インドネシア政府は、核軍縮問題を非常に重要な問題であると考えています。私は、原水爆禁止世界大会実行委員会に対し、大会を成功裏に行い、この緊急な問題について世界の認識を高めることに貢献されていることに、賞賛の言葉を送ります。また、実行委員会に対し、私を招待し、核兵器に関して、私の政府の立場について簡単に説明する機会をいただき、お礼を申し上げます。
インドネシアは、他の国々のように、冷戦の終わりとともに、新しい時代が始まり、核軍縮と安定がすすむと思っていました。しかし、残念ながら、狭い戦略的な考えや、核兵器の広がり、新しい先制ドクトリンなどによって、何ら実質的な前進はありませんでした。さらに、基本的な軍縮インフラストラクチャーの弱まり、核軍縮で最も重要な努力である多国間外交への侵害が生じています。実際に、異なる戦略利益、新たな軍拡競争の兆し、最近朝鮮半島に見られるような、核とミサイル技術の拡散などは、ここ数十年のどの時点よりも、大きな懸念をひき起こしています。これに加えて、テロ集団が核物質を使う可能性もあります。これら、最近の進展は、人類の安全と生存にとって、危険なものです。
これらの問題へのアプローチとして、重要なことは、核兵器の所有が、使用の可能性をもたらすということを認識することです。それゆえ、軍縮プロセスの究極的な目標は、核兵器の廃絶でなければなりません。しかしながら、核兵器の役割を少なくするということは、現実的には期待できません。核兵器の使用を含めた戦略ドクトリが存続し、核兵器が一部の国で安全保障を強化するために用いられているからです。軍縮プロセスの成功は、安全保障について我々の考え方を変えること、もはや、現在の地政治学的な状況にそぐわない兵器を廃棄しようとする意志とやる気にかかっています。
インドネシアは、核軍縮および軍縮全般を促進している国際社会の積極的な一員です。他の非同盟運動の国々とともに、多国間協議によって、軍縮を具体的にすすめるためのいくつかの提案を行ったり、支持したりしてきました。そのなかには、現在のNPT体制を支える手段としてカット・オフ(分裂物質生産禁止条約)の促進などがあります。この提案は、テロ集団が分裂物質を入手するかもしれないという懸念に対処するものです。また、同時に、核不拡散体制における交渉で、いくつかの国の果たすべき役割をずっと果たしていないことに対する非核保有国の不安感を鎮めるものです。また、既存の非核兵器地帯の強化、とりわけ核保有国による非核地帯議定書の遵守もその一例です。既存の非核兵器地帯のうち最も有名なのは、1995年にASEAN(東南アジア諸国連合)が確立した東南アジア非核兵器地帯、そして、最近設置された中央アジア諸国の非核兵器地帯です。さらに、核実験のモラトリアムと包括的核実験禁止条約の発効があります。また、2000年のNPT再検討会議の最終文書の第6条15の12にもとづいて、核兵器保有国に、全ての核兵器についての情報を提出させることも、非同盟運動のおこなった提案です。 東南アジア非核兵器地帯は、東南アジア地域における全面完全軍縮と平和・安全保障の促進というASEANの決意にとって、重要な要素であることを指摘すべきでしょう。ASEANは、条約のもとで核保有5ヶ国の誓約をさだめている議定書への加盟の条件について、彼らとひきつづき交渉を行なっています。この交渉がうまくいくことを期待しています。
同様に、包括的核実験禁止条約の発効は、核保有国が真剣に義務を果たし、条約に調印した166ヶ国と、批准した97ヶ国の期待に応える意志を試すリトマス紙だと、私は考えています。
これらの約束の全てにおいて、私たちがIAEA(国際原子力機関)の基本的な役割を支持していることを指摘したいと思います。アジアの経済発展をすすめるうえで、核エネルギーの平和利用の追求は、途上国の譲ることのできない権利です。そのため、核物質の安全な管理のためには、IAEAの技術協力と役割が不可欠であり、それを尊重しなければなりません。
核不拡散と究極的な核軍縮は達成することができるし、また達成しなければなりません。核兵器がもたらす恐ろしい破壊と大きな苦しみを世界は経験しました。したがって私たちは核兵器の存在を受入れてしまうのではなく、世界からこの兵器をなくさなければなりません。
最後に、世界大会実行委員会と大会参加者のみなさんに敬意を表するとともに、核兵器のない希望ある世界へのアピールに対し、私たちの支持をお約束します。広島と長崎の原爆投下の後、1947年、アルバート・アインシュタインは次のように言いました。「私たちの唯一の安全保障と唯一の希望、それは知識をもった市民が、死のためではなく、生のために行動すると私たちが信じることにある。」
ありがとうございました。