短縮版(広島)
ラジマ・フサイン
マレーシア軍縮大使(ジュネーブ)
議長、
1、発言の場をいただき、世界大会実行委員会に心からの感謝と尊敬の意を表明します。戦争と大量殺りく兵器の使用が悲劇をもたらしたこの都市で開かれている会議に参加し、名誉に思います。この機会に、57年の犠牲者に哀悼の意を申し上げます。
2、この世界大会を含め、核兵器廃絶のためのNGOや市民社会の役割は重要です。私たちは、核兵器の人類と生命にたいする脅威から身を隠すことは出来ません。核兵器は通常兵器とちがい、文明さえ破壊する大量殺りく手段です。冷戦終結から10年以上が過ぎましたが、核保有国は大量の核兵器を保有し、人類の将来を脅かしつづけています。
3、軍縮分野での最近の発展で私たちは、全面完全軍縮への決意をつよめています。9月11日のテロ攻撃は、安全保障への新たな挑戦に対応する多国間軍縮協定の強化を国際社会に求めています。あの事件は、大量殺りく兵器がテロリストの手にわたらないようにする効果的な措置が必要であり、早急に実行しなくてはならないことを教えています。
4、昨年、国連総会は、軍縮と不拡散に関する交渉の核心的原則として多国間交渉を全会一致で確認しましたが、この1年、見るべき成果はありませんでした。核軍縮の展望はなお暗いままです。核保有国は消極的です。かれらは、軍縮問題の多国間交渉に真剣に対応しようとしていません。2002年5月24日に米国とロシアが結んだ戦略攻撃兵器削減条約を国際社会は歓迎しましたが、それは、すべての核保有国が2000年の核不拡散条約(NPT)再検討会議で約束した核兵器の不可逆的削減に代わるものではありません。米国とロシアはいぜんとして、4500発の核兵器をいつでも瞬時に発射できる態勢にあります。
5、私たちは、数カ月前発表された米国の「核態勢見直し(NPR)」について不安を感じています。それは、根本的に、核兵器の削減と廃絶に向けた地球的規模の努力への挑戦です。NPRは、2000年NPT再検討会議で合意された「13項目の措置」のほとんどを拒絶するもので、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准にも引き続き反対しています。アメリカの核実験にたいする立場を変えていません。さらに、NPRは、イラン、イラク、リビア、朝鮮民主主義人民共和国、シリア、中国、ロシアの7カ国に対する核兵器使用まで計画しています。これは国際法にも、非核保有国に対する核兵器の不使用というこれまでの米国の保証にも反するものです。
6、アメリカの挑発的やり方は中国、ロシアの核兵器計画強化やその他の国の核兵器開発を促すものです。新たな核軍備競争に発展しかねません。NPRは、核兵器は最後の手段でなく、非核保有国に対する戦争でもじっさいに使う手段とみなしています。米国の本土ミサイル防衛システム(NMD)の配備計画も不安の要因です。それは現行の二国間・多国間軍備管理協定にとどまらず、現在進行中の、あるいは将来の軍縮と不拡散の努力をも危うくするものです。そうしたシステムの配備は、国際安全保障を極めて不安定なものにするでしょう。
7、これ以外にも軍縮分野での後退が見られます。「核軍縮にいたる自国核兵器の完全廃絶達成という核保有国の明確な約束」を含め、2000年NPT再検討会議で合意された「13項目」の約束は実行されていません。NPTはいまなお普遍的なものとなっていません。キューバ、インド、イスラエル、パキスタンの4か国はなお、NPTに加盟していません。包括的核実験禁止条約も同様です。条約発効に必要な44カ国のうち13カ国はなお批准していません。軍縮会議(CD)が、作業のすすめかたについてのコンセンサスがないまま、6年間手詰まり状態にあることも問題です。
8、こうした情勢は軍縮の前途に暗い影を落としています。核保有国による軍縮への約束も言葉だけで行動がともなっていません。今、共同した行動がなければ、この危うい傾向は、核兵器廃絶に向けた私たちの努力に深刻な打撃を与えかねません。
9、NPTは地球的な核不拡散体制の要石であり、核軍縮追求の土台とみなされています。大量破壊兵器の拡散が安全と安定を脅かしている国際情勢のもとで、NPTの維持・強化は平和と安全保障にとって死活的問題です。マレーシアは、2000年のNPT再検討会議の積極的成果、とりわけ国際安全保障上の死活的な一連の問題で加盟国が15年ぶりにコンセンサスに達したことを歓迎しています。加盟国は、NPT第6条に関する2000年再検討会議最終文書の「13項目の措置」に同意しました。しかし、これらの約束が真剣で具体的な行動を伴うものでない限り、誓約も陳腐な口約束に終わってしまいます。この約束を守り、現実の行動に変えることが重要なのです。
