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反核平和運動・原水協の声明と決議
反核平和運動・反核平和運動

 

福島第一原子力発電所の事故に関して

沢田昭二(日本原水協代表理事・名古屋大学名誉教授)

 2011年3月11日14時46分ごろ発生したM9.0の巨大地震(平成23年東北地方太平洋沖地震)を契機にした東京電力福島第一原子力発電所事故について、日本原水協代表理事で名古屋大学名誉教授の沢田昭二さんにその時々の状況に合わせてコメントをいただきましたので紹介いたします。

1.原子炉事故の現状(3月15日記)

 東京電力の福島第1原子力発電所、第2原子力発電所、東北電力の女川原子力発電所が地震と津波の被害を受けましたが、東電の福島第一原子力発電所の1号炉から3号炉は稼働中でしたが地震で停止した後冷却水を送るすべての機能が不能になり、濃縮ウラン燃料棒(enriched uranium fuel rod)が水から露出して冷却できず燃料棒の表面を覆っていたジルコニウム(zirconium)金属が融け、水あるいは水蒸気の酸素を奪って酸化し、そのため残った水素が発生し、1号炉と3号炉では水素爆発する深刻な事故になってしまいました。

 点検で運転していなかった福島第一原子力発電所4号機から6号機までは原子炉から引き抜いた燃料棒を、同じ建屋のプール内に入れて冷却していましたが、連鎖反応がストップしても燃料棒内には大量の放射性物質(核分裂生成物fission products)が蓄積していて、放射線を出し続けており、この放射線のエネルギーで水の温度が上がり4号炉は水が蒸発して燃料棒が露出して高温になり火事が起こりました。このプールは建屋内にありますが、圧力容器のように外部と遮断されていないために水による遮蔽が効かないで放射性微粒子が大気中に放出されます。そのため原子炉周辺に近づいて冷却水を注入する作業員(ヘリコプターの自衛隊員と消防車から放水している署員)は被曝を続けています。

 もっとも怖れられていることは、壊れた燃料棒から外に出てきたウラン燃料が原子炉やプールの底に集まり、臨界量を超えて核分裂の連鎖反応が始まると、莫大なエネルギーが放出されて大爆発(未成熟な原爆の爆発)を起こすとチェルノブイリ事故のようなことになります。そうならないように地上と上空からの注水と、電源が回復して給水機能の回復が成功することを願っています。

2.「しきい値論」に基づく報道の問題点(3月16日記)

 内部被ばくや外部被ばくを含めて、現在の報道は「しきい値論」に基づいて、何ミリシーベルトだから安全だということを言っていますが、放射線の影響は急性症状も晩発性障害も放射線影響は個人差と年齢差が大きいことを踏まえるべきだと思います。平均的には安全だといわれる場合でも、放射線感受性の強い人には影響が現れます。たとえば、脱毛では0.04シーベルト(40ミリシーベルト)で0.03%の人が発症し、0.4シーベルト(400ミリシーベルト)で0.15%の人(10万人被ばくすると150人)が発症します。1シーベルトで約1.3%,1.5シーベルトで5.7%の人が発症します。最近ではこの辺り(発症率5〜10%)の人が発症する線量をしきい値と呼ぶことがあります。こうしたことを周知させて、被ばくすることを避けるように訴えて欲しいと思います。

 また政府やテレビで解説する専門家の多くは内部被ばくを無視しています。「“直ちに”健康に影響が出るレベルではない」と影響がないかのように言います。外部被ばくによる急性症状は1週間から2週間後に発症し、内部被ばくの場合にはさらに遅れて発症します。被ばくによるがんなどの晩発障害は何年も経て発症します。がんなどの晩発的な障害は被ばく線量に比例して発症率が増加します。多数の人が被ばくすればがんの発症率は確実に増加します。可能な限り被ばくを避けるべき所以です。

福島第一原発の現場では、専門家の意見を聞いて250ミリシーベルトでは白血球減少症状がでないから作業員の作業被ばく線量を引き上げたとのことですが、これも「しきい値論」に立っての判断が続いています。作業員に被曝影響が出てもしきい値以下だから放射線影響ではないと切り捨てることになると心配です。

