WWW search Gensuikyo search
 

 

【資料保管庫・軍縮と核政策】

キッシンジャーら米元高官4氏再び
「核兵器のない世界」よびかけ
歴代国務長官らに賛同広がる

米国の核戦略を推進してきたキッシンジャー元国務長官(ニクソン、フォード政権時)、シュルツ元国務長官(レーガン政権時)、ペリー元国防長官(クリントン政権時)とナン元上院軍事委員長の各氏は15日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで「核兵器のない世界に向けて」と呼びかけました。

これは2007年1月4日付同紙にこの4人で寄稿したのに続くもので、昨年の提言に歴代の国防長官や国務長官に賛同が広がっているのが特徴です。また、ゴルバチョフ元ソ連大統領やベケット前イギリス外相など世界各国の元高官のなかでも賛同が広がっていることに触れています。

以下は、「核兵器のない世界」よびかけの全文です。(日本原水協訳)


核兵器のない世界へ

ジョージ・シュルツ、ウィリアム・J・ペリー、ヘンリー・A・キッシンジャー、

サム・ナン

ウォール・ストリート・ジャーナル 2008年1月15日付

核兵器と核のノウハウ、核物質は加速度的に拡散し、引き返すことが不可能なところまで来ている。われわれは、これまで発明された最も破壊的な兵器が危険な者たちの手に落ちるという現実の可能性に直面している。

 これらの脅威に対処するために、現在われわれがとっている措置は、その危険に見合ったものになっていない。核兵器がますます広範囲に入手可能となるなかで、抑止力の有効性はますます低下する一方で危険性は増大している。

 1年前、本紙に掲載された論説のなかで、われわれは核兵器への依存を低減し、核兵器が拡散して危険な者たちの手に落ちることを防ぎ、世界の脅威である核兵器を最終的になくすための全地球的な努力をおこなうよう呼びかけた。この1年間に、これらの問題に対処するために示された関心と勢い、そして政治的空間の広がりは並々ならぬものであり、世界中の人々から力強く積極的な反応が寄せられた。

 2007年1月、ミハイル・ゴルバチョフは、核兵器の実質的削減にかんする最初の条約に調印した者としてわれわれの緊急行動の呼びかけを支持するのは自らの任務であると考え、こう述べている。「核兵器がもはや安全保障を達成する手段となり得ないことはますます明確になっている。実際、年を経るごとに、核兵器はわれわれの安全をより危ういものとしている。」

 6月、イギリスのマーガレット・ベケット外務大臣が、次のように述べてこの見解へのイギリス政府の支持を示した。「私たちに必要なのは、『核兵器のない世界へのシナリオ』というビジョンと、『核弾頭の数を削減し、安全保障政策における核兵器の役割を制限する進歩的取り組み』という行動の両方である。これら二つの要素は別個ではあるが互いに補強しあうものである。どちらも必要だが、現在どちらも弱過ぎる。」

 われわれはまた、このプロジェクトにたいして、国務長官、国防長官そして国家安全保障顧問として幅広い経験を持った次のような元米国政府高官の人々から寄せられた全体的な支持の表明に激励されている。マデレーン・オルブライト、リチャード・V・アレン、ジェームス・A・.ベーカー?世、サミュエル・R・.バーガー、ズビグニュー・ブレジンスキー、フランク・カールーチ、ウォレン・クリストファー、ウィリアム・コーエン、ローレンス・イーグルバーガー、メルビン・レアード、アンソニー・レイク、ロバート・マクファーレン、ロバート・マクナマラ、そしてコリン・パウエルの諸氏である。

 この反応に激励されたわれわれは、2007年10月、過去6つの米政権のベテラン高官と、核問題の多くの専門家を招待し、スタンフォード大学フーバー研究所で会議を開催した。核兵器のない世界というビジョンを核政策にかんするわれわれの思考の指針とすることの重要性と、核の断崖から人類を引き戻す一連の措置の重要性について、全体的な合意がみられた。

 世界の核弾頭の95%近くを保有している米国とロシアは、リーダーシップを発揮する特別な責任、義務、そして経験があるが、他の諸国も参加せねばならない。

 長距離・戦略用の爆撃機やミサイルに搭載された核弾頭の削減など、現在すでに進行中のステップもいくつかある。米ロが2008年に開始できるその他の短期的な措置は、それ自体、核の脅威を劇的に低下させるのに役立つだろう。それらは次のようなものである。

1991年戦略兵器削減条約の主要条項の延長。これらの条項の適用により、検証の決定的な役割について多くのことが得られた。この条約は2009年12月5日に期限が切れる予定である。監視と検証の要件を含むこの条約の主要条項は延長されるべきである。そして、2002年の戦略攻撃兵器削減に関するモスクワ条約で合意された更なる削減をできるだけ早期に達成すべきである。

