原水爆禁止2004年世界大会
国際会議
インド核軍縮平和連合、全国調整委員会委員
スクラ・セン
59年前、第2時世界大戦終結の直前、広島と長崎が、米軍が投下した原子爆弾によって灰にされるという、言語を絶する衝撃を受けたことを、私たちは痛いほど認識しています。人類史上、これほど多くの人がこれほどの苦しみにより命を落としたことはありませんでした。この非運を生き延びた人びとには、おそらくより辛い経験が待っていたのです。人類の良心がこれほど揺り動かされたことはありませんでした。1945年8月6日と9日という破滅の日以来、「ヒロシマとナガサキ」は、最大の悲劇と歴史的犯罪の代名詞となりました。核爆発の衝撃を受けた世論は、強い波となり世界を駆け巡りました。世界的な反核・平和運動は、その中枢部である日本において具体化されました。
それからおよそ60年が経過しましたが、世界の平和運動の目標は到達されていません。むしろこの長い年月で備蓄された核兵器は破壊力を増し、おびただしい数にまでふくれ上がりました。今日、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国すべてが合法的な(!)核保有国です。核兵器の保有は、深い道義的な恥ではなく、(超大国としての)力の輝きをもたらしてくれるのです。ちょうど6年前、冷戦終結をきっかけとして起こった、か弱くはありましたが真の全世界的な非核化という流れに逆行して、インドとパキスタンというアジアの国が、排他的核大国クラブの入り口に押しかけました。直後の衝撃と非難が過ぎ去ったあと、この新興核保有国は事実上の核クラブメンバーとして認められるようになりました。西アジアではイスラエルが一種の未申告核保有国でありながら、あらゆる手段を使って「拡散」の阻止を実行しているかのように振舞いそれを口実にイランと北朝鮮に銃を向けている超大国アメリカの全面的保護を享受しています。
原爆は、戦争の結末がすでに十分見えており、枢軸国の崩壊が寸前であった大戦最後の瞬間に投下されました。原爆投下の口実として、真珠湾の米海軍基地に対する日本軍決死隊による奇襲が利用されました。しかし、今日広く知られている真の理由は、アメリカによる戦後の世界支配を確実なものにするため、潜在的な敵、特にソ連を服従させる脅しをかけることにありました。以来核兵器は、その好核勢力の主張とは逆に、常に権力と支配の通貨とされてきました。現在でも核兵器製造の原動力は、権力と支配欲なのです。
今日アメリカは、ジョージ・ブッシュ率いるネオコン政権となってからはなおのこと、自由な世界支配という目標にむかって臆面もなく進んでいます。これが、世界規模の軍縮と非核化の道をふさぐ最大の障害となっています。アメリカは、国家ミサイル防衛(NMD)と戦域ミサイル防衛(TMD)計画に本格的に取りかかるため、1972年に締結された弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)を一方的に破棄するという、不安定で危険な道に乗り出す一方、実戦使用を目的とした戦術核の開発を進めています。NMDとTMDは現在の力の均衡を明らかに崩すことで、あらたな軍拡競争を引き起こすでしょうし、いわゆる「戦術」兵器の方は核兵器使用の敷居を急速に下げるものでしかありません。同様に、「先制攻撃」という政策で正当化された、野蛮なイラク戦争は、戦争や紛争を回避し規制するため、長年にわたり作り上げられてきた国際的な規準に深刻な混乱を招く脅威となっています。ほかの核保有国も、隊列を乱すことを拒否して大きな問題をもたらしています。
西アジアと南アジアは、深刻な問題を抱える地域として浮上しています。パレスチナ問題を正義にもとづき公正に解決することは、つねに平和な西アジアへの可能性の鍵でした。しかし、イラクの不安定化で、この地域が一触即発する可能性は高まりました。同様に、インド・パキスタン問題では、好戦的な2国間で係争中の問題の解決をめざす誠実な意思と、カシミール地方住民全体の正当かつ民主的な願いを満たすという見地に立つ建設的な対話のみが、「最も危険な核紛争地帯」と呼ばれてきたこの地域が直面する現実的な危険を軽減する唯一の方法です。インドの反核平和運動を代表するものとして、私は1998年5月、ヒンドゥー至上主義に立つインド人民党(BJP)主導政権が実施した核実験について特に触れたいと思います。この不幸な出来事はただちに隣国パキスタンによる核実験実施をよび、南アジアにおいて核軍拡競争を勃発させました。両国による核兵器搭載可能なみさいるの実験が果てしなくエスカレートしました。資源に乏しいこの二国の国防費は、その擁護者たちの主張とは裏腹に、通常軍備に関してさえ上昇し続けました。南アジア地域の安全保障状況は非常に悪化しました。27年以上を経て、両国の間で、限定的ながら核兵器の欧州へと至りかねない深刻でさし迫った危険をはらんだ戦争が、核実験から一年もたたぬうちにカーギルで起こりました。しかしもっとも憂慮すべき事態は、これらの核爆発実験が、インドのナショナリズムの本質に深刻で永遠的な影響を与え、その製作の基本原則を変えてしまったことです。その結果、国会でのBJPの主敵であり、植民地支配からのインドの解放に英雄的役割を果たした国民会議派もまた、あのみせかけの「最小限抑止」を維持すると宣言するようになっています。このことは、インドの平和運動の課題をより困難にし、世界の非核化のプロセスをより障害の多いものとしています。
いわゆるパキスタン核開発の「父」と呼ばれるカーン博士により劇的な形で明るみに出さたように、種々の国家(または国家に属さない者)に制限なく核が拡散しているという現象は、核による大虐殺という脅威が新たな緊急性を帯びていることを示しています。
この会議は、このような不穏で厄介な情勢を受けて開かれています。私はインド核軍縮平和連合(CNDP)を代表して、原水爆禁止世界大会実行委員会のみなさんに心からの祝辞を述べさせていただきます。大会は、原爆の直接の被害をうけた被爆者の方々の状況を世界に知らせ、核戦争の阻止と核廃絶を実現するため、不屈に継続して組織されてきました。私はこの威厳ある演壇から、私たちの組織が世界の非核化を実現するうえで不可欠であるインドと南アジアの非核化をめざし全力を尽くすことを宣言します。2005年5月に予定されているNPT再検討会議を視野にいれたとき、この世界大会の重要性は増大しています。この会議は、核保有国に対して、核兵器をなくすという自らの約束を想起させ圧力をかけるという特別な機会を平和運動に与えています。
われわれ全員が力をあわせれば、現実的で有効な方法と手段を探求し見つけることができ、共通の目的を達成するため、そしてこの会議を世界規模での非核化への重要な一歩とするために、私は確信しています。
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