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核兵器全面禁止条約交渉の開始をもとめる原水協代表団

2001年10月22日〜29日

 日本原水協は、2001年国連軍縮週間の10月22日から29日まで、ニューヨークとワシントンDCに、「核兵器全面禁止条約の交渉開始を要請する日本原水協代表団(団長:菊池定則全国担当常任理事、群馬県原水協理事長)」全8名を派遣しました。これは、原水爆禁止2001年世界大会のよびかけにこたえ、第256回常任理事会で決定された、「核兵器全面禁止・廃絶条約交渉のすみやかな開始を求める国際キャンペーン」の一環として実施されたものです。
 
 

活動の概要と方針

国連政府代表部&国連訪問の記録
 日本政府代表部
 カナダ政府代表部
 メキシコ政府代表部
 マレーシア政府代表部
 ブラジル政府代表部
 イギリス政府代表部
 中国政府代表部
 エジプト政府代表部
 国連軍縮局

団員の感想
 核兵器廃絶・テロ根絶求めニューヨーク・ワシントンを往く(兵庫県原水協 梶本修史)
 人間と人間のつながりが平和を生む(一之瀬由夏)


代表団活動の概要と方針

 1. 2001年世界大会で採択された「国連および各国政府への手紙」を国連および各国政府代表部(核保有国とその同盟国、新アジェンダ国、非同盟国)に国際・国内賛同者名簿とともに届け、今国連総会において、核兵器全面禁止交渉のすみやかな開始につながる決議の実現に、最大限の支持を集めるよう要請する。加えて、新アジェンダ諸国、非同盟諸国代表部には、核兵器廃絶の国際舞台での努力を激励し、上記課題でNGOとの協力を進めるよう要請する。核保有国と同盟国に対しては、2000年NPT再検討会議での合意の誠実な実行を求める。必要に応じ、日本の運動の代表団として、日本政府の提案の持つ問題点、つまり、核兵器廃絶交渉や廃絶条約の提起の欠如、先制不使用や非核保有国への不使用などについての否定的態度、CTBT、カットオフ条約をめぐるあらたな後退などに批判を表明し、またその背景にある核抑止力論への依存について態度表明をおこなう。

 2. ニューヨーク、ワシントン現地の平和/反核団体と交流するなかで、国連と政府代表部訪問の目的や成果も紹介しながら、核兵器廃絶条約の実現に向けて、平和運動の国際的共同と連帯の強化をよびかける。テロ攻撃とアフガン空爆開始後の困難な状況のなかで、法と理性にもとづく平和的解決を求めるアメリカの平和運動に連帯とお悔やみを表明し、激励する。同時に、中心的課題を見失うことなく、テロ根絶のためにも、核兵器・大量破壊兵器の廃絶をめざす運動と世論喚起が重要であることを訴える。(参照:9/12 アメリカ平和運動へのお見舞いの手紙、9/26ブッシュ大統領への手紙、10/8空爆開始にあたっての談話)また、核兵器廃絶の運動と世論強化のために被爆の実相を普及する重要性を訴え、交流する団体・個人には、原爆組写真など日本原水協の資材・資料を提供し、日本被団協贈呈(コープ石川提供)の「原爆と人間」写真パネルを届ける。

 3. ワシントンで連邦議会議員との面会が実現した場合は、上記「各国政府への手紙」をアメリカ政府に出したことを伝え、議会内でのこれまでのイニシアチブ(プロポジション・ワンと共同した決議提出など)も生かして、核兵器廃絶条約交渉の実現に向けて、議会の場からアメリカ政府を動かすような努力を要請する。テロ問題については基本的に2と同じ。


