原水爆禁止2002年世界大会

国際会議

韓国

民族和解自主統一協議会(自統協) 共同議長

金 承国

日米の覇権とアジアの平和

日米の覇権は、「日米資本の協業体制」と「日米軍事体制」の二頭だて馬車で、馬車の車輪を繋いでいる軸は、超多国籍企業と米軍—自衛隊だ。二頭だて馬車をあやつるブッシュ大統領の「悪の枢軸」(an Axis of Evil)発言は北朝鮮を名指ししているが、事実上中国に対する脅しだ。中国東側の北朝鮮を「悪の枢軸」だと追いつめつつ、中国に襲いかかろうとするこの「声東撃西」戦略は、米国の東アジア外交・安保戦略の核心となっている。

米国のこのような戦略は、米国自らを頂点として、日本と韓国を北東アジアのミサイル防衛網(MD: Missile Defense)で結びつける軍事体制を強化している。MD体制は北朝鮮、中国、そしてロシアまでもが抵抗し始めていて、このような対立は朝鮮半島周辺に戦争の危機を作り出している。

1.   日米資本の協業と新自由主義

 アジアの新冷戦時代に日米資本は新たな協業体制を作り、経済的譲与の活路を求めている。冷戦時代の巨大な仮想敵「ソ連」が崩壞した後の日米資本の協業体制は、内部葛藤しつつ、「日米貿易戦争」を経てきた。

 資本主義の体制と(この体制を脅かすと烙印を押された)仮想の敵は、いわば持ちつ持たれつの「ワニとワニ鳥の関係」だ。ところが、90年代に入ってこの「ワニとワニ鳥」の関係が搖らぎ始めたのだ。ソ連崩壊後、巨大な敵対関係の存在がなくなって、米国は小さな脅威をあたかも大きな脅威が存在するかのように主張し始めた。このような状況は、冷戦下の超多国籍資本と超多国籍軍産複合体が作り上げた経済的、軍事的戦略を修正させ、利潤の極大化のためにこれまでと異なった方向に向かわざるを得なかった。全世界に資本主義の画一的な動きを強化し、小さな戦争を限りなく進める「ジレンマ(dilemma)」を生み出したのだった。これがいわゆる経済的新自由主義の戦略だ。

経済的レベルにおいて世界通貨基金(IMF)を先鋒とした新自由主義の台風は、大量失業、10対90の社会(貧富の格差拡大)、弱者(underdog)に対する強者(updog)の抑圧強化など、「構造的暴力(structural violence)」の悪循環の中心にアジアを追い込んでいった。これにより、アジアの人々の「平和的生存権」が剥奪されることになった。

米国に根拠をおく超多国籍資本の新自由主義攻勢と傲慢な軍事的行為によって全世界の民衆が苦しんでいる時、米国の中心部で、これに対する警告としての「9.11事態」が発生した。米国は、9.11をきっかけに、自らの反省もないまま「9.11事態」をテロと規定し、これを口実に軍事的行為に出た。米国はテロとの戦争を宣言し、アフガニスタンに侵攻した。そして、世界に対してこの反テロ戦争を認めさせ、戦争への参加を強要したのだった。こうして、アジアの全ての国家を「反テロ戦争」の隊列に並ばせた。米国は仮想敵である北朝鮮と中国でさえ「反テロ戦争」の隊列に参加させたほどだ。

また、米国は「反テロ戦争」を口実にして、米国内外で戦争経済(国防費の増額、超多国籍軍事企業の不況打開、英国・パキスタン・日本・韓国をアフガン戦争に参加させ、戦費を分担させることで米国の戦争利潤を拡大)を始動させた。これによって、新自由主義経済体制の危機を克服するのみならず、世界体制を「軍事主義的安保体制」へと転換させ、各国に軍事的に全体主義を強化するよう煽動しながら(韓国は「反テロ法」を制定しようとしている)民主主義を後退させ、マスコミにテロの「人種化」イメージを振りまく雰囲気作りに奔走させている。米国は、今まで敵対してきたいくつかの国を「ならず者国家(Rogue state)」と決め付け、アフガン戦争拡大の根拠を作ろうと血眼になっている。このような米国の経済的・軍事的覇権主義戦略に対し、ヨーロッパではイギリスが積極的に呼応し、アジアでは日本が経済・軍事覇権拡張チャンスとばかりに賛同している。

2.   日米軍事同盟の強化

1)       米国のアジア安保戦略

  超多国籍資本の新自由主義戦略を守る米国のアジア安保戦略の核心は、次の通りだ。

�@米軍10万人駐留体制、�A日-米-韓の軍事同盟強化、中でも日米同盟を米英同盟のレベルにまで引き上げること、�B冷戦時代のソ連脅威論に替わる北朝鮮脅威論、�C中国脅威論(新種黃禍論)を押し出した中国脅威戦略だ。

