イギリスの核軍縮運動(CND)から、この世界大会への挨拶を申し上げます。私たちの重要な平和のたたかいを象徴する広島を訪れることができて感激しています。
私たちは、新らしい情勢のもとで、平和・核軍縮運動にとりくんでいます。私たちは、地球的規模での核兵器廃絶を要求しその運動を続けているわけですが、同時に核兵器が使われる現実的危機に反対するという、これまでにない大きなたたかいに立ちむかっています。2001年9月11日以来、世界は、ますます強まる先制攻撃戦争の考え方、そしてその現実の流れに直面しています。国際法がまったく無視され、核先制攻撃政策が強化されてきました。私たちの力によるところが大きいので、私たちは、この新しい世界情勢から出てくる課題にむかって立ち上がらなければなりません。しかし同時に、重大な危機と課題に直面しつつも、私たちには、大きな可能性をもった財産があります。それは、平和の事業にたいする広範な大衆的支持、地球をおおう巨大な反戦運動であり、こうしたなかで、実際の要因についての理解が増大しているのです。
イギリスでは、世界で何が起こっているかを理解してもらうこと、そしてどうしたら私たちの運動を進めるための適切な方針を発展させられるかに重点を置いています。では、新たな世界情勢とは何でしょうか。そして、私たちはどのようにこの重要な運動を発展させ、これ以上の先制攻撃戦争の可能性や、核攻撃の現実的危機を阻止することができるのでしょうか。
対イラク戦争は、世界の力関係をアメリカにいっそう有利にしてしまいました。これが、まだ進行中のアメリカ主導の戦争のいちばん新しい段階で、アメリカの意識的な戦略の一部であるに過ぎないことは明白です。最近の対アフガニスタン戦争は、すでに、中央アジアにおけるアメリカの影響力を確立しました。1990年代の対ユーゴスラビア戦争は、すでに、バルカン諸国に米軍基地を強化しました。実際、軍事的には、1991年のソ連と冷戦の終焉以来、アメリカは大きく前進しました。とはいえ、アメリカの権力もある意味では頂点にあり、総合的に状況を把握するうえで、われわれが考慮すべき矛盾点がこの情勢下に出てきています。第一に、アメリカは軍事的には大変強力でありますが、巨大な財政赤字に証明されるように基本的な経済問題をいくつか抱えているという点です。第二次世界大戦から1970年代半ばまで、アメリカ経済は非社会主義世界を援助し、実際に覇権を握っていました。1970年代半ば以降、状況は逆転し、アメリカは、他国を犠牲にして成り立つようになり、本格的な対立関係をうみだしました。アメリカが世界でも突出しているのは現実ですが、それは世界の富を吸い上げることで維持されています。しかし、それを基盤にして、かれらは、戦後数十年に彼らが得たような、支配にたいする同意を得ることはないでしょう。今や、アメリカはその支配を構築するには軍事力を必要とし、アメリカ経済に必要な経済的手段を確保することを、その主要素としています。ですから、アメリカによる中東支配は、石油がアメリカ経済に占める重要性のために、決定的要素になるのです。アメリカの支配は、新自由主義的グローバル化を採り入れたことでも実施されました。これも、世界中で大きな反対運動の発展をもたらし、その勢力が、最近の世界的危機の中で、平和・反戦運動と団結し、強化してくれました。
アメリカは、地球的規模での支配の頂点にあるように見える一方で、実際は覇権を失いつつあります。これまでアメリカを支援していた人民や国さえもが、身を引きつつあるからです。
イラクにたいする戦争では、アメリカは世界中で大きな市民の反対にあいました。この反対運動は、世界各地で起こっていた既存の新リベラル主義やグローバル化に対する反対勢力の上に築かれ、そういった反対勢力を統合しました。これまでにない数の市民が、存在するはずの大量破壊兵器という口実や人道的戦争という議論にとりこまれることなく、この戦争の真の目的を見抜きました。しかしこの戦争は、重大な予期せぬ発展も招きました。先進国間に深い溝をつくり、フランス、ドイツ、ロシアなど、自国経済と国益に否定的影響を与えかねないアメリカのさらなる経済・軍事支配とは一線を画そうとした諸国と、アメリカの枠組み内にとどまろうと努めた諸国の間で、NATOとヨーロッパ連合(EU)の内部分裂をまねいたのです。
