この度の原水爆禁止世界大会は、今世紀に世界を核兵器の恐怖から解放するための第一歩を印する、歴史的な会議であります。
第1 反核国際世論の高揚
今や、核兵器廃絶を求める国際世論は、全世界に高まっております。その具体的なあらわれは、2000年4、5月のNPT再検討会議において、すべての核保有国が自国の核兵器の完全な廃絶を達成することを明確に約束するとの最終文書に合意したことです。そしてこの「核兵器廃絶の明確な約束」は、昨年秋の国連ミレニアム総会でも、「新アジェンダ」諸国提案の決議として、圧倒的多数の支持を得て確認されました。
昨年5月、100カ国、1000をこえるNGOの代表による、国連本部のミレニアムフォーラムは、すべての核兵器を廃絶することを求める最終宣言を満場一致採択しました。このような世界の反核の国際世論の高まりを受けつつ、私達は、この国際世論を如何に着実に実現するか、その実践の課題をつきつけられているといえましょう。
第2 反核世論への逆流
ところでこの核兵器廃絶の国際世論に背を向ける動きがあり、これらを諸国民の前に暴露し、弾劾する必要があります。その第1は、今年1月発足した米ブッシュ政権の動きです。同政権は、NMDの推進を強調するなど、危険な核兵器を含む軍拡政策をすすめています。また、CTBTの批准を拒否する態度を示していますし、使いやすい低出力の小型核兵器の開発をも準備しております。現在米、露、英、仏、中あわせて、世界に3万発の核兵器が存在することを私達は片時も忘れることはできません。
その第2は、日本政府の動きです。この4月小泉純一郎内閣が発足しました。小泉首相はアメリカの衛星国日本(チャルマーズ・ジョンソン「アメリカ帝国への逆襲」)の姿そのままに、アメリカへの従属をあからさまにしながら、アメリカの要請により、日本国憲法9条に真っ向から反する「集団的自衛権」の容認、TMDの推進、IMDへの「理解」、そして戦争犯罪人東条らを祭る、靖国神社公式参拝公言、憲法9条の不戦の誓いの改廃など、タカ派的姿勢を公言し、核戦力を中核とするアメリカの戦争政策に加担しようとしています。小泉首相は、1997年秋、地球環境保全のため、関係諸国が苦心惨憺のうえ採択した京都議定書について、日本が批准さえすれば、発動することが明白であるのに、最近の日米首脳会談でも、アメリカの反対を唯々諾々として受け入れてしまうという失態を演じています。日本政府は、わが国が1945年8月、今を去る56年前に世界で唯一、ヒロシマ・ナガサキに原爆を投下されたという悲劇を味わった国であるというのに、アメリカの「核の傘」、然も、核密約のもとに、核武装をした米軍の駐留をゆるし、最近も沖縄の女性が米兵から強姦されるという事件が発生したのに、卑屈な態度をとり続けるなど、核兵器廃絶の国際世論に背を向けています。私達日本国民としてこれを許すわけにはまいりません。
第3は、宇宙からの世界支配の新戦略の問題です。米国の軍事戦略は、「核の傘」に加えて、宇宙に兵器やスパイ衛星を配備して、宇宙から「情報の傘」をさしかけることで地球を支配することです。これについては、私は専門外ですので、専門家の意見を聞きたいと存じますが、「情報の傘」が、経済のグローバリゼーションの警察官の役割を果たすとともに、NMD、TMDと深くつながり核戦略と密接に結びついていることを重視しなければなりません。
以上掲げましたのは、核兵器廃絶の前に立ちはだかっている逆流の一部ですが、私達は、これに対し、積極的に立ち向かってゆかねばなりません。
第3 アジアと日本国内の平和・反核の動き
2000年6月南北朝鮮首脳会談、東南アジア非核地帯条約の調印と委員会の設置などの、アジアにおける平和、反核の動きは注目に値し、これを積極的に推進することが求められます。日本の国内においても、「ヒロシマ・ナガサキからのアピール署名」とともに、非核宣言自治体を一層拡大する努力をゆるめてはなりません。
第4 IADLと法律家の役割
私はブリュッセルに本部をもつ、国際民主法律家協会(IADL)を代表しております。
