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被爆者との連帯【チェルノブイリ】

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リトアニア
サピエガ病院、チェルノブイリ医療センター
ゲディミナス・リムディカ(2000年国際会議)

チェルノブイリ

原水爆禁止2000年世界大会・国際会議

リトアニア
サピエガ病院、チェルノブイリ医療センター
ゲディミナス・リムディカ


チェルノブイリとリトアニア

  チェルノブイリ原発事故から4年後の1990年、チェルノブイリ医療センターがリトアニアで開設されました。センターは約7000人の汚染除去労働者のほぼ全員に関する情報収集を開始しました。彼らは登録され、リトアニアにおける医療センターの制度が創設され、予防・医療プロジェクトが開始されました。現在までの10年間チェルノブイリ医療センターでの経験から、一定の結論を得るに至りました。

  年次会議「チェルノブイリとリトアニア」が、セピエガ病院付属チェルノブイリ医療センターと放射能安全センターによって2000年4月26日に行われました。会議資料は、「健康を取り巻く環境」誌第3号の付録に掲載されました。周知の通り、リトアニアではイグナリナ原発が稼動しています。リトアニアが欧州連合と交渉を始めた際、この原発問題とその第1、2号機の段階的閉鎖は、特に緊急事項となりました。今年の会議でも多くの参加者が、リトアニアにおける放射能と放射能安全問題について報告しました。

  物理学、生物学、伝記文学、植物学の研究所、ビリニュス大学、環境保護省、公安局、放射能安全センター、チェルノブイリ医療センターの各代表の報告が、会議で読み上げられました。発表者は、食料、地表水、バルト海、植物と土壌の放射能汚染を調査し、市民の安全性の点から緊急事態の管理も分析しました。特別セッションは、チェルノブイリ汚染除去労働者の医療問題の調査を取り上げました。

  サピエガ病院精神科のデータによると、約300人の死亡者の5分の1は自殺でした。放射能被害を受けていないリトアニアの一般男性とチェルノブイリ汚染除去労働者の自殺件数を比較すると、後者のそれは1998年には前者の3倍、1990年には2.4倍でした。自殺件数は1994年以降減っており現在は汚染除去労働者の自殺件数はリトアニア一般男性のそれよりも低いことに、注目することが重要です。この減少は、リトアニアにおける医療と精神医学や心理的ケアの改善によるものと思われます。

  また、この患者集団には他の特徴が認められます。入院中、彼らは他の患者と距離を置き、集団内でのコミュニケーションにこもりがちです。また彼らは、肉体的、精神的な健康問題、また社会的および夫婦間の問題を、常にチェルノブイリ汚染除去作業と関連付ける傾向にあります。大半は、チェルノブイリでの作業前には問題はなかったと主張し、被曝した自分たちは「もう助からない」と考えています。これらの事実は、チェルノブイリ汚染除去作業が彼らの人生と精神に非常に大きな位置を占めていることを示しています。

  彼らの大半、特に1986‐1987年に従事した者は、問診のときに、自分たちが軍事機構に強制されたことを強調します。汚染除去労働者は、不正確で誤った情報を与えられていました。アルコールが放射能の影響を緩和するとか、疲労・頭痛・眩暈はイオン化放射能が原因だ、などと言われたのです。ですから、これらの苦情は神経過敏な環境において起こり、汚染除去労働者は、彼らは被曝し、放射能によって健康が損なわれたと信じ込んでいたのです。

  汚染除去労働者の4分の1には、チェルノブイリ汚染除去作業後におきた恒常的な人格障害があり、8分の1はトラウマ後ストレス障害(PTSD)と診断されています。なお、汚染除去作業後のPTSDは大半の汚染除去労働者に見られましたが、診断を受けた労働者は後に補償を受けたことを明記しておきます。

  心理テストによる汚染除去労働者の調査から、彼らが深刻な精神的障害を被ったこと、人間関係に困難が生じていることが明らかになりました。彼らが、自分たちの集団にこもりがちなのは、このためかもしれません。

  我々の病院の調査から明らかとなり、また他国の研究が裏付けているように、チェルノブイリ事故はチェルノブイリ汚染除去労働者のほぼ全員の精神衛生に影響を与えました。このため彼らには心理的‐精神医学的な援助が必要であり、その特殊な健康問題から、専門的な医療機関での治療が適当です。

