原水爆禁止2000年世界大会
国際会議

ロシア
チェリャビンスク核安全運動
ナタリア・ミロノワ

プルトニウム爆弾とプルトニウム経済の危険な連関
社会による選択に役立つ透明性と情報公開

 私はこの重要な会議に、現代社会で最も責任感をもっている皆さんと共に参加できることを喜んでいます。

 私は、ここにいる皆さんが、「力のある男女が力を合わせれば、全世界はおのずから、その自然のリズムを変革するであろう」(『道徳経』)ことを確信していることを知っています。

一緒に考えてみましょう。来るべき千年紀において、核兵器の位置づけとその役割はどのようなものなのか。政治と軍事のエリートたちは、諸国民が平和的に生きるのを妨げようとしています。広島、長崎、ムスロモヴォ、アルガヤシ地域、ロッキー・フラット、セラフィールドなどに住んでいる私たち市民の自然の生活リズムを変えてしまったのでしょうか。人々は、核兵器のリズムで生きることを余儀なくされたのです。大きな心理的変化が起こりました。社会は、少数の英雄的核カミカゼと、その英雄の犠牲者となった大多数の人々という、二つの部分に分裂したのです。これら二つの部分のあいだの争いから利益をえているのは政治エリートと軍事産業だけです。

 核・政治エリートたちの活動の概要を下の表に示します。
表1
ロシア 米国 イギリス フランス 中国
国民生産(NP), 10(9) $ (USD) * 205.3 9333.0 1423.8 1464.9 1001.1
一人当たりの国民生産10(3) $ 1.410 33.946 24.947 24.956 0.790
国民生産成長率 1% 2.7% 2.6% 2.7% 7%
インフレ率 38% 2.6% 2.6% 1.1% 2.5%
核弾頭数(NW)** ~22500 12070 380 ~500 ~450
削減予定数NW ~12000 1350 220 50 50
資源NW - 2300 - - -
プルトニウム資源総量(トン) 180 - 220 101 55 40,6 2-6
軍用プルトニウム資源(トン) 150-190 99.5 3.1 5 2-6
軍用ウラン(トン) 1050*** 645 8 24 20
* - “The Economist”
** - A.Machijany, "Energy and Security", 1999.
*** - 500 ton HEU discusses to sell to USA

 専門家の結論によれば、米ロの核弾頭総数は、それぞれ1500発が最適だとのことです。
 膨大な量の過剰プルトニウムは、国民経済と世界経済を圧迫しています。現在、プルトニウム爆弾をプルトニウム経済に転換するという、極めて危険な過程がすすんでいます。

 使用済核燃料100トンから「商業用」プルトニウム1トンがつくりだされることが知られています。1980年代初頭、ロシア最大の核処理プラント「マヤク」には、ロシアおよび外国の使用済核燃料を加工処理した、30トンの「商業用」プルトニウムが保管されていました。その後の20年間、「マヤク」プラントでは年間100-200トンの使用済核燃料がつくられました。したがって、この間に「マヤク」プラントには、さらに最低20トンのプルトニウムが貯蔵されたことになります。つまり、現在ではロシアと外国の使用済核燃料処理によって50トンものプルトニウムが貯蔵されているのです。しかし、政府は、実際の貯蔵量は、30-33トンであると主張しています。これは、非常に疑わしい数字です。1999年まで、これら「民需用」プルトニウムは、プルトニウムによる危険を減らすための米ロの削減計画の対象から除外されていました。「核安全運動」は、この措置の不備を告発する運動をすすめ、2000年に「民需用」プルトニウムを米ロの削減交渉の対象に含めることに成功しました。

「核抑止力」戦略の遺産:
 今日、ロシアのプルトニウム貯蔵量は、アメリカと同じであり、さらに増え続けています。200トンのプルトニウムを安全に保管するための費用は、アメリカの基準を採用すれば、年間8億ドルにものぼります。政治的な冷戦ギャンブルによって、アメリカは、その最も親密な政治的競争相手国の国家予算の100倍もの資金を、核兵器に投資することになりました。アメリカの核兵器とそのインフラのための支出は、1940年から1996年までの期間で、総額55億ドルに達します(アルジュン・マキジャニー、1999年、ステファン・I・シュワルツ)。ロシアの核兵器についての同様の数字は公表されていません。

