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ノーモア・ヒロシマズ

原発、核兵器、人間の未来 − 東日本巨大地震から1ヶ月

 3月11日、東日本を襲った巨大地震、津波、そして深刻な原発事故の被害にたいして国内でも国際的にも大きな救援の手が寄せられている。日本原水協も、広島・長崎の被災に対して被爆者を助け、人類の生存のために立ち上がった組織として、いま、被災地への救援のたたかいに全国で立ち上がっている。

 海外から寄せられた多くの心温まる連帯と支援のメッセージの中でもひとつの大きな感動を与えているのは、かつてのロシアの核実験場セミパラチンスクや風下の広大な被害地など、世界の核事故や核実験被害地からの励ましの手紙だ。

 かつてのチリ沖地震(1960年)や2004年のスマトラ沖地震に匹敵するマグニチュード9の巨大地震と、それによって引き起こされた場所によっては30メートルにも達する巨大津波は太平洋沿岸の市町村を飲み込み、これまで確認されているだけでも死者は1万2千人、行方不明者が1万6千人余、避難所での生活者は16万人余りにのぼっている。

急速に悪化する福島第一原発事故の被害

 いま、被災者の救援、被害の復興とともに急がれているのは、福島第一原子力発電所の事態を収束させ、被害の拡大を食い止めることだ。後手後手に回った東電、政府の対策とあいまって、すでに環境の汚染は、政府が設定した半径20キロまでの避難区域、20キロから30キロの屋内避難区域をはるかに越えており、原発から北西40キロの飯舘村では1キログラムの土から16万3000ベクレルのセシウム137が検出された。1平方メートルあたりの数字に換算すれば320万ベクレルと、チェルノブイリの住民避難地域を大きく上まわる汚染濃度である。

 事態はさらに悪化している。高濃度の放射能に汚染された水が敷地、海、地下水へと流れ込み、作業を難航させている。4月2日にはこれまで原子力学会や原子力安全委員会のトップを務めた専門家16氏が、1号機から3号機について「燃料の一部が溶けて、原子炉圧力容器の下部にたまっている。現在の応急的な冷却では圧力容器の壁を熱が溶かし、突き破ってしまう」と警告した。メディアに登場する多くの専門家がこれまで、「チェルノブイリのようにはならない」と言い続けてきた。だが、原子炉の構造は異なるにしても、1号機から3号機までの3つの炉に残る燃料は事故を起こしたチェルノブイリの4号機をはるかに上まわる。燃料棒から溶け出したウランやプルトニウムが再臨界に達し、あるいは熱で圧力容器、格納容器を溶かした場合、あるいは水素爆発を起こした場合、環境に飛散し、あるいは露出する放射性物質の量はチェルノブイリをはるかに上まわることになる。それだけではない。別の専門家からは、すでに圧力容器の一部では、底が破損しているのではないかとの指摘も出されている。事態はさらに急を告げているのだ。

政府は住民の安全最優先に知識、経験の総動員を

 いま、原水協が重視しているのは、三つのことだ。

 その第一は、福島第一原発の炉心溶融の危険を食い止め、放射能を封じ込め、事態を収束に向かわせることだ。そのために、政府はすべての知識、経験を総動員し、住民の安全を最優先して事態に当たるべきである。東京新聞の報道では、3月11日、地震と津波が原発を襲ったその日、すでに経済産業省の原子力安全・保安院は午後10時の時点で、注水機能の停止より50分後に炉心露出、さらにその2時間後に燃料溶融が起こることを予測し、午前3時20分には放射性物質を含んだ蒸気の排出(ベント)をおこなうことを策定し、10時30分には首相に説明したという。だが、実際にベントがおこなわれたのは12日の午後2時半と、16時間もたってのことであった。また、炉心への注水も同様で、緊急冷却装置が働かなくなり、海水の注入、ホウ酸の使用が勧告されたにもかかわらず、実際にそれがおこなわれたのは、事故が発生してから30時間もあとのことであった。関係者の間から、「海水を入れたら、炉が使えなくなる」とのためらいが、一分一秒を争うこの瞬間にブレーキをかけたと言われている。事実とすれば重大である。

全国17カ所55機の原子炉の総点検を

 また、現在も強度のゆれを伴う余震が続いているなかで、全国17カ所55機の原子炉の総点検も急がれている。この間、電力会社と政府・経済産業省は一体となって原子力開発を推進し、ありとあらゆる災害に対し、「対策は万全」と豪語してきた。だが、実際には、全国17カ所の原発で10メートルを超える今回の規模の津波を想定していた原発はひとつもなかった。地震も同様である。