ブッシュ大統領は世界戦略の拠点をヨーロッパからアジアに移し、「中国包圍­北朝鮮体制」を基本にすえた新たな安保構想を整えている。ブッシュ政府の新たな安保戦略は、ミサイル防衛網(MD)の構築とウィン․ウィン(Win­Win)戦略の廃棄にある。新安保戦略の目標は、世界最強の米軍へ作り上げることだ。この目標を達成するための手段は、軍事革新(RMA: Revolution of Military Affairs)だといえよう。

ウィン․ウィン戦略は、もともと中東と朝鮮半島の二つの戦場で「大きな戦争」を勝利にみちびく構想だった。中東のフセイン大統領と北朝鮮の金正日国防委員長が主導する「ならず者国家」を地球上から抹殺しようとするものだった。しかし、北朝鮮のような弱小国家を相手に大きな戦争を画策する発想自体が矛盾なのだ。とりわけ北朝鮮をスケープゴートにしたてあげ、巨大なミサイル防衛網を構築すること自体が無理だ。北朝鮮脅威論の質量は以前のソ連脅威論に比べると、あまりにも相手が役不足だということに米国の気苦労があった。

米国はこの間、北朝鮮という仮想的の図体を膨らませるだけ膨らませはしたが、ミサイル防衛網を強行するには、まだ体重不足だ。このような苦労を解決するため新たに登場したのが、中国脅威論だ。

2) 中国脅威論の浮上

中国は、かつてのソ連のように米国に対する対称的脅威を与えていない。しかし、中国の「対称的脅威(中国経済の高成長、中国軍の長距離ミサイル保有・サイバー戦争遂行能力など)」によって、米国の国益が挑戦を受けると予想し、これを事前に遮断しようとするのが米国の新たな安保戦略の核心だ。

中国は2000年1年に「新海洋戦略」を提示したが、これは中国の防衛ラインをGライン(Green line; 尖閣列島/釣魚諸島・台湾・ボルネオ)からBライン(Blue line; クリル列島列島マリアナ群島パプアニュ-ギニア)へと拡張していくという内容だ。ランド研究所の報告など、米国の新たな安保戦略の間連文書では、中国のこのような海上交通路(Sea lane)拡張に対する対応に重点をおいている。Bラインは、日米軍事同盟の海上輸送路(資本․資源の輸送ルート)と重複することで葛藤が予想される。Bラインなどをめぐって、アジアの海を支配するための「日米軍事同盟と中国の葛藤」がアジアの平和を脅かしているものとなっている。

中国脅威論の浮上は、10年前にパウウェル統合参謀本部議長(現米国務長官)が考え出した「ならず者国家脅威論とウィンウィン戦略の組み合わせ」がボロボロになってしまったことと関連づけられる。使い物にならなくなった「ウィン­ウィン戦略」を廃棄し、「中国脅威論­新たな安保戦略の組み合わせ」によるミサイル防衛網を推進することこそブッシュ政權の新たな安保構想だ。日米軍事共同体の共同作品となるミサイル防衛網は、中国と北朝鮮の領空をカバーすることだろう。ここから、アジアの空を支配するための「日米軍事共同体と中国と葛藤」が予想される。すでにアジアには、10万名の米軍が駐留し、中国と北朝鮮に向かって銃口を向けているのだ。

3)  日本の地位向上

アジアの陸․海․空の覇権をめぐる「銃声なき戦争」に備えるため、日米軍事同盟を米英軍事同盟のレベルへと引き上げようとしている米国は、日本の地位向上に向け「有事法制」を要求している。

ブッシュ政権は、アジア・太平洋の支配権を日本と分割するパワー・シェアリング(power sharing)政策に出ている。日米同盟は米英同盟化し、日本の自衛隊は集団的自衛権を行使できるよう日本の憲法を改正しなければならないというのが、このキーポイントだ。アミテージ・レポート(Armitage Report)の構図が、日本支配ブロックの軍事・政治大国化の野望に油を注いでいる。

アミテージは、日本の平和憲法第9條(集団自衛権・交戦権の禁止条項)を破棄しなければならないと力説する。日本の支配層は「米国との安保分業による中国․北朝鮮の包圍・牽制」戦略に会心の笑みを浮かべ、有事法制の体制を強化している。