国連各国代表部訪問の記録

日本政府代表部 
10月23日(火)
軍縮会議(CD)日本代表団・木村泰冶郎二等書記官        
 日本原水協には、毎年訪問してもらい嬉しく感じている。今年も日本は国連総会に、核軍縮に関する決議案を提出する。ブッシュ政権の誕生でアメリカ政府の政策に変更があるため、決議案への賛成を得られる展望はむずかしいものがあるが、唯一の被爆国である日本が毎年決議案を提出するのは重要だと考えている。〔昨年の決議案と違い〕包括的核実験禁止条約(CTBT)発効の期限を2003年までと明記しない理由は、非現実的な目標をかかげることは信頼関係に関わるものだからである。しかし、今年の決議案は、早期発効の重要性もかかげているし、すべての国が批准すべきだとも主張している。こうした日本の立場は譲れないもので、着実に積み上げていくしかない。〔核軍縮を進めるためには〕核兵器保有国を取り込むことが大切である。〔日本政府の対応を〕個人的にたとえて言えば、「糸でエビをつるには、じっくり引いていき、えさにエビをからませておく」という方針である。

カナダ政府代表部
クリストファー・ウェズダル軍縮大使、他3名 
 9月11日のテロを受け、国連では、軍縮問題でアメリカを批判しようとか、政策で意見をたたかわせようとかいう雰囲気がだいぶ弱くなっている。ジュネーブでおこなわれる軍縮会議(CD)も行き詰まり状態である。アメリカの政策だが、共和党政権は、ミサイル防衛に関して強硬な立場をとっており、CTBTに関しても懐疑的な見方をしている。私は、こうしたアメリカの単独行動主義を懸念しており、ブッシュ政権は多国間による協力をしなくてはならないと思う。世界貿易センタービルを破壊したエネルギーは600トンと推定されており、広島と長崎に投下された原爆の威力は、12?15キロトンであったから、センタービルの25倍くらいであった。こうしたことからもテロで核兵器を使わせてはならないことが分かる。日本政府の決議案は高く評価され、際立つものであると思う。日本の登大使はNPTですばらしい役割を果たしている。日本が提出している決議案が、どう支持を得られるか見守りたい。日本決議は、可能な措置をいかに進めていくかという視点に立っており、現実的なものである。このように政府としては可能なことを追求していくが、もちろん、非政府組織のみなさんとしては、日本政府にもっとがんばるようどんどん圧力をかけてほしい。

 いまの国連の役割は、アフガニスタンを復興させ、アフガニスタンに国際社会の国々と協調できる政府をつくることである。いまおこなわれている空爆であるが、国連憲章は「自衛の権利」を設けている。〔在日米軍基地の周辺住民が、標的にされる可能性を懸念していることを伝え、報復は報復を生むから、法と理性による解決が必要だというこちらの主張に対し〕5,000人も殺す者に標的にされたくないからと、何もしないわけにはいかない。対応が必要だという意味では、私たちもアメリカ国民になっている気持ちだ。イスラムが敵なわけではない。私たちは、いまある命をいつくしむ立場をとるが、テロリストはそうではない。だから、これに反対してたたかう必要がある。

メキシコ政府代表部
グスタボ・アルビン軍縮大使、アンジェリカ・アルス公使
 大統領からも、核兵器廃絶のために力を入れてくれと言われている。これは、簡単ではなく長いたたかいになる。大統領の意向もあって、来年ジュネーブの軍縮会議の発言では、NGOや市民との対話の重要性について発言するから楽しみにしていてほしい。新アジェンダ諸国の会議は、この部屋のこのテーブルで進めた。核兵器廃絶を規定する条約の採択はなかなか進まないが、みなさんは、各国政府にも、私にも、どんどんプレッシャーをかけてほしい。地球から完全に核兵器をなくすことがメキシコの立場である。人類の歴史は2万年で、そのなかで核兵器が存在しているのはたったの55年というわずかな期間である。核兵器はいわば腫瘍のようなもので取り除くことができる、と私は希望を持っている。

 〔代表団には教師の人もいるが〕教師の役割は重要であり、日本で子どもにきちんと考える場をあたえていることに敬意を表する。日本政府に対して個人的意見は言えないが、国は、国民の声と国の方針とのバランスをとりながら政策を進めることが大切だと思う。〔代表団の青年の発言を受けて〕若い世代のとりくみには、勇気づけられる。日本の大学でも平和の問題に関して圧力をかけてほしい。

