原水爆禁止2002年世界大会
国際会議
ロシア
アイグル(チェリヤビンスク核被害者組織)議長
ミーリャ・カビロワ
核製造の犠牲者たち
ロシアから来ましたミーリャ・カビロワです。今回、2回目の参加となる原水爆禁止世界大会にお招きいただき、発言の機会を与えられたことに感謝します。
何がここに集う人々をひとつにしているのでしょうか。異なる背景を持つ私たちですが、核兵器のない世界を築こう、つぎの世代が核産業の人質になることなく、そしてヒロシマとナガサキの惨劇を二度と体験しないように、というひとつの願いによって結びつけられているのです。
私はロシアのチェリャビンスクの出身です。チェリャビンスクには「マヤーク」という軍事核工場があり、主に核兵器の製造に使われる軍事用プルトニウムを生産しています。
「マヤーク」は、周辺の住民に多くの苦しみを与えました。この施設では、3つの重大な事故が起こったのです。
まず、工場は放射性の廃液を、浄化作業を経ずにテチャ川に垂れ流しました。このため、300万キュリーの放射能がテチャ川とその支流に流れ込みました。その結果、41の村に住む12万4千人が被ばくしました。
ふたつめの事故は、放射性廃液を貯蔵していたタンクの爆発で、2千万キュリーの放射能が空気中に放出されました。このため391の村の33万5千人が被ばくしました。
みっつめは、高レベルの放射性廃液の貯蔵湖となっていたカラチャイ湖から、放射性の塵が風に乗って飛散したことです。100万キュリー以上の放射能が拡散し、68の村の2万4千人が被ばくしました。
この3つの重大事故でチェリャビンスクにおそいかかった放射性物質の総量は、チェルノブイリの原子炉から排出されたそれをも上回ったのです。
「マヤーク」は、多くの人を苦しめ、たくさんの命を奪いました。核産業業者が犯した過ちで、今もなお被害者の子どもたちは苦しみを味わい、あまりにも危険な地域にすむことを余儀なくされています。1993年になってようやく、放射線被害者社会保護法が制定されましたが、それも十全な保証を与えるものではありません。経済は不安定、資金は不足という状況で、住民はこの問題に独力で立ち向かわなくてはならないのです。
私の家族の歴史も、その顕著な一例です。住民は経済的な理由で汚染地域に縛り付けられています。汚染地域に引き続き居住している被害者にしか補償金が支給されないからです。ムスルモヴォ村の場合、働いていない人や高齢者、こどもには月に1.8ドル、労働者は月に7ドルの補償が与えられます。しかしこの7ドルも簡単に支給されるわけではなく、運転手やトラクター操作などの仕事で居住地域を離れて働いている場合、汚染されていない地域で労働日を過ごすと考えられるので、その労働日については補償が与えられません。私の弟は鉄道員で、職場が一駅はなれたところにあるので、月に1.8ドルの補償しかつきません。また私のように、ムスルモヴォを離れた者については年間3ドルしか支給されないのです。しかもこの額を受け取るのに、方々の役所をまわり、何枚もの書類を提出して歩かなくてはなりません。
去年、私の家族のことをお話ししました。父は被ばくのため44歳で亡くなり、母と残された7人の子どもたちには生活の糧すら残りませんでした。父の病気は仕事が原因だったので受け取れるはずだった特別年金や恩恵もまったくありませんでした。父は、汚染した川の監視員として働いていたのにです。しかし雇用側は、安全上の規則にしたがうために父の勤務地を隣の地域に登録していました。父の死後、母が父の仕事を引き継いだときも、同じことが繰り返されました。
1993年、精神と肉体の被害を補償するべき法が成立し、母は訴訟を起こしました。裁判は4年に及びました。その間、私たちの家族にはさまざまなことが起きました。二人の兄が亡くなりました。上の兄はガンのため50歳で、下の兄は心臓発作のため44歳で亡くなりました。姉は手術を受け、放射線に起因する慢性疾患を抱える者として認定されました。弟と私も、不妊症のため同様の認定を受けています。1997年の3月になってようやく、裁判所は母が肉体的・精神的な損害を受けたと認めました。また、1949年以降に生まれた子どもは、胎内で被ばくしているとも認めました。しかし、被害を受けたのが法律が施行された1993年より以前であったことを理由に、私たちの訴えは退けられました。
2カ月前、ムスルモヴォにたった一つあった病院が閉鎖されました。ガンの診断にはたいへん時間がかかり、ガン患者は最期の2−3ヶ月間だけしか補償を受けられません。雀の涙ほどの補償もできるだけ払わずに済ませようという国の態度は明確であり、このことがさらにはロシア連邦の核政策の信用を失墜させていると言えるでしょう。
この状況の改善にむけてロシア連邦政府が打ち出したことは、核に汚染された地域の再生の資金を稼ぐために、外国の使用済み核燃料を再処理することだけでした。そのような決定がなされている一方、ロシア全土に蓄積されている放射性物質の全放射線量は70億キュリーにものぼっています。しかし、1トンの使用済み核燃料を再処理する過程で出る廃棄物の量は次のとおりです。
−高レベル放射性廃棄物45平方メートル
−中レベル放射性廃棄物150平方メートル
−低レベル放射性廃棄物2000平方メートル
核軍事工場「マヤーク」が製造活動過程で排出してきた、また近年進行中の民事利用プログラムにより排出される放射性廃棄物は、こんご何千年にもわたって生態系に深刻な影響を与えつづけます。従って、放射性廃棄物の再処理と長期貯蔵をめぐる問題の解決が、現在そして将来におよぶ核産業の中心課題といえるでしょう。