4)  なぜ有事法制なのか

 日本の有事法制は、資本—軍事—政治の要求にしたがって進められている。まず、資本の要求をみてみよう。米国の超多国籍資本と協業体制をとっている日本の超多国籍企業は、資本の輸送ルート(Sea Lane)を確保・拡大するため、「日本を普通の国に変えること」(普通の国のように常備軍を保有しよう)を目指している。この間、平和憲法改定に消極的だった日本の巨大資本は、日本企業の多国籍化傾向、原油輸送ルートの確保、日本資本の安全保障を米国だけに任せておくことはできないとしながら、改憲に贊成している。すなわち、「グローバル化した日本資本を常備軍としての自衛隊が守らなければならない」として、「自衛隊の活動範囲が日本領海内にとどまってはならない」ということだ。

このような資本の要求を受け入れた日本の「国防族」は、自衛隊の活動範囲を海外に広げる集団的自衛権発動のために、「これを制御している」平和憲法破りに踊り出た。有事法制案は、周辺事態法の曖昧な「周辺事態」をめぐる論戦(地理的観念なのか、どうか)をねじふせ、国会同意のない戦争権限を要求している。周辺事態法の抵触を受けずに集団的自衛権を行使するという国防族の野心をさらけ出した。自衛隊はブッシュ政権が進めている「戦争のグローバリゼーション」を後方支援するだけでなく、「積極的に参与」して行こうとするものだ。米軍の北朝鮮軍やフィリピンの反政府軍相手の反テロ戦争に、日本の自衛隊が参加し集団的自衛権を行使することが、日本の資本と国家権力に有利だという判断なのだ。このような判断のもとで、まだ小泉首相の人気が高い時期に「有事法制」を早く制定しようとしている。

自衛隊をイギリス軍のように世界のどこにでも派遣できる軍隊として作り変えるという意図は、第二次世界大戦の「日本軍国主義­国家主義」復活の疑惑を受ける。これは、戦後日本の民主主義の砦だった平和憲法とアジアの平和を同時に脅かすことになる。まさに、有事法制など「日米覇権によるアジア平和の破壊」を阻止するための対応が、世界平和をめざすすべての人々の課題という理由がここにある。

4.  アジアの平和のための提案

 前述したように「日米資本の協調による新自由主義」と「日米軍事同盟」が、アジアの平和を脅かしている。日米支配勢力の言うように中国や北朝鮮がアジアの安保を脅かしているのではなく、新自由主義と日米軍事同盟(さらに、これを延長した日米韓・軍事共同体)がアジアの人々の平和的生存権を脅かしているのだ。私たちは、中国・北朝鮮脅威論よりも「全地球的な規模で資本主義化へとつき進む新自由主義脅威論」と、「日米韓・軍事体制脅威論」をより深刻に憂慮すべきだろう。

私たちはこれらに対し、アジアの人々が平和な生活を永遠に送るための「平和を創る(peace making)裝置」を追求しなければならない。この平和を創る作業は、「全地球的な規模で進む資本主義化の野蛮な攻勢と日米韓・軍事体系の脅威から脱却する解放区(Free zone)」をアジア全域に設けることから始めなくてはならない。このような意味からいくつか提案したい。

1)  日米資本を監視・牽制する装置を

 アジア民衆による「日米資本の協業体制の監視(monitor)­牽制」装置が必要だ。これにより、日米が主導する多国間投資協定(MAI)を防ぐことが急務だ。日米の全地球的資本主義化を抑制し、民衆の生活に必要な資源の配置が可能にする戦線が、アジア全域で構築されなければならない。これを裏付けるアジア民衆の草の根資本(grass root capital)を蓄積しなければならず、このためトービン税(Tobin Tax)などを微収しなければならない。アジアの民衆は自らの平和的生存権を確保するために、トービン税などを微收できる政権を樹立し、このため「新自由主義を支持する政治勢力への拒否権力発動運動(Veto)」(新自由主義を支持する政治家の排除や落選運動など)の連帯を行わなくてはならない。

2)  アジアを米軍・戦争のない非核平和地帯へ

 アジア民衆の力で「日米軍事同盟からの解放区」を作らなければならない。そのための三つの運動を提起したい。

第一に、アジアを米軍のない解放区(US Army free zone)にしよう。

アジアに駐留する「新自由主義戦略の人間の盾(human buffer)」である米軍10万を追い出そう。これがなくて(米軍10万駐留体制の崩壊なしに)、どうやってアジアの恒久的平和が約束できるだろうか。在日米軍・在韓米軍中心の米軍駐留体制が、米国のアジア支配の下部構造をなしている。この下部構造を崩さない限り、アジアの平和は成し遂げられない。