すべての核装着弾道ミサイルの発射前の警告と発射決定の時間を延長させる措置をとり、そのことにより偶発的あるいは認証なしの攻撃が行われる危険を減少させる。司令官に慎重で賢明な決定をするのに十分な時間的余裕を与えない発射手順に依存することは、現在の状況においては不必要かつ危険である。さらに、サイバー戦の発展によって、どの核兵器保有国のものであれ、その指揮命令系統が悪ふざけの、あるいは敵対的なハッカーによって損傷を受け、破壊的な結末となりかねないという新たな脅威が生まれている。米ロ間に信頼関係が増大するにつれ、相互が合意し検証する物理的な障壁を指揮命令手順に導入することにより、さらなる措置を実施することもいずれ可能となるだろう。

冷戦時代後も残存する既存のあらゆる大規模攻撃作戦計画の破棄。核抑止には相互確認破壊(MAD)が必要だと解釈するのは、米国とロシアが互いを敵対視せず、テロに対抗して同盟すると公式に宣言している今日の世界において、時代遅れの政策である。

2002年モスクワでの首脳会議でブッシュ大統領とプーチン大統領によって提案された、協力的で多国間による弾道ミサイル防衛および早期警戒システムの開発に向けた交渉の実施。これには中東からヨーロッパ、ロシア、米国に向けられたミサイルの脅威に対抗する計画に関する協定を含むとともに、モスクワに共同データ交換センターを設立する作業を完了する必要がある。ミサイル防衛をめぐる緊張を緩和することは、われわれの安全保障に不可欠なより幅広い核問題に関する前進の可能性を高めるだろう。これに失敗すると、幅広い核問題における協力は非常に困難になるだろう。

世界のいたる所で核兵器および核物質について最高レベルの安全管理を確保するための活動を劇的に加速させ、テロリストによる核爆弾の入手を阻止する。核兵器物質は世界40カ国以上に存在し、最近も東欧とコーカサス地方で、核兵器材料密輸の計画があったと報道されている。国際原子力機関(IAEA)と協力してナン=ルーガー計画に参加した米国、ロシアその他の諸国は、核の安全確保の向上に関する国連安全保障理事会決議1540号の実施を促進するために中心的な役割をはたさねばならない。これは、この決議のもとで追っている義務を果たそうとする国に対し、協力してチームを派遣し、核物質を適切かつ効果的に安全管理されるよう支援することによって行われる。

アーノルド・シュワルツェネッガー知事がわれわれの10月の会議への挨拶で述べたように、「人間のあらゆる営みには失敗がつきものである。核兵器だけは例外だとなぜ言えるだろうか?」知事の指摘を証明するかのように、2007年8月29日から30日の間、核弾頭を搭載した6基の巡航ミサイルが米空軍機に積み込まれ、米国土を横断飛行した後に着陸した。36時間の間、核弾頭の所在を誰一人知らなかったばかりか、それらが行方不明となっていたことすら気づかなかったのである。

前線配備用の核兵器の統合について、安全強化のために、およびそれらの責任ある管理と最終的な廃絶に向けた第一歩として、NATO域内およびロシアとの間をふくめて対話を開始する。これらの小型で移動可能な核兵器は、その特性から、テロリスト集団による獲得の標的となりやすい。

先進技術の世界的拡散への対抗策として、核不拡散条約(NPT)の遵守を監視する手段を強化する。この方向での前進は急務であり、NPTの全調印国に向けてIAEAが作った監視規定(付属議定書)の適用を義務付けることにより達成できる。

包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効のためのプロセスの採択。これはNPTを強化し、核活動の国際的監視活動に役立つものとなるだろう。それにはまず、CTBT違反の地下核爆発実験を探知しその場所を特定するための国際監視システムの、この十年間における改善について検討するために、超党派で検討を行うことが必要である。そして第二に、核実験の禁止のもとで、国家の備蓄核兵器の信頼性、安全性、有効性を高いレベルで維持するためになされたこの十年間の技術的進歩を評価することが必要である。包括的核実験禁止条約機構は、核実験探知のために新たな監視所を設置しようとしている。米国は、条約を批准する前であってもこのような努力を緊急に支援すべきである。

 米国とロシアによるこれらのステップと並行して、非核保有国も核保有国も含む国際的な規模で幅広い対話が行われるべきである。

 中心的な議題には、核兵器のない世界に向けた目標を、諸国間による実際的な事業へと変えることが含まれる。これは、優先課題にかんする国際的なコンセンサスを築くという必要な政治的意志を示すことによって行われる。このプロセスに寄与するために、ノルウェー政府は2月に国際会議を開催する予定である。

 別の議題: 核燃料サイクルをめぐる危険性を管理するための国際的システムをつくることがある。核エネルギー開発への関心と核濃縮能力の拡散の可能性が世界中で高まるなか、先進核保有国と強化されたIAEAによって、国際的な計画が作成されるべきである。その目的は、核燃料の信頼できる供給、濃縮ウランの備蓄、インフラストラクチャー支援、融資、使用済み核燃料処理などを提供することであり、これは核兵器原料を作る手段が地球上に拡散しないことを確実にするものである。