マレーシア政府代表部
ハスミ・アガム大使、他1名 
 今年8月、長崎での原水爆禁止世界大会に参加した。長崎訪問は2回目であり、広島にも一度行ったことがある。要請の主旨である「核兵器廃絶条約締結に向けた交渉開始」が必要だということについては、私もみなさんと同じ意見である。国連総会では、まさに、交渉開始を求める発言をする予定だ。

 批判ではないが、日本政府は核兵器廃絶の問題でもっと主導権をとるのが普通ではないかと思う。日本に行くたびにNGOや日本の役割の大きさを感じる。核廃絶のために、広島と長崎の声をもっと響かせてほしい。たとえば、映画をつくって核のおそろしさを明らかにしてはどうか。単なる戦争映画ではなく、人間性をアピールするものがいいと思う。映画の重要性を指摘する理由は、真実を忘れさせないため、また映画が若い人たちを教育する側面を持っているからである。

 テロに関して。世界貿易センタービルの犠牲者の数は、広島、長崎の原爆犠牲者とは比べものにならない。しかしアメリカはいつも相手に謝らせ、自分たちは謝らない。今回の軍事攻撃において、ブッシュ大統領は、どんな兵器でも使うと発言していることからみても、どんな兵器が使われるか分からない。〔代表団が、一般市民の犠牲に関して東京大空襲に言及したことを受け〕東京大空襲のことは知らなかった。東京でもアフガニスタンでも、戦争の犠牲者はいつも一般市民である。国連のテロ対策については、コフィ・アナン事務総長を支持したが、国連が思うとおりに行かず残念に思っている。

 〔代表団からの日本における平和教育についての発言を受けて〕 日本の子どもに自分の国の歴史を教えることは大切。この点については、アメリカと日本の教師による話し合いをしようと、をよびかけたらどうか。極東で非核の社会をつくっていくために、日本にリーダーシップをとってほしい。

ブラジル政府代表部
サンティアゴ・モウラオ参事官、レオナルド・フェルナンデス書記
 〔2001年の原水爆禁止世界大会にブラジル大統領からメッセージをいただいたことに感謝し、そのメッセージの内容に言及したことも受けて〕ブラジルは非核の政策をとっており、核兵器に金を使っていない国である。私たちは、核兵器の廃絶を最優先課題としている。核兵器廃絶に向けて進むうえで、新アジェンダ構想は私たちの重要な運動のひとつである。来年のNPT再検討会議に向けて、核保有国に圧力をかけ、「自国核兵器の廃絶を達成する」という公約を実行させることが大切である。
 
 原水協からの手紙は、大統領に渡したい。日本の新しい世代の人が平和運動に参加していることは嬉しいことだし、学校で平和教育がされていることも重要だと思う。みなさんの訪問は伝統になっている。今年も来てくれて感謝する、これからも毎年来てほしい。

イギリス政府代表部
ディビッド・ブロージャー軍縮大使、他1名 
 大使に就任してまだ4カ月である。みなさんからの手紙は首相に届ける。国連第一委員会でイギリスは日本の決議案に賛成した。CTBTも批准している。条約の発効に向け努力したい。私たちは核保有国としての義務を深刻に受け止めており、イギリスとしては、単独で核兵器を大幅に削減しており、完全軍縮を達成するという立場も変わっていない。

中国政府代表部
ワン・インファン大使、他1名 
 中国は、核実験完全禁止、核兵器廃絶、核兵器先制不使用、非核兵器国に対する核兵器不使用の政策をとっている。不拡散体制を強化することが必要だ。みなさんの日本での活動に感謝するとともに、若い人から年配の方までが一緒に活動しているのを見て感動した。日本と中国にとっては、友好関係を築くことが大切で、そのためには、政府であれ、NGOであれ2国間交流を進めていきたい。日本と中国は共同しなくてはならず、そのためには相互理解が必要だ。中国は発展しつづけており、今後仮に日本より強くなっても、日本をおどすようなことはせず、対等な関係を結んでいく。私たちは、中国が日本に対する脅威だとの考えには同意しない。中国の最大の目標は、国民の生活水準を高めることで、そのためにも国内・国外の安定と平和を求めている。

