原水爆禁止2001年世界大会
国際会議

核政策に関する法律家委員会顧問
NPT再検討会議ニュージーランド代表団
アラン・ウェア


「剣も盾にもノー・軍事的脅威への対抗策としての核軍縮」

  7月23日、アメリカのジョージ・ブッシュ大統領は、イタリア・ジェノバでのG8首脳会議終了後、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会見し、アメリカの弾道弾迎撃ミサイル防衛システム配備計画について歩み寄ることで合意しました。間違いなくロシアは、アメリカが自国の核兵器の大幅削減の促進に合意したことと引き換えに、計画への反対を取り下げるでしょう。一見これは大変よい取引のように見えます。核兵器が減ってさらに新たなミサイルの脅威からも守られる。このことは核抑止の終わりを意味するのでしょうか。ブッシュ大統領は次のように述べてそれを示唆しているようです。「私たちがすると言っているのは世界の思考様式を変えるということだ。私たちは、冷戦は完全に終わったと言っているのだ」。

  アメリカとロシアが本当に核抑止を捨てるのであれば、私は真っ先に通りに出て踊っていることでしょう。抑止は誤った論であり、裸の王様であり、私たちの生存そのものを脅かし続けるもので、奴隷制や拷問などと同じく、ごみばこに捨てられた非良心的な思想に加えられるべきものです。

  残念ながら現実は、言われていることとははるかにかけ離れており、急速に反対の方向へ進んでいます。アメリカのABM条約についての提案と核兵器の削減は、抑止の終わりではなく、むしろ宇宙という新たな軍事的領域と結びついた核抑止の拡大を意味するものです。

  アメリカは、核兵器を世界の主要都市すべてを破壊してなお余りある1500発より減らすつもりはありません。アメリカ、ロシア、フランス、イギリスは核の先制使用政策を維持し、さまざまな筋書きでの核兵器による脅迫と使用の可能性を考慮しています。ひとたび自国の核兵器がABM防衛で強化されるならば、アメリカは、どんな報復にも耐えられると考えて核兵器使用に自信を(おそらく過剰なほどの)もつであろうことは十分考えられます。

  アメリカは、ABMシステムは他国からのミサイル攻撃の可能性から身を守るための盾だと主張しています。控えめに言ってもこれはばかげた考えです。たとえ一発の迎撃に成功したとしても、弾道弾迎撃ミサイルを出し抜く方法は無数にあるのです。この主張はまったくのごまかしであり、宇宙空間を使用・支配する新しい攻撃的な軍事システムの開発を隠すための広報活動なのでしょう。アメリカの宇宙におけるねらいは、アメリカ宇宙軍司令部が「2020年ビジョン」という文書ではからずも明らかにしてしまいました。文書は「アメリカの利益と投資を守るために軍事作戦を宇宙規模で支配」し、「宇宙軍を紛争の全形態を通じてミサイル戦争能力に組み込む」ことを求めています。

  ABMシステムはアメリカの宇宙戦争計画のきわめて重要な構成要素ですが、「発射段階で打ちおとす能力」、すなわち打ち上げ数分後でまだ他国の領土内にあるうちに目標を攻撃し、命中することができるミサイルシステムの開発を必要とします。それは世界のいかなる場所のいかなる目標も攻撃することができる、宇宙配備のレーザーを必要とします。これには対衛星兵器を使うことになるので、世界の通信システムを脅かすものです。

  違うのです。ABMシステムは盾ではありません。それは私たちすべてをおびやかす新世代のハイテクの剣の一部なのです。

  では答えは何でしょうか。攻撃を抑止する核兵器でも、攻撃に対する盾としてのABMシステムでもないとするならば、侵略国が使用するかもしれないミサイルシステムや大量破壊兵器から私たちはどのように身を守ればいいのでしょうか。

  その答えは国際的な検証のもとでの非差別的なミサイル管理と核軍縮です。

  無差別のミサイル管理とは、あらゆる人のミサイルの攻撃能力を管理するということです。北朝鮮がアメリカないし日本からのミサイルの脅威を感じるなら、自ら進んで自国のミサイルを放棄することは期待できません。最終目標はすべての短・中距離ミサイルの禁止と、すべての弾道弾ミサイルの廃絶または衛星打ち上げ用への転換とその検証です。核保有国が近い将来これに同意する見込みはありませんが、それに向かう措置として、中東向けに提案されたような非ミサイル地帯の設置や、飛行テスト禁止と軌道管理を含む既存のミサイルへの制限などが考えられます。

  アメ、すなわちミサイル管理への移行の動機を与える方法もあります。現在ミサイル技術を追求している北朝鮮などの懸念国家は、共同衛星打ち上げ計画を通じて民間目的での宇宙へのアクセスができるならば、ミサイル計画を放棄する気になるかもしれません。実際北朝鮮はこれを示唆しています。