これとともに、自衛隊の海外派兵をアジア人の名において統制する手段を追求しなければならない。皮肉にも「米軍をおいて、自衛隊を制御する手段がない」現実を考えるとき、アジア駐留の米軍撤退運動を通じて自衛隊の急所をつかむ知恵を集めなくはならない。

第二に、アジアを非核․平和地帯にしよう。

アジアに核兵器もミサイル防衛網(MD)も足を踏み入れられない「非核—非MD 平和地帯(Nuke-MD free zone)」を宣言し、これを実現しよう。すでにアジアには、南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ條約․1985年)と東南アジア非核地帯条約(バンコク․1995年)があるのだが、米国・フランスなど核大国の介入で、所期の目的を達成できないでいる。これら二つの条約を強化するためにも、北東アジアの非核地帯化を急がなくてはならない。

アジア全域の非核地帯化に成功すれば、米国の核の傘によるアジア支配戦略に大きなつまずきとなり、日本の核武装の野望は挫折するだろう。アジア全域の非核地帯化のためには、当然、中国やロシアの核兵器も廃棄しなければならない。

アジアの非核地帯化は、世界的な非核地帯化の青信号となる。アジアが非核地帯となれば、既存のラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約(トラテルコ条約・1967年)、アフリカ非核地帯条約(ベリンダバ・1996年)とともに地球村の南半分が、自動的に非核地帯化になり、同時に地球村の北半分の非核地帯化を促進することになるだろう。ここにアジア、中南米、アフリカ大陸を結んだ三大陸の非核地帯化を実現した後、ユーラシア、北米大陸の非核地帯化を誘導する「非核地帯化の世界化(globalization of nuclear free-zone)」戦略を考える価値がある。

一方、日米軍事同盟が推進するMDがアジアの核軍備拡張につながるのを防ぐために、「非核—非MD 地帶化(Nuke-MD free zone)」を宣言しなければならない。アジアを「非核­非MD地帯化」するなか、朝鮮半島を「永世中立地帯」とすることで、真の多国間安全保障の枠組みを追求することができよう。

第三に、日米同盟による戦争危機の日常化と軍備拡大の構図を崩そう。

アジアを戦争の風が吹かない「戦争無風地域(war threat free zone)」に作ろう。

北朝鮮軍、フィリピン反政府軍に対する米国のアフガン戦争拡大政策のために、アジアに戦争の危機が日常化している。戦争の危機が日常化している隙間をついて、日本は有事法制を制定しようとしており、自衛隊を戦争危機の日常化に備えた国際常備軍としようとしている。もしも、米朝関係の悪化などで戦争危機の日常化が実戦に飛び火したとすれば、自衛隊は有事法制にしたがって朝鮮半島に進入するだろう。

日米同盟による戦争危機の日常化は、これに備える軍備拡張の日常化をもたらすが、朝鮮半島周辺ではこのような現象が際立っている。したがって、日米軍事同盟が朝鮮半島南北の分断を悪用し、軍備競争を煽ることで東アジア地域の「的軍備拡張」を触発する連環を断ち切らなくてはならない。このような連環の真中にある「日米軍産複合体同盟」の食物連鎖、すなわち「(日米の)死の商品(武器)生産協調体制」を封じなければならない。

3)  アジアに「平和を創る常設機構」を作ろう

 前述した運動の代案を実現するために、「アジアに平和を創る常設機構」を作ろう。この機構は、日米の覇権と中国との争いを押さえ込む力を持たなくてはならず、新自由主義と戦争という暴力装置に対する抑止力を育てなければならない。新自由主義資本の暴力と、これと連動した構造的暴力、そしてこのような暴力のイデオロギーを提供する文化的暴力をも根絶する機能を果たさなければならない。

この機構は、既存の葛藤解消(Conflict Resolution)を越えた葛藤の転換(Conflict Transformation)に力を注ぎ、「アジア人の人間安保(human security)センター」へと発展しなければならない。そして、戦争の事後処理よりも戦争の予防に力を注ぎ、当面は北朝鮮などに対する反テロ戦争の先鋒を折ることに力を注がなければならない。

アフガン戦争で知られたように戦争の最大の犠牲者は女性、児童など、か弱い民衆だ。新自由主義の余波でインドネシアなどでの紛争犠牲者もこれら民衆だ。アジア民衆の平和的生存権を確保するためにも、日米覇権の紛争陰謀を封鎖する「平和を創る機構(Peacemaking institute)」が望まれる。

日米の覇権を排除し、アジア民衆の平和的生存権を保障する「多国的な平和を創る機構」設立は、NGOの力だけでは不十分かもしれない。国連など平和を目指す国際機関が加わりつつも、各国の国家権力はタッチしない「アジアの平和を創る国際機構」創設もあながち不可能なことではないだろう。