原水爆禁止2001年世界大会
長崎・開会総会(8月7日)

マレーシア国連大使
ハスミ・アガム


議長、

  1. まず、原水爆禁止世界大会の実行委員会が私にこの重要な国際大会で発言する機会を与えてくださったことに感謝を申し上げます。長崎に来てこのように重要な大会に参加できることを、心からうれしく思います。悲劇的な記憶を持つ長崎を私が訪れるのは二度目になります。長崎は、いかに戦争、とりわけ核戦争が愚かしいことかを人類に思い知らせています。神はそのような戦争が再び起きるのを許しません

  2. この大会は、56年前の出来事を人類に思い起こさせるものであり、この悲劇の教訓を学びとる上で重要なこの大会です。戦争がいかに愚かであり、どんな結果をもたらすかをあらためて教える大会であり、長崎の原爆犠牲者を追悼し、いまなお苦しみ続ける被爆者の方々に心を寄せる場となっています。私は参加できませんでしたが、広島でも同様の行事が行われたと思います。

  3. 国際的には、政府も社会も、引き続き核戦争の危険を警戒しなければなりません。冷戦と東西対決が終わってもその危険はつねに存在しているからです。公然の核保有国はいまなお何万発もの核爆弾を保有しています。核保有を明らかにしていない国の核爆弾も、数こそ少ないものの、やはり殺人的で不安定です。これら大量破壊兵器が徹底的に削減され最終的に廃絶されるまで、人類は警戒を緩めることも怠ることもできません。それだけに世界中の核軍縮運動が重要でありこのような大会が必要なのです。

  4. 私たちは、核兵器国にごまかされたり、簡単に説得されたりしてはなりません。保有国は、核によるホロコーストの危険は遠のいたし、世界から実質的に消え利去り、核軍縮はもはや人類を悩ませる焦眉の問題ではない、と主張しています。また、核軍縮に関して最近得られた大きな成果や核兵器のさらなる削減を適切に進めたいなどと言っています。核軍縮の前進は、核兵器保有国間の交渉に任せるのがいちばん良いとも言っています。しかし、これまでの核兵器国の行動からして、核兵器国にこうした誓約を果たす能力や意思があると楽観することはできません。彼らが言う成果は、とても有益とは言えないものです。その理由は、次のとおりです。
    • 数千もの核兵器およびその発射システムを核兵器国は持っています。

    • 軍縮会議(CD)でのさらなる削減に関する交渉は、合意が得られないため何年もの間、棚上げにされている。

    • START IIはこの二国間条約の一方の国がまだ批准しておらず、そのためにSTART IIIの開始がひどく遅れています。

    • 包括的核実験禁止条約(CTBT)は、米国を含め、発効に必要な数の加盟国がまだ批准していません。

    • 不拡散条約(NPT)は全世界的なものになって折らず、逆に、南アジアの亜大陸の核実験および、インドとパキスタンの核クラブへの仲間入りによって台無しにされています。かなりの数の核兵器を保有しているとみられるイスラエルの核については言うまでもありません。

  5. まるでこうした心配をよそに、現在、いわゆるミサイル防衛計画をめぐって、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の修正あるいは廃止が論じられています。そうなれば、何十年にもわたる核兵器についての非常に困難な交渉で得られた貴重な成果を損ない、帳消しにし、核の均衡を崩すことになります。

  6. 1995年の核不拡散条約の無期限延長のさい、マレーシアは、核兵器国に核兵器を永遠に保持しつづける「白紙委任状」を与えることになるのだと注意を喚起しました。NPTを無期限延長すれば、非核兵器国が核兵器国に対して持っていた唯一のテコを失うと確信していました。NPTを期限付きで延長したほうが、核兵器国に条約の義務を守らせることができるだろうと考えたのです。現在、核軍縮の問題に対する核兵器国のやる気のない態度や、実質的な進展がないことからして、無期限延長に私たちが慎重かつ懐疑的態度をとっていたのは正しかったと思われます。

  7. 現在の情勢のもとで、国際社会がNPTに加盟している核兵器国に対し、条約の規定を完全に順守し、核兵器をさらに削減し最終的に廃絶するため真剣かつ「誠実に」交渉するというNPT第6条の誓約を果たすよう要求しつづけることが、どうしても必要です。条約加盟国がこの法的な義務を果たさなければならないことはについては、国際司法裁判所による1996年7月8日の歴史的な勧告でも再度述べられています。国際法の発展として重要なこの勧告で、同裁判所は、核兵器の威嚇や使用は、とくに人道法などの戦争法、環境法や人権法の制約を受けること、核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法に違反するのであり例外は極限状態だけであることを断言しました。また、核抑止が法によって認められているとは言えないとしました。国際司法裁判所はまた、自発的に、NPT第6条の解釈を説明しました。これは核軍縮に向けての誠実な交渉を求める条約ですが、国際司法裁判所によれば、「厳格かつ効果的な国際的管理のもとでのあらゆる分野にわたる核軍縮につながるような交渉を誠実におこない、完了させる義務が存在」します。要するに、核兵器の完全廃絶へ向けた交渉を実行し完了させる厳粛な義務を確認したのです。国際社会が圧倒的に、この歴史的な勧告的意見を歓迎しました。これはとりわけ、NPT加盟国に対し、第6条を実施する法的な義務を改めて強調したのです。