エジプト政府代表部
イズマル・カイラット参事官、他1名 
 核兵器廃絶を規定する条約の交渉を開始すべきというみなさんと意見を同じくする。昨年のNPT再検討会議でなされた、核兵器を廃絶する「約束」を実行させることが大切である。エジプト政府の軍縮のとりくみだが、94年には中東非核地帯構想のイニシアチブをとり、2000年にはNPT会議において、核保有国とも交渉し核兵器廃絶への合意をとりつけた。また、エジプト政府は、今年の国連総会で提出されるメキシコ決議案に賛成する予定である。この決議の共同提案国になるかについては検討中である。〔注:決議案は、「核の脅威を除去する方法を検討する国連会議を2006年までに開催することを要求」していたが、その後、「この議題を来年の国連総会の議題に入れる」という内容に変更され、事実上取り下げとなった。〕

 今後のとりくみとしては、2002年4月、次回のNPT再検討会議に向けた準備会議が始まるので、ここで「約束」の実行に焦点をあてていきたい。
新アジェンダ諸国は98年から毎年決議案を提出してきた。今年は決議案は出さないが、新アジェンダ諸国の7外相が共同声明を発表しており、その内容は、2002年4月のNPT再検討会議準備委員会に向け活動を強化する、というものである。核廃絶に向け共同し努力を進めていくことにはなんら変わりはない。

国連軍縮局大量破壊兵器課
ハネロア・ホッペさん
 国連軍縮局の役割は、まさに核兵器を廃絶する「明確な約束」を実施することで、私たちはそのために働いている。こうした仕事は、みなさんのようなNGOの支援があってこそ進められる。2002年のNPT再検討会議準備委員会では、この「約束」が守られているかが検討されることになる。



核兵器廃絶・テロ根絶求めニューヨーク・ワシントンを往く
日本原水協全国担当常任理事・原水爆禁止兵庫県協議会事務局長
梶本 修史

 日本原水協が、核兵器廃絶条約の速かな交渉開始を国連および各国政府代表部に要請する代表団の派遣計画を発表し、兵庫県からの参加を名乗りあげた日に同時多発テロが起こりました。報復戦争が始まり、炭疽菌被害が拡大するなかで、出発日10月22日を迎えました。閑散とした成田空港、まばらな機内が不安と緊張をいっそう大きくしました。ニューヨークの空港や街は、迷彩服姿の米兵が目立ち、道路の各所に検問がはられていました。訪れた国連前の道路が、「自爆テロ対策」という砂を満載した大型トラックで完全に遮断されていたのには驚きました。緊迫した雰囲気のなか、要請代表団は、国連軍縮局はじめ中国・イギリスの核保有国、新アジェンダ・非同盟の諸国など代表部を精力的に訪問しました。

 ほとんどの代表部は国連大使・軍縮大使が直接面談に応じ、マレーシアのハスミ・アガム国連大使とは一時間半も懇談が続きました。ハスミ大使は、核兵器に関し、「(一部が望むように)後回しに追いやるべきでなく、地球的課題の高度の優先課題にとどまらなければならない」と強調しました。同時テロに関しても、ハスミ大使は、「広島・長崎の死者は今回のテロの犠牲をはるかに上回る。アメリカは自分のしたことは謝らない」と、報復戦争の中止を強く訴えました。そして、「テロは核兵器を使う可能性もあった。アメリカも報復に核兵器を使う可能性もある」と、「核兵器廃絶の緊急性がいっそう浮き彫りになった」との態度を表明したのが強く印象に残りました。これは非同盟・新アジェンダ諸国共通の立場で、マレーシアからは、日本原水協の要請内容と一致する「核兵器条約の早期締結めざす交渉を2002年に開始する」ことを求める決議案が提出され、帰国後の国連総会第一委員会で賛成多数で採択されました。

 日本政府代表部は、「核保有国が賛成できる現実的な目標をかかげるべき」として、核兵器廃絶を緊急に推進する態度を持たず、マレーシア決議案にも棄権し、被爆国の政府として恥ずべき態度であった。ハスミ大使は、原水協の活動を高く評価し、今年の原水爆禁止世界大会(長崎)にも参加しており、「NGOを共通の大義における不可欠のパートナーと考えている」とも述べた。メキシコ軍縮大使も、「大統領の強い意向で、NGOとの話し合いについて軍縮会議で発言する」との立場を表明した。私にとっては5回目の国連要請でしたが、日本のマスコミが国際政治の中心問題から離れた位置にあり、核兵器問題での熱心な議論、たたかい、NGOとの共同の前進などについてほとんど報道しない鈍感さをあらためて実感することになりました。 