 3月15日、愛知の原発問題住民運動センターとして中電に申し入れをし、震源域の真上にある浜岡原発発はもっと危険なので運転を即時停止してほしいと申し入れをしました。その時中電からも社員が福島原発に数人規模で派遣されており,上記のような注意を伝えるように申し入れをしました。

 放射線がまだ強くない初期段階で、1号から3号だけでなく4号から6号機まで含めて海水を注入するなどしておれば現在の深刻な事態は避けられたと思います。

 集団訴訟で明らかになった内部被ばくをマスコミも触れるようになりましたが、まだ十分に理解していないようです。とりわけ放射線感受性には大きな個人差があることがほとんど無視されています。敏感な人は10分の1でも100分の1の線量でも人数は少ないですが影響が表れる人がでます。

3.深刻な事態と、東電任せの問題 (3月17日記)

東京電力の福島原発の沸騰水型原子炉が1号から4号まで危険な状態が続いています。冷却水を送る何種類もの手段が全部機能しなくなって、燃料棒がむき出しになっています。現在強力な放水車を使って水を爆発で破れた建屋の穴から注入することを試みています。

 すでに周辺部に放射能漏れが起きていて、スリーマイル島事故の被害を超えたと思います。燃料棒から出てきた濃縮ウランが原子炉の底の一カ所に集まって核分裂の連鎖反応が起こればチェルノブイリレベルの大惨事になり、日本は人口密集地でしかも地震と津波で道路や輸送手段が破壊されている状況で深刻な事態になると心配しています。

 日本の原子力政策がアメリカのAtoms for Peaceという核兵器産業の保持のために植民地的で、そのため現在の対策も原発は安全だと言いふらしてきた御用学者が結局は東電まかせで独立した判断が出来ない状態です。

 昨日官房長官が小佐古敏荘東大教授を内閣官房参与に任命して助言を受けることにしましたが、彼は原爆症認定訴訟の大阪地裁の国側の証人を務めましたが、電力会社の宣伝マンとして原発は安全だという講演をして廻るだけで、毎年何百万円も厚労省から原爆放射線の研究の代表者として科学研究費補助金を受け取りながら、そのテーマに関する研究は一切していないこと、研究費を配分した共同研究者からは研究成果の報告を一切受取っていないことが弁護団の追及であきらかになり、同じ日の午前中に私が行った証言と矛盾するので裁判官から質問を受けることになってもまともな証言ができないという無責任男であることが明らかになった人物です。

 集団訴訟で明らかになった内部被ばくをマスコミも触れるようになりましたが、まだ十分に理解していないようです。

4.想定は甘すぎ。原発は収束を(3月19日)

 事故後の原子力安全・保安院の説明を聞いて、あまりのずさんな情報公開に憤りを感じている。そもそも原子力を推進する立場の経済産業省の下に安全、規制をつかさどる保安院があるのがおかしい。電力会社から独立して放射線情報を把握する強力な権限を持った組織(安全委員会)が必要です。原子力発電は未完成な科学技術です。科学的に事故の可能性はゼロではありえません。安全性について最大限の配慮がなされなければならないのに、地震の大きさについても、防護システムについても前提となる想定が甘すぎたことを露呈しました。被曝の問題も、外部被曝だけではなく、放射性物質が体内に入る内部被曝の影響が大きいのです。事故から長時間たっても放射能は体内で放出され続け、蓄積されて被害を拡大させるのです。

 私は被爆者として、また科学者として原爆症認定訴訟に関わってきました。被爆者に起こった事実に基づくと、これまでの国際放射線防護基準や日本政府の原爆症認定基準は内部被曝による影響を過小評価し続けていることが明らかになり、私はこれを証言してきました。

 もう原発は収束させるべきです。日本が世界をリードしてきた太陽エネルギーなど自然エネルギーの開発に舵を切るときに来ています。

 

 

 

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