被爆者との連帯【カザフスタン】

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核実験被害者同盟
クリャシュ・オマーハーノバ(1997年国際会議)

カザフスタン

原水爆禁止1997年世界大会・国際会議

核実験被害者同盟
クリャシュ・オマーハーノバ




  クリャシュ・オマーハーノバといいます。核実験被害者同盟の理事長をしています。私たちの同盟は1989年に、旧ソ連でも最大級の核実験場に近く、今世紀で最も被害を受けたことで世界に知られるようになったセミパラチンスクで結成されました。

  私たちの組織はその発足当初から、反核運動を支持している全ての国と密接に協力しながら活動してきました。私たちの組織に最初に援助と連帯の手を差し伸べてくださったのは日本の平和活動家の皆さんでした。

  私は今回が初めての来日であり、広島・長崎の惨劇の後、核実験の被害に苦しんだ方々の前で発言するという責任と栄誉を感じています。セミパラチンスクの実験場では、40年間にわたって、約500回の核実験が行われました。そのうち26回は地上で、87回は空中、350回は地下の実験でした。

  第五福竜丸の乗組員の久保山さんが、ビキニ環礁での核実験で被曝し、放射線障害で亡くなられたことは、世界中に知られています。しかし、私の国の人々の多くが自殺したことを知っている人がいるでしょうか。以前には、このようなことはカザフスタンにはありませんでしたが、今では良く知られるようになりました。

  今日、放射能は深刻な問題となっています。私たちは自分たちがどれだけの量の放射線を浴びたのか正確には知りません。実験を行ったと同じ人々が、核爆発の影響を調査したからです。とにかく私たちは放射線を浴びたのです。私たちは感じませんが、私たちの遺伝子には多くの病気や異常の遺伝子が含まれています。そのため、これから生まれてくる赤ちゃんはもう爆発音を聞くことはなくても、現在病気にかかったり、奇形の子供が多く、その数はこれからも増えることでしょう。全ての核爆発は、遺伝子の中に記憶され、何年も消えることはありません。放射線の影響は次世代にはっきりと現れるからです。

  私たちは、奇形の子供たちを見て衝撃を受け、未来からのろいの言葉を送ることになるでしょう。愛情は多くのことができます。でも私たちがいくら神に訴えても、子供たちをこのような不運から守ることはできないでしょう。クルチャトフ(セミパラチンスク核実験場内の都市)の科学者たちの行った動物実験で、被ばくした動物は7世代目には全て死に絶えてしまうことが明らかになりました。女性の生殖器官が機能しなくなるのです。しかも、私たちはまだ3代目にすぎません。私たちの未来には何が待ちうけているのでしょうか。

  1997年3月末に、セミパラチンスクの核実験場で恐ろしい事件が起こりました。5名の男性が、1951年からレンガでふさがれていた実験用の横穴を開き、コンクリート壁を壊し、水をポンプで汲み出し、中のケーブルを取り出して売ろうとしたのです。そのうちの4人は、直ぐに横穴で死にました。5人目は心理的なストレスに耐えられず、自殺してしまいました。

  国内の困難な経済状況のため、人々は死を選ぶようになりました。その殆どが家族や子供たちを残して自殺するのです。私たちの地方では、人々は極めて過酷な経済状況に適応できず、多くの人々は貧困を恐れ、自衛本能すら機能しなくなってしまうのです。核実験場の影響によって住民は健康が損なわれているため、その社会的な立場も悪化しています。

  セミパラチンスク実験場の地表には11、600キュリーの低レベル放射性廃棄物580万トンが堆積し、地下には合計放射能量が12、800キュリーのガラス状の中レベル放射性廃棄物650万トンが濃縮されて埋蔵されています。家畜は、実験場の高レベル放射線汚染地帯の牧草地に放牧されています。干し草や食肉、乳製品などはまさにこの地帯から供給されています。

  このように、実際の放射能汚染や私たちの健康状態は、いまだに不明です。放射能に汚染された地帯があり、危険な放射性核種が食物や空気や水に濃縮されて存在することは、大きな悲劇です。

  国が深刻な経済危機に陥っている時期に、私たちの組織は国の問題の一部にも取り組んでいます。私たちの組織は、セミパラチンスクだけでなく、カザフスタン全土でも有力な非営利団体です。私たちの意見は、行政の代表者だけでなく、優れた医療専門家からも考慮されています。

  いくつかの共和国にまたがる「核被害者同盟」は、オランダの人道援助団体「ヒボス」の財政的支援を得て、「女性の健康は国民の健康」という計画をすすめています。この計画の目的は、放射線被曝のリスクのある地帯に住む女性たちに、病気の予防や女性の生殖器官ガンの初期発見、結核、家族計画、健康な生活などについての啓発をおこなうことです。

  私たちは実験場に隣接する二つの地方、ベスカラガイスクとアバイの調査を2年後までに終了する予定です。法律では、これらの地方は最大の被害地帯に指定されています。ベスカラガイスク地方の15歳以上の女性人口は8,744人です。この調査で、悪性新生物が476件発見されましたが、これは女性10万人あたり5,444人に相当します。1992年から1995年までの期間の成人人口の悪性新生物の罹病率は、ベスカラガイスク地方で10万人あたり400~500人、セミパラチンスクで600~700人、カザフスタンで500~600人です。これと比較しますと、計画が実施された期間の悪性新生物の早期発見率は、統計平均の9~10倍になっています。

  アバイ地方の健康状態を分析してみると、健康を示す基本的な指標は悪化していることが分かります。この地方の人口は2万人で、全体の罹病率は千人あたり748人で、出産年齢の女性の罹病率は千人あたり682人です。また、この地方は死亡率が高いことで知られています。その原因の一つは悪性新生物の罹病率が高いことです。先天性奇形、死産、幼児死亡が死亡の大きな部分を占めています。

  十代の子供では、35人に1人が神経性疾患に苦しみ、10人に1人が呼吸器官の疾患にかかり、85人に1人が先天性異常をもっています。アバイ地方には14才の子供が6、632人おり、その5人に1人が診療所に登録され、4人に1人が貧血、18人に1人が幼いときから身体障害をもっています。403人の子供のうち50人に1人が先天性奇形をもち、35人に1人が死亡しています。経済状況の悪化と結びついて、障害手当てが支給されることもあって、これまで子供の障害を隠し、登録しなかった家族の多くが、子供に検診を受けさせ、正式に障害者登録するようになっています。 

  私たちの進めている計画は、少ない経費で効果的な活動ができ、それが国のためにもなっています。核実験被害者には以下のことを要求する権利があります。

  1. 核実験被害者に人間的な暖かい目をむけ、彼らと子供たちが被った精神的な被害を補償し、セミパラチンスクに核実験場をつくった国の負担で子供たちへの保健・医療を援助すること。

  2. 核実験の人体への影響についての情報を普及すること。

  3. まだ健康な人が実験場に立ち入らないように、実験場の境界を閉鎖すること。

  地球上から核実験をなくすために私たちは団結しなければなりません。これからの世代に幸福な未来を実現しましょう。


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