今日この場で発言できることを大変光栄に感じています。まず、広島と長崎の人々に、私の政府による原爆投下を個人としてお詫びするものです。第二次世界大戦後に生まれたアメリカ国民として、私は成人してからすべての人生を核兵器廃絶のために捧げてきました。アメリカ合衆国による広島と長崎への原爆投下は、非難されるべき、非道徳的かつ違法な行為でした。あの恐ろしい大量破壊兵器の使用は、どんな理由を持っても正当化しえませんでした。
昨年おこなわれた核不拡散条約(NPT)再検討会議の場で、アメリカは、自国核兵器の「完全廃絶」を達成する「明確な約束」に正式に合意しました。しかし、私の政府は、核兵器を絶対に、あきらめたくないようです。それどころか、貯蔵核兵器の数を減らすというブッシュ大統領の公約がひろく報道されているのに、アメリカの兵器研究所は、弾道ミサイル防衛と宇宙基地兵器をふくむハイテク兵器とあわせて、もっと使いやすい核兵器をひそかに設計しているのですi。これは、あらたな情勢の展開ではありません。トルーマン政権のもとで始められ、以来、民主党であろうと共和党であろうと、すべての政権がすすめてきた政策の延長です。
大統領選のあいだ、ジョージ・W・ブッシュは、大統領になればアメリカの戦略核兵器を一方的に減らすことを示唆しましたii。先の7月22日イタリアのジェノバでおこなわれた会議で、ブッシュとロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アメリカのミサイル防衛システム配備計画の議論を、米ロ両国の核兵器を大幅に削減する可能性と関連づけることで合意しました。それによって、米ロがABM条約にかんする合意に達しうる可能性を維持したのです。しかし、次の日、「ABM条約の範囲を越える」というアメリカの決意をブッシュが繰り返した一方で、プーチンは、「戦略的安定のかなめ石としてのABM条約を(ロシアが)厳守することを確認」しましたiii。米ロの話し合いは流動的であるようなものの、アメリカが一方的にABM条約から抜けるなら、ロシアは現存する軍備管理協定すべてから脱退すると繰り返し警告しています。そうなれば、ロシアと中国に対抗したアメリカの軍拡競争に火がつく恐れがあり、これは、とりわけ日本にとって心配な問題です。
攻撃用核兵器をなくす代わりに防衛ミサイルシステムをつくろうとしているように見える、アメリカの申し出にだまされてはなりません。ブッシュの核兵器政策は、現実をみれば、より少数でもより新しいものを、と特徴づけられるでしょう。国際的な平和運動にたずさわる私たちは、全米ミサイル防衛(NMD)、戦域ミサイル防衛(TMD)、宇宙兵器、先制攻撃戦略核兵器、精度が高く破壊力の小さい核兵器とは、アメリカが率いる、統合された、攻撃的世界戦争をたたかうためのシステムにおける、お互いに連結した一部であることを認識しなくてはなりません。しかも、アメリカと共同でTMD研究をすすめている日本にとっては非常に深刻な意味合いがあります。今年7月18日、アメリカの駐日大使に就任したハワード・ベイカーは、他国にむかうミサイルを打ち落とすために使われるかもしれないシステム開発に関わりつづけるためには、日本は憲法の9条を改正しなくてはならなくなるかも知れないことを示唆しましたiv。共同して、国際的に、私たちは、この圧倒的力をもつ戦力の配備の先にある目的とたたかわなくてはなりません。米軍が公認する長期目標は、「地球上のどの標的も余裕をもって破壊するか無力化」するため、「地球上のどの地点であれ必要な標的にたいしても迅速かつ効果的に高性能の兵器を到達させるための十分な力を」米軍につけることにありますv。常識で考えれば、地球のすべての国がこんな目標を追求すれば、行き着く先が、果てしない死と破壊をまねく果てしない軍事競争であることは目に見えています。
