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原水爆禁止2010年世界大会−広島
8月6日 閉会総会
民主主義、軍縮、法の支配
セルジオ・デュアルテ(
国連軍縮問題担当上級代表)
原水爆禁止2010年世界大会で発言の機会をいただいたことを心から歓迎します。国連事務総長自身が広島平和祈念式典で演説した今日のこの日にお話しできて、なおさら嬉しく思います。
1945年8月6日にここ広島で亡くなられた方々を追悼し、被爆者として想像を絶する苦しみに耐えてこられた方々と、全世界の人々との連帯を象徴するこの厳粛な行事に、国連事務総長が参加するのは初めてです。今日はまた、全世界が核兵器のない未来を達成するという共通の約束を再確認する日でもあります。
潘基文事務総長による広島・長崎両市の訪問は、現在世界で起こりつつある非常に積極的な動きの最も直近の一例にすぎません。人類は古く困難な課題に挑戦する必要性に目覚めつつあります。たんに世界的核廃絶を討論して、願うだけでなく、実際に達成するという課題です。
「古い困難」と言うのは、各国政府も市民社会も、核兵器廃絶の達成に65年も前から取組んできたからです。これが1946年1月に国連総会が採択した第一号決議の目標であったことを考えると、核兵器廃絶は国連の最も古い目標と言えるでしょう。ここ日本で、原水協が創立され、この目標に取組み始めたのは、1955年9月のことです。それはちょうどダグ・ハマショルド元国連事務総長が、核軍縮は国連に根をはった「多年草」だと評したのと同じ年です。そのようなわけで核兵器廃絶の目標は、核兵器そのものと同じくらい古いのです。
しかし私が元気付けられるのは、この目標が古いからだけでなく、世界中で支持を獲得しているからです。核兵器廃絶を支持する人々は、市民個人から多彩な公益グループ、職業団体、都市、地方政府、市民団体、知事、各国政府そして地域・国際組織に至るまで、文字通りあらゆる社会的・政治的階層にまたがっているのです。
核兵器廃絶という目標は東西、南北の違いを超えて人々を団結させてきました。そして世界中のすばらしく多彩で様々な文化、人種、宗教に支持されています。老若男女を問わず、富めるものも貧しいものも、団結させる問題です。核兵器廃絶を支持する人々は、志を同じくする市民の団体よりずっと多数の人々を結集し、それよりはるかに強い絆で私たちを結び付けているのです。
私たちは集まって、共通の利益や価値観、あるいは誓約や決意で結ばれているある種の家族、あるいは地域社会を形成します。核兵器よりも強力な唯一の勢力は、共通の大義のもとに結集した世界の人々の連帯であり、核兵器廃絶は大義のうちでも最も偉大で高貴なもののひとつです。
今では、私たちは誰でも核兵器廃絶が非常に複雑な課題であるとわかっています。解決するのが難しい技術的問題もあります。核兵器を恐れる一方で、核兵器がなくなることに危険や不安を感じる人も多くいます。軍縮の約束が破られたらどうするのか。約束違反がおきたらどうするのか?軍縮が普遍的に実施されなければどうするのか?
このような疑問を呈するのは簡単ですが、軍縮に代わる対案について別の種類の質問がほとんど出ないのは残念です。私たちは軍縮を実施した場合の危険性を懸念することは多いのに、軍縮に失敗した場合、すなわちわれわれの現在の安全保障へのアプローチそのものがはらんでいる危険性を忘れているのです。
皆さんも軍縮をすすめる代わりに、どんなひどいことがおきているか良くご存知でしょう。社会・経済ニーズを満たす予算を犠牲にした軍事費の増加、先制攻撃の脅迫、完璧なミサイル防衛のあくなき追求、不拡散とテロ対策だけで世界的な核の脅威に十分対処できるという主張、いまや9カ国にまで広がった伝染性の核抑止ドクトリンなどです。
私は、今日お集まりのみなさんが、これらの危険性を警告すると同時に、核兵器廃絶こそ真の安全保障の道だと強調してきたことに感謝しています。
この会場のすぐ近くにある相生橋は、1945年8月6日の原爆投下の目標でした。広島市民は、あの日から、日本と世界中の人々の支援を受け、新しい種類の橋を築いてきました。それは非核兵器国からなる新しい世界に続く架け橋です。しかし、この橋を渡るためには、通行料を払わねばなりません。
私たちはいかなる形の核兵器使用も国際人道法違反であることを認めなければなりません。もし使用が違法なのなら、保有や使用の威嚇はどうやって正当化できるのでしょうか?一部の国が核兵器を持ち、たとえそれを使っても法的、道徳的に許されるのなら、それらの国は一体何を根拠に、他国が核兵器を入手する権利を否定できるのでしょうか?それが実際に起きたとき、世界はその結果より安全になるのでしょうか?私たちの目標は、たんに核戦争の数や核兵器使用の危険を減らすとか、核兵器を入手する国を増やさないということであってはいけないのです。そうではなく、二重基準をなくし、普遍的目標の核兵器廃絶を追求するのです。それこそが万人の真の平和と安全を保証する持続可能な道です。
みなさんと同じく、私も核兵器はどこにあっても危険だと思っています。私たちは、核兵器を入手しようとしている国のよしあしではなく、核兵器の本質そのものを理由として、その拡散に反対するのでなければなりません。伝染性の核抑止ドクトリンを克服し、共通の安全保障の強固な土台を築くことで、核兵器のない世界を達成しなければなりません。それは、核兵器に依拠しないでも安全が保障され、各国政府が社会的・経済的ニーズの充足をもっと重視し、人間を破滅させる兵器を作る者ではなく、人間に奉仕する者にこそ地位や権威が与えられる未来の世界です。