しかし、諸国民や諸国家の同意を失ったからといって、アメリカが揺らぎ諦めるわけではありません。それどころか、その軍事力は高まる一方にみえます。再び先に進む姿勢をみせていることと、イランに照準を当てていることが、それを示しています。政治的枠組みへの介入をつうじて体制変革を実現できなければ、戦争にふみ出すことは間違いないでしょう。私たちは、宣伝行動で、これは私たちがつくった陰謀計画の類ではなく、明らかにアメリカの総合的な姿勢は米政権によって練り上げられたものなのだ、ということを明確にしていますが、そのことへの理解が、反戦運動の主張を強めました。私たちが、特に宣伝行動で取り上げる点が3つありますが、そこで地球的規模の支配観が明白に説明されています。
まず、アメリカの世界的指導力を高めるのを目的とする新保守主義のシンクタンク、「新アメリカの世紀プロジェクト」です。これには、チェイニー(米副大統領)、ラムズフェルド(米国防長官)、ウォルフォウィッツ(米国防副長官)が参加し、アメリカの指導力がアメリカと世界の両方にとって良いものであり、その指導力は軍事力で成り立つとする基本的主張を唱えています。この考えは、1990年代初期のチェイニー国防長官(当時)が、アメリカ支配を確実にするための攻撃的な一国行動主義的手段に基づく「力による平和」政策を打ち出した頃に端を発します。
この枠内で2つの軍事政策がおこなわれています。ひとつは、全体的広域支配で、米国防総省統合ビジョン2020という文書のなかで、陸、海、空と宇宙において、いかにアメリカが全体的広域軍事支配を実現するかが説明されています。アメリカの国家ミサイル防衛計画が、この側面であることは明らかで、反撃の恐れのない他の諸国に核による先制攻撃をアメリカが仕掛けることを許しています。CNDは、この問題をめぐる大きな宣伝行動にとりくみます。ふたつ目は、2001年12月にアメリカ議会に提出され、むこう5 ̄10年にわたるアメリカ核部隊の方向性を示した核態勢見直し(NPR) です。これは、アメリカの核戦略のアプローチを変更するもので、どのような抑止力論も事実上排除し、攻撃態勢と核兵器の第一撃使用政策を取り入れるとしています。こういった政策の展開では、先制行動と一国行動主義が優勢になっており、これも宣伝では重要な部分です。
こういった問題への理解が、私たちの運動をより効果的にし、アメリカとイギリスに存在する矛盾と弱点を理解することが、私たち自身の活動方針を実施する上で役立っています。イギリスが非核保有国に対しても核兵器を使用する用意があるときに、他国が大量破壊兵器を保有しているという疑惑のもとに参戦したイギリス政府の核の偽善を露呈することは、反対勢力をきずく上で大変重要でした。国民は、イラク政権にたいして国際条約に従っていないと非難したイギリス政府が、保有する核兵器をなくすという核不拡散条約における自身の義務を順守していないことを良く知っています。こういったすべての問題とそのつながりへの理解がますます広がっており、それがイギリスにおける平和・反戦運動を大きく強化していきました。私たちが直面する身近な脅威、その問題を地球的規模で理解することが、諸国間や異なるタイプの活動家や運動、社会運動の間のつながりを形成するのに役立ちました。2月15日の世界規模の統一デモ行動の組織に貢献した国際反戦行動調整委員会は、2002年11月にフィレンツェで開かれたヨーロッパ社会フォーラムの会議から始まりました。世界中で、市民は、社会問題と戦争、グローバル化と戦争、資源の利害と戦争のつながりに気がつきつつあります。これが、私たちがこれまでにない広範な運動を、社会的政治的にきずくのに役立ちます。イギリスの反戦運動の強みのひとつは、CNDと戦争阻止連合の大きな動員力に加えて、英国イスラム教徒協会が中心的役割を担ったことです。この協力関係は強化され維持されるでしょう。私たちは、方針と目的に新しい視野と分野を得るために、運動の概念を考え直す責任があります。すべての勢力と協力し、発展し、とりくむようにしましょう。私たちの成功への鍵は、団結、多様性、そして国際協力にあります。