大統領決定指令60号(PDD60)は、1995年のNPT無期限延長のあとはじめておこなわれたアメリカの核兵器政策見直しですが、これは1997年ビル・クリントン大統領が承認したもので、いまも有効です。PDD60は、先制使用をする脅迫と、大量報復を脅迫するアメリカの政策を再確認し、アメリカが核兵器を、自国の安全にとって見通せる限り将来にわたる「かなめ石」とすることに再度言質をあたえました。PDD60は、いわゆる「拡散対抗」政策の一部として、化学または生物兵器の使用にたいする報復としての核攻撃も構想しています。これ以外の政府文書でも、米軍が、こうした状況において核兵器の先制使用を除外していないことが示唆されています。
アメリカの3つの主要な核兵器研究所のひとつ、サンディア国立研究所のポール・ロビンソン所長は、まさに核兵器の使用を検討しやすくするためにあたらしい設計が必要だと主張しています。去年のスピーチでロビンソン所長はこう述べました。
「・・・アメリカには、疑う余地なく、異なった運搬様式か手段かを、いずれかに取り付けるための新しい核兵器が、かなり高い可能性で必要となる。なぜなら、冷戦時代から引き継がれた兵器の破壊力は、多極化し、広く拡散した世界において必要とされる抑止問題に対応するには、大きすぎるからだ。この状況を正さなければ、自らを抑止することになってしまう。」vi
昨年、米国議会は、国立研究所が精密で破壊力の小さい核兵器を開発することを禁じた1994年の法律を部分的にくつがえす法案を採択しました。この新しい法律では、ミサイルのサイロ、貯蔵されている化学・生物兵器、サダム・フセインの地下司令部など、強固に防護され、地下深くに位置する標的にたいして使う低破壊力の「小型核」をふくむ、新世代兵器の研究を命じています(この研究は2001年7月1日の完成を予定していたが、遅れている)。「小型核」とは、5キロトン以下の破壊力をもつ兵器と定義されています。それと比べると、いまある兵器の中には、千キロトン以上の破壊力をもつものがあります。これは、非常に危険な開発です。というのは、軍部はこうした低破壊力核兵器を、現存する兵器よりも使えると考える可能性があるからですvii。
これ以外にも、すでに進められているプログラムのもと、アメリカの核兵器研究所は、トンネルや地下壕といった強化された標的を破壊するか無力化するため、また化学・生物兵器施設を攻撃するために使える小さい核弾頭を使う方法を研究中です。こうなると、核兵器使用の政治的障害を低くすることで、通常戦争と核戦争の境界があいまいになり、アメリカが核兵器を持たない国に核兵器を使う可能性が高まる恐れがありますviii。
ロシア議会は2000年4月に批准しましたが、アメリカ上院で立ち往生しているSTART�U(第2次戦略兵器削減条約)は、実施されれば、米ロが配備している戦略核兵器がそれぞれ3,000から3,500発まで削減されることになります。しかし、START�Uは、「予備」の配備されていない戦略または戦術核兵器は課題にしていません。こうした部門すべてを含め、START�Uのもとアメリカは、およそ1万500発の核弾頭を維持する計画でいます。締結が予想されるSTART�V条約が実行されれば、米ロともに配備戦略核兵器は2,000から2,500発に削減されると見込まれますが、それでも膨大な核兵器が残ります。
さまざまな資料から、アメリカが自国核兵器の本質的な特徴や重要性を縮小する意図はいっさいないことは明らかになっています。2000年2月、ウィリアム・コーエン国防長官は、アメリカは、START�Vで構想された削減を終了させた後でさえ、「全範囲におよぶ危機」に対応するに「十分な規模と多様性をもつ生存可能な戦略部隊を維持」する力をつける、と述べました。しかも、クリントン政権のもと、昨年のロシアとのABM条約交渉を支持するアメリカの文書では、「限定的」なABMシステムではロシアの核抑止は脅かされない、とロシアを説得することを意図した主張が出されています。「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」誌が入手したアメリカの「セールスポイント」はこうです。
