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被爆者との連帯【チェルノブイリ】

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リトアニア・サピエガ病院院長
ゲディミナス・リムデイカ(1998年国際会議)

チェルノブイリ

原水爆禁止1998年世界大会・国際会議
リトアニア・サピエガ病院院長
ゲディミナス・リムデイカ


リトアニアからチェルノブイリ放射能汚染除去に送られた
労働者にみられる精神障害

  ウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所の原子炉が爆発したのは1986年の4月26日でした。これは人類の歴史上も、世界の原発の歴史でも、最悪の災害でした。今日、「チェルノブイリ」という名前は、原発がいかに危険かを連想させる、誰もが知っている言葉になったと言われています。また「放射能」という言葉は、未知の恐怖や不安、そして健康や生命を脅かすものと結び付けられています。イオン化放射線が人体に及ぼす影響、特に被曝から数十年も遅れて生じる影響は、科学者にもあまり明らかになっていないため、十分な分析ができていません。様々な、相反する意見や結論が発表されていますが、いくつかの不明な点を解明するためには、さらに研究・調査が必要だということではいずれも一致しています。さらに、イオン化放射線の影響や、このような大規模な災害が人間の身体や心理にどのような影響を及ぼすかを説明する文献も不足しています。これは、被害の全容を推定するためには、イオン化放射線と災害の影響だけでなく、心理的、経済的、社会的、身体的な要因など、様々な要因をも考慮しなければならないためです。今回の発言で使用する資料は、サピエガ病院の心身症科の科長ミンダウガス・ルステイカ氏が作成しました。これは、チェルノブイリで働いたリトアニアの放射線除去労働者についての統計データと、彼らを治療する際の観察に基づいたものです。1991年にサピエガ病院には外来科が作られ、そこでは1993年から、精神病医1名と心理学者1名が配置され、働いています。また、1996年からは心身症科の入院病棟が作られ、当初は12床でしたが、1997年には拡張され20床になっています。

  1986年から1989年までに、7、000人以上の男性がリトアニアからチェルノブイリに送られ、放射能除去作業を行ないました。彼らの多くは1945年から1958年の間に生まれた人々で、従って作業にあたっていた当時の年齢は18歳から40歳でした。そのうちの5、709人、つまりチェルノブイリの汚染除去労働者の79.8%が、現在、サピエガ病院に登録されています。

  1992年から1998年までに、チェルノブイリ国家専門委員会には1596件の症例リストが提出されました。そのうちの390件はチェルノブイリの放射能汚染除去作業に参加したことに起因する精神障害でした。これらのデータは、確認されており、またチェルノブイリ汚染除去作業に関連する全ての症例の24.9%に相当します。

  サピエガ病院に登録された5709人のチェルノブイリ汚染除去労働者のうち259人がこれまでに死亡しました(4.5%)。このうち224件については死亡原因が分かっていますが、48人が自殺で、これは死因が判明している死亡者の21.4%に相当します。放射線に被曝していないリトアニア人男性とチェルノブイリ汚染除去労働者とで自殺者数を比較すると、後者の自殺率は1988年で前者の3倍、1990年では2.5倍ですが、1992年以降は減少していると思われます。注目すべきなのは、1994年以降は、チェルノブイリ汚染除去労働のほうが放射線に被曝していないリトアニア人男性よりも自殺率が低くなっているということです。表1は、チェルノブイリ汚染除去労働者の自殺数の推移とその減少傾向を示しています。

  このデータは、これまでの数年間、チェルノブイリ汚染除去労働者の自殺者数が減少してきていることをはっきりと示しています。これは、医療、特に精神病治療や心理障害治療が向上したことによるものですが、これについてもより完全で詳しい調査が必要です。しかし、1989年から1993年までの期間には、チェルノブイリ汚染除去労働者の自殺は、普通のリトアニア男性の自殺よりも頻繁に起きています。

  1996年から1998年7月までの期間に、サピエガ病院の心身症科では、チェルノブイリの汚染除去作業に参加した男性112人の診断と治療をおこないました。彼らの年齢は29歳から65歳で、平均年齢は43歳でした。患者はいずれも中等教育以上の教育を受けていません。社会的地位別の分類でみると、30人(26.8%)が就業し、30人(26.8%)が障害者で、失業者は52人(46.4%)にのぼっています。未婚・既婚別では、既婚者が55人(49.1%)、離婚者が44人(39.3%)、未婚者が13人(11.6%)でした。

  精神障害と診断された症例の内訳を表2に示してあります。表2からわかるように、神経障害や人格障害が圧倒的に多くなっています(それぞれ44.6%と31.3%)。また、チェルノブイリ汚染除去作業の後、永久的人格障害と診断された症例が全体の26.8%、外傷後ストレス障害(PTSD)が7.1%あったことは注目に値します。さらに、汚染除去作業を行なった後に、大部分の労働者に外傷後ストレス障害が見られたましたが、彼らは後に補償を受けていることを考慮しなければなりません。

  ここでサピエガ病院心身症科で治療を受けた患者の特徴に関しての意見を述べてみたいと思います。

  チェルノブイリの汚染除去労働者たちは、自らを「チェルノブイリのヒバクシャ」とよんでいます。このような呼び方は、社会的にも受け入れられています。これは「チェルノブイリから帰国した住民」という意味で使われており、他の人々と区別する呼び方になっています。

