布によって表されますが、内部被ばくによる下痢の発症率は期待値(半発症線量)が約2000�_シーベルト、標準偏差約600ミリシーベルトの正規分布をしていますので、低線量でも発症しますので、内部被ばくの最初の兆候を見ることになります。脱毛や紫斑はかなり遅れて発症するので検出は難しいと思います。
Q2: 例えばマスクをかけることが、発症予防に実効性があるのでしょうか。
沢田: 微粒子も大きいほど、直径の3乗に比例して放射性原子核を含んでいます。5ミクロンより大きいと鼻毛に引っかかって肺胞まで達しないと言われていますが、ミクロンレベルでは肺胞の壁から血液に入ると言われています。マスクは素その狭い範囲の大きさの放射性微粒子を防ぐだけです。
Q3: 内部被ばくについて勉強しようとすると、医者、物理学者では誰から学べば良いのでしょうか。
沢田: まだ医学的な研究は不十分です。原爆症認定集団訴訟で活躍された齋藤紀医師(日本原水協の代表理事、福島わたり病院で目下原発被災者を診療中)が最適です。浜北診療所の聞間元医師(民医連の委員会の元代表)も詳しいと思います。
Q4:現在の危険エリア、即ち、内部被ばくが想定されるエリアはどこですか。それは放射線量との関連で推測は可能なのですか。もし退避を検討したり、充分に注意するレベルは、μSv(マイクロシーベルト)、mSv(�_シーベルト)などはどのようになりますか。
沢田: 20km〜30kmを屋内待機地域にしていますが、風向きで大きく違います。私は原発周辺に線量測定器と風向計を緊急に多数配置してほしいとおもいます。放射線の感受性は個人差が大きいのでこの線量以下では大丈夫という官房長官、保安院、マスコミの報道は正しくないと思います。
かつては「しきい値線量」という表現でこの線量以下では症状が一切発症しないという考え方がありましたが、これは正しくなく、現在では5%ないし10%の人が発症する被ばく線量を「しきい値」と言っています。次第に漏れだした放射性物質が増えて、3月17日現在は原子炉周辺は最高400ミリシーベルトレベルになっています。上空の自衛隊ヘリコプターで測定しているようですが、おそらく建屋の上部が破壊されたり穴があいている上空での値も何百ミリシーベルトレベルでヘリコプターがホバリングできない状態だとおもいます。
今もっとも被ばくしているのは冷却水を注入しようとして被ばく環境の中で取組んでいる作業員です。個人差がありますがかなり長期間健康管理をして兆候を早期発見して適切な治療をすることだと思います。これまで避難地域にいて身体の外で被ばく線量が検出された人も要監視対象とすべきです。
情報を原子力安全委員会が調査し公開すべきだと思いますが、総合する機能が働いているとは言えません。以下で測定結果が見れます。
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm
Q5: 水道水から、ヨウ素とセシウムが検出されています。この飲水は絶対に避けるべきなのか。低濃度であれば、内部被ばくの危険性は薄いと考えられるのか。
沢田: 水源地がどこかですが、大量の水に含まれて拡散した結果が測定されたのだと思います。水源地周辺には放射能測定装置を配置して監視してほしいと思います。すべての上流の監視というのは難しいかも知れませんが多数の市民の飲料水ですから、市民の中には放射線感受性の高い方もおられるので、水源地の管理は重要です。
Q6: 今後、大気、土壌、水質の放射性物質による汚染が原発周囲を中心に残ると考えられるが、現在の福島原発それぞれの原発から放出されうる放射性物質の量の想定と、その場合、例えば、ヒロシマ原爆後の、放射性物質や残留放射線、チェルノブイリ後の放射性物質と比べて、東日本には、人間や生き物が暮らすのが、許容されるレベルにおさまるのか、過去の被ばく事例と比べて、どのような環境汚染レベルにおかれると想定されるのか。未来に向かって、それはどの程度まで、改善すると考えられるのか。