 さらに、米国とロシアは、米ロ戦略攻撃兵器削減条約に明記された水準を超えた更なる実質的削減を行うことに合意すべきである。削減が進展すれば、他の核保有国も参加するようになるだろう。

レーガン大統領の格言「信頼はするが検証せよ」を再確認するべきである。各国が核兵器用の核物質を製造することを防止するための検証可能な協定の締結は、核物質のより厳格な管理と安全確保システムをつくることに寄与するだろう。

われわれはまた、協定を破ろうとする国々の秘密の企てを抑止し、必要な場合はそれに対処するための国際的なコンセンサスを築き上げるべきである。

われわれの最終的な目標を明確に宣言することによって、前進が促進されねばならない。実際それこそが、今日の脅威に効果的に対処するために必要な国際的信頼と幅広い協力を築く唯一の道なのである。ゼロに近づくビジョンがなければ、下方への螺旋に歯止めをかけるのに不可欠な協調は得られないだろう。

ある意味で、核兵器のない世界という目標は、非常に高い山の頂上のようなものだ。今日の問題の多い世界という視点からは、頂上を見ることすらできず、ここからはとても到達できないと言いたくなる。 しかし、山を下り続ける、あるいは何もしないでいることによる危険は、無視できないほど差し迫ったものである。われわれは、山頂がもっとよく見えるより高い地点に至るための進路を定めなければならない。

-------------------------------------------------------------------------

 シュルツ氏は1982年から1989年まで国務長官を務めた。 ペリー氏は1994年から1997年まで国防長官。キッシンジャー氏は1973年から1977年まで国務長官。 ナン氏は上院軍事委員会の元委員長。

フーバー研究所・NTI(核脅威イニシアチブ)会議の以下の参加者は、この声明に示された見解に賛同している: ジョン・アビザイド将軍、グレアム・アリソン、ブルック・アンダーソン、マーチン・アンダーソン、スティーブ・アンドレアセン、マイク・アマコスト、ブルース・ブレア、マット・バン、アシュトン・カーター、シドニー・ドレル、ウラジミール・ドヴォルキン将軍、ボブ・アインホーン、マーク・フィッツパトリック、ジェームス・グッドビー、ローズ・ゴッテメラー、トム・グレアム、デイビッド・ハンブルグ、ジークフリート・ヘッカー、トム・ヘンリクセン、デイヴィッド・ハロウェイ、レイモンド・ジーンロズ、レイ・ジュザイティス、マックス・カンペルマン、ジャック・マトロック、マイケル・マクファール、ジョン・マクローリン、ダン・オーバードーファー、パベル・ポドヴィグ、ウィリアム・ポッター、リチャード・ローズ、ジョーン・ロールフィング、ハリー・ローウェン、スコット・セーガン、ロアルド・サグデーエフ、エイブ・ソーファー、リチャード・ソロモン、およびフィリップ・ゼリコウ。

 

米歴代政権の「核兵器のない世界」賛同人

 キッシンジャー、シュルツ、ペリー、サム・ナン4氏による「核兵器のない世界へ」のよびかけに、賛同者として名を連ねた主な人々と、当時米政権で国務長官、国防長官、国家安全保障担当大統領補佐官として活動した政権(カッコ内は政権の時期)

ケネディ政権(1961.1−63.11)  マクナマラ(国防長官)

ジョンソン政権(1963.11−69.1) マクナマラ(国防長官)

ニクソン政権(1969.1−74.8)  *キッシンジャー(安全保障補佐官)、レアード(国防長官) 

フォード政権(1974.8−77.1)  キッシンジャー(国務長官)  

カーター政権(1977.1−81.1)  ブレジンスキー(安全保障補佐官)

レーガン政権(1981.1−89.1)  *シュルツ(国務長官)、アレン(安全保障補佐官)、カールッチ(国防長官)、マクファーレン(安全保障補佐官)

ブッシュ政権(1989.1−93.1)  ベーカー(国務長官)、イーグルバーガー(国務長官)

クリントン政権(1993.1−2001.1)*ペリー(国防長官)、オルブライト(国務長官)、バーガー(安全保障補佐官)、クリストファー(国務長官)、コーエン(国防長官)、レーク(安全保障補佐官)

ブッシュ政権(2001.1−)     パウエル(国務長官)

 

 *は最初のよびかけ人。これにサム・ナン元上院軍事委員長が含まれる。

 

table

このページの最初へもどる あるいは GensuikyoのTop Pageへもどる

Copyright (C) 1996-2011 Gensuikyo. All Rights Reserved.
日本原水協 〒113-8464 東京都文京区湯島2-4-4 平和と労働センター6階
Tel:03-5842-6031 Fax:03-5842-6033 
お問い合わせフォーム