U

 日本原水協代表団がニューヨークに到着した翌日(10月23日)、テロ現場付近の交通規制が緩和されたと聞き、五番街の市立図書館前からのメトロ・バスで出向きました。全市から車が殺到しているのか、ひどい交通渋滞でたどり着くのがたいへんでした。現場を囲う柵には、不明者なのか、たくさんの写真がはりめぐらされ、慰霊の花束やロウソクが並び、寄せ書きが貼出されていました。あまり埃っぽくなかったのは意外でしたが、正面に見えた焼け焦げたビルが被害の大きさを示していました。貿易センタービルはその向こう側で、崩壊した姿は見えなかったが、瓦礫を積んだトラックが次々と行き来し、いまなお困難な作業が続いていることを実感させます。ビル激突・崩壊の写真セットや星条旗グッズ(旗やバッジ)、消防署マークの帽子などを入れた小さな台を抱えて売る人、露店があちこちに目立ちます。ビンラディンTシャツは観光客によく売れているそうです。チャイナタウンが近いためか中国系の人ばかりで、「商魂たくましい!」と感心するよりも悲しい複雑な気持ちでした。

 街には、星条旗があふれています。見上げるのもやっとという高層ビルの高い窓にも星条旗が貼り出されていました。走るバスや乗用車にもたなびいています。しかし、「戦争だ」「報復だ」という米政府ほどに熱した感じではありません。大震災の時には、被災地に「ガンバロウ」の言葉があふれました。あまり好きな言葉ではありませんが、不安におおわれた人々が連帯と共同の心を確認し、気持ちを奮いたたせる役回りを求められたのと同じ意味の星条旗ではないのかと思いました。その後のワシントンはさらに冷静な感じでした。星条旗もさほど目立ちません。私たちがアメリカに到着した日に、ワシントンの郵便局員2名が炭疽病で死亡したニュースが報じられました。最高裁、下院議員会館、司法省は私たちの訪問直後に次々と炭疽菌が発見され閉鎖されました。用心に抗生物質を服用していたとはいえ、今も不安があります。

 ワシントンでは、「戦争やめよ」と訴えるデモがあり、代表団も参加しました。兵庫県から持参した「核兵器のない21世紀を」とのオレンジ色の横断幕、非核「神戸方式」のゼッケンは注目を集め、テレビなどのカメラが殺到しました。ワシントン・ポスト社前から始まったデモは、実に多彩多様なプラカード、デコレーションにあふれ、元気よく、楽しいものでした。他方、沿道で露骨に敵意を示す市民も目立ったところに、テロ問題での米国民の複雑な状況がうかがわれました。この複雑ななかでのアメリカの平和運動の奮闘ぶりは注目すべきものがあります。

V

 日本原水協は、同時テロ発生の翌日、いち早く、米国の平和運動に対して、「短絡的な報復的軍事行使でなく、冷静な事件の真相究明と理性と法にもとづいた問題の解決を」との立場を示した「お見舞いの手紙」を送りました。日本で最も早い段階の具体的行動は、国際活動の実績があるとはいえ誇っていいことだと思います。滞米中に、「ありがたかった」との言葉をたくさん聞きました。私の代表団参加の動機のひとつは、「戦争だ!」と戦意高揚がつくりだされている米国内で、「戦争やめよ」の勇気ある、しかし困難な闘いにとり組む米国の平和運動に連帯し、激励したいとの思いでした。