  病院の心身症科では、これらの患者は他の患者から離れる傾向があり、自分たちのあいだで以外では言葉を交わすこともなく、集団を作り、かたまってしまっています。また、健康上の問題も、それが身体的なものでも精神的なものでも、また社会生活や結婚などの問題でも、全てそれがチェルノブイリで汚染除去作業をしたせいだと考える傾向が見られます。その証拠に、彼らはチェルノブイリで働く前には、こんな問題はなかった、問題がおきたのはその後だと主張しています。彼らの治療にあたっていると、彼らは放射線に被曝したために、自分たちのことを「死ぬ運命にある者」だと考えていると感じます。これらの事実は、チェルノブイリでの汚染除去作業を行なったことが、彼らの一生と心のなかで、大変重要な位置を占めていることを物語るものです。

  チェルノブイリ汚染除去労働者の精神障害の、心因性の原因や影響を分析してみると、原因と影響は、患者に与えられた情報によるもの、社会・経済的なもの、および医学的なものに分類されることがわかります。

  多くのチェルノブイリ汚染除去労働者、特に1986年から1987年に作業に参加した労働者は、強制的に働かされたことを強調しています。彼らは予備軍の兵士として、「軍事訓練」の名目でチェルノブイリに送られましたが、これは彼らを徴用し、チェルノブイリで働かせる口実であり、実際の現地の状況について彼らは何も知らされていませんでした。作業のあいだも、それぞれ線量計を身につけていた労働者は少数で、多くの場合、集団としてのおおざっぱな被曝線量測定が行われていただけでした。爆発した原子炉の上や、その近くで作業した労働者には、たとえ1日に数回、数分間作業しただけでも、最も重症の心理的な影響がみられたということを強調しなければなりません。実際、災害後の経験をした患者は、外傷後ストレス障害や永久的性格障害の診断を受けています。指揮に当たった士官たちは、汚染除去労働者に不正確で誤った情報を与えていました。「チェルノブイリのヒバクシャ」の言葉を借りれば、彼らは特に1986年には、アルコールが放射線の影響や被曝リスクを軽減すると教育されていたのです。また、彼らは、イオン化放射線の影響で、脱力感、頭痛、吐き気などを感じるかもしれないと教えられていました。不安感による神経症が原因で、これらの症状が現れましたが、汚染除去労働者は、それによって自分たちは放射能に冒されてしまったと信じ込んでしまったのです。

  また士官たちは、チェルノブイリで働いた後には、精神障害をもった子供が生まれるかもしれないので、5年間は子供をつくらない方がいいと教えました。しかし、チェルノブイリから帰還した若者は、結婚して子供を作りました。そのために、子供が病気にかかると、彼らは悲痛な反応をし、自分のせいだという罪悪感を拭い去ることができないのです。

  チェルノブイリ汚染除去労働者の多くが、性的な悩み、つまり性的不能を訴えています。しかしいくつかの調査で、これは放射線被曝に起因するものでなく、神経性の障害であることが判明しました。多くの場合、加齢に関連した性的能力の減退が、「チェルノブイリ」の影響とされてしまっていたのです。実際には心因性の身体障害が、かえって患者の不安を裏付けることになり、それが治療によって患者に悪影響を与えることになるという例もしばしばありました。チェルノブイリから帰還後におきた問題や、社会適合上の問題は、患者の51%が独身であるということによって証明できます。また、患者の46.4%が失業していたことも重要です。彼らの多くは、就職が困難なだけでなく、雇用者の側も「チェルノブイリのヒバクシャ」を雇いたがらないと、説明しています。これは、チェルノブイリ汚染除去労働者が身体が弱く、病気がちなため、労働者としては好ましくないという偏見が広がっているためです。

  チェルノブイリ汚染除去労働者の心理学的調査で明らかになったのは、彼らが深刻な情緒的問題をもっているだけでなく、対人関係でも困難を抱えているということです。それによって彼らが集団を作る傾向が説明できます。

  この他にもいくつか心理的ストレスの要因を挙げることができますが、一般的には、チェルノブイリ汚染除去労働者に見られる神経症や社会への適応困難は、彼らが災害後のチェルノブイリの汚染除去活動をしたことと関連性があると言うことができます。

  われわれの経験から、以下に一般的な考察と結論を述べておきます。

  1. 汚染除去労働者の殆ど全員のメンタル・ヘルスにチェルノブイリ災害の影響が見られた。

  2. 人々の健康にたいする影響を、イオン化放射線によるものと心理的ストレス要因によるものに分離することは極めて困難である。

  3. チェルノブイリ汚染除去労働者は彼らに固有の健康問題があり、特別の医療センターで医療を集中して提供することが重要であり、効果的である。

  4. 災害による放射線被曝を受けた人々には、心理学的・精神病学的援助が必要である。

  5. 放射線の影響に関する情報、とくに災害発生時の情報が、十分に根拠のある基本的な科学データとして公開されるべきである。

  6. 一般世論にもかかわらず、世界では核実験が行われている(インド、パキスタン)。これが、特に過去にイオン化放射線に被曝したことのある人々に、精神障害や心理障害を引き起こしている。

参考資料:
(表1)

 年汚染除去労働者の自殺数汚染除去労働者10万人当りの自殺数リトアニア男性10万人当りの自殺数自殺頻度差
 1987235.148.80.71
 19888140.446.43.0
 19906105.344.22.4
 1991470.252.01.4
 19927122.957.82.1
 19938140.473.51.9
 1994470.281.90.85
 1995352.779.10.67
 1996117.679.20.22
 1997352.779.00.67


(表2)精神障害と診断された症例の内訳

 精神障害 治療を受けた患者数 %
1.器官精神障害33 29.5
2.精神分裂病2 1.8
3.神経症50 44.6
内訳  神経衰弱症26 23.2
    外傷後ストレスPTSD8 7.1
    不安障害7 6.3
4.感情障害(うつ病)15 13.4
5.人格・行動障害35 31.3
チェルノブイリ原発汚染除去で働いた災害体験による永久的人格変化30 26.8




 
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