「アメリカ合衆国もロシア連邦も、今後合意されるどんな軍備協定の条件のもとでも、多様なICMB、潜水艦発射弾道ミサイル、重爆撃機からなる、大規模で、多様化され、実行可能な戦略的攻撃兵器を、これまで同様いまも持つし、今後も持つであろう。」ix
アメリカの核兵器にかんするこのような将来像は、空軍宇宙司令部による「2002年会計年度とその後にむけた戦略総合基本計画」でも構想されています。「展望される戦力適用の最終的状態」と題する図解では、宇宙基地からのレーザーをふくむ「宇宙基地システムによる迅速な、地球的精密攻撃力」を使った通常攻撃戦力と組み合わせた「核武装したICBM」を使った戦略的抑止の構想が描かれていますx。
昨年春におこなわれたNPT再検討会議でアメリカは、軍拡の停止と核兵器の廃絶を命じているNPT条約第6条にたいする公約を再確認しました。自分の主張を支えるため、アメリカ代表団は、会議ではでな宣伝文書を配ってまわりました。「・・・この10年間、アメリカ合衆国は、兵器・研究・開発・実験から、兵器解体、商業的利用の転換、環境回復、核貯蔵管理計画にいたるまで、自国の核兵器産業の役割と任務を劇的に変更してきた。」xi
これは、事実のはなはだしい歪曲です。真実は、「貯蔵核兵器管理(Stockpile Stewardship)計画」と呼ばれる大規模なプログラムを通して、前例を見ないほど高性能化された核兵器施設があらたに建設され、新世代の核科学者が養成され、核兵器の設計・製造がすすめられているのです。アメリカはいま、核兵器の研究・開発・実験・製造に(恒常ドルで)年50億ドル以上を費やしていますが、これは、冷戦時代の直接比べられる活動に費やされた年37億ドルをはるかにしのぐ額ですxii。しかも、これは核弾頭だけにかかる金で、運搬システムはまた別の話なのです。
「貯蔵核管理計画」とは何でしょう。技術論上は、いま現在の「核兵器貯蔵管理計画」は、1942年のマンハッタン計画ではじまった核兵器の研究・開発・製造技術の継続・拡大を、全面的な爆発実験なしでおこなうものです。もっとも簡単に理解するには、広島と長崎を壊滅させた原爆の開発と製造につながったのとおなじような実験と準備だと想像するとよいでしょう。実際、広島と長崎への原爆投下は、現在の「核兵器貯蔵管理計画」技術の先駆けを使って設計され製造されていた兵器の「最終検査」でした。
こんにち、アメリカが最後におこなった核兵器地下爆発実験が1992年だったという事実にもかかわらず、核兵器設計のサイクルは続いています。「貯蔵核兵器管理計画」はどう機能するのでしょう。技術的な用語を使わずに説明するなら、科学者が、核兵器研究所にある、あたらしい巨大な実験施設で(場合によっては、爆発性・放射性物質も使う)実験をおこなうというものです。
こうした実験からは、ネバダ実験場でおこなわれているいわゆる「未臨界」の爆発をともなわない核実験とともに、核兵器の設計と性能の様々な側面に関するデータが得られます。このあたらしい分析的情報は、過去1,000回以上の実験で得ているデータとともに、世界最速のスーパーコンピューターを使って処理されます。すべての核保有国は、それぞれ独自の核兵器貯蔵管理計画を持っており、戦略的同盟国は、協力して計画をすすめています。
