【反核平和運動・原水爆禁止世界大会】
原水爆禁止2010年世界大会
国際会議:主催者あいさつ
沢田昭二(世界大会実行委員会/日本原水協代表理事)
海外から、日本各地から、原水爆禁止2010年世界大会に参加されたみなさんに、主催者を代表して心からの歓迎と連帯のあいさつを申し上げます。
核兵器のない世界を求める動きが、いっそう大きくなった中で開かれた2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議は、2000年の核兵器廃棄の明確な約束を再確認し、核兵器のない世界に向ってさらに一歩前進させる内容の最終文書を採択しました。NPT再検討会議の経過と到達点から、核兵器のない世界を実現するために、私たちが何をなすべきかが一層明確になってきました。
この世界大会には、NPT再検討会議において重要な役割を果たされた国連と各国政府の代表のみなさんが参加されます。また、この大会には、「核兵器のない世界のための国際行動デー・ニューヨーク行動」を成功させ、NPT再検討会議最終文書で確認されたように、市民社会の提案やイニシャチブで再検討会議に働きかける役割を果たされた平和運動のリーダーや、草の根の献身的な活動家、被爆者や核被害者のみなさんが参加されています。そして、2年前の世界大会で提起された「核兵器のない世界を!」の署名を日本の各地で、さらにニューヨークでも集める行動に取組まれた皆さんも多数参加されています。
核兵器のない世界のために核兵器条約交渉を迫る
みなさん、
広島と長崎への原爆投下は、言語に絶する「この世の地獄」をつくり出しました。昨年4月、オバマ米国大統領が「世界で唯一核兵器を使用したことのある核保有国として.米国は行動を起こす道義的責任がある」と述べました。この道義的責任とは、被爆の実相をふまえるならば、国際人道法に反する非人道的大量殺りくをおこなった責任であることは明白です。
さらに私は、広島と長崎への原爆投下が、核軍拡競争と核脅迫の時代をもたらしたことについての道義的責任も追求すべきだと思います。原爆投下の最大の目的が、ソ連を脅迫することであったことを、歴史学者などが事実を積み上げて明らかにしています。その結果、米ソ冷戦がもたらされ、核兵器を背景にした軍事力で世界を支配する時代をつくりだしたことは、全人類的な「道義的責任」として問われなければなりません。オバマ大統領は、同じ演説の中で「核兵器が存在する限り、わが国は、いかなる敵であろうとこれを抑止し、同盟諸国に対する防衛を保証するために、安全かつ効果的な兵器を維持する。」と述べています。これはオバマ大統領が、核兵器によって脅す核抑止論と拡大抑止の立場であることを表しています。この立場は、4月に公表された米国の「核態勢見直し報告」においても確認され、NPT再検討会議において米ロ英仏の核兵器国が、核兵器廃絶条約の交渉開始の時間設定に抵抗した根源でもあります。私は、1975年に発表された「湯川・朝永宣言—核抑止を超えて」が「核兵器を戦争や恫喝の手段にすることは、人類に対する最大の犯罪である」と述べていることを想起しています。核兵器で脅すと、脅された国は自前の核兵器を開発して対抗すること、すなわち、核抑止は非道徳的であるとともに核拡散を誘発することを歴史は示しています。2010年NPT再検討会議は、核兵器のない世界に向って一歩前進するとともに、核兵器国の抵抗を目の当たりにして、核抑止論を打破することの必要性と重要性をいっそう明確にしました。同時にオバマ大統領の「核兵器が存在する限り、・・・安全かつ効果的な兵器を維持する」という発言は、核兵器のない世界を実現するためには、核兵器国が核兵器廃絶条約の交渉を始める以外に道がないことを論理的に示しています。最終文書は、次回再検討会議の2014年の準備会議に、すべての種類の核兵器の総合的削減、役割の低減、使用の危険性の低減など7項目の取り組みについて核兵器国に報告を求めています。私たちはこの実績の評価に基づいて核兵器廃絶条約交渉を開始せよと、いっそう強く迫らなければなりません。