先ほど言った偉大な架け橋とは、知識と行動の間をつなぐ橋でもあります。被爆体験を世界中の学校教育に取り入れるよう努力しましょう。事務総長が述べたように、被爆者の証言を世界の主要言語に翻訳することから始めてはどうでしょう。被爆者は核戦争の人道的影響を世界に教えための最良の教師です。そして、軍縮がいかに安全保障を強化し、開発を促進するかをすべての人々に示さねばなりません。
また社会の全ての既存組織を関わらせることが必要です。軍縮は誰にでも利益をもたらすからです。世界平和市長会議のキャンペーンでの広島・長崎両市長のリーダーシップを歓迎するのはそのためです。世界の国会議員や地方議員も声を上げています。これは国際社会が歓迎すべき非常に大きく重要な発展です。
国連事務総長が2008年に提案したように、核兵器廃絶条約の交渉開始を核保有国に働きかけねばなりません。また合意された期限内に達成する意志を宣言するよう促しましょう。これは非同盟運動がすいぶん以前から求めていることです。
「期限」は物議をかもす問題でしたが、何十年間もNPT再検討会議で提案され続けてきたテーマです。
平和市長会議は2020年を目標の期限として提案しました。2020年と言えば広島・長崎原爆投下から75年後であり、国連総会が「全面完全軍縮」を課題として61年、そして核兵器廃絶の誠実な交渉を締約国に義務付けたNPT条約発効から半世紀が過ぎた年です。
2020年が「時期尚早」なら、いったい、核兵器廃絶が達成されるのはいつになるのでしょうか?
将来の不安定要素を考えれば、核保有国が、特定期限までに核兵器を廃絶する法的義務を課されたくない理由は理解できます。しかし、世界は、たとえ拘束力のない政治的宣言であっても、核保有国が一定の期限内に目標達成をめざす意志が何らかの形で示されることを期待しています。ある年までに核兵器廃絶を「達成するよう努力する」と宣言することには何のリスクも恥じることもないはずです。むしろ言葉と行動の両方で、本格的な軍縮に取組むというシグナルを世界に送ることはとても効果的です。
期限が合意されれば、各国がそれぞれ核兵器廃絶達成計画をたてるのに役立ちます。核保有国は核兵器廃絶達成の公的計画作りは短期的な優先課題にしなければなりません。計画作りそのものを長期的目標にしてはいけないのです。
期限を切った軍縮合意に失敗すれば、各国は核不拡散でも、より踏み込んだ誓約を行うことを渋るでしょう。核軍縮を単に「究極的目標」として扱うと、核不拡散の約束さえも究極目標とみなされるようになります。この点を論議することは、持続不可能なダブルスタンダードに頼ることにしかならないのです。
このような窮地に陥らないで済ますこともできます。潘基文事務総長が2008年10月に提案した核兵器廃絶5項目の理にかなった道を歩み、具体的進展を達成することに着手すればいいのです。この提案の特徴は、軍縮分野にも「法の支配」を広げる必要性を強調している点です。事務総長は、核兵器禁止条約あるいは、それとは別の相互に強化しあう法的文書あるいは枠組みの交渉開始を提案しました。日本が長年促進してきたCTBT条約の早期発効と、カットオフ条約の交渉開始も呼びかけました。また核兵器国にたいし、非核兵器地帯設立条約のすべての議定書を批准し、非核地帯のなかの国を、核兵器の威嚇や使用の標的としないと約束するよう呼びかけました。
軍縮には「法の支配」だけではなく、民主主義も取り入れなければなりません。人々が十分情報を得た上で軍縮に参加するためには、軍縮の約束を果たすために各国がしていることついての情報をすぐ入手できるようにする必要があります。
この5月のNPT会議は、国連事務総長に、各国の条約遵守の活動について情報を収集することを義務付けました。これは人々への情報提供と、公的説明責任の基盤確立に役立つのではないでしょうか。さらに、核弾頭や運搬システムなど核兵器の規模の詳細や、兵器用核分裂性物質の状態などをまとめた包括的な世界核軍縮データベース確立の基礎になるかもしれません。
人々の軍縮への関心が高まるにつれ、軍縮達成のために活動する市民社会グループへの資金援助の要求も高まるでしょう。核不拡散とテロ対策はたしかに重要な目標ですが、核軍縮を大きく前進させることこそ、その最大の貢献となると私は考えています。こんにち私たちを脅かしているのは核兵器拡散とテロだけではありません。これらは核兵器があいかわらず存在しているという、より重大な脅威を反映したものに過ぎません。この引き続く核兵器の存在の問題を解決できれば、そのときこそ、その他の問題の解決も期待できるようになるのです。
最後にみなさんにお約束します。毎年8月6日、世界の目が広島に注がれるとき、世界の人々の心はつねにみなさんとともにあります。皆さんとともに核兵器のない世界を目指して歩めることを誇りに思います。これは正しい大義であり、過去の被害者や将来の世代にたいする私たちの共通の責任でもあります。今こそ、前進のときです。さあ、この偉大な橋をともに渡ろうではありませんか。
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