アメリカ政府は国連憲章の先制攻撃禁止の原則をじゅうりんしてイラクに対する戦争を強行したが、この戦争が準備されて以降の経過でもっとも注目されるのは、開戦のはるか前からこの戦争に反対する国際世論と諸国政府の行動と国連における論議が国際平和のルールを守れの一点で大きくひろがったことである。この動きは、ブッシュ政権の先制攻撃の理不尽さを実証する一方で、戦争を阻止し平和をまもる21世紀における国際社会の新しい流れがつくりだされつつあることをはっきりと示した。
世界各国で、大規模な反戦平和の嵐のような運動がくりひろげられたが、戦争が始まる前からこれほど大きな規模の反戦の集会やデモがおこなわれたのは、歴史上はじめてである。そして、重視されることは、この世界的な運動を背景に、世界の非常に多くの国々の政府が、戦争に反対したことである。戦争に反対ないしは不同意という態度表明をおこなった国は、130カ国以上にのぼったが、それは国連加盟国の約70%にあたる。さらに、国連でも、安全保障理事会でアメリカがくわだてる戦争を支持するか否かをめぐり、最後まで激しい論議がかわされたが、これも前例のないことであり、ブッシュ政権が強くのぞんだ戦争を正当化する安保理決議はついに実現しなかった。
戦争に反対したこれらの大きな流れは、「国連の平和のルールをまもる」ことを主張したが、このことは、単にイラク戦争だけのことにとどまらず、21世紀の今後にとってきわめて重要な意味をもつものである。
一方、平和のルールをじゅうりんして戦争を強行した米英軍は、世界の人々が憂慮していた通り、一連の非人道兵器を含む軍事攻撃によりイラクの一般市民の多数を犠牲にした。生命を奪われたイラクの一般国民の数について民間団体イラク・ボディ・カウントが丹念な調査結果にもとづいて推定したところでは、最小でも6000人を越し、最大では7780人余に達する。年齢の低いこどもたちの犠牲が多いのが一つの重要な特徴であり、この調査団体が5月末段階で作成したイラク人死亡者名簿の最初の100人分では、年齢が判明した80人の中の半数以上が20歳以下であり、とくに幼いこどもたちの犠牲が目立っている。
なぜブッシュ政権は、世界の声を無視してこの無謀で不法な戦争をおこなったのだろうか。つきつめていえば、人類社会が20世紀の2度にわたる世界大戦の悲劇的経験の教訓からきずいた世界の平和のルールを犯してでも、自分の利益にそむくものはすべて軍事攻撃の目標にするという戦略の実行にほかならない。このために、アメリカ政府はいま通常戦力においても核兵器においても世界のなかで圧倒的優位を保持しようとして、あらたな軍拡をすすめ、また新しい核兵器の開発に着手し、核使用計画を具体化しつつある。新しい核戦略の中心思想は、通常兵器と同じように「使える核兵器」を手ににぎることである。すでに、その一環として、「非核保有国への核兵器使用はおこなわない」という第1回国連軍縮特別総会のさなかの1978年以来の伝統的な政策を一方的に破棄した。しかし、そのアメリカがみずからに先制攻撃を許す口実を、テロ問題とともに相手側の大量破壊兵器開発においているのは、驚くべきことである。
実際、アメリカ政府とイギリス政府は、イラクへの戦争をはじめるにあたって、フセイン政権の大量破壊兵器問題を、戦争合理化の最大の口実とした。イラクがかつてイランとの戦争で化学兵器を使ったというよく知られた歴史的事実や、かつてイラクが核兵器開発をくわだてたという過去の事実をたよりに、いまも現に大量破壊兵器を持っているとか、45分以内にそれを使用するため配備可能だなどと強調して、戦争に持ち込んだ。しかし、現在ワシントンとロンドンから連日報じられているニュースは、前から決めていたみずからの戦争遂行のシナリオに合わせて、イラクの大量破壊兵器問題の情報を捏造し、ウソを使って戦争に突入したことを明確に証明している。これは、世界の平和を二重、三重にふみにじる行為である。もともと大量破壊兵器拡散に対し軍事攻撃で対抗するというブッシュ政権の戦略は、相手側が大量破壊兵器をもっていたり開発したりしているかもしれないという、単なる疑いの段階でさえも、必要なら先制攻撃をおこなうというものである。これは、先制攻撃の最悪の形の「予防戦争」の考えであり、ウソの理由で戦争をしかけることをも可能にするものである。先制攻撃の実行自体が、世界の平和のルールじゅうりんの重大な行為だが、それに加えてウソを使ってこの戦争に突入したということは、イラクへの軍事攻撃があらゆる意味で不法なものであったことを重ねて裏書きするものである。