「核の傘」から離脱した日本をつくる
みなさん、
日本では、「核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を国是とすると言いながら、実際には核密約を結んで、アメリカに「核の傘」の提供を求め続けてきた政権が、ついに昨年の選挙で政権の座から追い落とされました。そのあと誕生した政権の首相は、就任直後の国連安保理で「核兵器廃絶の先頭に立つ」「非核三原則を堅持する」と言い、外相は核密約を公開しました。しかし、その後、密約を公開しても、これを破棄しないまま、米軍の核抑止力に依存する姿勢をとり続けています。普天間基地の沖縄県外撤去の公約が果たせないまま、首相が交替し、新しい首相は、学習の結果、海兵隊は抑止力であることがわかったとして、前の政権の米国の「核の傘」に頼る方針を引き継いでいます。その結果、日本政府は、被爆者を含む市民運動とは対照的に、今回のNPT再検討会議でなんら役割を果たせませんでした。日本政府は、拡大抑止に頼る根拠に、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍備の不透明性をあげますが、米国の核抑止力が北朝鮮の核開発や中国の軍事力強化を誘発している側面には目をつぶっています。東アジアにおける平和の枠組みを発展させるためには、日本がアメリカの「核の傘」から離脱し、戦争を放棄した憲法9条と非核三原則を実行する政府の実現に全力を挙げることが必要です。そのような政府が実現してこそ、被爆者を含む国民と共同して核兵器のない世界をめざしてリーダシップを発揮することになります。
今回のNPT再検討会議最終文書に、「中東のすべての国家が参加する,中東に核兵器もその他の大量破壊兵器もない地帯を設立することについての会議を2012年に開催する」ことを、米国とイランも賛同して盛りこまれました。NPTに加盟していないイスラエルは即座に応じないでしょうが、拒否を続ければ中東や世界の国々からますます孤立するでしょう。
被爆の実相の普及
みなさん、
NPT再検討会議でも示されたように、核兵器のない世界をつくる原動力は、「再び被爆者をつくってはならない」という被爆者の訴えです。核抑止論を乗り越えるためにも、被爆の実相を知らせ、核兵器による威嚇が犯罪であることを示すことが重要です。
被爆者が直面する病気を原爆がひき起したものと国に認めさせる被爆者の集団訴訟は、1つの判決を例外として、5つの高裁判決を含めて25連勝しています。集団訴訟の中で、核兵器の使用がつくりだした残留放射線による内部被曝の影響が、これまで考えられてきたものより桁違いに大きいことがわかってきました。これは世界の核実験の被害者にも共通する問題で、英国のオーストラリアと南太平洋における核実験に参加した退役軍人とその家族約1000人が英国政府を相手に訴訟を起こしていますが、英国政府は放射性降下物による被曝影響を認めようとしていません。この問題は、放射線防護の国際基準が、内部被曝を大幅に過小評価していることにもつながっています。核兵器国がこの残留放射線による被曝影響を否定してきたこと、内部被曝の深刻さを隠蔽してきたことも、人類に対する道義的責任として,核実験被害者の皆さんと連帯して追求しなければならないと思います。
この大会は、今年のNPT再検討会議の成果も踏まえて、私たちが引き続いて大きな力を発揮し、核兵器のない平和で公正な世界に向かってさらに前進するための具体的方針を打ち出す、豊かで創造的な討論を期待して、主催者の挨拶といたします。
原水爆禁止2010年世界大会-国際会議宣言
被爆65年—被爆者とともに「核兵器のない世界」へ行動を
65年前、アメリカの投下した二つの原子爆弾によって広島と長崎は一瞬にして廃墟と化し、20万余の人々の命が奪われた。その後遺はいまなお被爆者の心と身体をさいなんでいる。被爆者はその苦しみをこえて、核兵器の使用は人類に対する犯罪であると告発し、核兵器廃絶を訴えつづけてきた。その声はいまや世界のゆるぎない流れとなっている。