今日、専門家たちは、超大国はそれぞれ1500発まで、核弾頭を削減すべきであると考えています。この削減によって、経済負担が軽減され、国防を強化することができるでしょう。しかし、問題は、米ロ両国の核軍縮がまだ不可逆的な性格のものになっていないということです。米ロ両国が産業インフラに投資した約100億ドルのうち、現状を変えるために何もしようとしない数千人の核科学者、国家予算獲得を狙う軍事産業などが、現状を維持する流れを作っており、その危険性について、国民の認識を高め、それを阻止しなければなりません。核エリートは、閉鎖的な技術官僚主義の環境に閉じこもり、「冷戦」時代の優先課題や、原則を変えようとしないばかりでなく、「冷戦」を懐かしがっているのです。

 チェリャビンスク-65には、83,000人の一般住民と「約10万人の従業員」がいると言われています。この核施設は、国の報告では、面積90平方キロで「マヤク」生産事業体によって運営されています。原子炉は全て、キズルタッシュ湖の東南岸に集中し、オープン・サイクルの冷却装置を備えています。つまり、湖の水をポンプで汲み上げ、直接炉心の冷却用に使用しているのです。プルトニウム原子炉は、1990年代に閉鎖されました。しかし、加工処理とアイソトープ生産は続けられています。「マヤク」はソ連で最初のプルトニウム生産複合工場です。新都市の最初の建設物として1945年11月に建設工事がはじめられました。12ヶ所の労働キャンプから集められた7万人の囚人が、この工事で働いたと言われています。

核の風下住民の環境および健康問題
ロシアには、軍需生産と核燃料サイクルに関連した各施設が15ヶ所あります。このうちの5ヶ所は、ウラル山脈にあり、そのうち3つはチェリャビンスク地方にあります。最も有名で、危険で老朽化しているのが「マヤク」プラントです。私は、ロシアの最初の原水爆が作られたこの工場の近くに住んでいます。1940年代の終りから、最初の核化学プラントがプルトニウムの製造を開始しました。軍用プルトニウム生産は、現在では行なわれていませんが、トリトニウム製造は続けられています。1976年、核化学プラントPT-1は、民需用生産を開始しました。昨年、マヤクでは、 放射能4250万キュリーの、183.1立方メートルの液体および固体廃棄物がつくられました。このうち、125万キュリーがカラチ、オールド・スワンプを始めとする湖とテチャ川に投棄されました。1953年以降、カラチャイ湖 では1.5億キュリーの放射能が検出されています。その他の湖やテチャ川は、マヤク工場の科学者や役人によって、核廃棄物の投棄場として利用されました。カラチャイ湖から地下水をつうじた放射性核種の流出は、これを飲料水に利用しているチェリャビンスク地方の住民には、極めて危険です。トリチウム廃棄物は「オールド・スワンプ」という湖に投棄されています。トリチウム廃棄物もまた、地下水をつうじて、オールド・スワンプ湖から流出しています。

 安全検査を偽造し、環境情報を検閲することで、天然水の放射能汚染は続くことでしょう。しかし偽造や検閲は、放射能汚染の危険な影響から、環境や人々の健康を守ることはできません。ガサトムナゾール核監督局の1999年情報によれば、「マヤク」は、湖水や河川を核廃棄物投棄に利用する許可を受けていません。

チェリャビンスク地方の住民は、少なくとも3回、核の災害に見まわれました。1949年から1953年までのあいだ、数年にわたって、マヤク工場は、その両岸の24の村の唯一の水源であるテチャ川に、系統的に放射性廃棄物を投棄していました。これらの村のうち、最大の4村には一度も避難命令が出されず、35年前に川の両岸に鉄条網をはりめぐらした理由を当局が住民に明らかにしたのは、最近になってからのことです。

 1957年、この地方は2度目の放射能災害にみまわれました。放射性廃棄物の保管ユニットの冷却システムが故障して、破裂してしまったのです。これによって、約200万キュリーの放射能が地方全域に広がり、25万人以上の人が放射能にさらされました。これらの人々のうち、避難させられたのは0.5%以下で、しかも事故から数年後たってのことです。

 3回目の災害は、その10年後に発生しました。マヤク工場は、1951年からカラチャイ湖を放射性廃棄物の投棄に使用していました。1967年、干ばつによって湖の水位が下がり、強風によって放射性のほこりが25,000平方キロに拡散し、50万人が500万キュリーの放射能に被曝しました。