 これまでも兵庫県原水協は、非核「神戸方式」を通じて、ニュージーランドと並んで米国の平和運動との連帯を積み重ねてきました。それは、84年、岩井直臣さん(当時神戸市議)が、ニューヨークでたたかわれた核巡航ミサイル艦の母港化反対運動から、非核「神戸方式」の成果紹介のために招かれて以来のものです。昨年の沖縄サミット(7月21日)には、米国の平和活動家たちが沖縄の新聞に全面意見広告を掲載。沖縄の基地撤去とともに、米国が直接乗り出した非核「神戸方式」への攻撃をきびしく批判する紙面を見て、その連帯の思いに感動したものでした。この友人たちの非常に困難な闘いの時にこそかけつけねばとの思いを強めました。

 出発にあたって募った「米国平和運動への激励メッセージ」は2百枚ほど集まりました。その一つ一つに英訳をつけ届けたのです。今夏、神戸を訪問したマイケル・ホヴィ氏(ニューヨークNGO軍縮委員会)が教授をつとめるイオナ大学の平和教育の授業に招かれ、日本の平和運動について報告する機会がつくられました。30名ほどの学生たちは、非核「神戸方式」をめぐる闘いの話に感嘆の声をあげ、「大震災の時に米空母の支援をなぜ断ったのか」など熱心な質問が続きました。ホヴィ氏にメッセージカードを手渡すと、「まもなくドイツの会議に出るがそこでも紹介したい」と目を潤ませて感謝してくれました。国連軍縮局への要請、国連主催のテロ問題のシンポ出席の労をとっていただいたNGO軍縮委員会のアン・ラクディール副会長にも渡しました。「日本の平和運動の力強さを実感する」と喜ばれました。ワシントンの平和団体主催の「戦争と兵器」とのシンポで発言し、カードを紹介して連帯の思いを伝えました。聞いていた女性が手で涙をぬぐいながら拍手してくれた姿が印象的でした。新婦人のみなさんが託してくれた「和子ちゃん人形」と平和の絵手紙とともに、兵庫県からの平和の思いはしっかりと米国民に伝えられました。

W

 今回の代表団のもうひとつの目的は、アメリカの平和団体を激励し、連帯を深めることでした。次々と炭疽菌被害が広がっていたワシントンで出迎えてくれたのは、平和団体プロポジション・ワン委員会のエレン・トーマスさんでした。彼女は、今夏に兵庫県を訪れ、南光町にまで足を延ばし山田兼三町長とも懇談するなど交流を深めたばかりです。彼女の案内で、ベトナム戦争戦没者記念碑を訪れました。沖縄の「平和の礎」のように、戦死者の名前が刻まれた巨大な記念碑には、今も大勢の人が訪れていました。「フリーダム・イズ・ノット・フリー」(自由はただではない)と大書された記念碑もあり、米政府が強引にはじめた報復戦争を思い起こして顔をしかめてしまいました。

 ホワイト・ハウスに手が届きそうなラファイエット公園では、コンセプシオン・ピシオットさんが81年以来、「24時間監視行動」をつづけています。毎年数百万人もの観光客が訪れる場所です。建造物は建てられないので、小さな敷き板と簡単な雨よけの覆いだけがあるだけです。看板には、広島・長崎の被爆写真が貼られています。この「ホームレス」はよく目立って、たくさんの人が足をとめます。彼女は、「この家(ホワイトハウス)の主が核兵器を作って使おうとしている」と話かけ、「アピール」署名を訴えます。集まった署名は、日本原水協まで日本の観光客に託すのです。冬は死者も出るほどの極寒のワシントンの闘いは、ほんとうに感動的です。彼女の闘いをエレンさんたちが支えているのです。小泉流のパフォーマンス好きなクリントン大統領が食べに来て有名になったという近くのマクドナルド店に案内されました。「監視行動」のためにトイレを開放してくれているということでした。マクドナルド店を舞台にした核兵器の軍拡と廃絶の同居は、いかにもアメリカ的な面白さです。でもこれが単なる変わり者の運動でないのがすごいところです。

 エレンさんたちは、米国のイニシアチブという直接立法制度を使い、核兵器廃絶によって予算を住宅、医療、教育などに振り向けることを求めた「憲法修正提案」を住民投票にかけさせ、54%の賛成で成立させ、正式の法案として米下院に提出させたのです。この闘いは、日本共産党綱領にも明記されるほど有名です。エレンさんたちは、廃屋を「平和事務所」に改造中で、多くの人の手により来年1月に住めるようにはなるということでした。帰国後、南光町の梶原清子牧師に、日本から「平和事務所」に常駐してともに活動しないかとのメールが届きました。日米の平和運動の一層の連帯強化のために度胸と体力のある人いませんか。(了)
 