  もちろん重大な脅威はミサイルそのものではなく、それが運ぶものによって引き起こされます。ミサイルが運べるのは比較的小型の弾頭だけです。したがって通常兵器ミサイルや化学兵器搭載ミサイルは数が多くない限り、大きな脅威にはなりません。生物兵器は高度の耐熱技術なしには生き残れないでしょう。ですから核兵器が最も重要な兵器とて残ることになります。核兵器は禁止し廃絶するのが最も簡単な兵器でもあります。核兵器は高度に濃縮されたウランまたはプルトニウムを必要とします。両方とも製造は難しいですが、監視と管理は比較的簡単です。

  もちろん核兵器の廃絶を目ざす理由はほかにもあります。国際司法裁判所は1996年、核兵器の威嚇または使用は一般に違法であり、それを廃絶する義務があるとの歴史的判断を下しました。国連はこの判断に続いて、核兵器を禁止しその完全廃絶の計画を含む核兵器条約を結ぶための交渉を求める決議をあげました。

  この呼びかけにこたえて、法律家、科学者、軍縮専門家の国際共同グループが「核兵器廃絶条約モデル」を作成して、核軍縮が実行可能であることを示し、核廃絶のための法的・政治的・技術的必要条件を検討しました。この「条約モデル」は1997年コスタリカが国連に提出し、国連事務総長が討議文書として配布しました。

  核廃絶条約は、広範で世界的な支持を得ています。核廃絶条約への支持は、世界で最大数の署名を集めたヒロシマ・ナガサキからのアピール署名の主要な要求のひとつです。核廃絶条約を求めている国際的なネットワーク、「廃絶2000」の賛同団体は2000を数えます。すべての核保有国とその同盟国を含めこの5年間に世論調査が行われた国々ではどこでも、核廃絶条約への支持が過半数を大きく超えています。欧州議会は核廃絶条約を求める決議をあげています。そして国連は、核廃絶条約を求める決議を圧倒的多数の支持で採択し続けています。日本政府はまだ支持していませんが。

  中国とインド以外の核保有国は核廃絶条約への呼びかけを支持していませんが、2000年NPT再検討会議では、核保有国は、核兵器廃絶を達成する義務の遂行を約束し、そのための一連の措置に合意しました。

  今こそ核保有国に対し、この約束をことばだけでなく行動で示すように求めるときです。日本などの中堅国家はこの点で大変重要な役割を果たすことができます。今こそ核の傘から抜け出して、核軍縮とミサイル管理による真の安全保障への道へ踏み出すときです。これは一国行動主義ではありません。核廃絶条約は多国間の、交渉による、検証可能で強制力をもつものになるでしょう。それは中東であれ、北東アジアであれ、ヨーロッパであれ、さまざまな地域での安全保障上の懸念を考慮するものになるでしょう。

  もちろん日本が支援できる核軍縮へのイニシアチブはほかにもたくさんあります。その多くは2000年NPT再検討会議で合意された軍縮措置にもとづくものです。これに含まれるのは警戒態勢解除などの措置を通じて核兵器の作戦上の役割を縮小する、現在ある非核地帯を核兵器の通過と地帯内からの核兵器使用あるいは威嚇を禁止することにより強化する、新たな非核地帯の設置、核分裂性物質禁止条約の協議、貯蔵核兵器と核物質の一覧の作成、核兵器不使用または先制不使用宣言の採択、核廃絶のためのさらなる検証手段の開発、ジュネーブ軍縮会議で核軍縮に関する多国間協議を開始するなどです。

  1945年以降のさまざまな事情の変化が、核廃絶をより実現可能なものにしています。検証技術がめざましく向上しています。グローバル化により地理的領土の防衛への必要が減り、核抑止の正当化論も無用なものとなりました。不正義と侵略に対処する国際的な法的・政治的紛争解決システムが強化されたため、国家の軍事力に依存する必要も減っています。もっとも大事なことは、地球規模の通信手段と経済統合が国境を超えて人々を結びつけ、思想と日常の現実を、攻撃的で自己の利益を追求するものから協力的で相互の利益を尊重するものに変えています。

  今や核軍縮の実現を阻むものはないはずです。残念ながらまだ、政権についている一部の時代遅れの人々がこのもっとも破壊的な技術の支配権を放棄することを拒否しています。手遅れになる前に、私たちは行動しなければなりません。国際司法裁判所のベジャウイ裁判長は、同裁判所が1996年に出した歴史的判断について説明したときに、「核軍縮の目標はもはや空想ではなく、これまで以上に積極的にその実現をめざすすべての人々にとっての義務なのです」と述べています。

  今ほど彼の言葉が的を得ているときはありません。


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