 1平方キロあたりストロンチウム90の0.1キュリー以上の放射能に汚染された地域には、217の町と村があり、合計27万人が住んでいました。ちなみに過去の大気圏核実験で発生したストロンチウム90による汚染は、この緯度では、1平方キロあたり0.08キュリーでした。この汚染地域全体の、ほぼ全ての水源が汚染されてしまいました。最も汚染がひどかった1,100人が住んでいた地域の住民が避難したのは、災害発生から10日もたってからのことです。その他の地域での避難は、住民がすでに汚染食物を消費した1年後でした。災害に続く数年間、515平方キロの土地が埋め立てられたり、農地から除外され、1978年に農業が再開したのはそのうち80平方キロだけです。

 1平方キロあたり2キュリー以上のストロンチウム90に汚染された1000平方キロの地域には、約1万人が住んでいました。このうち5分の1の人々が、やがて血液中の白血球の減少症状をおこしました。この災害による死者に関する記録はありません。
 
 マヤク工場の活動による放射能汚染は、核爆撃の影響に匹敵しますが、秘密にされているために、もっと危険です。人々は汚染地域に住み続けているからです。食物も、水の、空気も汚染されています。この汚染の最も恐ろしい影響は、3世代にたいする影響です。子供たちの健康状態は非常に悪くなっています。風下地域では、子供の5人に1人が、慢性的な肺の病気にかかり、3人に1人が急性呼吸器障害があり、6人に1人が慢性の胃疾患にかかっています。また、3人に1人は、血管弛緩があり、5人に1人は心機能不全です。3歳から10歳までの子供の10人に7人が行動異常あり、中枢神経系の部分的不全あるいは脳中枢の不全に関連した社会的不適応の問題を抱えています。最近の調査では、1歳の少女レジーナ・スターンの体内にプルトニウム粒子が発見されています。

 風下の成人の72%には、神経疾患があり、50%には胃疾患、40%には血液異常があります。5人に1人、障害者です。

 これらの核産業の健康と環境に対する影響は、技術的安全性と工学文化の水準が低いことを示しています。チェリアビンスク地方の土地の復旧や、住民の健康回復のための活動は、見せかけだけのように思われ、それがさらに被害を大きくしているのです。

核兵器の解体
 また「マヤク」プラントの敷地内には、5万発の核弾頭が貯蔵されることになる計画です。そして、さらに、MOX(混合酸化物)燃料のインフラが「マヤク」プラントに建設されることになっています。人々はこれらの計画に反対しています。

 「マヤク」は数10の施設からなっています。テロリストが核分裂物質を奪おうとしたり、ここにミサイルを打込んだらどうなるか、想像して見てください。その被害は広島や長崎の数百倍にもなることでしょう。

プルトニウム爆弾とプルトニウム経済の連関
 ご存知のように、クリントン大統領とプーチン大統領は6月に、両国の原子炉にある兵器級プルトニウムの産業用使用を支持する合意を発表しました。沖縄のG8サミットにおいて、米ロ指導者は、他の諸国に、この計画に対する財政支援を求めました。

 環境保護運動は、解体された兵器が安全に扱われることを求めていますが、米ロ両国の原子力発電所で燃料として使用されるプルトニウムを再処理することがまちがいであることを確信しています。多くの科学者、エンジニア、環境保護者は、ロシアのプルトニウムのより安全な保管を放棄することになる、米ロの二国間合意には反対しています。

 この米ロ合意は、34トンのロシアのプルトニウムを、原子力発電所で使用し、アメリカでは25.5トンのプルトニウムを原発の燃料として使用し、8.5を保管することを定めています。プルトニウム混合酸化物燃料には、危険な放射性物質がより多く含まれており、原子炉が故障すれば、人々をさらに有害な放射能にさらすことになります。健康に対する危険性の増大は、原子炉の炉心に装填されるプルトニウム燃料の量に関係します。混合酸化物を燃料の3分の1として使用している原子炉は、通常のウラン燃料を装填した同じ型の原子炉より、プルトニウム239を約3倍多く含んでいます。燃料容器の欠陥やバイパスによる重大事故は、ガン発生率を30%高めますが、これは原発周辺地域で、数百人あるいは数千人がガンで死亡することに相当します。

 さらに、アメリカを始めG8諸国の資金で建設されたロシアの軽水炉が、プルトニウム燃料による事故をおこさないと誰が保証してくれるでしょう。このような事故の、政治的な影響はどうなるでしょう。これらの問題は、クリントン、プーチン両大統領が合意に調印する前に、解決されているべきでした。