この戦争を始める前から、ブッシュ政権が極秘裏にイラクへの核兵器使用計画を練ったというアメリカの新聞ロサンゼルスタイムズの暴露には、唖然とせざるをえなかった。これは、「お前は絶対に持つことを許さないし、持とうとしたら戦争をしかけてでも阻止する。だが、俺は世界最強の核兵器をにぎりつづける自由があり、それを世界で使う自由もある」というものである。大量破壊兵器問題の世界的拡散に拍車をかけることはあっても、その解決にはつながりえないことは明らかではないか。
大量破壊兵器問題の抜本的解決のための方策は、核兵器をはじめすべての大量破壊兵器を一日も早く全面的に禁止すること以外にないのはますます明らかである。生物兵器と化学兵器の双方の禁止条約がすでに成立している事実、2000年のNPT再検討会議最終文書が核保有国による自国の核兵器の廃絶の実行を約束した事実、またイラクなどでの大量破壊兵器問題の国際査察がかなりの程度成功をおさめて大量破壊兵器を封じる有効な手段であることが証明されている事実をみれば、大量破壊兵器の全面禁止を国際世論の圧力のもとに実現させることだけが真の基本的解決策となること、またそれがもっとも現実的な解決策であることは、疑問の余地がない。ブッシュ政権の危険な大量破壊兵器拡散への軍事対抗戦略を目にして、いまこそ核兵器廃絶のすみやかな実現のための世論を起こすべき時だとの声が世界的にあがっている。核兵器廃絶の早急な実現こそは、世界の平和にとっていっそうの緊急性を帯びた中心的課題となっていることを再確認したい。
いま、イラクにおける米英軍の軍事占領は、新しい植民地主義をおしつけるものとしてイラク国民の批判と抗議をひろげている。不法な戦争で始まったイラク戦争をひきつぎ、それを正当化して、米英軍がイラクでの軍事占領をつづけることは許されない。イラク戦争の不法性についての国際的追及の手をゆるめてはならない。米英軍による不当なイラク軍事占領に手をかすことがあってはならない。
イラク戦争にたいして、日本では多くの国民が諸国民の反戦平和の声と連帯して、さまざまの反戦運動をくりひろげた。しかし、アメリカ政府に深く追随する日本政府は、戦争放棄を定めた日本国憲法に反して、イラク戦争を支持し、同時に日本にあるアメリカ軍基地をイラク戦争のための出撃基地に使われることに協力した。日本政府はさらに、米軍のイラク占領を助けるために自衛隊をイラクに派兵するための法律を、国会で強行成立させた。これは、日本国憲法の平和条項の正面からのじゅうりんであり、国会における自衛隊海外派兵禁止のかつての全会一致の決議をふみにじるものである。それに先立ち、日本政府は、「戦争国家体制」づくりのための有事立法を無理矢理通して、アメリカとともに戦争する国にするための国内戦争動員態勢づくりの法律も強行成立させたし、いまその具体化をすすめようとしている。イラクへの自衛隊派兵の法律と有事立法は、かつてアジア諸国に対して侵略戦争と植民地支配をおこなった日本がその反省にもとづいてつくった憲法の平和条項を、根本から踏みにじるものであり、アジア諸国に対する新たな不安と軍事緊張をつくりだすものである。私たちはこれに強く抗議してたたかいつづける。
私たちは、イラクに対する自衛隊の派兵実施に強く反対する。そして、世界の平和の流れに逆行する日本政府の動きを許さないたたかいを、私たち日本国民と日本の運動の国際的な責務として発展させる必要があると考える。
イラク戦争に反対するにあたって世界の諸国民と諸国政府が「国連の平和のルールをまもる」よう主張したことは、21世紀の今後にとってきわめて重要な意味をもっている。この要求は、戦争のない平和な21世紀をつくるための共同の旗印にほかならない。すみやかに核兵器を全面禁止すること、国際社会全体が国連の平和のルールをまもることを求めて、これに共感し支持するすべての人々と運動、そして政府が、思想、信条、宗教、価値観、国籍、社会的立場や社会制度の違いをこえて、国際的な連帯と共同をすすめることが、私たちにとっての中心的な課題であるとよびかけたい。これこそ、核兵器も戦争もない世界を実現するためのもっとも重要で確実な保証となるであろう。