「貯蔵核兵器管理計画」は、政治的な強国アメリカが、包括的核実験禁止条約(CTBT)を承諾する代償として、譲歩を強要したものです。それでも、1999年10月、アメリカ上院はCTBT批准の採択を拒否したのです。上院の投票結果を、多くの専門家は党派性の誇示だと見ましたが、これには民主、共和の両方とも責任を負っています。クリントン政権と、上院でのクリントンの同盟者議員たちは、CTBTを、核兵器におけるアメリカの決定的優位を維持する手段、非核保有国による核兵器保有を阻止する手段として打ち出したのであり、軍縮への措置として打ち出したのではありません。この点を、批准拒否の一ヶ月後、マドレーン・オルブライト国務長官が確認しています。オルブライト長官は、「私たちには、国の安全を守るために核兵器実験をする必要はありません。その一方で、拡散と兵器の現代化を追求するものたちは、最も脅威的な進んだ種類の核兵器を開発するなら実験をしなければならないのです。よって、CTBTは、いまの技術的地位を固定するという、アメリカにとってことを有利に進める上で、大いに役立つのです。」と述べましたxiii。
「貯蔵核兵器管理計画」のもと、アメリカが貯蔵するあらゆる種類の核兵器に(「変更された軍事的要件」に対応するための能力を強化するケースも含めた)改良または向上が加えられることが計画されていますxiv。こうした改良の一例がB6-11重力爆弾で、この爆弾はすでに、地下実験ぬきで開発・配備されています。B6-11は、(TNT換算で300トンから300キロトン以上までの範囲の破壊力を有する)地下貫通爆弾で、湾岸戦争のあとに開発されたものですが、B-2ステルス爆撃機に搭載できます。そのほか改良が計画されている兵器には、「あたらしい爆発の極み」を採りいれたB83重力爆弾もありますxv。W-80巡航ミサイルについても、またW-87(MXミサイル弾頭)とW-88(トライデントミサイル弾頭)をふくむ種類の兵器についても「生命維持」計画が進行中です。
これに加えて、兵器研究所では、トライデント潜水艦発射弾道ミサイル用に設計された後任の弾頭の開発がすすんでいます。この弾頭は、アメリカの核兵器でもっとも数の多い弾頭である100キロトンW-76トライデント弾頭の装着および起爆装置部品を改良させた型です。改良されれば、W-76弾頭は、地上すれすれで爆発する性能を有することになり、「先制攻撃」兵器としての可能性を高めるわけです。そうなれば、START�Uのもと最終的に貯蔵核からなくされる予定である地上基地ICBM(大陸間弾道ミサイル)の穴うめができるわけですxvi。
「貯蔵核兵器管理計画」は、あらたな核兵器製造工場の建設も見越しています。これは、2020年までに、年間最低450のプルトニウム「ピット」をあらたに製造する能力を有することを目的にしたものですxvii。450という数は、中国、イギリス、フランス、イスラエルそれぞれの核兵器に匹敵するかそれを上回る数です。このピットとは、水爆の起爆剤として機能する原爆のことです。ロスアラモス国立研究所の計画文書は、その目標を「地下実験なしで、貯蔵ピットおよび新型ピットを製造するための確固たるピット製造能力の再建」と定めていますxviii。アメリカはまた、1998年で停止されていた(放射性水素で、水爆の「水素」にあたる)トリチウムの製造開始にむけても準備をすすめています。
いま、「貯蔵核兵器管理計画」の主眼である、50億ドルxixをかけた「国立点火施設(NIF)が、カリフォルニアのローレンス・リバモア国立研究所で建設されています。この施設は、フットボール競技場の規模をもつ、レーザーで推進される慣性閉じ込め融合装置で、非常に短時間の閉じ込められた熱核爆発である「核融合点火」を史上初めて引き起こすために設計されたものです。NIFは、世界に存在するどのレーザーと比べても40倍以上の規模をもち、その目的は、核兵器設計者の養成から、放射線・熱・爆発が核兵器の部品、センサー、通信衛星、地下施設に与える影響の研究まで広範にわたります。「レーザー/火球」実験もふくむNIFの兵器影響実験は、低破壊力核兵器およびミサイル防衛構想の開発と関連して使われるかもしれませんxx。NIFで計画されているこの小規模融合爆発、そして、NIFが有する新型核兵器の設計能力は、明らかに、アメリカがNPTとCTBTで負う義務に反しています。