 地震の想定では今回の地震に留まらず、2007年7月の中越沖地震の際も、当時世界最大の発電能力を持っていた柏崎刈羽原発で、想定以上の揺れに原子炉は緊急停止したが、緊急冷却装置を動かす発電の変電施設で火災が発生し、消火施設の不備とあいまってあわやの大惨事にいたるところであった。

 また、高速増殖炉「もんじゅ」、六ヶ所村の使用済み核燃料の再処理、全国10の原子炉で開始され、あるいは開始が計画されているプルトニウム燃料(MOX)計画など、安全無視のプルトニウム計画、いま計画している新たな原子炉14機の建設中止、すでに寿命に達した原子炉の運転停止なども実行に移すべきだろう。

大きく問われる国全体のエネルギー政策

 大きく問われているものは、国全体のエネルギー政策である。これまで政府と業界は一体になって、国策として原子力開発を推進し、国際的な進出にも強い野心を示してきた。だが、先の16氏の声明も言うように、その政策は、「利益が大きいと思って推進してきた」物で、今回のような事故の危険について「考えを突き詰め、問題解決の方法を考え」たものではなかった。

 現在、日本の電力は石炭25%、天然ガス29%、石油7%、水力8%、原子力29%に対し、新エネルギーは1%に満たない。だが原子力依存のエネルギー政策が、地球的な放射能汚染の危険と背中合わせである以上、自然エネルギーへの戦略的転換は避けられないし、避けるべきではない。既存のエネルギーの見直し、ソーラーや地熱、バイオマスなど再生可能エネルギーの開発、資源とエネルギーの浪費を抑えた低エネルギー社会への転換など、可能性はいくらでもあるはずだ。

被災者救援と長期的視野に立った復興に国家的支援を

 いま急がれているもうひとつのことは、膨大な被災者の救援だ。災害から1ヶ月を経て、被災者を励ましているものは、周辺自治体をはじめ全国の心ある自治体と住民の支援や国民的な規模に広がっている支援やボランティアの運動だ。だが、長期にわたる復興は、国民の善意だけではできない。国の財政の抜本的な組み換え、日本の経済の在り方の見直しなど、すべてにわたる検討が必要だ。4月からの新年度予算に組み込まれた大企業・大資産家のための2兆円、全土135を超える米軍基地・施設への負担に加え、「思いやり」と称して米軍につぎ込んでいる2000億円の予算、無駄な公共工事や高速道路の無料化など、一切中止し、被災者の救援にあてるべきだ。また、独占料金で溜め込んできた東京電力の2兆円の社内留保はもちろん、日本の大企業が溜め込んできた244兆円の社内留保にも大胆に手をつけるべきだ。いまのところ、こうした「聖域」に立ち入った救援と復興には、日本共産党以外の政党は沈黙している。

人類の生存のためにヒロシマ・ナガサキの教訓を

 最後に、不幸の度合いは比較しにくいことであるが、今度の被災と比べても、広島・長崎の犠牲者の数は桁違いに大きかった。1945年の末までに亡くなった人の数は21万人であるが、原爆被害はそれ以後も被爆者の命を奪い、いまも奪い続けている。その数は計り知れない。原子力エネルギーの最大の誤用は、核兵器である。広島・長崎の被爆から今年の8月で66年になる。この66年間、きのこ雲の下で起こったことが人々に知られるにしたがって、世界の世論は核兵器の廃絶へと大きく動いた。

 今回、東日本を襲った災害もまた、新たな教訓をわれわれに与えている。それは人類が達成してきた高度の能力と資源を、戦争や軍備、際限のない投機と浪費のために使うのでなく、飢餓や貧困、疾病、災害の克服、福祉や教育、紛争や対立の克服など、より平和で公正な世界の実現のためにふりあてるべきだ。核兵器の全面禁止は、その実現のために引き続き緊急で重要な課題であり、何よりも人類がみずからの生存のために連帯を発展させることのできる課題である。

 日本原水協は、この課題を手放さず、今年2011年もヒロシマ・ナガサキで原水爆禁止世界大会を開催することを呼びかけ、核兵器のない平和で公正な世界をめざす世界諸国民の草の根からの連帯を発展させるために力を尽くしたい。

(Hiroshi Taka)

 

 

 

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