  8. 国際司法裁判所の所長、アルジェリアのべジャウイ判事の言葉をよく考えて見ましょう。「核兵器があることで、人類は一種の執行猶予で生存している……1945年8月6日のヒロシマ以降、徐々に恐怖が人間の第一の性質になっている。人類の命は、コーランで『長い夜の旅』と呼ばれている、終わりが予測できない悪夢のような様相を帯びてきている」。判事は続けて、次のように述べています。「人類は、邪悪で小さくならない核の脅迫に自らをさらしている。問題は、これをどう止めるかだ。法廷がこの使命を果たしたと国際社会にみなされるようになればよいのだが。たとえ法廷の返答が不十分に思われたにしても。そして、究極的には国家自体の創造に過ぎない国際法の不完全さを国際社会ができるだけすみやかに正してくれればと思う」。

  9. 国際司法裁判所の当時の所長が述べた重みのあるこの言葉は、意味深長であるとともに、示唆に富んでいます。残念なことに、国際司法裁判所の意見は、法的な拘束力を持たない「意見」にすぎないという理由で、核兵器国にしりぞけられ、無視されました。私たちは、不十分な点があるかもしれないにせよ、国際司法裁判所のこの画期的な意見を賞賛し、べジャウイ判事が命じているように国際法の不完全さを正す努力が必要です。国際司法裁判所の意見は、核兵器の威嚇と使用に関してはっきり述べているだけでなく、暗示されていることや具体的には述べられていないこともあります。核兵器廃絶要求は、政治的に正しいばかりでなく国際法と人道法にてらしても正しいのだという事実を励みとする必要があります。

  10. 国際司法裁判所の意見に励まされ、マレーシアはこの意見を非常に重く受け止め、1996年以降の総会で、この意見のフォローアップとして国連第一委員会と総会に決議案を提出しました。いくつもの国が共同提案国になり支持してくれました。核兵器国とその同盟国は反対しつづけていますが、私たちは、次回以降の国連総会でも提案し続けるつもりです。国際司法裁判所の勧告的意見の主な内容は、次のとおりです。
    • 厳格かつ効果的な国際的管理のもとでのあらゆる分野にわたる核軍縮につながるような交渉を誠実におこない、完了させる義務が存在するという国際司法裁判所の全員一致の結論を強調している。

    • 核兵器の開発、製造、実験、配備、貯蔵、移動、威嚇または使用を禁止し、核兵器の廃絶を規定する核兵器条約の早期締結につながる多国間交渉を開始することにより直ちにその義務を果たすことを、すべての国に再度呼びかけている。

    国連総会に提出した国際司法裁判所の勧告的意見をフォローアップする決議の共同提案国は、この意見が通常の言葉の意味での「意見」ではなく、核軍縮の分野で歴史的な判断を下した世界の法廷による重要な意見なのであって、国際社会から正当な認識を受け、フォローアップすべきだと確信しています。私たちは、核兵器の最終的な廃絶に向けた多国間交渉を支持する国々がこの提案に反対する理由は何もないと、変わらずに信じています。現在の世界の地政学的な発展からみて、いまこそ核軍縮で真の前進を勝ち取るときです。

  11. キャンベラ委員会、新アジェンダ連合、東京フォーラムなど、軍縮推進については多くのすぐれた構想や提案が提出されており、真剣な検討に値します。しかし、あらゆる分野にわたる核軍縮に対する私たちの誓約を真剣に考えるならば、必要なのは、核兵器の開発、製造、実験、配備、貯蔵、威嚇もしくは使用を禁止する包括的な、法的拘束力のある国際協定、ならびに、効果的な国際管理のもとでの核兵器の解体に向けて、国際社会が努力することです。マレーシアが国連総会に提案した決議案の重要な要素の1つは、この法的拘束力のある国際協定を求めることです。1997年に著名な国際軍縮法律家たちが起草した核兵器条約モデル案は、私たちを勇気づけています。国際社会の真剣な考慮に値します。

  12. 私たちが直面している問題は、構想の欠如ではありません。欠けているのは、核兵器国の前に進もうとする政治的な意思です。地雷に関する協定のときのように、政府の努力を支援し市民社会が主要な役割を果たすべきですし、またそれが可能です。非政府組織が市民社会に歩みより、とくにこうした恐るべき大量破壊兵器の存在や保有の継続に対して世論の圧力を高める役割を担うことができるでしょう。核軍縮の議題に関するNGOの発言は強力であり、今後も発しつづける必要があります。これに関して、最も権威ある、また力ある発言ができるのは日本のNGOです。忘れ去ってはならない第二次世界大戦で広島と長崎の悲劇を経験しているからです。そのため、とくに核兵器国およびその同盟国のNGOに対して、核軍縮に関する世界規模の運動を先導するのに最もふさわしいのが日本のNGOです。核兵器国のNGOは、この運動に積極的に取り組むだけでなく、率先して活動する必要があります。核兵器国のNGOがこれまでと同じように核軍縮の運動に積極的に取り組んでこそ、政府の目を覚まさせ、耳を傾けさせることができるでしょう。これについて、私は日本のNGOに、核兵器国のNGOとの強固なつながり、さらに進んで強力な連合を作ることを強く求めます。


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