この問題も、日本に深刻な影響をあたえます。日本の大企業HOYA(ホヤガラス)は、NIF計画に欠かせないレーザーガラスの半分を供給しています。CTBT前文は、「核兵器の開発と質的改良を抑え、先進型核兵器の開発を終わらせることによる、すべての核兵器実験爆発とそのほかすべての爆発を停止することは、あらゆる側面における核軍縮および不拡散の効果的な措置である」と規定しています。しかし、NIFは、まさにCTBTが停止を意図している種類の核兵器設計データと専門知識をアメリカ政府にもたらすことを構想しているのです。HOYAがNIF計画に、公然と、参加することは、日本がCTBTで負う公約に明らかに矛盾します。
さらに、CTBTの第1条第2段落は、加盟国に「どのような核兵器実験爆発またはその他の核爆発の実施についても、それを引き起こしたり、助長したり、それにいかなる形でも参加することを慎むこと」を義務づけています。最近、ブッシュ政権がCTBTからの離脱を追求していること、そして、核保有国の指導者らが、全面的地下核実験の再開にむけた迅速な準備を強く要求していることが報道されています。アメリカが全面的な地下実験をいつなんどきにも再開しうるという可能性があるいま、また、アメリカがあらたに核兵器設計技術者を養成し、核兵器設計を改良させるうえでNIFが果たしている中心的役割をみると、NIF計画でホヤガラスが果たす役割は、日本が、アメリカの核兵器実験爆発を「促進」している、または「参加」していると解釈されうるものです。
しかし、日本とアメリカのNGOによる共同の発展という点では明るいニュースがあります。今年6月5日、朝日新聞はこう報道しました。「2月、(日本の)市民グループと広島および長崎の市長による抗議の結果、HOYAは、(NIFへの)(ガラス)板の引渡しを一時的に延期せざるを得なくなった。」HOYAは、リバモア研究所とやりとりした内容をたてに、HOYAがNIFに供給するガラスは新型核開発に結びつくものではなく、この研究は核兵器の廃絶に貢献するものだと主張していますがxxi、私たちの知る限りでは、抗議がされて以降ガラス板はNIFに搬入されていません。NIFを停止させる日米間の共同を強めなくてはなりません。
2000年5月20日、NPT再検討会議が終結した際、アメリカをはじめとする核保有国は、「自国核兵器の完全廃絶を達成する・・・明確な約束」を確認しました。30年にわたるNPT史上はじめて、核保有国は、核軍縮の追及にかんする条約義務にかんし「究極的目標」といった形容詞の使用を止めたのです。核保有国は、「核兵器が使用される危険性を最小限におさえ、核兵器の完全廃絶プロセスを促進するため、安全保障政策において核兵器が負う役割を小さくする」ことも公約しました。しかも、核保有国は、「不可逆性の原則」は「核軍縮、核およびそのほか関連する軍備管理・軍備削減措置」に適応することに前言撤回なしで合意したのですxxii。
アメリカは、「小型核」の研究開発をふくめ、自国核兵器の軍事的力の「向上」をめざした取り組みをすべて中止することで、NPTの約束を実行すべきです。アメリカは、現存する兵器製造施設の改良計画を中止し、プルトニウム・ピットとトリチウム製造を目的とするものもふくめ、あらたな施設の建設もやめるべきです。アメリカは、ミサイル防衛と宇宙の軍事化計画を取りやめて、生物・化学兵器条約を強化する取り組みを進めるべきです。根本的に、アメリカは、核兵器の廃絶とミサイルの全世界的禁止にむけた包括的交渉を追及すべきです。世界で唯一残った大国が、「国家の安全」を保証するために核兵器の先制使用の威嚇に頼らなければならないと感じるなら、イスラエル、インド、パキスタンといった国が、同じように感じても当然でしょう。責任をもつ地球市民として、私たちは、地球上すべての国民の安全にもとづく、もっと持続可能な「人間の安全保障」の概念を強調しなくてはなりません。これが、家庭、地域、職場、人間を取り巻く環境で実行されるようにです。こうした新しい安全保障が確立された世界に核兵器が存在する場所はありません。このことを私は自国の政府に言っているのです。
