昨年、私はこの会議で発言し、ニューヨークでの2000年核不拡散条約(NPT)再検討会議の最後にイギリス、中国、フランス、ロシア、アメリカ合衆国がおこなった核兵器廃絶の「明確な約束」を歓迎しました。当時、国連事務総長はこの約束について「人類の核兵器のない世界の追求における重要な前進」と評しました。
時代はなんと早く変わるものでしょう。この12ヶ月、私たちは核のがけっぷちからさらに遠ざかるのでなく、むしろ近づいたのです。ミサイル防衛の開発と宇宙への核兵器配備に向けた現在のアメリカの無謀な動きは、地球社会の安全を掘り崩しています。アメリカの核実験再開の準備は、永続的な核実験禁止達成の可能性を破壊しています。ロシアにおける拡散防止プログラムへのアメリカの財政援助削減は、核兵器材料の売買に門戸を広げています。新たな核兵器、つまり小型のいわゆる「ミニニューク」の研究継続は将来における核兵器使用の見通しを減らすのでなく、増やしています。
世界のすべての悪いことについて非難をアメリカの間口に投げつけることは間違いでしょう。アメリカにも何百万という善良な人々がおり、この人々は世論調査で見ても現在自分たちの政府が進めている新たな「スターウォーズ」計画に反対しています。また、我々同様、気候の変化に関してグローバルな合意を望んでいます。彼らは、そうした合意がなければ、影響を受けやすい世界の沿岸地域や乾燥地帯の弱い立場の人々がすでに感じているような影響を結局自分たちも受けることを理解しているからです。
核兵器に関して、世界の大多数の人々は立場を変えていません。核兵器をなくすか未来をなくすか、どちらかなのです。我々は、諸国民間の相互安全保障の国際的枠組みを見つけるか、主権国家間の関係で国際的な無政府状態におちいるかしかありません。歴史的には、後者はつねに戦争にたどり着きました。国連などの国際機関は完全というには程遠いものですが、もし改善しようとの政治的意思を見出すことができれば、より良く改善することができます。現在国連が不完全であっても、ないよりはよいのです。
我々に何ができるでしょう?
魔法の答えはありません。毎年私たちが取り組んでいる問題に新しい解決策はありません。私たちがやりつづけてきたことをさらに続けなければならないのです。手にしうる正当で平和的な手段をすべて使い、将来への人々の懸念を行動に変え、核保有国間の新たな軍備競争や核保有国の増加、核兵器の宇宙への拡散などによる核の拡散に抵抗しなければなりません。
以前、私は、地方自治体はもしそれが地方住民の世論や願望を真剣に検討すれば、地域社会や一般住民の強力な同盟者となりうるのだと論じました。したがって非核自治体を促進するためにそこに住む住民は地方政治家に対して自らの望む未来や願望について伝えなければなりません。我々、地方政治家のできることは、手にしている法的な権限だけでなく、有権者が我々に与える支持に決定的に依存しているのです。だから、市民が引き続き非核兵器地帯の拡大、非核自治体、港湾非核化などのために積極的に運動しつづけることがかつてなく重要です。これらのものはただで与えられるのでなく、人民の意思によって勝ち取られなければならないのです。
核保有国に住む我々は、自分たちの民主的手続きを通じて核兵器廃絶のために活動しつづけなければなりません。イギリスは185発の弾頭を持っており、おそらく原核保有五カ国のなかで核兵器の数は最少でしょう。すべてが配備されているわけでありませんが、イギリス海軍がもつ四隻のトライデントミサイル積載潜水艦はそれぞれ積載する単弾頭、多弾頭ミサイルの組み合わせによって36から44の弾頭を積むことが予定されています。いかなるときも3隻のトライデント積載艦から120発の弾頭が発射できるようになっていると仮定すれば、イギリスは今でも約1000発の広島型原爆に匹敵する即時破壊力を維持していることになります。そのような破壊が地球とその住民にひき起こされることは、考えただけでも胃が締めつけられる思いです。
1966年、国際司法裁判所は核兵器の使用と威嚇の適法性について勧告的意見をだし、「核兵器の使用ないし威嚇は一般的に、武力紛争に適用しうる国際法の規則、とくに人道法の原則と規則に反する」と断じました。
同裁判所は、核兵器は「破壊の能力、筆舌に尽くせない人的被害を起こす能力、今後幾世代にもわたる被害を起こす能力」をふくめ「独特の特徴」をもっており、その破壊力は「空間の上でも時間の上でも封じることができず」、核の爆発が「大量の熱とエネルギーだけでなく、強力で長期にわたる放射線を放出」し、それが「広範な地域に渡り、健康、農業、自然資源、人口動態に影響」を及ぼし、「将来の環境、食糧、海洋生態系を破壊し、将来の世代に遺伝学的欠損や疾病をひき起こす潜在力を持つ」と強調しています。
人道法の下で「民間目標と軍事目標との区別をあらかじめ排除し、あるいは戦闘員に不必要な苦痛を与える戦争行為の方法や手段は、禁じられている。核兵器の独特の特徴にかんがみ、そうした兵器の使用は実際、そうした要件の尊重とほとんど相容れるところがない」のです。