16、 6年前、国際司法裁判所(ICJ)は、核兵器の使用ないし使用脅迫の適法性に関する歴史的な勧告的意見の中で、全員一致で「核軍縮にいたる交渉をすべての面にわたり、厳格かつ効果的な国際管理のもとで誠実に追求し完結させる義務がある」という結論を下しました。私たちは核兵器の使用と脅迫を違法とするICJの明確な判断を望んでいましたが、マレーシアは、軍縮プロセス全体から見れば法廷の下した勧告的意見は、重要な発展であると考えました。それは、核兵器完全廃絶の目標実現に向かっての世界法廷の重要な貢献でありました。法廷はまた、核兵器の開発、製造、実験、配備、貯蔵、移転、脅迫と使用を禁止する条約の早期締結にむけた多国間交渉を開始し、以上の義務をただちに果たすよう関係国に求めています。
17、 残念なことに、核保有国は勧告的意見を法的に拘束力をもたない「意見」に過ぎないと無視しつづけています。
18、 マレーシアはこの勧告的意見を重視し、1996年以来、国連総会第一委員会でこの問題での決議の提案に積極的に加わっています。国連加盟国の多数から圧倒的支持を受けてきたことは大変心強いことです。広範な支持に励まされ、マレーシアは志を同じくする国々とともに第57回国連総会でも引き続き提案します。
19、誠実な交渉を開始することは、核保有国が核兵器完全廃絶の義務を誠実に実行させる最善の手段です。1997年以来、著名な国際軍縮専門家が核兵器条約のモデル条約づくり組んでいることを私たちは心強く重い増す。
20、地域的には、マレーシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力して、東南アジア非核兵器地帯(SEANWFZ)を強化し、議定書に関する重要な問題を解決するためのに交渉促進に努力しています。マレーシアは東南アジア非核兵器地帯が、平和と安定に資する条件を創り出し、地域の信頼醸成促進の条件をつくると信じています。マレーシアは1996年10月11日にバンコク条約を批准し、他のASEAN諸国とともに、すべての核保有国が速やかにこの条約の議定書に加わるよう求めています。
21、マレーシアはまた、中東や南アジアなど他の情勢が不安定な地域でも非核兵器地帯を創設することを支持しています。これらの国々が自由な意思による合意を基礎に、それを実現する努力を強めてほしいと思います。マレーシアは中央アジア5カ国の非核兵器地帯創設のイニシアチブを歓迎します。
22、多国間による真の軍縮・不拡散の探求、とりわけ核兵器の分野における探求は国際的な軍縮の課題のなかでも引き続き最優課題です。核保有国が冷戦心理から抜け出し、自国の核兵器の削減・廃絶へ真剣な措置をとる態度をとってこそ、真の核兵器のない世界の展望が現れてきます。同時に、核兵器やその他の大量殺りく兵器を望む国がそれを入手しないよう説得し、入手を防止するためあらゆる努力を払わなければなりません。
23、核兵器が地球上に存在する限り、国際社会は安住してはいられません。私たちは軍備管理・軍縮分野でのNGOの役割と貢献がもっとも重要であると考えます。マレーシアはNGOを、共通の事業における不可欠のパートナーと考えています。NGOと市民社会は、とりわけ核兵器の脅威が依然として存在することを認識させ、軍縮をすすめる上で重要な役割を負っています。私たちはNGOに代表される市民社会の軍縮プロセスにおける支柱としての貴重な役割を評価したいと思います。私たちはまた、この地球からこうした恐ろしい兵器を廃絶するための事業への日本のNGOの積極的な参加を喜び、励まされています。
みなさん、
24、かつて原爆に破壊された広島を初めて訪れて、私は、核兵器完全廃絶のためにたたかおうといういっそうつよく決意しました。広島と長崎の市民の痛みと苦難は、核兵器に固執する国の言い分と違って、核兵器は抑止の兵器ではない、それは人類を絶滅させる兵器であることを、この世界大会は教えています。だからこそ、政府の代表も市民社会の代表も手をつないで、この人類への重大な危険のもとを絶とうではありませんか。ご清聴に感謝します。