日本は、戦争における核兵器の壊滅的影響を経験した唯一の国として、他国にない道義的な重みを持っています。そのために私は、日本のNGOに、もっと自分の政府と企業に圧力をかけるよう強く求めたいのです。日本はもうアメリカの核の傘から脱け出す時です。日本は、アメリカの危険で世界の安定を脅かすミサイル防衛計画に反対するうえで、欧州諸国などと共同すべきです。日本は、憲法第9条でおこなった誓約を再確認し、TMD研究への参加から手を引くべきです。日本の企業は、NIFといったアメリカの核兵器プログラムへの参加を拒否すべきです。日本は、核兵器が地域的安全をもたらすという考えを放棄し、日本と朝鮮半島をふくむ北東アジア非核兵器地帯にかんする交渉を開始すべきです。日本は、新アジェンダ諸国を支持し、核軍縮にむけた世界的な努力の先頭に立つために、志を同じくする国やNGOとより強い共同を開始すべきです。
共同することにより、私たちは実際の変化をつくりだしてきました。権力にたいし真実を語り、私たちが真に求めていることを要求することによってです。最近、全国公共政策研究所(National Institute for Public Policy)という、強い影響力をもち、ブッシュ政権のメンバーも参加する右翼系シンクタンクが出した報告xxiiiは、「核『廃絶』をめざす国民からの最近の提案」の反証として出されたものです。このびっくりするような報告は、1995年「廃絶2000」が開始した核廃絶をもとめる草の根の要求が、権力の最上部にいる者たちの耳についに届き真剣に検討されているという現実を反映しています。「核兵器廃絶をめざす廃絶2000グローバルネットワーク」は、一握りのNGOが国連を拠点に始めた活動から、いまでは95カ国の2000を越える組織が参加するまでになりました。
全国公共政策研究所(NIPP)の研究は、冷戦終結後、予知不可能な敵があらゆる場所に潜んでいるから、アメリカは、あらゆる機会にむけ、相伴い補完するミサイル防衛をもって、核による対応準備を整えなくてはならない、と結論づけています。この研究は、アメリカは、随意に自国核戦力を削減するかまたは増強する準備を整えていなくてはならないと主張しています。報告は、アメリカは、撤回できない条約上の義務による誓約を放棄すると同時に、新型兵器の設計と製造をおこなう能力を維持しなくてはならない、としています。しかし、なぜ地球最強の軍事大国に、恐れる敵がこれほどまでいるのでしょう。NIPPはこの点を見落としています。必要なのは、あたらしい価値観にもとづいた斬新な安全保障の概念です。
「廃絶2000」世界評議会は、昨年11月には長崎、今年5月にはイギリスで会合を持ち、「廃絶2000」がその活動の第一段階において、「今こそ核兵器廃絶のとき」だという考えを広めることに成功したことを確認しました。では「廃絶2000」の次の段階の役割は何でしょうか?私たちはこれを検討し、その答えを、サフロン・ウォールデン宣言で発表しました。宣言は次のように結んでいます。
「私たちは、改革された国連を通した国際法と条約の尊重、紛争阻止、共同にもとづく、全人類に奉仕する新しい安全保障の構造をつくることを要求する。
私たちは、核兵器廃絶、すべてのミサイル禁止、宇宙の利用を平和目的に限るための交渉を即時開始することを要求する。
私たちの描く世界は、核兵器のない、核兵器がもたらす環境汚染のない、社会的経済的不正義のない世界である。
私たちは、この新しい構造は、実際的とか道義的であるとかを越えたものだという私たちの信条を確認する。これは、私たちの地球の未来にとって絶対必要な課題である。」