沢田: 広島や長崎も何十年もすめなくなると言われました。しかし、8月に原爆が投下され、9月と10月に台風が襲い、台風の大雨などで放射性物質が流されて台風の後は急性症状の発症が急減しました。これがチェルノブイリ事故の周辺地域の乾燥地帯との違いです。
放射線よる人体影響は、体内に取込んだ放射性原子核固有の物理学的半減期(たとえばセシウム137は30年)、体内に摂取して新陳代謝等を通じて体外に排出して半分になる生物学的半減期、それに環境中から飲食を通じて取り入れる量に関わって、雨風で減少していく環境半減期の3つの半減期で考えなくてはなりません。セシウムの場合生物学的(生理的)半減期は約100日、長崎の西山地域は環境半減期が約7年だったとされています。環境半減期は斜面とか湿地とか場所で大きく異なると思います。
Q7:今回想定させる核種は、主にヨウ素とセシウムだと思いますが、これらの内部被ばくに関して、どの程度の線量で被ばくの可能性があるのでしょうか。CTより低線量だというような解説がありますが。
沢田: 核分裂生成物には数百種類の核種(原子番号と質量数、あるいは原子核を構成する陽子数と中性子数で決まる)が放出され、気体として広がりやすいのがヨウ素です。CTなどによる被ばく(X線外部被ばく)と内部被ばくを比較するのは科学的ではありません。たとえばヨー素は体内に入り血液ないしリンパ液で体内を循環して甲状腺に蓄積して甲状腺機能の亢進症などを引き起こし、また甲状腺がんなどを引き起こします。がんなどの晩発性障害の発症は被ばく線量に比例するので、どれだけ被ばくしても良いとか悪いとか言えません。
急性症状も晩発性障害もいずれも放射線を浴びなければあびないほどよいわけです。
Q8:福島原発の今後の展開や対処策はについて、現在はすでに制御不能の状態なのでしょうか。?これ以上の放射性物質の拡散の可能性とその影響、?臨界状態←論理的に可能性はあるのか。現在、出ている中性子はその予兆なのか。もし核分裂反応を起こした際は、原子爆弾のようになるのか、なるとすれば、ヒロシマ ナガサキと比べて、どのような規模か。6基の原発すべてが臨界状態になるのでしょうか。
沢田: 東京電力の福島第1原子力発電所、第2原子力発電所、東北電力の女川原子力発電所が地震と津波の被害を受けましたが、幸い冷却水供給が不能になったのが東電の福島第一原子力発電所だけでした。福島第1の1号炉から3号炉は稼働中でしたが地震で核分裂の連鎖反応が停止した後、冷却水を送るすべての機能が不能になり、濃縮ウラン燃料棒(enriched uranium fuel rod)が水から露出して冷却できず燃料棒の表面を覆っていたジルコニウム(zirconium)金属が融け、水あるいは水蒸気の酸素を奪って酸化し、そのため残った水素が発生して爆発する深刻な事故になってしまいました。点検で運転していなかった4号機から6号機までは原子炉から引き抜いた燃料棒を、同じ建屋のプール内に入れて冷却していましたが、連鎖反応がストップしても燃料棒内には大量の放射性物質(核分裂生成物fission products)が蓄積していて、放射線を出し続けており、この放射線のエネルギーで水の温度が上がり4号炉は水が蒸発して燃料棒が露出して高温になり火事が起こりました。このプールは建屋内にありますが、圧力容器のように外部と遮断されていないために水による遮蔽が効かないで放射性微粒子が大気中に放出されます。そのため原子炉周辺に近づいて冷却水を注入する作業員(ヘリコプターの自衛隊員)は被ばくを続けています。もっとも怖れることは、壊れた燃料棒から外に出てきたウラン燃料が原子炉やプールの底に集まり、核分裂の連鎖反応を始めると、莫大なエネルギーが放出されて大爆発(未成熟な原爆の爆発)を起こすとチェルノブイリ事故のようなことになります。そうならないように注水が成功するよう願うばかりです。
(2011年3月17日記)
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