NPT再検討会議にあたって
世界のすべての国の政府首脳への手紙
新しい世紀の幕開けを前に、世界諸国民の間では、核兵器廃絶への期待と決意とが広がっている。4月24日からの核不拡散条約(NPT)再検討会議をめぐっても、核保有国をはじめ各国政府や国際政治に、核兵器廃絶のための行動を求める声が高まっている。21世紀の核兵器問題が問われるこのNPT再検討会議でも、さらに今秋の国連ミレニアムサミット、ミレニアム総会でも、世界各国政府、とりわけ核保有国政府が、世界世論にこたえ、核兵器のない世界への決意ある行動をとるよう求めるものである。 われわれ日本原水協は、世界唯一の被爆国民としての願いと責任から、1955年の創立以来、一貫して核兵器全面禁止・廃絶を世界に呼びかけてきた。「広島・長崎」の惨禍は、人類と地球を破滅させかねない核兵器を、「平和と安全の保障」などとして保持しつづける状況を、21世紀にもつづけることを許さない。1945年8月、二発の原爆は一瞬のうちに広島と長崎の二つの都市を廃墟とし、多数の市民の命を奪った。その年の12月末までの死者は、広島で14万人、長崎で7万人以上にのぼった。原爆はさらに多くの人々の健康や家族を奪い、半世紀をへた今なお30万人の被爆者を苦しめつづけている。核兵器問題を真剣に議論するのであれば、まずこれら被爆者の体験や証言に耳をかたむけてほしい。
1995年のNPT無期限延長から5年、核保有国政府が世界に約束した、核軍縮と核兵器廃絶への努力はどうなっているだろうか。われわれは、とりわけ一部の核保有国が、この時の重要な約束であった包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准に後ろ向きな態度をとるばかりか、未臨界核実験をくりかえし、核兵器の近代化さえすすめ、世界世論に挑戦しつづけていることを重視している。さらに米ロ双方による核先制使用ドクトリンのエスカレーション、新たな核軍拡競争の危険をはらんだ「ミサイル防衛」構想など、状況はむしろ悪化の様相さえ見せている。
特定の国が、あくまでも核兵器を自らの「安全保障の手段」として維持・強化することの道理のなさと危険は、すでに国際的に広く指摘されている。1998年のインド、パキスタンの核実験は、5大国にのみ核兵器独占の特権を認めるNPT体制では、核兵器の拡散さえ防げないこと示し、地域的な核軍拡と核戦争の危険という新たな事態を生みだした。NATO軍によるユーゴスラビア空爆など、平和の国際秩序をふみにじる動きはこの危惧をいっそう強めることとなった。このようなもとで、紛争の平和的解決とともに、核兵器廃絶へ進路を切り替えることが、いっそう重要になっている。
そもそも核兵器全面禁止の問題は、国連創立直後の第一回総会で、「各国の軍備からの原子兵器の一掃」として、現在の五大核保有国を含むすべての加盟国が確認した共通の目標である。いまこそ核保有国は、「核兵器のない21世紀を」という世界諸国民の願いに応え、国際的拘束力をもつ核兵器全面禁止条約の交渉にただちに着手し、そのためにも自国の核兵器廃絶の立場を明確にすべきである。また非核保有国は、核兵器のない世界をねがう世界諸国民とともに、この実現のために積極的に行動すべきである。
同時に核保有国が、戦略核兵器をはじめとする核兵器の大幅削減、CTBTの早期批准とあらゆる核実験の中止、核分裂物質の製造禁止、核兵器先制使用の放棄、非核保有国への核兵器不使用の保証などをすすめることを要求する。これらの実行は、非核保有国と国際社会にたいする責任であり、新たな核拡散を防止するうえでも不可欠である。これらの課題も、核保有国が核兵器廃絶へと進むならば、いっそうすみやかに前進できるだろう。
われわれは被爆国日本の政府が、国連で、すみやかな核兵器廃絶を要求する決議に背をむけつづけていることを、日本と世界の反核世論に逆行する行動として強く批判している。この背景には、アメリカの「核の傘」によって「日本の安全をまもる」という政策がある。しかもそのために40年にわたり国民をあざむき、日本への核兵器持ち込みについての日米の秘密の仕組みをつくりあげてきたことが、最近新たな米政府の資料によって明るみにだされた。こうした仕組みをとりのぞき、被爆国の政府にふさわしい態度をとるように、日本政府への働きかけを強めている。
われわれは1955年以来、「広島・長崎」の日である8月6日、9日を中心に、原水爆禁止世界大会を開催してきた。昨年の1999年世界大会には、1万人をうわまわる日本各地の代表とともに、「中堅国イニシアチブ」の代表など、海外から19カ国40団体と6国際・地域組織の代表66人が参加し、一致して「広島宣言—核兵器のない21世紀にむけて」を採択した。「広島宣言」は、核兵器廃絶全面禁止条約の早期締結、核兵器先制使用政策の放棄、あらゆる核実験の禁止と核兵器開発の中止、他国への核兵器持ち込み禁止と撤去などをかかげた。これらの実現のため、反核・平和をねがう世界の人々ともに奮闘する。
20世紀と21世紀の橋渡しとなる今年を、われわれは、20世紀の優れた遺産を受け継ぎ、誤った遺産を清算する重要な機会と捉えている。国連総会は、2000年国連総会をミレニアム総会と命名し、その冒頭、21世紀における国連の役割を検討する首脳会議の開催を決めた。われわれは、この決定を心から歓迎するとともに、このサミットが、「次の世代を戦争の惨害から救う」国連の使命を確認し、とりわけ、その最初の決議となった「各国の軍備から原子兵器を一掃」する核兵器全面禁止・廃絶の目標を、21世紀の国際政治が最初に達成すべき最重要目標のひとつとして確認することを提唱する。
こうした方向こそ、人類の未来を保証するだけでなく、核保有国もまた、諸国民からの信頼に依拠した新しい安全保障を得ることのできる唯一の解決方向であることを強調する。
【反核平和運動・原水協の声明と決議】
|