我々は世界の人々に訴える—「核兵器のない世界」実現のため、広島・長崎の被爆者とかたく連帯し、ともに行動することを。
諸国民の世論と運動が、国際政治に新たな変化をもたらしている。かつての軍や政治の指導者を含む広範な人々が、核兵器廃絶を支持する声をあげている。
我々は、2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議を核兵器廃絶への「歴史的な転換点」とするため、核兵器廃絶条約の交渉開始を求めて国際的な行動をくりひろげた。
NPT再検討会議で合意された最終文書は、2000年の核兵器完全廃絶への「核兵器国の明確な約束」を再確認するとともに、「核兵器のない世界の平和と安全」を達成することを決議した。その実現のための「枠組みを確立する特別なとりくみ」を核保有国とすべての国に求め、核兵器〔廃絶〕条約の交渉開始を求める潘基文・国連事務総長の提唱に注目した。国際緊張の焦点である中東の非核地帯化のための全当事国による会議も2012年に開催することが決定された。
「核兵器のない世界」が国際政治の明確な目標となったいま、つぎに求められるのは、その実現のための具体的行動である。我々は、核兵器の全面禁止を達成するため、核兵器廃絶条約の交渉と締結を要求する。条約交渉のすみやかな開始を求める行動を世界各国で具体化し、強化・発展させるようよびかける。国連総会などを節目に、国際的な世論の結集をはかろう。
包括的核実験禁止条約の批准と発効、核分裂物質生産禁止条約の交渉開始、米ロ新戦略核兵器削減条約の発効とさらなる大幅削減、非核兵器国への核の威嚇・使用の禁止もただちに実現されるべきである。
NPT再検討会議において、いくつかの核保有国は、核兵器廃絶への行程の協議や廃絶条約の交渉開始、廃絶の期限設定などを最終文書に盛り込むことに反対し、批判を呼んだ。こうした態度の根底には、核兵器による脅迫で影響力の確保をはかる「核抑止」政策がある。「核抑止力」論は、あらたな核保有を誘引し、核兵器拡散の要因ともなっている。これこそ「核兵器のない世界」実現への最大の障害である。
核兵器の脅威を根絶するには「核兵器による安全」ではなく、「核兵器のない世界の平和と安全」を達成する以外にない。核保有国とその「核の傘」のもとにある同盟国に、これと決別するよう迫る広大な世論と運動が必要である。それぞれの国の行動を広範な人々の参加で発展させ、相互に連帯し、圧倒的な世論の力で、「核抑止力」論を打ち破ろう。
我々は、核兵器の先制不使用と使用禁止を要求する。核軍備の強化と近代化、先制攻撃態勢を強めるミサイル防衛に反対し、外国・公海に配備された核兵器の撤去を要求する。中東をはじめとする非核地帯の創設と拡大を支持する。北朝鮮の核兵器問題もまた「朝鮮半島非核化のための6者協議」を含め対話を通じて平和的に解決されるべきである。
被爆国日本が米国の「核の傘」に依存することは、アジアの平和と安全、「核兵器のない世界」の実現にとって重大な障害である。我々は、憲法9条を守り活かし、核兵器持ち込みを認める米国との「密約」を破棄し、「非核三原則」の厳守により日本の非核化をめざす運動、沖縄・普天間基地をはじめ在日米軍基地の再編・強化に反対し、その撤去を求める運動に連帯する。
我々は、戦争と侵略、武力による威嚇に反対する。イラクの占領とアフガニスタンでの軍事作戦に反対し、主権尊重、外国軍の撤退を求める。民族的権利のためのパレスチナ人民の闘いに連帯する。外国軍事基地に反対し、その撤去を求める運動と連帯する。NATOや日米安全保障条約のような仮想敵を想定した軍事同盟ではなく、国連憲章にもとづく平和の世界秩序を支持する。