「緑の党」が核の腐敗を阻止した
 ロシアの緑の党と環境保護運動は、このような現状を明確に理解しています。彼らは核廃棄物ビジネスに関連した、新しい種類の腐敗をくい止めようとしています。

 1998年5月19日付の文書では、今後10年間で台湾の電力会社(タイパワー)の20万バレルの核廃棄物が、日本を経由してロシアに送られると述べています。タイパワー社は、これにたいして8億ドル、1バレル当たり平均4000ドルを支払うことになっています。同じ文書には、これが台湾、日本、ロシアの3国にもたらす利益も指摘しています。台湾にとっては、核廃棄物の投棄場所の不足による問題が解決され、ロシアにとっては数千人分の雇用が創出されます。日本について、文書は、代理店であるアジア・タット・トレーディング(ATT)社が、かなりの利益をあげるだろうとしています。ロシア最大の核兵器研究所であるクルチャトフ研究所が、このプロジェクトを組織していると言われています。このベンチャー・ビジネスの利益は、100億ドルにのぼるだろうと予想されています。日本の代理店は、タイパワー社の核廃棄物投棄に関して、あるロシアの原子力研究所と、非公式な合意を結んでいます。

 ロシアの環境保護団体「エコディフェンス」からの情報では、クルチャトフ研究所の役員が、圧力をかけて、ATT社による財政援助の見返りに、ロシアの法律を改正させたのです。タイパワー社は、2012年から核廃棄物投棄を開始する計画であると言われていますが、ロシアの現地の反対者たちが、保障を要求していることから、これらの計画は変更される可能性があります。

 もう一つのケース:連邦レベルで禁止されている外国の使用済み燃料の受入れと貯蔵は、チェリャビンスク地方では条例で認められています。大統領令によって、マヤクの利益の12%を徴収している行政は、この企業を、選挙のために利用できる余分な資金にしようとしています。

 3ヶ所の核プラントは全て、チェリャビンスク地方の立法機関に代表を送り、各産業の利益のためにロビー活動をおこなっています。この活動の変わった点は、連邦レベルで禁止されている外国の使用済み燃料の受入れ、貯蔵が、1999年から「チェリャビンスク地方住民を放射能から保護する」地方法によって認められたという点です。

 「核安全運動」は地方議員の非合法な活動を監視しています。私たちは検事総長にたいし、 「チェリャビンスク地方住民を放射能から保護する」地方法を撤回させるよう要請しています。この地方法は、核物質を貯蔵のために輸入することを禁止した国の法律に違反しているからです。7月13日に、検事総長は私たちを呼んで、この連邦法違反を、地方裁判所に訴えたと伝えました。地方検事は「核安全運動」をこの裁判所に第三者として招聘しました。これは私たちの運動の大きな勝利です。

しかし、これだけではありません。4月29日、チェリャビンスクの議員は、プーチン大統領に書簡で核廃棄物取引きを支持するように要請したのです。私たちは、地方住民に、この人権侵害のプーチンへの要請書簡を撤回するよう求める手紙を送るように呼びかけています。6月29日、7名のロシアの環境保護活動家が、核廃棄物による核ビジネスにたいする抗議行動を行なったかどで、チェリャビンスクで逮捕されました。私もその一人です。5つのNGOは、プルトニウム経済の財政基盤としての使用済核燃料取引きに反対して行動を組織したのですが、7名の活動家が4時間にわたって拘留され、判事から警告を受けたのです。私たちの行動は非常に素晴らしいものでした。女性判事は、私たちが質問に答えた後、なんと自分もあなたがたの考えを支持すると言ってくれたのです。私たちを逮捕した警官たちも、核廃棄物の輸入には反対だと言いました。だから、私たちは大きな成功を収めたわけです。地方のテレビ、ラジオなどのメディアも、私たちの行動や、提起している問題を人々に伝えました。それまで私たちの要請を無視していた地方知事も、行動の後で、わざわざ私たちをよんで、会談しました。

「核安全運動」は、NGO指導者の活動家養成プログラムをすすめています。私たちは、この計画が、国の核政策に関する問題で、政府との交渉を成功裏にすすめ、核軍縮や核の脅威を減らすための政策決定プロセスでの透明性を保証し、このプロセスへの国民の参加を強化することを可能にすると確信しています。また、これ同時に、私たちは、国連に核兵器廃絶の条約を策定させるため世論を強化しなければなりません。私たちは国際協力を強化しなければなりません。

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