IADLは、1946年10月パリで設立され、国連経済社会理事会の諮問機関となっていますが、原水協の推進する日本の原水爆禁止運動には、終始連帯してまいりました。IADLは、昨年10月ハバナで、第15回大会を米大陸法律家協会と共催で開催、会長に、インドのシャーマ氏 (Jitendra Sharma)、書記長にアルゼンチンのシュムクラー氏 (Beinusz Szmukler)を選出しました。大会は日本代表の提案にかかる次の6つの決議を採択しました。(別紙)
ところで、私達法律家には、法律上の観点から、核兵器が国際法上違法であるとの極めて明確な見解を全世界に示す役割があると思います。1996年7月8日の、国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見は、核兵器の使用が違法であることを条件付きで認定したものです。このなかで、スリランカ出身のウィラマントリー判事は、少数意見で「私は核兵器の使用又は使用による威嚇は例外なくあらゆる状況において違法であると、法廷が単刀直入かつ断言的に判決を下さなかったことを残念に思う。法廷は力強く率直な態度で、この法的問題にこの時点で永久に決着をつけることもできたのである」と述べています。 私はこの意見は正論であると考え、支持します。なお、日本反核法律家協会は、日本弁護士連合会とともに、同判事を東京に招き、去る本年7月31日同判事の講演会をもちました。このような正当な法律的意見を全世界に広めることは、私達法律家の責務と存じます。
私は、核兵器が実定法上国際法に反すると思いますが、反対論を封ずるために、核兵器条約を国連において採択されることが有効と存じます。1996年10月ニューヨークの核政策法律家委員会(LAWYERS' COMMITTEE ON NUCLEAR POLICY)の作成したものがあります。ご参考のため別紙として添付します。
次にIADLの支援のもとに、アジア太平洋法律家会議が、1985年ニューデリーで、1991東京・大阪でひらかれ、今年10月ハノイで第3回会議(COLAP�V)が開かれます。基本テーマは「グローバリゼーションのもとでのアジア・太平洋地域における平和・人権・開発・発展」とされています。この会議でも、核兵器廃絶の問題がとりあげられます。私は、今日の世界大会の成功を確信するとともに、IADLにも、COLAP IIIにも、この大会の成果をおしひろめる決意です。
第5 被爆者の援護と連帯
最後になりましたが、核兵器廃絶の運動の原点は、56年前のヒロシマ・ナガサキの原爆の筆舌につくしがたい被害であり、そのうえに、核実験の被害を直視し、これを全世界の人々に伝えることであると思います。ヒロシマ・ナガサキの被害者も高齢化しております。私達はこれらの被爆者の声を大事にして、その援護につくさねばなりません。私は、唯一の被爆国である日本の政府が被爆者に対し冷酷な態度を示していることを遺憾に思います。長崎の被爆者松谷英子さんは十数年の間、延べ5回の裁判で最後は最高裁で原爆症認知を勝ちとりました。東京の東数男さん、北海道の安井晃一さんの裁判は今でもつづいています。そして、被爆者援護法にもとづき健康管理手当を支給されていた韓国人郭貴勲さんは、帰国を理由に手当を打ちきられたのは違法として損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁で勝訴判決を得たのに、国と大阪府が控訴しました。大阪地裁の判決は私達法律家にとっても文句のつけようのない正当なものであり、国と大阪府の控訴は、言語道断です。この訴訟は、国際的にも重要であり、断固支持します。
いずれにしましても、被爆者、それは、実験やその前提となる核開発あるいは原子力発電の被爆者をも含みますが、被爆者援護は、核戦争阻止、核兵器廃絶とともに、大会の基本的目標です。断固としてその目的を完遂しましょう。
ノーモアヒロシマ、ノーモアナガサキ、ノーモアヒバクシャ