人間と人間のつながりが平和を生む
「核兵器廃絶条約の交渉を求める」原水協代表団に参加した大学生、一ノ瀬由夏さんのアメリカ訪問記

夢と希望をうばったテロと立ち上がった日本の若者
 9月11日のテロ。コンピューターで合成したかのような映像にしばらく現実として感じることができませんでした。犠牲者の中には私と同い年の学生もいました。留学の下見で飛行機に乗っていたのです。もっと勉強するつもりだったのしょう。大きな夢もあったでしょう。夢や希望を一瞬のうちに奪い去るテロは、絶対に起こってほしくないと思いました。

 9月15日、渋谷での平和アピールから始まり、日本全国で若者が行動を起こしました。軍事攻撃が開始された日も、高校生が「テロも戦争も反対!法と理性に基づく解決」を訴え行進をしました。私の大学でも、ピースウォークをしましたが、「イマジン」を長し歩く中、沿道から、拍手と「がんばれ」の声援を受けました。「テロも戦争もない世界」が多くの人の願いであることを実感しました。

平和の願いを伝えにアメリカへ
 10月末、私は日本原水協代表団の一員としてアメリカを訪問しました。国連と各国政府代表部に今年の原水爆禁止世界大会で採択された「核兵器廃絶条約の交渉開始を求める手紙」を手渡し、テロと戦争に反対しがんばっているアメリカの人たちを激励するためです。

 到着したニューヨークは星条旗で一杯。焼け落ちた貿易センタービル跡の周りは、花と平和を願うメッセージで一杯。悲しさで深いため息が出る思いでした。

 政府代表部の訪問で、私は核兵器廃絶と平和を願う日本の若者の想いを伝えました。マレーシアの大使は「新世代がこういう運動を起こすことはとても大切です」と応えてくれました。みんなと行動するなか、こうした要請を続けてきた原水協への敬意、核兵器廃絶の「明確な約束」の成果の大きさを感じました。また、毎日感じたのは、政治家や外交官はこの「手紙」に賛同した一人ひとりの願いの重みを感じられる人であるべきだということです。

平和を願う気持ちはおなじ 国民のむすびつきが平和につながる
 ニューヨーク郊外では、世界大会に参加したマイケル・ホヴィさんが教える大学の学生と交流しました。その中で彼らの平和を願う気持ちに共感したし、一緒にがんばれるところがたくさんあると思いました。

 ワシントンDCでは反戦デモに参加。すっごいかっこいいデモでした。表現、集会の自由、人種差別されない権利なども訴え、ドラムをたたきながらの行進。私たちもみんなの前で話させてもらい、大きな拍手と感謝の言葉をうけました。

 私は「戦争は絶対にいや」と心から感じます。この旅を通じ、この気持ちは草の根で教育・平和活動を続けてきた人たちの努力の上にあると感じるようになりました。違う国の国民が励まし合い、信頼をむすんでいくことが、平和に近づく道ではないかなと思います。

憲法にも若者にも輝くチャンスを
 ニューヨークでは日本政府代表部にも行き、核兵器廃絶にむけ積極的に行動してほしいと要請しました。でも、返ってきたのは「核保有国の同意をとりつけないと現実的でない」という消極的な返事。日本は唯一の被爆国で、世界に輝く憲法9条を持つ国です。テロに対しても、平和的解決のイニシアチブをもっとも発揮できる国なはず。自衛隊参戦法は成立してしまったけれど、そのことをもっと日本政府に訴えたい。

 いま、希望を失っている若者がたくさんいます。けれど本当は自分の想いを表現できる場所が欲しいのです。テロ・戦争反対の行動には「ビラやホームページを見て、何かしたいと思った」若者がたくさん来ました。人類が憎み、殺し合わないために、彼らと一緒に考え、行動していきたいと思います。



核兵器のない世界」へ

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