いまやひとにぎりの大国が世界を支配できる時代ではない。我々は、すべての国が国際法を尊重し、対等・平等に役割をはたし、市民社会の積極的な貢献によって支えられる新しい世界の戸口にいる。反戦平和、枯葉剤など戦争被害の救済、地球環境の保護、女性の権利と地位の向上、飢餓・貧困・失業の解決、軍事費の大幅な削減と福祉の向上などを求める市民の運動は、新しい世界を創る重要な担い手となろうとしている。これらの運動、国連、諸国政府、自治体と連帯し、「核兵器のない世界」を築きあげよう。
被爆65年にあたり我々は、広島・長崎の被爆者、世界の核被害者への支援を強化し、その体験とたたかいを「人類的な事業」として継承するようよびかける。被爆者とともに、そして未来を担う若い世代とともに、いまこそ行動に立ち上がろう。
2010年8月4日
原水爆禁止2010年世界大会-国際会議
原水爆禁止2010年世界大会-広島決議
広島からのよびかけ
広島・長崎の被爆から65年—「ふたたび被爆者をつくるな」「核兵器をなくせ」という被爆者の声は、世界の揺るぎない流れとなっています。
今年5月のNPT再検討会議に690万余の署名を積み上げ、1600名もの代表を派遣した私たちの行動は、核兵器廃絶を求める大波となって国連本部を包みこみ、「核兵器のない世界」の実現は国際政治の明確な目標として再確認されました。広島の平和祈念式典に出席した潘基文国連事務総長も、被爆者が生きているうちに核兵器廃絶を達成しようとよびかけました。
いま必要なのは、核兵器全面禁止・廃絶条約の交渉をすみやかに開始することです。しかし核保有国は、期限を設けた廃絶交渉に反対しています。その根底には、核による脅迫で自国の安全を守ろうとする「核抑止力」論があります。これこそが「核兵器のない世界」実現にとっての最大の障害です。
被爆国であるにもかかわらず、アメリカの「核の傘」のもとにある日本の在り方は、とりわけするどく問われています。日米軍事同盟の強化をねらう菅政権のもとで、アメリカの核持ち込みを公然と認める「非核三原則」の空洞化が検討され、普天間問題でも「日米合意」による沖縄への基地押しつけが強行されようとしています。私たち日本の運動の役割はますます重要になっています。
原水爆禁止2010年世界大会に参加した私たちは、つぎの行動をよびかけます。
核兵器廃絶条約の交渉開始を求める声をさらに大きく広げましょう。「核兵器のない世界を」署名をはじめ、国民の声を結集し、世界の諸国民と連帯する多彩な行動を発展させましょう。広範な人びととの共同、自治体ぐるみ、住民ぐるみの運動をさらに発展させ、地域・職場・学園に「核兵器のない世界」を求める強固な世論を構築しましょう。
アメリカの「核の傘」からの脱却を日本政府にせまりましょう。「核密約」の破棄、「非核三原則」の厳守と法制化、「非核神戸方式」の普及・拡大、「非核日本宣言」の運動をさらに発展させましょう。沖縄の人びとと思いをひとつに米軍普天間基地の無条件撤去を求め、新基地建設に反対しましょう。米軍基地の再編強化と自衛隊海外派兵に反対し、憲法9条を守りいかす運動、軍事費削減、いのち・くらしと雇用を守る運動をいっそう強めましょう。
被爆の実相をさらに解明し、これを学び、世界にひろめることは、核兵器廃絶条約を求める世論を強め、「核抑止力」論を打破するうえでも決定的に重要です。被爆者の体験と思いを聞き取り、映像・活字などあらゆる形で記録して、発信・普及・共有していく運動を、「人類的な事業」としてくり広げましょう。原爆症認定集団訴訟の成果を踏まえ、原爆被害の実態に即した被爆者行政へ抜本的に転換させましょう。
核兵器や軍事力で平和を守るという「抑止力」論を打ち破るため、いまこそ大いに学び、国民的議論を巻き起こしましょう。被爆者とともに、そして若いエネルギーを結集し、「核兵器のない世界」の実現にむけて前進しましょう。
ノーモア・ヒロシマ ノーモア・ナガサキ ノーモア・ヒバクシャ
2010年8月6日
原水爆禁止2010年世界大会-広島
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