  これらの疾病は汚染除去労働者の病状の大半を占めるため、精神障害の再調査が開始されました。

  続いて多いのは、心血管疾患、消化不良、気管支疾患などの内臓疾患です。内臓疾患の大半は、動脈高血圧です。高血圧の原因の1つは強い慢性的ストレスであり、これはチェルノブイリ汚染除去労働者の特徴でもあります。長期間の不安やストレスは心機能に影響し、その結果、心臓や冠動脈の機能に障害が生じるのです。これらの機能障害は、時に内臓疾患をもたらします。

  内臓疾患で次に多いのは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化機能障害です。その治療は大きな問題ではありませんが、多元的なアプローチと精神科医の支援が必要でした。

  3番目に発生率が高いのは、気管支疾患です。チェルノブイリ原発事故後、急速に崩壊する放射性核種のヨウ素131が大気中に放出されました。

  正常な甲状腺機能にはヨウ素が必要ですが、事故後、空気中のヨウ素131の濃度が高まり、それが体内に吸収される可能性が生じました。甲状腺は普通のヨウ素と放射性ヨウ素を区別できないため、甲状腺に蓄積される放射性ヨウ素は生体全体、とくに甲状腺自体に作用します。放射線量が0.1センチグレイほど微量でも、甲状腺結節症を引き起こす危険があります。大量の放射線は、甲状腺ホルモン浮腫、脈管炎、壊死、放射能甲状腺炎を引き起こします。

  このため、チェルノブイリ汚染除去労働者の健康調査の際、気管支疾患が大きく注目されるのです。我々の診察から、汚染除去労働者の4分の1が、拡散性甲状腺腫に、10分の1は結節性腫に罹っていることが確認されました。甲状腺ガン(4件)の罹病率が依然として安定しているのは、診断や医療管理の改善に因るものと推測されます。

  甲状腺疾患の推定をする際、患者とその病状推移を引き続き注意深く観察することが必要です。

  リトアニア腫瘍学センターのデータによると、汚染除去労働者131人が腫瘍疾患に罹り、そのうち74人は悪性腫瘍でした。しかし、筆者は、その病因(肺癌、口腔・すい臓癌など)は喫煙と飲酒であると判断しています。また、1990-1999年に癌罹病率の低下が認められましたが、引き続きの観察が必要です。

  チェルノブイリ医療センターで活動する共和国専門家委員会は、医療・社会問題に取り組ん でいます。汚染除去労働者の死因、病因と急性症状などとチェルノブイリでの汚染除去活動の関係の立証です。関係が立証されれば、汚染除去労働者は特別手当を受給できることになります。

  検討された1872の病例のうち1663件(88.8%)がチェルノブイリ汚染除去作業に関係すると認められました。委員会のデータによると、原発関連の病例の大半は精神障害(17.2%)、高血圧症(15.3%)、結節性甲状腺腫(13.1%)、自律神経系障害(12.2%)などです。

  年齢要因を考慮すると、被害が最もひどかったのは若年労働者であったことが分かります。原発関連疾患の82.7%は25‐44歳のグループで観察されました。精神障害は25‐34歳、高血圧症は35‐44歳で多く見られました。従って、被害が最もひどい被害者の大半(約40%)は、年齢とは無関係に、1986年にチェルノブイリで働いていたのです。

  我々は、これまでの経験から、イオン化の影響とチェルノブイリ汚染除去労働者の精神的健康への後遺症を切り離すことは困難であり、従って、放射能の影響について科学的調査に基づく信頼できる情報を社会に発信することが必要だという結論に達しました。

  事故から14年後のチェルノブイリ汚染除去労働者の罹病率は、リトアニア国民の罹病率とは若干異なっています。引き続き彼らの健康状態を調査し、治療しなければなりません。

  チェルノブイリ汚染除去労働者は特殊な健康問題を抱えていることから、専門的な医療機での治療が適当です。もちろん、政府とチェルノブイリ市民団体のより一層の取り組みが、汚染除去労働者の社会保障問題の解決に必要です。





 
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